#225 暗躍? の会議?
しまったぁ~っ。あまりの緊張で思いっきり噛んでしまったぁ!!
ちらりと2人に目を向けると、自分達は無関係ですと言わんばかりにそっぽを向いた。完全に俺1人だけを生贄に難を逃れる腹積もりのようだ。この裏切者っ!
『……なんや寝てたんか。起こしてすまんなぁ』
『気にすんな。そろそろ飯が食いたいとアンリエットに急かされてついさっき起きたとこなんだよ。ところで連絡をくれたって事は、もう用事は済んだって事でいいのか?』
よかったぁ……っ。どうやら寝起きで呂律がうまく回っていないと判断されたみたいで助かった。後は一刻も早くこの話題を断ち切って別の事にすり替えないと。
『それはもうちょい楽しむ予定なんでまだと答えさせてもらいますわ。それよりも少し困った事が起きてしまったんです』
『困った事?』
『これは侯爵から聞いた話なんやけど。なんでも、ついさっき王族が王都に来たらしいんやけど、その旅の途中で第5王子が死にかける程の大怪我を負わされたっちゅうて騒ぎになっとんねん。しかもそのツレの執事とメイドが――魔物に馬車を牽かせる悪魔みたいな子供が犯人や言うてんねん。もしかして思うてこうして連絡したんやけど……』
どうやら無事に王都に到着したらしいな。それにしても、婆さんからは随分と気品を感じたけどまさか王族に名を連ねる連中だったとはね。悪い事をしていたグ……なんとかの悪事を告発するためかね。自分達で何とかできんとは……王族のくせになんと弱い。
『だったらそれは俺だな。高貴そうな婆さんとクソ生意気なガキとまぁまぁできるそこそこ可愛いメイドと殺意を覚える執事に会ってるから心当たりもあるしな。そうか……そんな報告をしやがったか』
『助けられておきながらそのような裏切り行為……万死に値しますね』
『ご主人様に逆らうなんて馬鹿なの』
さらっと白状すると、向こうで大きな大きなため息が聞こえてきた。それにしてもこんな短時間で王都までたどり着くなんて、あの執事とメイドはまぁまぁ優秀だったようだな。
それにしても……折角助けてやったってのにその部分だけは綺麗さっぱり切り取られてるようだな。アニーの発言を聞いてユニとアンリエットが眉間にしわを寄せながらそう呟いた。
『お前何してんねん!! アスカのせいで王都は大騒ぎなんやで!』
『というか、アスカはんは出会ったお人が第5王子や知らんかったんですか』
『着てるモンの質が良かったら貴族なんだろうと思ったが、まぁ知らんな。そもそも野郎の上に王侯貴族なんて欠片も興味ないし。ってか盗賊からわざわざ救ってやったってのに悪者扱いか……これは1つ分からせてやる必要があるな』
折角盗賊団からその命を助けてやったというのに、まさかの恩を仇で返すパターンを喰らわされるとは思いもしなかった。当然、それに対する報復をしない俺じゃないんで、すぐにでもあのクソガキをフクロにしてやらないと気が済まない。婆さんは……老いてるし女性なんでスルー。
『止めぇ! そないな事してみぃ。人間領で生きていかれへんようになるで』
『そうなると、アスカはんがいつも言っとる可愛いくて綺麗な女性との出会いもなくなてしまいますが、それでもええんですか?』
『んな事は分かってるよ。だれもアスカのままで行くなんて言ってないだろうが』
少なくともアスカの状態ではそんな凶行に走るのはNGだから、別の誰かになりすますのはもはや俺の中で当然の流れとなっている。
勇者をぎゃふん(死語)と言わせる関係上。顔を覚えられたであろうレナをここで斬り捨てるのは惜しい。ウサン・クセーノは超目立つから、闇に紛れて生きる妖怪人間styleは向かない。メリーは冒険者として警戒心の強そうな女性との関係強化のためには必須。
となると、やっぱ新たなキャラを作り上げるのが手っ取り早いな。
人物像は暗殺者。となるとやっぱり髪色は黒。表情は乏しく口数少なめ。衣装は忍び装束に頭巾でもかぶれば完全に闇と同化する。武器は短刀と手裏剣。一説によると幻術は薬物でトリップさせてるなんて聞いた事があるからいくつかの麻や――げふげふ。ハーブを用意すればいいだろう。
『ええか。侯爵から得た情報やと遅かれ早かれアスカには討伐依頼を受けた冒険者が行くかもしれへんから、まぁ……ありえへん思うが死なんようにな』
『アスカはんが死んでもうたら、あては生きる意味の7割が無ぅなってしまいます』
『忠告は嬉しいけど、明日にはその宣言を撤回させるつもりだから大丈夫』
『ちょ!? ホンマに止めとけや! ウチ等獣人やけど人種の王都滅ぼされたらさすがに色々と困るんやけど!?』
『お前は俺を何だと思ってんだよ。そこまで派手に暴れねぇっての』
派手にやっても恐らく王都を壊滅させる事は出来るものの、俺の用事は第5王子とやらに誰に向かって牙を剥いたのかってのをDNA――いや、魂にまで一生消える事がないってくらいのレベルで分からせてやるだけのスニーキングミッション。
『せやで。いくらアスカはんでもそこまでの事をしでかさへんくらいの理性は持っとるて』
『ぅおい! リリィさんも何気に酷い事言ってますけど!?』
『これはすんません』
まったく。久しぶりに連絡してきたかと思えばとんでもないな。まぁ、相変わらずのリリィさんクオリティだからおかしいと感じないけどね。
『まぁとにかくだ。別にアニー達に迷惑をかけるつもりは全くないし、今ならちょいと好都合な事もあるんで、犯人が俺だと結論付けられる可能性は低いんだよ』
『なんでそんな事が言えるんや?』
『それは秘密だ。相手の都合もあるからな』
今回を襲撃を……えっと……グリセリンだったっけ? まぁなんでもいいや。そいつにすべてひっかぶせる事が出来れば、俺と言う存在を明るみにする事無くフクロに出来るんだからな。むしろあの連中の命を狙ってくれてサンキューでぇすと言ってやろう。見つかればだけど。
『とにかく。アスカはんが王都に来るんやね?』
『すぐに出て行くけどな。金か?』
『そっちは問題ありまへん。せやけどそろそろアスカはん成分を欲しとるんです』
『はいはい。それじゃあそっちに回ってからその第5王子とやらをフクロにすっから』
とりあえず方針は決まったが、問題はユニとアンリエットをどうするかだ。
アンリエットは俺と同じように着替えさせたりカツラを着ければいくらでも誤魔化しがきくけど、ユニばっかりはどうしようもない。いくら手を施したところで馬を超える巨体は門前でどうしたって目立つし、報告が行けばほぼ確実にバレる。
そうなると俺は人間領でお尋ね者。2度と足を踏み入れられないって程じゃないだろうけど、行動には大きな制限がかかるのは明らか。
ではどうすればいいか。選択肢は俺の中だと2つ。
1つは王家の人間全員を脅す。まぁそう簡単には頭を垂れないだろうけど、抵抗する戦力が一切合切消え去ったらそうするしか出来ないし、それを可能にするだけの戦力はあると自負している。何せ魔族や自称・龍王の息子すらぶっ倒してるんだ。今更人間数千を相手にしたところで負ける事もないだろ。
しかし。こっちの方法を使えば確実に目をつけられる。勇者なんか目じゃない戦闘力でもって人間領の本丸をたった1人で壊滅させたんだ。対魔王の兵器としてこき使われる未来が待っている事確実。
そう言うのは勇者共に任せてるんでノーサンキュー。という訳でもう1つの選択肢であるユニを置いて行くを選択するしかない。こっちであれば多少ユニの不興を買うがデメリットはそれだけ。今なら忠誠値が高いので多少減っても強敵討伐なんて面倒な手間をかけなくて済む。
「さて。聞いていた通り、ちょっと王都に行ってくる」
「ちょっとそこに買い物に行って来るみたいな感じで言われましても……」
「あちしは行っちゃ駄目なの?」
「そうだなぁ。出来ればついて来ないでくれると助かるな」
アンリエットだけならアニー達に預けていけば何とかなるが、やっぱユニだけ置き去りにしてってのは悲しすぎる気がする。きっと放っておいても山と積まれている本を消化する絶好の機会っ! とか思っていたとしても、俺はユニが寂しがると思いこむ!
「うにゅう……それなら我慢するのなの」
「悪いな。戻ってきたら美味しい肉を食わせてやるから」
「じゅるり……それならユニと一緒に待ってるのなの」
「待つのは構いませんが、話を聞いた限りではここじゃない別の場所がいいですよね」
「だな」
さすがに、ここで待ってると依頼を受けた冒険者が来ないとも限らない。別に返り討ちに出来ないなんて馬鹿な考えは持ってない。問題なのはそれをやって俺が居ないという事を報告されたり、返り討ちにする事でより凶悪な存在と誤認されんのが困るだけ。
なので、俺自身がグリセリンの間者としてあの馬鹿の第5王子とやらをボッコボコにして、アスカなる魔獣を引き連れた奴を何とかするより先にする事をがあるだろと意識を別の方向に向けさせようと考えている。
だからここから離れれば離れる程安全が保障されるけど、帰って来るのに時間がかかる。結局はここから少し森に入り、地面を掘った中に新たにユニも入れるコテージを創造して埋める事で良しとする事にした。
準備が終わり、もう夜も遅いのでお休み。
開けて翌日早朝。
「ほんじゃ。明日には戻って来ると思うから、それまで我慢しててくれ」
「頑張ってなの」
「問題が起きましたら連絡させてもらいます」
「おう。そんじゃあ行ってくる」




