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#219 意趣返し準備中

 少し訳の分からんやり取りがあったものの、それ以外は何のイベントもなくサディナが暮らす方の街にたどり着いたので、さっさと降ろして次の美女探しにでも向かおうと思っていたのに、気が付けば兵士エルフと対面する羽目になった。

 そして今は、サディナが一連の一部始終の報告の真っ最中だ。


「――という訳で、森の異常は魔族がかかわっていたとの事らしいわ」

「うぅむ……まさか魔族がかかわっているとは思いもせなんだ。そしてそれを解決したのが……」

「俺だなぁ」

「なによその変な言い方は。とにかく、認めたくはないけどこの人間の戦闘力は尋常じゃないわ。もしかしたら魔族を相手に善戦できるかもしれないと言うのがアタシの意見よ」

「オヌシにそこまで言わせるか。存在価値のない人種ごときが……」

「疑うってんなら一戦やるか?」


 ここで殺気なりなんなり出せれば自信を後押ししてくれるんだろうが、そう言うスキルは取らんかったんでどうにもできないが、とりあえず全身に力を入れて7割くらいの力を纏わせる感じで――


「おっと。すまんすまん」


 やっぱ慣れない事はするもんじゃないな。ほんの少し体重をかけただけで座っていたソファのひじ掛けを押し潰し、あまつさえ床に穴まで開けちまったい。そこで済んだのは咄嗟に力をいつもの2割まで戻したからだ。これであれば慣れてるんで、建物の中だろうと自制が利く。


「止めておこう。全てのエルフを総動員しても勝てる未来が見えん」

「? ならいいけど」


 よく分からんが、無駄な運動をしなくて済んだのは良き事良き事。

 後はあっちの街との交流再開や死んでしまった戦士達の鎮魂の為の催しなどを行うそうだが、俺には一切の関係がない事なんで、魂を宇宙まで飛ばしてボーっとする。出て行こうとしたんだが何故か呼び止められてな。用事もないのに面倒な……ふわぁ。


 ――――――――――


「――ま。ご主人様起きるのなの」

「んが……終わったのか?」


 大きく伸びをしながらぐるっと見回すと、兵士エルフの姿はないがサディナはいる。どこか嬉しそうでこっちを見下すような空気を感じられるものの、取り立てる事のないレベルだ。


「ええ。一応これから、各集落に魔族が現れるかも知れない事や今後の対策をするための会議を開催する旨を記した手紙を届けなくちゃいけないの。しばらくは忙しくなるわね」

「ふーん。まぁ頑張れや。俺も美人で可愛いエルフが困ってるようだったら、また助けるかも知れんから、期待せずに待ってろよ」


 終わるまで起こされなかったって事は、結局。用件のほとんどはユニとアンリエットが済ませてくれたって事なのかな? だとするなら後でユニには本。アンリエットにはお菓子でも余分にくれてやるとしようと考えながら出て行こうとする俺の方しっかりと掴む腕が。

 一体なんだと振り返ってみると、サディナが1枚の紙――じゃなくて羊皮紙を突きつけてきた。


「待ちなさい。出ていくって言うならちゃんとこれを見てからにしなさい」


 とりあえず確認してみると、どうやら寝る前に壊したソファの弁償に関する契約書的な物らしい。


「高くね?」

「当然でしょ! 床は魔賢樹(トレント)でも一級品の呼べる物の中でもさらに厳選した部位を使用してるうえに、ひじ掛けを壊したソファは、100年以上生きた水の成龍の皮を何十年もの歳月をかけて仕上げたこの世に2つとない高級品なんだから。おまけにそれを数百年以上大切に使い続けてきた事によるアンティーク品としての価値も考慮し、白金貨2枚を要求するのは当然なのよ!」


 ここにアニーが居ればそれが適正価格なのかどうかも分かるってモンなんだが、生憎と俺は品質の良し悪しが分かる位で販売価格については無知だし、知識を蓄える予定もない。だって……知ったところでつくりゃタダだし金はそれを鋳溶かして大陸横断させる事も可能なくらい蓄えがあるからな。

 そんなはした金を支払えない場合、奴隷とまではいかなくとも、ひと悶着あった場合にエルフの配下としてその腕を振るえ……と言う事らしい。

 なるほど。面と向かって俺を部下的な扱いにするのはエルフとしてのプライド的観点から問題が起こるだろうが、負債を返済するという形を取れば一種の奴隷っぽい関係になるという訳か。あの役に立ったか分からん脅しのためにやった事をこの短時間でよくこの形にしたもんだ。

 こうなってくると、普通に金を支払うって方法じゃ、あの兵士エルフの鼻は明かせないし、何よりこっちが面白くねぇ。やっぱ野郎を相手にするならコテンパンに叩き潰しておきたいってのが心情な訳で。


「なるほど……エルフに〈鑑定〉を使える奴っているか?」

「当然でしょ。馬鹿な他種族の中にはさらに救いようがないほど馬鹿な商人が居るんだから」

「じゃあそいつを連れて来い。ソファの代用品をくれてやるから。納得のいく品質かどうかをそいつに確認させろ」

「はぁ? アンタに今すぐそれ以上に凄い物を用意できるって言うの?」

「出来るから言ってんだ。別に品に文句がありゃ金を払ってやっからさっさと行ってこい」


 文面を見る感じだと、壊したソファの価値のほとんどは長年使い続けた事による風合いがほとんどを占めている。というか、普通なら数100年も使い続けられる家具なんて存在しないが、そこはファンタジー世界。魔法で品質維持や補修なんかをしてるんだろう。

 という事であれば、壊した物よりいいモンをくれてやれば十分すぎる程に納得すんだろ。万が一しなくても〈付与〉で何とかできるいい感じの奴があるからな。


「いい度胸じゃない。だったらせいぜいこっちが驚く一品を用意しておく事ね」


 別に喧嘩を売った覚えはないんだが、サディナは鼻息荒く出て行ってしまったんで、さっさと〈万物創造〉でソファを作りたいところだが、そのためには情報が足りない。


「ユニ。そのソファの素材になった龍を知ってたりするか?」


 うすぼんやりとだけど、ユニに龍に関する本をくれてやった記憶があるからな。


「そうえすね。この色を見る限りですと、河川龍(サーペントドラゴン)であると思われます」

「なるほど。じゃあそれの上位種の物でいいか」


 傾向が決まったんで〈万物創造〉を展開。家具の欄からソファを選択。いくつかある中から似たような形の3人掛けの物に決定して〈品質改竄〉でぐんぐんレアアイテムへと変えていくと40くらいで似た様な見た目のソファがウィンドウに表示されたが、やっぱ新品って感じで味わいがない。

 そこで〈付与〉するのが〈神速劣化〉と〈付与キャンセル〉だ。

 これを使えばあら不思議。時間経過が通常の600000倍になり、1秒で1年以上経過すると言うトンデモ害悪スキルのおかげであっと間にアンティークへと変わっていく。

 それを良きタイミングで〈付与キャンセル〉で消し飛ばせば違和感など何もない普通のソファの完成だ。いくら鑑定の出来るエルフだろうとも、消えてしまったスキルまで看破する事は不可能だろう。この勝負は俺の勝ちが決まっているのだよ。

 いくつかエリクサーを飲み干しながらもあっという間にソファは完成。後はサディナたちが来るまでに壊れたソファが邪魔になるだろうから、処分しやすいように壊しておいてやるかと考えていると、アンリエットにそでを引っ張られた。


「ご主人様。そのおっきい椅子は捨てちゃうのなの?」

「まぁここに置いてても邪魔だからな」

「あの……それだったらあちしが食べちゃ駄目なの?」

「うん?」


 今更アンリエットがこんな物まで食えるのかって疑問はないが、自分からあれが食べたいこれが食べたいなんて言ってきたのは俺の飯以外じゃ初めてじゃないか? ううむ……そう思うと少し気に入らないな。


「ご、ごめんなさいなの」

「ん? あぁ……」


 俺としては上手く隠していたつもりだったんだが、どうやらアンリエットは感づいたみたいで涙目になりながら謝って来たからすぐに頭を撫でる。これでもポーカーフェイスは上手い方だと自負していたんだがな。身体が子供になったせいで感情が表に出やすくなってんのか?

 とはいえ、このまま素直に謝るとアンリエットが想像している通りの理由で怒られたと思い込んでしまうから、そこら辺は34年の口八丁で誤魔化すしかない。


「別にアンリエットに怒ってる訳じゃない。ちょいとスキルで野郎が女性とよろしくやってんのを見つけてな。俺好みのだったらと思うとついイライラとな。だから、ソファが食いたいんだったら遠慮なく食っていいんだぞ」

「……いいのなの?」

「なんだ。遠慮するなんてアンリエットらしくないな。別に食わないって言うならこのまま処分するぞ」

「た、食べるのなの!」


 別に急かしたわけでもないのに、アンリエットは全身から口を呼び出して一気にかぶりつく。特に美味そうな表情をしている訳ではない物の、ゆっくりと味わっているようにも感じるペースで食べ進める。


「しかし……なんだってそんなソファを食うんだ? 美味いのか?」

「全然美味しくないのなの。うーん。よく分からないけど、これは食べなきゃ駄目なのって思ったのなの」

「そうか」


 なんだかよく分からなかったが、そろそろサディナが〈鑑定〉持ちを連れて帰ってくるようだから取りあえず食いたいという欲求を満たす事が出来たなら良しとしよう。

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