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#230 ビビってるヘイヘイヘイ

「よく無事だったな」


 それが俺の素直な感想だ。

 あの伯爵に与していたと言うだけで、大抵の人間の恨みは買える。たとえ買いたくなくても、相手が押し付けて来るから回避のしようがない。おまけに闇に生きる人間だ。濃淡の差はあるだろうけどその両手は真っ赤に濡れているはず。ますますもって排除しようという流れになりそうだけどなって意味での言葉に、糸目ニヤケはその笑みを一層深くし――


「なに。伯爵が死んだのなら新しい伯爵がわっち等を雇うように仕向ければよいだけ。彼方も此方も脛に傷を持つ身。条件付きであったがこうして日々を送れているのが何よりの証拠であろう?」

「って事は、今の伯爵もアンタらのお得意様って訳か」

「然り然り。人の上に立つ者は皆、須らく後ろ暗い事の10や20している。表立って行えば非難を受ける。その手助けとしてわっち等のような存在は欠かせぬであろう?」


 うむ。改めてやってる側から聞かされると納得できるな。

 世界は、万事が綺麗事だけで片付くシステムで出来ていない。それでも国と言う店を閉店させないためには清濁併せ呑むしかない。であればこういった輩に汚れ仕事を請け負わせるのも1つの濁を呑み込むという事。かなりブラックだけどこれもWin-Winの関係か。


「なるほど。で、その条件の一つとしてこうして孤児をかくまってるって訳か」

「そんな所である。わっちの仕える親分さんは大層子供が好きでのぉ。常々どうにか出来ぬかと心を痛めておったのよ」

「だったらもっと早くにかくまってればよかっただろ。それとその好きってのは性的な意味か?」

「それは出来ぬ相談よ。10や20であれば気取られぬやも知れぬが、それが100や1000となると阿呆な豚共も気づいてしまうであろう? それと親分は純粋に子供が好きなだけ。邪推するのは無粋ぞ」


 日を追うごとに狩る獲物の数が減っている。

 しかし自分はそこまでやっていない。減りすぎてしまえば全員の楽しみが無くなる。

 では他の貴族か? 確認するが数が合わない。

 ならばどこに行った。スラム街区に住む連中が移動できるのはたった一ヶ所のみ。

 我等に尾を振っておきながら楽しみの邪魔をするとは何たる事か!

 こうなればあっという間に戦争だ。

 領主を軸とした貴族連合軍VS都市の闇家業総員。

 こうなれば、いくら腕に覚えのある連中とは言え数の暴力の前にはいかんともしがたいし、俺的にちょこっとだけ出来る騎士団長連中の魔法の武器も、こいつ等にとっては相当な脅威だろう。真正面からやりあって勝てるか負けるかはわからんけど、両者共に相当数の被害が出るのは明らか。

 取りあえず使える程度に訓練をすればいい雑兵はいくらでも補充が利くだろうが、その専門専門のプロフェッショナルに育て上げなきゃなんない闇家業はそうはいかない。

 金を貰って人を殺す。この一点にのみ針のように尖らせて尖らせて確実な成功を報告するためには、漫画やアニメを見た限りじゃ1人を育てるのに最低でも数年はかかる。そうでなけりゃ金を貰って人殺しを請け負えるようなレベルに到達しないからな。

 総合的に考えると、後先考えずに孤児を匿ったら被害が大きいのは闇家業の連中になるのが道理だろう。

 確かに人助けは立派な心意気――つまりは清だとしても、多くの部下を預かっている身としてはそんな場所に送りだせないし、被害が拡大すれば商売自体が成り立たなくなる。だから見て見ぬふりをする。つまりは濁だ。これが出来るって事は良い親分なのだろう。ロリ容疑は晴れないけどな。


「なぁ……遅くね?」


 そろそろ待機して10分になろうとしてる。暇すぎてアンリエットは完全に寝てるし、ユニは馬車と繋がってる時は本が読めないからいつ終わると分からない事にイライラし始めているので解放してやり、馬車は〈収納宮殿〉に蹴り込む。


「そうかい? おれっちは時々あのおっさんに用事を頼むけど、もっと時間がかかるぞ」

「マジかよ……それって門番的にどうなんだ?」

「わっちの親分と違って、あ奴の仕えるベコビという男は上に立つ者としては些か度胸の足らぬ軟弱者。それ故に〈森角狼〉を従える出自不明の少女の立ち入りを警戒しておるのであろう」

「だったらアンタもそっちの親分とやらに知らせて来いよ」

「それは出来ぬ。わっちの親分の担当はモノであって人の出入りは領分外故にいかんともしがたい。なのであまり殺意を向けられても困るのだが」


 少しわざとらしく怯んだように後退した糸目ニヤケに、こっちも止める気なんてさらさらない声色でユニと呼んでやれば、すぐに耳を引くひくと動かしてそちらに顔を向ける。すまなそうな顔をしたマッチョハゲが戻って来た。


「随分遅かったじゃねぇか。茶ぁでも飲んでたのか?」

「馬鹿言え。これでも全力でお伺いを立てて来たんだよ」

「その顔を見る限り、芳しくないようだな」

「ああ。さすがに〈森角狼〉を中に入れる訳にはいかんと仰られてな」

「ほほ。わっちの親分さんも恐らく同じ事を言うであろうな」


 こうして改めて聞かされると、ユニってやっぱ恐れられてんだなぁって思う。

 俺が投石するから戦ってる姿もまず見ないし、いざ戦わせてみたら鳥相手に苦戦してた。おまけに飯には文句を言うし本ばっか読みやがる。そう言うのを見てる側としては。怖いんか? って思うが、それを知らんこいつ等には怖い従魔に映るんだろう。


「ちょっかいかけて来なけりゃ安全だよ。それよりも商売不成立なんだから金返せ」


 泊まる場所が確保できなのであれば金は払えない。たとえ俺にとって道端の石と何ら変わりないほどの価値しかない物なんだとしても、野郎にタダでくれてやるような心の広い人間じゃないからな。

 それを聞いたイクスはさすがに黙っていられないようで、眉間にしわを寄せながら必死に抗議する。


「おいおっさん。何とかなんないのかよ。久しぶりに金が稼げるんだぜ?」

「悪いがボスの指示は絶対だ。素直に金を返しとけ」

「うーっ! だったら肉食わせろ! 泊まれはしなかったけど案内はしてやったんだ。その位の報酬があってもいだろうが!」

「しゃーねぇなぁ。少し待ってろ」


 さて……食わせるのはいいとして、もうスペアリブは全部食っちまったからな。今からあれをもう一回作るのは面倒。かと言ってただ肉を焼いたのを出すってのも芸がないから、ここは作り置きしてある丼物でも出してやるとするか。

 取り出したのは焼肉丼。甘辛いタレと炭火でじっくりと焼いた香ばしい匂いが食欲をそそる一品だ。


「ほれ」

「さっきの奴じゃないのかよ」

「あれは品切れだ。作んのも面倒なんで保存しといた奴だが、こっちもこっちで美味いから食ってみろ」


 大きめのスプーンをと一緒に渡してやると、ブツブツと文句を言いながらも受け取り一口。ちなみに、肉はスプーンでも食べやすいように一口サイズに切ってある。アニーもリリィさんもまだまだ箸が上手く使えないからな。こういう心配りが優しいと思われ、好感度が上がると思っている今日この頃。


「美味ぇ!! 凄ぇ美味いよコレ!」


 それだけを口にすると、後はもうむさぼるように一心不乱に食べ進める。どうやら気に入ったようだと言うのが確認できたので、2人の門番が立つ2メートルほど脇にコテージ用の扉を取り出してそこに置く。


「おいお嬢ちゃん。一体何してんだ?」

「何って寝る準備だよ。中に入れないなら見張りが居る側で野宿すんのが、安全面を考えれば一番だからな」

「「見張り……」」

「言いたい事は分かるが、ユニだって生きてるんだから寝たりすんのが当然だろうが。そん時にあんた等みたいな1日2日オール――寝ずの番をしてるっぽい連中の目がある方が安全だろ。だから上の連中の命令と俺のために頑張れ」


 今更宿を探しに行くつもりはない。

 俺的には大した実力のない門番だとしても、シュエイに住む人間にとっちゃ第一級の実力者――だよな? これを相手にしようなんて馬鹿な考えを持つ奴は冒険者くらいだろうし、そんな連中はユニを見ればすぐに回れ右をして立ち去るだろう。

 そして寝床はどこの高級宿よりも最上の設備を備えているので、見張りっつー面倒な仕事が無けりゃ正直どこでもよかったんだよな。


「はふーっ。美味かった……」

「はいおそまつさん」


 あっという間に食べ終えたイクスは満足そうに腹をさすりながら椅子にもたれかかっているので、食器類を〈収納宮殿〉に放り投げる。そして大抵は2度と日の目を見ない。食器程度一瞬で創造出来るのに洗うのとか超絶面倒だから。


「じゃあなアスカ」

「おう。また金持ってくれば食わせてやるよ」


 元気いっぱいにイクスが去り、寝床の準備も出来た。時間もまだある事だし、久しぶりにリエナの所にでも顔を出してみるか。

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