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#229 ウム。結局質問には答えてもらってないな

「……「「「いただきます」」何だガキ。何か用か?」


 まずは食事ができる感謝の言葉を口にし、アンリエットに飯を食べさせる。そうしてからガキの対処をしないと最悪この世から消えかねなかったからな。

 ここで馴れ馴れしく話しかけるような愚は犯さない。何せ今の俺はメリーではなくアスカだからな。


「いや……あんましいい匂いがしたんで何かなーっと思って来たらあんた等が居たんだよ」

「そーかい。お前は随分とみすぼらしい格好してんな」

「スラムの人間だんだから当たり前だろ!」

「なるほどな」


 少なくとも諸悪の根源たる伯爵は死んだんだ。リューリュー達だってここを何とかしたいからって集まって革命し、俺のおかげで成功を勝ち取ったはずなのに、相変わらず建物はボロボロだしガキ達の身なりもクズ布を着ているだけで靴もない。忙しさにかまけて本題をないがしろとしてるって訳か。こいつはやはりちょっと叱る必要があるか。

 更なる情報を得る為にスペアリブを1つ差し出してみると、ガキがごくり喉を鳴らしたので情報料だと付け加えるとすぐに受け取ってほおばり始める。


「美味ぇ! こんな美味い肉を食ったのは久しぶりだ。いつもは芋とパンくらいだから余計に美味く感じるぜ」

「なんだ。随分な身なりをしてるからてっきり飯が食えないのかと思ったが、そこそこ食えてんのか。盗みか?」


 注意してよく見てみると、確かにボロは着てるがやせ細っているという印象はない。

 空気もあの殺伐とした重苦しい雰囲気と焼け焦げたような臭いもあまりない。どうやら多少なりともこいつ等に手を差し伸べているらしいと判断していいだろう。命拾いしたな!


「違うよ。なんかこの街を治めてた貴族が死んだらしくてよ。今まで入っても来なかった兵士の連中が頻繁に炊き出しをしたり、見回りをしてたりするんだ」

「ふーん。なら美味い肉ってのはそこで食ったのか?」

「連中はそこまで人が良くねぇよ。前に食った美味い肉ってのは、メリーって姉ちゃんがくれた肉団子なんだけど、これはこれで負けず劣らず美味い」

「当然なの。ご主人様をお肉は世界一美味しいのなの」

「ご主人様? お前は貴族なのか?」

「うんにゃ。女性を求めて西へ東へ北へ南へと旅をする、超絶美少女のアスカってモンだ」

「ふーん。そんなアスカがこんなとこで何してんだ? 綺麗な女なんでここにゃ居ないぞ?」

「いやー。ちょっと街の連中と揉め事を起こして宿に泊めてもらえなくてな。もう1回探す前に腹ごしらえでもって飯を食ってるところに、お前が来たんだよ」


 そう説明しながらユニに目を向けると、ガキもそれを見てなるほどみたいな同情するような顔をしながら骨だけになったそれを山と積まれた場所に放り投げた。


「美味かったよ。お礼と言っちゃなんだけど、行くとこないならおれっちがいい所に案内してやるけどどうする? 見ての通りこのへんはボロ小屋ばっかだけど、ちょっと奥に行くとちゃんとした宿もあるんだぜ。もちろんこのデカいのもちゃんと泊まれる宿だぜ。銀貨2枚でどうだ?」

「ほぉ?」


 おかしいな。このスラム街区は一通り確認していたはずだがそんな場所はなかった――いや、一ヶ所だけまだ未開拓の場所があったな。確かにあそこであればユニを連れて行っても止めてくれる奇特な宿屋があるかも知れない。


「いいだろう。お前の提案に乗った」

「へへっ。毎度アリ」

「じゃあ飯食っちまうから少し待ってろ」


 ユニとアンリエットはすでに飯を食い終わってるが、俺はこのガキとずっとやりとりをしていたせいで一口も食ってない。すっかり冷めちまったが、その程度で不味くなるわけがないのが俺の料理だ。

 うん。こってりとした油に醤油と砂糖のあまじょっぱさが合わさって、これはご飯が進む。やっぱ日本人なら米だよ米。


「……」

「なんだよ」

「いや……美味そうだなぁって」

「案内料をタダにするなら食わせてやるぞ?」

「ホントか!? いや……でも……」


 なぜか葛藤している。確かに現金収入はありがたいだろうけど、この料理はどう考えたって銀貨2枚で食えるレベルじゃない。素材にもこだわった挙句に〈料理〉フル稼働で仕上げたこのスペアリブ定食は……うーんと。いくらになるんだろう。

 究極を言えば、用意されたすべてが無限に回収出来るMPだから元手タダなんだよな。となると金銭が発生するのは俺の手間に対するモノになる訳か。


「お前は男だよな?」


 こうして改めて確認してみると、こいつって女の子に見えなくもないんだよなぁ。全体的に華奢だし、目もくりっとした金色。まだ声変わりって歳じゃないからどっちとも取れる感じがするんだよなぁ。多少小奇麗になってるからより女っぽく見える。


「な、なんだよ急に……おれっちは男に決まってんだろ!」

「分かった。それであれば、この料理を食うには少なくとも銀貨5枚はもらいたい。それだけの料理をたった2枚でくれると言うのに何を悩む事がある。間違いなく得だぞ?」

「ご、5枚……」


 元手タダで得も何もないんだが、やっぱ野郎にタダで食わせるのは気に入らん。それにまだ宿が取れると決まった訳じゃない。シュエイは広大で宿屋も上下問わずまっだまだあるんだからな。虱潰しに探し回れば、一軒くらいは泊めてくれる場所があるかもしんないからな。


「待ってるのは時間の無駄だから、気が変わったら教えてくれ。デカい狼引き連れた超絶美少女だから、大抵の奴に聞いて回ればすぐに発見できるだろ」

「どこ行くんだよ」

「さっきも言ったろ。宿探しだ。まだこの都市すべての宿に断られたわけじゃないからな」

「えぇ……そんなデカい魔物引き連れておいて泊まれる宿がマジで見つかると思ってんのか? 姉ちゃん。人間諦めることも肝心だぜ?」

「……そうだな。よし、案内しろ」


 暗くなるにはまだまだ早すぎるものの、一応の寝床を確保して夜の蝶へのご挨拶に伺わなきゃいけないからな。どうせお持ち帰りしても楽しめないんじゃあどこで寝泊まりしても変わらんか。

 って訳で銀貨を2枚投げ渡すと、ガキは嬉しそうな悲しそうな笑みを浮かべて毎度アリとつぶやいたんで、パパッと後片付けを済ませて馬車に乗り込み道案内をさせ、あっちへガタゴトこっちへガタゴトと20分。到着したのはスラム街区の中でも比較的裕福に見える極まってる連中の住まう門の前。予想通りだった。


「おい。あの先に行くのか?」

「そうだよ」

「キラキラしてるのなの」

「ふむ……中には少々デキる存在が確認できますが、所詮人の域を出ない連中ばかり。脅威とはなり得ませんね」


 北のつく神拳継承者みたいなスラム街区にあって、まるで別世界のように煌びやかな建物が並ぶその奥に進むためには、当然ながら武装したマッチョハゲと和装っぽい糸目ニヤケの横を通り過ぎなきゃなんない。

 それ自体は別に難しい事じゃないが、あっちこっちで血生臭い騒ぎを起こすのは疲れるんで、ここは金貨などを袖の下に潜り込ませる交渉術を――と思ったらガキがすたこらとマッチョハゲの方に行ってしまった。


「おいっすおっちゃん」

「なんだテメェか。飯の時間だってのににどこほっつき歩いてたんだ。もう終わっちまったぞ?」

「知り合いに確保してもらってあるから平気だ。ちょいと探し物をしてたんだけど、あいつ等宿がなくて困ってたんで連れて来た。泊めてあげられないかな?」

「……あれごとか?」


 あれとはもちろんユニの事。いくら極まった人間とは言ってもやっぱ怖いモンは怖いみたいだな。上半身裸のマッチョハゲのおっさんはビビってるようだけど、和服っぽい物を着ている糸目ニヤケは特に変化は見られない。


「駄目かな? すでに金貰っちゃってるからどうにかならないかな」

「別に馬車が止められる場所を借りれるんならそれでいいぞ。寝泊りする道具はあるんでな」


 援護射撃になったかどうかは知らんが、それを聞いたマッチョハゲは顎に手を当てて考え始めた。


「……どうする?」

「よいのではないか? イクス坊が懐いておるのなら、危険人物と言う訳でもなかろうて」

「お前はただサボりたいだけだろうが!」

「なにを言っておる。そもそもそこな引手は〈森角狼(ユニコーンウルフ)〉であろう? 駄目だと言って暴れられでもしたら、わっち等などあっという間に胃の腑に案内されてしまうではないか。まだまだ抱きたい女子もいるのに死とうないぞ」


 くわばらくわばらなんて呟きながら、糸目ニヤケはすすす……っと俺達から距離を取る。

 それを見て、マッチョハゲが恨みがましそうに睨み付けるが、イクス(さっき名前を聞いて思い出した)が話しかけたのがこっちだったので逃げようがない。


「ぐ……っ。少し待て。さすがにわしの独断でそいつを中に入れる訳にはいかん。上に聞いて来るから少し待ってろ」


 そう言い残してマッチョハゲが消えていった。


「それにしてもそこな娘。〈森角狼〉を手懐けるとは大した者よのぉ」

「アンタこそ。結構あっさり味方を売ったよな」

「わっちは身を寄せている親分さんの命を守る次に自分の命を大事しておるからな」

「嫌いじゃない心意気だ。それよりも聞きたいんだけど、なんだって今更イクスみたいな連中を受け入れてんだ?」


 ここから見えるだけでも、少なくない数の子供の姿が現れては消えていっている。そこに恐怖や怯えと言った感情は見られないが、それが出来るんだったらリューリュー達が革命を起こすより前に出来ていれば、余計な被害が出なくて済んだんじゃないかなって思う訳よ。

 俺のそんな疑問に対し、糸目ニヤケはさも当然のように言葉を紡いだ。


「簡単な事じゃ。わっちら裏家業の人間がユーゴ伯爵と手を組んどったからじゃよ」

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