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#238 お腹いっぱい食べて動けない。一回休み。

「よぉへぼコック。また来てやったぞ」


 合計で10人ほどのガキを引き連れてシュエイを闊歩する。たったそれだけでも周囲からは軽蔑の目で見られたり心無い囁きなんかも聞こえたけど、そう言う連中にはユニが睨みを効かせるだけでシッポを巻いて逃げ出すし、コッソリと石を反射させての攻撃をしたりも忘れないなんて事を続けながら、閑古鳥食堂にやって来たわけだ。


「なんだテメェ。今度は何しに来やがった!」

「なに。お前がいつまでも無様晒してアンジェやリリンがひもじい思いをするのは見てらんないんでな。ここらで1つ、無能でへぼな馬鹿コックのお前でも理解する事が出来る実力の差って奴を分からせてやろうと思ってこいつ等を連れて来た」

「その格好……スラムのガキか」

「おう。こいつ等は腹が減ってるらしくてな。満たすために飯を作って食わせろ。金なら払ってやるよ」

「……何が狙いだ」

「言っただろ? お前がどれだけ無能で料理人として心構えが足りないのかを分からせてやるって。それとも何か? こんだけの客を相手を捌けないのかよ。だっさ」

「上等だぁ! テメェの挑発に乗ってやるよ!」

「という事で、お前等好きなモンを注文していいぞ。支払いは俺が持ってやるから好きなだけ頼め。但し、麺一本でも残してみろ。ガキだろうと腕の骨をへし折るからな」


 その言葉を皮切りに、ガキどもが一斉に席に座って思い思いに注文し、アンジェとリリンが目が回るような忙しさで注文を伝え、へぼコックはひーこら言いながら何とか料理を作り上げていく。そんな光景を眺めながら、俺はユニに寄りかかりながら優雅にティータイムを堪能する。

 程なくして料理が運ばれ、ガキどもが次々に口に運ぶと、そこかしこから美味いだのなんだのと言った称賛の声が沸き上がる。ついさっきまでパンとスープの粗末な食事だったことを考えれば、あれでも十分に美味いと感じるのだろう。精々堪能しておくがいい。

 そんな嵐の様な食事風景が終わり、みな満足そうに腹をさすっているがまだ始まったばかりだ。


「さてお前等。十分に腹は満たされたな」

「うん。ねーちゃんのおかげで腹いっぱいになるまで食うなんて初めてかもしんねぇ」

「それにこんなにおいしい物を食べさせてもらえるなんてな」


 それぞれがお礼を言う中にあって、へぼコックは大変に満足そうな笑みを浮かべているが、俺から言わせればそんなんだからお前はヘボなんだよと言いたくなるがここは我慢。どうせ言ったって素通りするだけだからな。

 ここはいっちょ、圧倒的なまでのハンデを与えながらもそれを軽く凌駕するほどの成果と言うやつを見せつける事で、さすがなへぼコックと言えど己のへぼさ加減を骨の髄まで自覚する事だろう。


「じゃあ次は別の飯を食わせてやる。その飯がさっきの奴より美味いかどうかを判断しろ」

「えーっ。もう腹いっぱいだよぉ」

「当然だ。腹を満たすために俺はお前達に美味くもない――むしろ不味い料理を食わせたんだからな」

「さっきのは不味くなかったぞ?」

「そりゃパンとスープしか食ってないお前等が肉なんて口に入れれば美味いと勘違いするのは当たり前だろうバカタレ。って訳で次はこいつを食ってみろ。さっきのよりは美味いはずだ」


 取り出したのは件の地上げ店の料理。ガキどもがここの料理に舌鼓を打っている間に金貨と言う善意の割り込みチケットを利用してお持ち帰りしてきたものだ。それをテーブルに並べて勧める。残ったら残ったでアンリエットにでも処理させれば済む。いつもの肉よりビックリするほどグレードは下がるけど肉は肉だ。


「じゃあ一口だけ……美味っ!」

「本当だ! このご飯さっきのより美味しいぞ!」


 それを皮切りに少しづつだけどガキども全員が料理のランク付けを済ませた。当たり前だけど地上げ店の方が美味いという判断なのは言うまでもない。

 それを目の当たりにしたへぼコックは、なぜか悔しそうにしている。おいおい待ってくれよ。悔しさに砂を食む思いをするのはこれからなんだぜ?


「さて諸君。それでは最後に俺の飯を食ってもらう」

「えっ。もう無理だよぉ」

「言うのが遅いぜねーちゃん」


 もちろんわざとだ。あらゆる障害を乗り越えて見せてこそ、へぼコックのゴミカスなプライドを再生不可能なレベルにまで粉微塵にしてやる予定なんだからな。


「ふふふのふ。俺の料理が出来てからもそれが言えるかどうか見ものだ。さぁへぼコックよ。残ってる食材を見せてみろ」


 俺の〈料理〉をもってすれば、いかな食材と言えど極上の料理に仕上げられるし、〈レシピ閲覧〉を使えばこの世界じゃまだ存在しない料理の数々を見せつける事が出来る。

 自信満々に答える俺に対し、へぼコックもまた不敵な笑みを浮かべてるじゃないか。


「いいだろう。ついて来い」


 一体どういう事だと思いながら食材が治められている倉庫を訪れてみると、残っていたのは肉を削ぎきった骨や芯だけの野菜クズと言った廃棄物だけだ。なるほど……これが不敵な笑みの正体か。

 しかし! この俺をそんじょそこらのコックと一緒にしてもらっちゃあ困る。


「ふむふむ。小麦が残ってて塩もある――っと。じゃあ始めるとするか」


 動物の骨と野菜クズがあれば十分に出汁が取れるし、小麦粉があればパンだろうが麺だろうが作る事は可能。となれば作るのはラーメンだろ。単純だけど奥が深い。おまけにこの世界じゃまずお目にかかれない料理だ。

 という事でまずは出汁作り――と言っても残ってた食材を綺麗に洗って次々に鍋に放り込んでいくだけ。後は水を張ってじっくり数時間、灰汁を取りながら煮込むだけでOKだが、当然そんなに時間をかければガキどもは腹を空かせるんで、力任せに全てを粉微塵にして時短時短。

 次に具材となる物として卵を茹でていく。俺としては割った瞬間に黄身がとろりとあふれ出る半熟が好ましいんだが、この世界の衛生管理を考えるとそれはマズイ。だから中心まで火を通すしかないのが悔やまれるし、醤油がないんで煮卵にもならない。せめて塩水につけて中まで味を浸透させる事で我慢我慢。

 次は麺。小麦は一種しかないのでこれを使い、卵と塩と水に重曹か。

 手始めに小麦粉をふるいにかけて塩・重曹を入れて軽く混ぜ合わせ、そこに卵と水を入れて捏ねていく。ここら辺は適当にやっても〈料理〉が勝手に適量で止めてくれるのが便利。

 ベタベタせずに耳たぶくらいの硬さを頃合にラップで巻いて45分ほど寝かせるからしばし待機って事なんで、ガキ共には人生ゲー〇を提供する。やり方はゲーム関連で最強無敵の極運を有しているアンリエットを干し肉ひとかけで矢面に立たせる。

 麺が出来るまでの間。ボケーっと待ってるのも暇なんで他に何か余ってないかねぇと色々探りを入れてみると、カピカピになったパンと隠し棚から少量の砂糖を発見。奪われるのを嫌がるへぼコックを蹴り飛ばし、ジャイアニズム全開でゲット。あとは油の中にパンをぶち込んで砂糖をかければ揚げパンの出来上がり。


「うん。パッサパサだった中に油を吸い込んでちょっと重たいが、この店レベルの設備だってのを考えれば十分美味いな」


 100点満点中30点と言ったところだ。へぼコックの料理がせいぜい5点と考えると〈料理〉の力は偉大なり。

 さて……これをどうしようかねぇと考えていると、甘い匂いを嗅ぎつけたようでガキどもが揚げパンをじっと見つめていた。


「なんだ? 飯はまだだぞ」

「ズルいぞねーちゃん! 1人で甘いモン食うなんて」

「ぼく達にも分けてくれてもいいんじゃないか!」

「別に分けないって言ってないだろうが。こいつは俺の飯を食った後に土産としてくれてやる予定だ。帰ったら他のガキどもと一緒に食え」


 その言葉に大層喜んだガキども。当然、俺は総数も知らんがこれじゃあ足りないのは明らかなんで、とりあえず〈万物創造〉でコッペパンを200個。麺が出来るまでの間ずーっと揚げてはへぼコックの砂糖がなくなるまで使い、その次からはこっちで作った砂糖でもって味付けしては〈収納宮殿〉に放り込んでいくを繰り返しているとようやく麺が完成。パパッと茹でて漉した出汁スープに塩ダレを混ぜ合わせた汁に放り込めば完成だ。


「ほい。こいつが俺の料理だ」


 とりあえず小鉢で一口分だけをテーブルに並べる。当然のように文句は出るが、これで足りないと言うのであれば改めて正式に一杯作ってやると言ってあるので文句は封殺。

 さぁて。俺とへぼコックの実力差に恐れおののくがいい。

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