#21 仲直り?
「まったく。外に出るなら書置きの一つぐらいしとかんかい」
「別に問題ないと思ってたんだよ。それに数日はここでゴロゴロするって言ってあっただろ」
「それならええんやけど、今度1人でどっか行く時はちゃんと言うといてや」
「随分と自分勝手だな。そこまでする必要性を感じないんだが?」
「嫌なんか?」
「そうだな。そこまでさせるからにはこっちにも何かしらの旨味は欲しいかな」
今の状況でパーティーを組んだところで、アニー達に利はあってもこっちには何の得もない。まぁ、綺麗で可愛い女性と四六時中一緒に居られるって言うのは童貞目線で見れば一生涯訪れないシチュエーションだろうが、俺は所謂ヒモの様な女性は嫌いだ。
金はもう作り放題だから困る訳がない。
移動がかなり面倒だけど、最悪ニートの街で馬でも買えばすぐにでも馬車を作れる。
魔族を一方的にボコれるほどの戦闘力があるから大抵の魔物は殺せる。
これだけでも、俺と旅をすると言うのはメリットの塊だ。しかも旅を続ければ続けるほどその力は増していく予定なんだからな。利に聡い商人であれば何が何でも関係を結んでおきたいと思うのは至極当然だと思う。
だからこそ。そっちが利益を上げたいと言うのならこっちにも相応の利益が欲しい。
特に必要な物は何も無いけど、ちゃんと甘い汁だけを吸って寄生したい訳じゃなくて、お互いがWIN-WINの関係とまで言わなくても、不平不満の少ない関係で居ようという心構えは見せてほしい。
「せやけど……今のウチらに払えるモンなんて何もあれへんで?」
「だったらそれを考えるしかないな。さすがに今すぐ支払えなんて鬼畜な事は言わんさ。支払えるようになるまでは別途費用を積み立てると言う形で手を打とうじゃないか」
簡単に言えば借金だな。貸し借りするのは金じゃなくて信用。
俺はアニーとリリィさんの旅に必要な物をその時に応じて創造。その度に俺からの信用を失って態度や扱いなどが次第にそっけなくなっていき、最終的には奴隷と何ら変わらんようになる。もちろん2人は可愛いし綺麗だからそこまで堕ちるのに時間をかけるつもりだけど、前言を撤回するつもりはない。
「まぁ……あて等はお願いする立場やから文句言えへんから呑みますけど……」
「せやね。それにアスカが居らんとギック市に向かうのすら難儀するんや。とりあえずはそんな感じでニートまで行こうやないか」
「なら交渉成立だな」
酷なようだけど、こればっかりはいくら女の子だからって譲らない。特に期限も決めないんで、その時になるまでじっくり考えてもらえればそれでいい。それまでは〈万物創造〉による物は取引をさせてもらうとも伝えると、背を向けていた俺の視界に2人が飛び込んで来た。
「せやったらこれも該当するんか?」
「出来ればこれだけでもタダにしてもえへんやろか」
「ああ。それは交渉する前だったから別にいいよ」
下着姿の2人が目の前でそう言ってきた。
アニーはスポーツブラにボクサータイプのパンツ。リリィさんは屋敷を出る前は下だけだったけど今は上もちゃんとつけている。どっちもある意味良く似合ってるから童貞心臓に結構ダメージを与えて来るけど、やっぱ裸ほどじゃないんで冷静さは保ててるつもりだ。だから落ち着け俺っ!
「それにしても不思議な布やな。肌触りもエエし妙に伸び縮みする。これはなんなんや?」
「別に普通の布だと思う。詳しく知らんので答えらんないからそんなもんだと思ってくれ」
「動いてもズレへんのでウチはこれが気に入ったわ。買うとしたらいくらなんや?」
「そうだなぁ……銀貨1枚くらいでどうだ?」
原材料? はMPでタダだから、正直に言えば銅貨1枚でも貰いすぎな感じがするんだが、便宜上として銀貨1枚1000円くらいとしたら2人にマジで!? みたいな顔をされたけど、一度決めた以上はこれで行く。あんま細かくし過ぎるとこっちが分からなくなるし、そもそもタダで作られているんだから、それでも儲けしか出ないんだから問題ねぇ!
しっかし……いくつか用意した中でも、アニーは一番地味な色であるグレーを選択するとは。
元々胸が平たい上に色気もへったくれもない下着のチョイス。さすがに心配になって来るな。
「下着1枚にと考えるとなかなかやけど、ウチが付けとるのは女の冒険者には売れるやろ。とりあえずウチのと商売用ので10枚ばかし買うわ」
「買うのは良いんだけどよ、女としてもうちょい色気とか気にした方がいいんじゃないのか?」
「そう言うのはリリィとか貴族に売るに決まっとるやろ。冒険者に綺麗とか可愛いとか気にすんのは素人だけや。特に近接系の連中やったらこういうのは間違いなく売れるわ。デカい乳が痛い言うとったからな!!」
「なるほどね」
どうやら気にしてるらしいな。まぁ、胸のサイズは変更のしようがないものの、アニーという素材自体はいいのにこんな性格じゃあ残念と言う他ない。それでも、俺と言う人間にすれば十分に魅力的なんだけどね~。
「なんかえらいムカつくこと考えてへんか?」
「気のせいだよ。大きさは一緒のでいいのか?」
「いくつかあるんなら別々にしてもろてええか?」
「こっちのもええですか。この着け心地に精緻な細工。今まで着けとったモンが意味なかったんやと思えるほどの出来……貴族が買ぅてくれるとなりますと、多分金貨に化ける思います」
「別に売値には興味ないからいくらで売っても構わんさ。それで? リリィさんの方もいくつか購入するか?」
「もちろん。あても気に入りました。どうです? 似合いますやろか」
そうって胸を寄せるポーズで俺にグッと顔を近づけて来る。相変わらずなんて迫力だ。さすが色気担当と言われているだけあるな。チラリと見える水色のブラがかなりエロイ。これを意図してやってると考えてもこれには抗えない。男ってのは悲しすぎる生き物だぜ……フッ。
「とても似合ってるな。大人っぽい雰囲気がより引き立ってるように見える」
「ホンマですか♪ 嬉しいですわ」
当たり障りのない褒め言葉(俺にはこのくらいが限界)を聞いたリリィさんがパッと笑顔を咲かせて俺に抱きついてきた。
何という事でしょう……俺は今、男として最高到達点に君臨しました。
ふわふわぽよぽよの感触にミルクみたいに甘い匂い。そして包み込まれる様なホッとする温かさ。そんなものが俺の顔を覆い尽くすように押し付けられているなんて……ヤバい。理性がねじ切れそうだ。
「ぶはあっ! く、苦しい……」
「ああっ!? すんまへん。嬉しくってつい」
「ついじゃないだろ。危うく窒息死する所だっただろうが。そういえば朝も同じ目に合ったな……」
「だって……アスカはんうちの事あんま見てくれへんし、対応もそっけないやん!」
ボソボソとしゃべり始めたリリィさんがいきなり泣き出した。もちろん子供みたいな喚き散らすようなものじゃなくて、ドラマのワンシーンみたいに静かにだ。
これにはかなりの男が慌てふためかいない訳がないし、童貞の俺なんて頭が真っ白になって数秒くらい思考が完全に停止していると、ふとリリィさんの背後に回ったアニーの姿が見えたんで目を向けてみると、どうやら抱きしめろとのジェスチャーをしているようだ。
このまま泣き続けられて村人達に白い目で見られるのも嫌だし、意を決してぽろぽろと涙を流すリリィさんを抱きしめて頭を撫でる。
「落ち着け。別に嫌ってないし見てない訳じゃないんだ。その……見てると嫉妬するんでな」
「ふえ? 嫉妬ですか?」
「……あー。分かるわぁ」
言ってる意味が理解できないとばかりに首をかしげるリリィさん。こういう仕草はいつもの大人びたものと違って凄く幼く感じるのと同時にすごく自然に見える。
その一方で、俺の言っている意味を正確に把握したらしいアニーは己のぺったんこな胸に手を当てて恨みがましい目を向ける。やはり随分と気にしてるらしい……。
「その……胸のサイズとかね。そんな訳だから嫌ってる訳じゃない。リリィさんに嫌な思いをさせてるなら、己の成長に期待すると気持ちを切り替える努力はするつもりだけど、あんまり突然抱きついたり目の当たりにされるとこっちも心の準備が出来ないんで、しばらくは同じ態度の時もあるだろうけど、そっちも慣れてくれ」
うん。それっぽい理由に聞こえるだろう。俺は女としての成長なんて微塵も期待してないけど、理由としては当たらずとも遠からずだし、こう言っておけば必要以上に抱きついたりして来ないだろう。近くで見るだけにとどめておけば、俺としてもいつかは耐性が出来て来るだろうから、時間はかかるけどじっくりいこう。
「ホンマに嫌ったりしとらんのですか?」
「してないって。どこにリリィさんを嫌う必要があるんだよ」
むしろ。こんな美少女がライクでも好きと言ってくれる事が、元キモデブ童貞としては祭りを開催したいほど非常に喜ばしい事ですとも! もちろんその辺は口にしない。おかしい人間と思われるだろうからな。
少しの間疑うような目を向けてはきたけど、押し付けられる胸の感触に緩みそうになる頬を意志の力でねじ伏せ、微笑み程度に留める事で何とか信頼してくれたようで嬉しそうに笑ってくれた。ヤバ……っ。滅茶苦茶可愛い。
「良かったですわ。ホンマにアスカはんに嫌われてしもた思ってましたから」
「悪かったな。お詫びに何か償わせてくれないか?」
さすがにこのまま仲直りってのは俺が納得できないし、何より後々を考えると恐ろしくて仕方がない。女性は恨みつらみをいつまでも覚えてるって聞いた事があるんで、その埋め合わせを少しでもするためにはある程度のわがままは聞き入れないと――っていうか俺の童貞脳だとそんくらいしか思いつかない。
「そ、それやったら……ぎゅってさせてもろてええですか?」
「ん? それは俺を抱きしめたいって事か?」
「駄目……やろか」
「それは構わないけど、出来れば着替えてからにしてくれ」
いろんな事が起こりすぎてすっかり忘れてたけど、リリィさんもアニーも下着に浴衣を羽織ったままだ。男としては眼福極まりない光景だけど、そのままで抱きしめられるのはまだまだ心臓レベルが低いから耐えらんない。
そんな訳で、村の中じゃ戦闘もないだろうとの考えで、2人の要求を聞いて洋服を創造した結果。アニーはいつもと変わらないパンツルックのボーイッシュスタイルに落ち着いたけど、リリィさんはだぼっとしたローブを脱いでアソートガラのワンピースというガーリッシュなスタイルを選択した。
ちなみに……服の値段ってのが分からんから銀貨1枚って事にした。
「ま。こんなもんやろ。似合うか?」
「ああ。アニーっぽいぞ」
そう褒める? とまんざらでもなさそうにはにかんだ笑顔を浮かべる。こういう所はやっぱり女の子なんだなぁって実感する。
「あてはどうです?」
「とても可愛らしいな」
「ホンマですかっ♪ 嬉しいですわぁ」
こっちは、ぱっと笑顔を浮かべると同時に俺に抱きついてきた。どうやらリリィさんは俺と同じで女の子が好きらしいな。今のところはロリ疑惑の域を脱しないが、その表情は随分と怪しく崩れているからな。
大義名分を得た以上は遠慮はしないとばかりなんで、俺の顔面はかなり羨ましい事になっているけど、息苦しい以外は少しだけその感触に慣れてきた気がする。
もちろん。こっちからその巨山に触れるような真似はしない。つーかそんなことしたらマジで頭がどうにかなりそうなんで出来る訳ない。
「とりあえずしばらくはのんびりする訳だけど、何か急ぎの用事とかはなかったのか? 急に俺と一緒に行動するって決めたから何か残ってるんだったら先に済ませて来てもいいぞ」
さすがにアレクセイからこの村を救ったんだ。損害の請求をされたりはしないだろうけど、せめて迷惑をかけた分くらいの手伝いはするつもりだ。夜の運動以外はまっぴらゴメンなんで主に材料調達とかだけどね。
あくまでこれは俺の保身のためだ。こんな状況を放って旅に出て、この村をこんな風にした犯人だなんて噂が立って手配犯になんてされたらそれこそ自由に歩き回れないし、駄神の願いを叶える足かせになる。
なので、現在は復興の手助けをしながらその証拠を〈写真〉スキルに収めている最中なので、あと2日くらい証拠を集めておきたいのが本音だ。そうすればのんべんだらりと過ごしていても咎められる事はあるまいて。もちろん背中を流してほしいって理由が大半を占めてるけどな。
男になってからでないと本格的な旅の始まりとは言えないんで、アニー達がギック市で下着類を売りに言った所で待てるだけの精神的余裕はある。何せ村の女性達に背中を流してもらえるというCG回収イベントがあるんだ。それを楽しみながらなら1週間は待てるかもしれん。
「それやったら、魔族を倒した言う報告をしに行こう思うんやけど、暇なんやったら一緒にギック市まで来てくれへん? さすがにウチ等2人であそこまで行くんは馬車ものうなってしもうたから危険やねん」
「後回しでいいんじゃねぇの? ぶっ殺して危険はないんだから後回しでもいいだろ。それにギック市じゃなくてニートでもいいんじゃねぇの? なんだってわざわざ来た道戻らなきゃなんないんだよ。面倒臭いんだけど」
あの時、一応顔を隠していたとはいえ、長い銀髪まではどうしようもなかったし、それだけでもかなり目立つ特徴だ。おまけに連れ戻した将来有望株な少女達は俺の素顔を知っているから、万が一にでも鉢合わせでもしようモンなら速攻でお縄になるも簡単に何とか出来るとは言え、侯爵なんで高位貴族の収める都市で暴れるのはちょいと勘弁。
騎士団に牙をむいた愚か者として指名手配されんとも限らんからな。どうにかしてギック市行きを諦めさせないといけない。
「さすがにそうはいかへんのです。あぁ……髪サラサラや。確かにアスカはんが倒してくれたから安全になったんかも知れへんけど、魔族が人類圏に現れたら迅速且つ必ず報告するいう法がありますんや。肌綺麗ですべすべどすなぁ。せやからどうしても行かんとアカンのです」
「なるほどな。だったらニートで報告しよう。別にどこでだって問題ないだろ?」
「ニートよりギック市ン方が近いんやからそっち行くに決まっとるやろ。それに、出現したんは侯爵領やからそっちに報告するんが筋ってモンやろ。ギック市行きたない理由でもあるんか?」
「確かに。どうないしてそこまで避ける風に持って行こうするんです?」
ここまであからさまな誘導だとさすがに気付くか。しかし素直に白状する訳にもいかんしなぁ。
こうなったら少し真実を暴露するしかないか。




