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#22 新たな出会い

「実はだな――」


 俺はここに来るまでのあらましを2人にだけ説明した。もちろん他言無用と念を押してあるし、俺は男で異世界人って事と駄神に六神達をぎゃふん(死語)と言わせるために勇者の邪魔をしまくるなんて目的は伏せてある。まず信じないだろうけど念のためって奴だ。

 嘘の内容は、10年ほど前に人が住めないような辺境に住む剣豪の娘として生まれ、小さい頃から剣術修行に明け暮れていた。

 そんなある日、父親に「お前は十分強くなったから世界を旅して来い」と言われて半ば追い出されるように生家を後にし、適当に世界を歩き回ってたらクソな貴族が犯罪者共と手を組んでいたいけな美少女を奴隷にして売り払って私腹を肥やしていると聞いたんでパパっとぶっ殺し。そこに居合わせた鉄狼騎士団と揉めちゃってギック市には顔を出しずらいという嘘純度30くらいの作り話。

 正式じゃないけど仲間になった訳だし、後で色々とボロが出る前に先手を打とうという考えもあるにはあったけど、一番の理由としては殺人に対してどうにかならんかねって事だ。

 そんな問いに対して、アニーは呆れたような表情で全く問題ないって言いきった。


「さすが辺鄙なとこに暮らしてだけあって常識っちゅうもんがないんやな」

「騎士団相手に揉め事起こしたんは難しいかもしれへんけど、そっちは多分やけど大丈夫やよ」


 なんでも。犯罪者相手ならば殺人を犯しても何ら問題はないどころか、有名犯罪者集団だったから逆に報奨金がもらえるかも知れないとまで説明され、さすがにそれはないと心の中でツッコミを入れておく。あの時の犯人は仮面をつけた俺となってるだろうし、なにより騎士団の連中に喧嘩を売ったから、金欲しさに顔を出せば何を言われるか……。


「つっても騎士団に顔割れてっからなぁ」

「ほんならフードでもかぶっとったらええんと違います?」

「身分証とか必要なんだろ? 俺持ってないんだよ」

「ほんなら冒険者ギルドなり商人ギルドなりに登録すればエエだけやろ」

「……はぁ。わーったよ。行きゃあいいんだろ行きゃあ」


 まぁ、犯罪者相手の殺人にビクビク怯える心配がなくなったので、非常に。非っっっっっっ常~に残念ではあるが、俺達は現在ギック市に向けて馬車に乗っていた。何度も少しくらい遅れてもいいじゃんと説得したんだが、2人は頑として今すぐ行くと譲らない。

 理由としては、ここからギック市まで馬で1日はかかる事と、魔族の報告は迅速に行わなくてはいけないと国際法的な物があるから。しかもこんな辺鄙な場所にある村人たちまでが知ってるほど深く浸透していて、連中も早く報告した方がいいとアニー達の味方をしやがった。この恩知らずどもめ!

 って訳で、サクッと馬車を創造して馬車を引く生き物を手に入れて絶賛移動中だ。


「何やコレ……信じられへん」

「ホンマやねぇ。全く揺れへん馬車なんて……」

「そうか? 結構揺れるじゃないか」


 現在位置はオレゴン村から10キロ地点。アレクセイと出会った場所辺りを過ぎたくらいだ。

 たった1日でマグマの熱が消える訳もないので、正直言ってかなり熱く、爆心地を避けて通ってるとは言え、炎のガトリングで地面の凹凸はかなり激しい。なのでサスペンションとゴムタイヤをつけた馬車でもなかなか激しく揺れる事を指摘してみたんだけど、こないに足場の悪い場所でこの程度なら揺れるに入らへん! と怒鳴られた。折角快適な旅をと思って創造した馬車なのに早速怒られてしまった。理不尽だけどね。

 あ。ちなみに馬車と言ったけど、引いているのは馬じゃなくて額に角の生えた馬の数倍デカい狼だ。馬の替わりになるような奴――魔物でもいいから居ないかねと村近くの森を歩き回ってたら、ちょうどいいサイズのコイツを発見したんで、ふん捕まえていい肉を食わせたら快く牽く事を了承してくれた。

 これにはアニーもリリィさんもかなり驚いていたが、歩きたくないし馬より足が速そうなんでこっちもギック市に行く事を呑んだんだから頑として譲るつもりはないとの姿勢で勝ちをもぎ取った。


「それと……もう魔物を倒すの止めてもろてええですか?」

「なんでだ? 簡単に強くなれていいと言ってたのはそっちだったと記憶してんだけど」


 魔族を簡単に倒せるくらい強いなら、レベルアップを手伝ってくれんかと言われた。

 こっちとしては手伝うのに抵抗はないけど、正直言ってどのくらい加減すれば死なないのかが分かんないから無理だと伝えた。

 もちろん。〈身体強化〉を解除すれば十分に弱体化する事が出来るには出来るけど、それじゃあ弱くなりすぎるから手伝いが出来ない。当然この情報は伝えるつもりはない。今のところ解除するつもりがないから言っても意味がないんでね。

 そんな問いに対して、アニーはパーティーリンクなる魔法を提案してきた。

 これは、魔法による繋がりによってパーティーを構築出来るようになり、これによってある程度の意思疎通や強化魔法の全体化。そして経験値の分配が出来るようになる魔法らしいが、相手の了承なく行うと犯罪扱いになるらしいとの事まで説明してくれた。

 意思疎通といってもこういう事を伝えたいと念じる必要があるから、知られたくない情報は伝わらないし、これだけ近ければ直接話した方が早いんで、特に問題はないだろうとこれを了承。そしてここに来るまでにざっと200以上の魔物を、2人が認識するはるか外から石による遠投で葬っていた。

 あの時にアレクセイをぶっ倒したおかげでレベルは一気に9になったけど、スキル関係はうんともすんとも言わないが焦ってはいない。

 今のところ出来ない事が無くとも困ってないし、何よりそんなプラスがあるなんて思ってもなかったからな。レベルが上がった時に何か追加があったらラッキーくらいの気持ちでデンと構えてるからな。まぁ、魔法関係だけはさっさと使える種類が増えて欲しいがね。

 そんな事をボーっと考えながら石を投げまくっていたら、アニーからストップがかかった。


「こないに急成長させられると思えへんかったんや。うぅ……気持ち悪い」

「座わっとるだけでもしんどいわぁ……もう勘弁してもらえへんか?」

「何もしてないだろ」

「レベルの上昇に身体が追い付かへんねん」


 そうか。レベルアップすればHPもMPも当然上限が上がる。なれば当然。回復しないままでいるとダメージを受けてないのに受けてるのと同じ状態になる。

 けど傷がつくわけじゃないから、それがきっと疲労という形で自然と回復を促すような遺伝子が組み込まれているんだろう。俺はハズレスキルの〈回復〉で減った分はすぐに埋まるし、そもそも体調が悪くなるほどのペースでレベルなんて上がんないから全く分からんかった。


「……しゃーない。そんならしばらくは探索距離は縮めとくよ」


 取りあえず1キロ程度から300メートル圏内くらいにまで縮めておくか。これくらいなら反応があってからでも十分間に合うだろう。

 それと、意味があるかどうかも知りたいんでポーションを飲ませようと差し出すと、こういうのは寝ないとアカンねんと言われてすぐに2人とも眠ってしまった。舵取りは狼に指示が出せる俺だけなので、ゆっくり走れと肉をくれてやると指示通りに動くので結構便利。

 さっきの半分ほどの速度でマグマ地帯を抜け、しばらく進むとようやく街道らしい街道が見えたんで、それを北上するように左折。

 旅自体にそれほど危険はなかったけど、時々すれ違う商人や冒険者風の連中が狼を見るたびに逃げるように進路を変えたり震えながら剣を抜いて戦闘態勢に入ったりと、様々な反応を見せる。

 狼も狼でそれらに対して牙をむき出しにして敵意を露わにしたりするんで、大人しくしてろと脅しと肉を与えて黙らせたけど、さすがにこのまま街道を使うと魔物が出たなんて報告を受けた騎士団が出張って来て面倒事に発展するのも嫌だから、街道から少し離れるように指示する。

 そうしてゆっくり走る事10時間。当然ギック市にはまだつかないけど、体調不良からいくらか回復した2人が腹が減ったと言うので小休止をする事にした。


「さて。今日は何を食おうかね。嫌いなモンとかリクエスト――要望はあるか?」

「美味いモンなら何でもええわ。嫌いなんは海産物やな。生臭いのはどうも……」

「猫獣人なのにか?」

「別にええやろ。猫や言うても嫌なモンは嫌なんや」

「まぁいいさ。で? リリィさんはどうなんだ」

「あてはアスカはんが作ってくれたモンなら何でもええと言いたいところなんやけど、少し匂いが強いのんがちょっと堪忍してもらいたいです」

「そうか。なら任せてもらおうかね」


 魚は駄目。

 匂いが強いのは駄目。

 となると、今日はパスタが食べたい気分だけどジェノベとかぺペロンは匂いが強そうだからド定番のナポリタンにでもしますかね。あれなら臭いは強くないし魚も使ってない。おまけに簡単。

 材料はピーマン。玉ねぎ。ベーコン。パスタ。材料はちょっと少ないけど簡単に作るからこのくらいでいい。だが品質にはこだわった。元の世界でもこれだけの超高級品で作るのはナポリタンなんです~なんて言ったらシェフ連中から抗議殺到だろうな。届かないけど。


「っし。始めるか」


 まずはカセットコンロを1つ用意。そっちには材料を炒めるフライパン用で、もう1つのパスタを茹でる寸胴鍋は焚火で直接だ。麺類は大量のお湯で茹でないといけないから火力重視って事で。

 すぐに準備は終わり、まずは麺茹で。パッケージの1分前くらいがアルデンテのタイミングって聞いた事があるから、それまでに玉ねぎ・ピーマン・ベーコンの順に炒めていく。

 そうして玉ねぎの色が透明になって来るタイミングに合わせてゆで上がった麺を投入。すぐに弱火にしてケチャップで和えて完成。後は紙皿に盛ってフォークを渡すだけ。


「よし出来た。後は胡椒や粉チーズなんかを好みでかけて食べてくれ」

「ええ匂いや。せやけどいつも食ぅとるモンとは違ぅて真っ赤やな」

「ホンマやねぇ。ちょっとこの色に抵抗があるんやけど、小麦のええ香りがしますし、なにより美味しそうな匂いですわ」

「美味いに決まってるだろ。ほらお前も食ってみろ」


 ちゃんと馬車を引いてくれた礼に魔物にもナポリタンを差し出す。見た目狼なんで、生物学的見地から肉多めの玉ねぎ抜きをわざわざ別のフライパンで材料も別にして、玉ねぎエキスを一滴たりとも混入させてない自信があるので出す。最悪エリクサーでなんとでもなるだろ。

 後は飲み物として赤ワインを用意した。こんな時間に飲む酒は背徳感と相まって非常にうまく感じるのは、前世で実証済み。2人も俺と言う強大過ぎる護衛が居ると言う安心感からか、グラスを向けてみるとさして抵抗する事なく受け取る。


「ふわっ!? えらい上等な葡萄酒やな」

「そうか? 大したもんじゃないんだが、気に入ってもらえたなら満足だ」

「というか、アスカはんって小さいのにえらい飲みはりますなぁ」

「まぁ……好きだからな」


 前世でも腹の膨れの原因はビールなどの酒類だ。あんないい物は確かに20歳になってからじゃないと飲ませちゃいけないよなぁ。

 そんなのんびりとした空気で食事を終え、後片付けは〈収納宮殿〉に押し込むだけなんで特に時間は必要ない。処分? それはたまったらやるつもりだ。どうせこの世界にゴミの日なんて無いだろうし、このスキルは同種のものなら65535個までならどれだけ詰め込んでも収納量を圧迫する事がないので、他に臭いが移ったりしないから最高に便利だ。


「ふぅ……こんな美味いパスタは初めて食ったで」

「ホンマに。アスカはんは何でもできて羨ましいですわ」

「褒めても何も出ないぞ。それより――ん?」


 〈万能感知〉に反応アリ。だけど魔物じゃない……集団って事は冒険者のパーティか? 妙に動きが素早いのは徒歩以上馬車以下だから走ってるんだろうけど……何で舗装されて走りやすいであろう街道を使わないであんな場所を突き進んでんだろうな。

 そしてその中央……なんかよく分からん反応がある。こりゃ一体なんだ?


「どないしたんや?」

「いや……多分大丈夫だろ」


 そいつ等の周囲に魔物の気配は感じられないから襲われて逃げてるって訳じゃないっぽい。だったら放っておいても問題ないだろ。どうやら目的地は同じギック市に向かってるようだが、こっちに近づいてくる訳じゃないならほっておいてもいいだろ。確認のために歩くのも面倒だし。


「ほんじゃあ飯も食い終わったし、そろそろ放してやるか」


 アニー達に今どの辺りなん? と聞いたらギック市まではあとほんの少しの距離まで来ていた事に驚かれ、予想以上に近い所まで来ている事が判明した。馬で1日の距離をたった10時間くらいで詰めてしまった脚力と体力はさすがの一言に尽きるものの、これ以上魔物に馬車を引かせる訳にはいかない。問い詰められて色々と聞かれるのが面倒くさいからな。

 って訳で、拘束を解いて馬車を〈収納宮殿〉に仕舞い。帰っていいぞとジェスチャーで示してから歩き出してみるけど、普通に俺の横を陣取って並走しているどころか、しきりに背中を見せて何かを訴えかけてくる。


「おい。こりゃ一体どういう事だ?」


 意味が理解できない。さっきまで敵意むき出して襲い掛かって来ようとしていたはずの魔物が、今では完全に懐いているように見える。

 もちろんそれが正解であるかどうかは分からないんで、そう問いかけて2人に視線を向ける。


「懐いたんと違うか? こないになった魔物は初めて見るんでウチは分からん」

「あてもです。というかホンマに鱗狼スケイル・ウルフなんやろか?」

「どういう事だ?」

「変に思ったんよ。その魔物――鱗狼スケイル・ウルフにしては大きすぎへんかなって」

「あぁ。ウチもそれ思ぅたわ。けど変異体なん違うか?」


 確かに。最初に2人が襲われていた時に見かけた狼と比べて、こいつは3回りほどデカい。

 馬車を牽かせるんだからこれくらいデカい方がいいだろうとその時はあんまり深く考えてなかったけど、改めて指摘されると確かにサイズが異常かもしれないな。まぁ正解を知らないんで何とも言えないけど。


「さて……となるとどうしたもんか」


 こいつは完全に俺のそばを離れるつもりはないらしい。しかし、正体が分からない以上はギック市に連れて行くわけにはいかない。どうにかしてこの狼から事情聴取をしなければいけないんだが……いかんせん相手は獣。言葉が通じるとは考えにくい。

 そんな風に3人でうんうんうなっていると、狼側が我が意を得たりと地面を掘り始めた。

 最初はどうしたんだと首を傾げたけど、10秒も経たないうちにそれが文字となった。


 ――ワタシは森角狼ユニコーン・ウルフであって、下等な鱗狼ではない。


「どういう事?」

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