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#215 言った事はキッチリと守らんとな

「ふーっ。さっぱりした」


 〈万能感知〉でもすべてが終わった事が分かったので、速攻で毒霧と銀の針を全て回収し、結界を6割ワンパンで砕いて瞬時に風呂を用意して飛び込み、魔道具水道からかけ流しで湯を吐き出し続けさせ、肌が赤くなるくらい念入りに洗いまくってようやく納得できる綺麗な身体に戻り、腰に手を当てて冷えた瓶牛乳を一気に飲み干す。


「ぷは~っ。このために生きてると言えないが、風呂上がりの一杯は最高だ」

「ご主人様。あちしも飲みたいのなの」

「構わんぞ。確かフルーツ牛乳だったな」


 同じく湯上りのアンリエットがせがむので10本ほどだしてやる。晩飯もあるからこのくらいで済ませる。


「サディナも入りゃ良かったのに」

「どこまで馬鹿なの? こんな柵もない敵だらけの場所でお風呂になんか入れる訳ないでしょうが。もう少し考える頭を持ちなさいよ」

「そんな危険な存在がまだ居るのか? あんな化け物が存在してたってのに」


 普通に考えてあり得ない。物音一つたてれば即座に食い殺される未来しかないこの森の中だぞ。いくら動物だって――いや、動物だからこそそう言った危機には敏感だから一目散に逃げ出すだろうし、馬鹿な魔物であれば残ってる可能性はあるかも知れんが、まぁ……既に食われるのがオチだろ。

 という事を懇切丁寧に説明してやろうかと思ったんだが、それだけである程度理解出来たらしいサディナは、顔を真っ赤にしながら明後日の方向を指さす。


「あ、あっちの方とかよ!」

「そうかそうか。それじゃあ今日はここに一泊して魔物が来るか確かめようじゃないか。負けたら報酬の件はなかった事にしていいが、負けたら相当な上乗せをするぞ」

「いいじゃない。その勝負受けたわ!」


 あーあ。一言ゴメンなさいと言えば許してやるつもりだったのに。こうなっては確かめるしかなくなるじゃないか。

 という訳で野宿の準備だ。つってもコテージを〈収納宮殿〉から取り出すくらいで準備は完了なので、普通に飯の準備へと移行する。

 どさりどさりと大量の肉を用意していると、サディナと見張りエルフが眉間にしわを寄せているのを発見したのでそう言えばと口を開く。


「うし。ユニとアンリエットはいつも通りでいいとして、食いたいなら恵んでやってもいいが、エルフってパンと野菜以外に何が食えるんだ?」

「はぁ……。そんな事すら知らない筋肉馬鹿なアンタにも分かりやすく教えてあげるわ。種族としては動物の肉とそこから生み出される卵や乳製品を忌避するのけど、他は特に問題なく受け付けるわ。まぁ、他種族のように個人個人で多少の好みは当然あるけどね」

「で? お前等は何が好みなんだ?」

「そうねぇ……アンタの持ってる野菜なら何でもいいわ」

「料理なんて食べられるのならば問題ない。所詮食事など戦闘に必要な栄養を摂取できれば問題ないのだが、貴女は少し考えたらどうなのだ? 動物の肉を食べる思い上がり種族の用意する物を口に入れるなど……正気の沙汰ではない」

「じゃあお前はその辺の草でも齧ってろ」

「言われずとも」


 野郎だとしても、ここまで案内してもらった恩があるから、頭を下げて懇願すれば用意してやらんこともなかったが、見張りエルフは欠陥種族の施しなど受けるかというスタイルでさっさと森の奥へと消えていったが、少なからず餌付けされたサディナは多少嬉しそうに笑みを浮かべながらじっとしている。


「肉の焼ける匂いとかは我慢しろよ」

「そのくらいなら、他種族の商人が森の中で勝手にやってるから慣れてるわ。それよりもあの敵よ。倒したって事でいいのかしら?」

「多分大丈夫だと思うぞ。本人も今回は撤退するって言ってたしな」


 きっと今頃は打倒・俺を目指して魔物を作っている事だろう。それがあの豚ABのどっちかなのか。それとも全くの別物なのかは知らんが、とりあえず厄介な奴に目をつけられたことは確かだ。あれがオネエじゃなくて美女だったりしたら、勝利の暁には……ぐへへ。ってな感じならウェルカムなんだけど、野郎じゃなぁ。やる気が全く起きん。


「なら、この森の危機は去ったって事でいいのね?」

「いいんじゃないか? 一応気配とか探ってみたがそれらしい奴は居ないし、それ以外の魔物とかが近づいてくるようなら、お前等で殺しちまえば問題ないだろ。ってかその位は出来るだろ?」

「当ったり前でしょうが! この森に生息してる程度の魔物如きにハイエルフであるこのアタシが後れを取るほど弱い訳ないじゃない!!」

「はいはいそーね」


 最後にもう1回、あの2匹に会って問題がないようだったら晴れて契約は完了。依頼としてサディナを自由にできる権利ゲットって寸法だ。まぁ、その権利を行使するのは男に戻ってからだけどな。


「そう……とりあえずよくやったと褒めてあげるわ。エルフと精霊が住まうこの森に立ち入った事は、本来であれば断罪されてもおかしくないんだけど、温情を与えて許してあげる事にするわ」

「はいはいどーもありがとさん」

「ふふん。エルフから感謝の言葉を貰うなんてとても栄誉な事よ。一生の宝として大切にするといいわ」

「はいはいどーもありがとさん」


 サディナのいけ好かない言葉の羅列をさらりと受け流しながら肉をどんどん焼いて行きつつも、ユニ用に出汁をしっかりと取った薄味だけど旨味のあるお吸い物の灰汁を取りつつかき混ぜる。今日は多少なりとも激戦を繰り広げたから塩分は濃い目だ。それに30種入った野菜サラダと今日は焼き魚に大福餅つければOK。

 俺は鼻がひん曲がるような臭い血を浴びたから肉の気分じゃないのでたらこパスタ。

 という訳でサディナの夕食作り。肉魚は使えないんで野菜一択。といっても前と同じのってなると少々芸がない。〈レシピ閲覧〉をぺらぺらと……。


「……よし。これにするか」


 まずはナスを取り出し、ヘタを切って縞模様になるように皮をむいて輪切りに。それを耐熱の皿に入れてラップをふわっとかけて魔道具レンジに突っ込んで4・5分。

 出来上がるまでの間にごま油・塩・胡椒に刻んだ長ネギを混ぜたものを温まったナスにかけて完成。

 次はプチトマトと玉ねぎ。トマトは4分の1.玉ねぎはみじん切りにしてレンジで少し加熱。後はその2つに味付けとして塩麹を混ぜればサラダの完成。

 最後はたけのこご飯の稲荷寿司でサディナの夕飯も完成だ。

 それらをアンリエットに運ばせ、俺は使った調理器具を洗って〈収納宮殿〉へ。それと入れ替わるようにテーブルや椅子を並べてジュースやお茶などの冷えた飲み物を置けば準備万端。


「「「いただきます(なの)」」」


 もはや恒例となった食への感謝を済ませ、一斉に食事が始まる。サディナはファンタジーにありがちな精霊とエルフの主神である緑の神への感謝の言葉を述べていたが、俺はキッチリと耳に記憶した。どうやら緑の神は女性であるらしい。出来ればその女神様から異世界転生をお願いされたかったなぁ。

 肉の塊を飲み込むように食べるアンリエットに、読書に集中しながら食べ進めるユニ。俺は俺でDVDプレーヤーでアニメ鑑賞に精を出しているが、サディナがポカーンと口を開けたまま動く気配がない。


「食わんのか?」

「た、食べるわよ! 食べるけど……〈森角狼(ユニコーンウルフ)〉が本を読んでたり、アンタなんかなによその薄い板……人を閉じ込めて見て楽しむなんて畜生の所業ね。食欲が失せるからやめてもらえないかしら?」

「別に構わんぞ」


 俺が原因で食事を残されてはたまったもんじゃない。さっさと〈収納宮殿〉にぶち込み、代わりにラノベを取り出す。本当に〈万物創造〉は神スキルだぜ。これが無かったらと考えると女の身体でも女性におぼれていたかもしれん。そのくらいしか楽しみがないんだからしゃーない。さすが過去の俺。見る目があるぜ。


「んっ!? これ……すごく美味しいわね。何て野菜かしら?」

「俺の国じゃナスって呼んでたぞ」

「ナス……ハイエルフであるこのアタシを唸らせるなんて、物の価値の分からない人種如きにしてはやるじゃない」

「あっそ。食い足りないなら言えよ」

「お代わりなの」

「主。本日の運動量と食事量を計算した結果。もう少々カロリーが必要なので500グラムほど鶏肉を塩胡椒でお願いします」

「はいよ。ちょっと待ってろ」


 しおりを挟んでもう一度フライパンを取り出す。一方はアンリエットの食欲を知っているのでまだ洗っていないが、もう1つの方はわずかに付着した油にも目を光らせるユニが居るので、使うたびに新品を創造するのが多少面倒臭いからこっちも少なくない経験で食べる量を計算して作ってるんだが、今日は同格の魔物との一戦が相当にエネルギーを消費したんだろう。注文通りの鶏肉を紙皿に乗せて置いてやる。

 アンリエットの肉は作り置きだったのをいくつか出す事で事なきを得る。数こなすのって結構大変だし、時間停止してるとは言え一週間以上入れっぱなしの物は、廃棄扱いとしてアンリエットやマリアの胃の中に捨てさせてもらってたから文句もなく口に運ぶ。


「あ、あんなに小さいのにビックリするくらい食べるのね」

「今日はマズいながらも多少は肉を喰らったから、あれでも少ない方だ」

「あれで少ないって……」


 既にアンリエットのお腹の中には50人前以上の料理が詰め込まれているのに、その食欲は一切の衰えを知らないときてるんだ。げんなりする気持ちは分からんでもないがもう慣れた。


「気にしたら飯が食えなくなるぞ。そして、俺は飯を残されるのと女性に無体を働くクズが許せない質だから、出した分は死んでも食いきれ」

「それなら問題ないわ。こんなにおいしいナスを残すなんてありえないもの。むしろおかわりが欲しいくらい」

「食うなら出すが、残すなよ?」

「大丈夫よ」


 自信満々に告げるのでとりあえず同じ物を何度か出してやったが、やはり美味いは正義の前にコントロールが利かなかったようで、ほんのわずかを残してギブアップを宣言したが、俺は当然許さずにねじ込んだ。

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