別視点――勇者の選定・赤の場合
遅ればせながら200,000PV突破したので記念に。
本編とは無関係なので、読まずとも問題はないので自己責任で。
我は人族を生み出したる神の一柱。髪の色から赤の神と呼称され、日夜。人の営みを見守る激務に追われながら時を過ごす者なり。
そんな我は今、他の神を集めての会議で議長を務めている。こういった面倒な仕事は、龍族を生み出したる緑の神が仕切るのが常なのだが、此度の議題を持ち上げたのが我なのだ。仕切るのも当然と言うものだ。
「さて。今回の議題であるが、あの無能が『我々の』世界に異物を潜り込ませた事への対処だ」
掴みの一言でその場にいた全員の顔が歪む。当然だ。たとえ緑の神が事前に情報を掴んでいたという事を知らされていたとしても、あの無能が何か行動を起こす時は、決まって我々の邪魔をする以外の選択肢が存在しない。
過去にも幾度となく我々の管理する世界に対して余計な変化を実行に移されたせいで何度も何度も滅びかけ、その度に一丸となって奴を叩きのめし。力を奪い。幽閉したりなどを繰り返してようやく創造神と言う肩書以外の余分な力を奪ってやったはずだったのだが、どうやら奴は我々が贔屓にしている惑星――地球から1人の人間を召喚して潜り込ませただけでなく、最後に見たあれ以降。その存在が確認できていないように細工まで施した等々を説明すると、全員から明らかな殺意が吹き出すが、奴を殺せばこの世界も滅んでしまうのでいかんともしがたい。
「さて。あの無能の企みを排除するために、勇者・魔王召喚の儀を実行しようと思うのだがどうだろうか」
いくら奴の力が介入していたとしても、所詮はただの一般人。それに比べてこちらは常人をはるかに超えるステータスに加えてその者自身の善行・悪行・運などの数値をボーナスとして、所謂チート能力までも与える事が出来るのだ。そんな勇者があの無能の送り込んだ小娘如きに負ける道理はない。
「「「「「異議なし」」」」」
この提案は全会一致で可決されたが、さすがにほんの数百年前に勇者と魔王を生み出したばかりなので、魔族を生み出す黒の神には召喚者が魔王として使い物になるまで暫し時間のかかる素材にと忠告はしておく。前回の魔王はあまりに強すぎたうえに無能の介入もあって魔族の世界になりかけたからな。ここでまた破壊の限りを尽くされると人類の総数を減らさねばならない事態へと発展してしまいかねん。
さて……それでは我も勇者召喚を行おうではないか。
まず手始めに魔王の復活を敬虔な人間――確か聖女とか呼ばれていた奴に伝え、同時に勇者召喚の許可を出しておけば、ものの数日で奴等は準備を整える。その間にこちらでその人材を確保する必要がある。
この時に一番重要なのが、やはりどれを選ぶかであろう。
地球の日本と言う国には、我々のような世界への転生・転移に関する書物があふれているからな。それに触れている人間が良いだろう。余計な説明をする手間が省けるからな。
そして性別はやはり男だ。女など無駄な脂肪ばかりついているせいで我のように筋肉のおさまりが悪い。だから全体的に戦闘能力が低いし、日本と比べて文明で劣るこの世界で生きていくに対して非常に文句が多いと紫の神や黄の神がぼやいていたと記憶している。
年齢は当然運動に適している10代後半から20代前半。武道の経験があり、実力も上位。出来れば良い筋肉の詰まった個体が良いのだが――
「む?」
最高の素材とはいいがたいが、1人の適合者が見つかった。
名は安堂永戸。死因は通り魔による刺殺か。年齢は16だが居合いの達人である祖父に剣術を叩き込まれてその実力は世界レベルか。多少筋肉量は少ないが、こやつも例に漏れず異世界への転生・転移の話題に触れているために説明の手間は省ける。他の目ぼしい素材はいずれかにおいて欠点があるか、別の神が目星をつけているようなので、もうこやつでよいだろう。
程なく地球の神々との交渉で連れて来たナガトの魂を我が空間内に放つと、白い塊であったそれが画一的な服を纏った幼い顔立ちの少年へと姿を変えた。
「……あんた一体何者だ?」
ふむ。即座に臨戦態勢に入る切り替えの早さや良し。
体に満ちる覇気や力のバランスはいまだ粗削りながらも、我等の世界の魔物相手だろうと十分に渡り合って行けるであろう。
しかし何故これほどの実力を持ちながらあのような未熟な通り魔如きに後れを取ったのか……やはり人と言うのは理解し難い。
「我は6神の一柱である人種を管理する赤の神。貴様を呼んだのは他でもない。我等が管理する世界に勇者として転移し、とある存在を消すためだ。拒否権はない」
「なんだそりゃ。アンタ神なんだろ? オレみてぇなの使わんでも自分でやりゃいいじゃねぇか」
「誠に遺憾ではあるが、我の上に存在する無能神がその存在を隠蔽してしまってな。小さき女子と言う程度しか情報が得られなんだ。それに、我等がむやみやたらに力を振るうは秩序が乱れるから、貴様のような〈物〉を介しているのだ」
「何だってその無能神だったっけ? そいつはそのガキを隠したりすんだよ」
「聞いてくれるか人の子よ!」
やはり神であろうとストレスと言うものは溜まり、愚痴として吐き出したくなる時もある。
いったいどれほどの時間あの無能の無能ぶりを吐き出したのか分からんが、ナガトの顔から精気がなくなるほど吐き出してしまっていたので相当長時間だったんだろう。詫びとしてステータスに少し恩恵を与えておこう。
いくらか心が軽くなったのを実感したので、我の他にも神が存在し、無能を除いて対等な関係で世界を運営している事や、それを邪魔する存在であるあの小さき娘がそれを邪魔するであろう存在の討伐を最優先ではあるが、それを他の人間に知られてはいけない事などと言った転移させる目的についての説明を終えると、ナガトは少年らしく目をキラキラと輝かせている。
「これってあれか? いわゆる異世界転移って奴なんだな」
「うむ」
「マジかよ! ラノベとか読んでオレにも来ねぇかなって思ってジジイに剣術習ってたけど、ようやく来たぜぇ!! さすがに人を斬るのはちょい時間が居るだろうが、魔物程度なら問題ねぇ。ようやく俺様の実力を発揮する時が来たんだな」
予想通りの展開だ。やはり人の子。単純だな。
「ではとりあえずこの中から紙を1枚取り出すがよい」
「なんだそりゃ」
「貴様が望むものを得られる――チート選択の時間だ」
「マジかよ!? なら引くのが男ってモンだろうが!」
勢いよくナガトが箱に手を突っ込み、取り出した紙に書かれていた数字は80だった。これは悪くない。我が召喚した勇者の歴代最高の数値が120なのを考えると、良き拾い物をしたと理解できる。
「ではこのタブレットに乗っている能力を好きに選べ」
「タブって随分と最新鋭だな。ってかアンタ、そんなナリしてゲーム好きなのか? めっちゃアプリ入ってんだけど……」
「うむ。もちろんこの肉体美を鍛え上げるのが最上の喜びであるが、日本のゲームはそれに次ぐ代物であるぞ。貴様はやっていなかったのか?」
「友達にも誘われたりしたけど、あんま二次元は趣味じゃねぇんだよな。よし。こんなもんかな」
ナガトが選んだのは
〈経験値獲得倍増〉〈身体上昇〉〈刃壁小〉〈日本刀所持〉の4つ。
「では勇者ナガトよ。我が願いを聞き入れ、見事無能の送り込んだ少女を殺害する事を期待しているぞ」
「ちょっと待てよ。そこは魔王を殺すとかじゃねぇのか?」
「その小娘の処分が最優先である。それが達成された暁には、正式に魔王討伐を任命するが、他の者にその件は明かさぬように。出来なければ即時輪廻の話へと組み込む」
「まぁガキの1人や2人殺すくらい訳ねぇよ。大船に乗ったつもりで待っとけ」
神を相手に大層な口を利く我が駒は消えていき、ほどなくして他の神達からも勇者を送り込んだ旨の報せが届いた。
今に見ていろ……無能が今更あがいたところで、面倒事を嫌悪している奴に優秀な人材を確保できる道理などあるまい。
そう考えれば、適当に引き抜いた人材ごときで我々の駒に勝てる道理など存在しない。
こんな物を呼んでくれる皆様に感謝を。




