#20 復興の手伝い
「っ!?」
翌朝。俺は息苦しさで目を覚まし、目の前の光景に思わず声を上げそうになった。
そこには、俺が用意した浴衣を着てくぅくぅと可愛い寝息を立てるリリィさんの何物にも縛られていない巨山あったから。
そこに昨日ほどの焦りはないけど、やっぱりなんの準備もなく目の当たりにするとビックリする。思わず心臓が破裂するかと思うほど跳ね上がったし、そのあまりの柔らかさに本能がままに揉みまくれと理性を蹴飛ばして来ようとするのをギリギリでこらえる。
「……」
とりあえず起きて、何となくリリィさんの全体像に目を向ける。
慣れない浴衣は完全にはだけて上は着けず。下はいくつか用意した中で水色の物をつけているのが分かるほとんど裸に近いあられもない姿が拝める。ハッキリ言って滅茶苦茶エロいんで思わず〈写真〉をパチリ。
そして背後を振り返ってアニーに目を向けると、こっちも似たような状態になってるけどだらしなく大口を開けているんで、色気らしい色気は全く感じない。造りがいいだけに何とも残念な感じだ。
〈時計〉によると、今は10時。風呂に入って農具を創造したりなんかして2時前には寝たような気がするから結構寝た事になるはずだけど、外ではもう村の復興や農業に勤しむ声がうっすらと聞こえてる。あんだけ大騒ぎしておいてよくまぁ働けるなぁと感心しつつ、村長の屋敷を後にする。2人はまだ寝かせておこうという問題の先送りだ。
「おぉアスカ殿。起きられましたか」
「おはようゴンズ君。昨日の今日だってのに早起きだな」
「なぁに。これでも遅いくらいですとも。魔族の支配も無くなった事で浮かれていましたからな。おかげでそこら中から旦那を叱る声が響いておりますわい」
「かっかっか。うん? なんで農作業してる連中は俺の農具を使ってないんだよ」
まずは農具の使い心地を聞いてみようと畑に訪れた訳だけど、なぜか全員が前から倉に置いてあった木製のボロボロの農具を手に作業をしていたんで、俺の造った農具を手に立ち尽くす村長に尋ねてみた。
「いやいやいやいや。確かにわしは農具が欲しいと仰いましたが、まさか鉄製とは思いもしませんでしたわい。皆が畏れ多くて使えんと言っとります」
どうやら皆は青銅製くらいの農具を予想してたらしく、朝になって倉に来てみたらあらビックリ。そこにあったのは鉄製(本当は鋼鉄)の農具だっだそうな……。
少しの間話し合ったそうだけど、さすがに1つ銀貨数枚はするらしい品を譲ってもらう訳にはいかないという訳で、畑仕事をする連中はいつものように使い慣れた木製の農具で耕す事にしたらしい。
それにしても……あのレベルで銀貨数枚か。上を見れば耕運機なんかがあるから、鋼鉄製でもMP的には5くらいしか使わないから大して価値がないんだろうと思っていただけにこっちもある意味ビックリだけれど、道具は使わなければ意味がない。それも連中が望んだ物なんだから無理矢理にでも使わせる。もちろん手はある。
「なんだなんだ? 俺の渡した礼に文句があるって言いたいのか?」
「と、とんでもございませんとも!」
「なら思う存分使えばいいだろうが。気に入らないなぁ~せっかくの恩を仇で返されるとは思わなかった。なーんか暴れたくなってきちゃうなぁ」
「お、おい! 使わんか!」
俺の脅しともとれる言葉に、村長が次々に村人に農具を渡して使わせる。
使い心地がいいかどうか知らないけど、木の時と違って地面がさくさく耕かされていくんでその効果は期待通り絶大みたいで大満足だ。
一度使えばもう返品は受け付けない。この時代にクーリングオフなんて制度がある訳がないから、これ以降はなんの抵抗もなく使い続けてくれることだろうって訳で、トドメに木製の農具を全てへし折って〈種火〉で消し炭にしてから、俺は村長を引き連れて畑を後にして昨日作ったままの風呂の前までやって来る。その目的は最初から決まってる。
「さてゴンズ君。夜が明けた訳だけども、混浴の話は進んでいるのかね」
「その事でございますか。それでしたら各家に連絡を取りましたところ、アスカ殿たっての願いとの事を伝えましたら皆快く了承していただきましたぞ」
「うむうむ。さすがゴンズ君だ。よくやってくれたじゃないか」
既にリリィさんのを生で見たり押し付けられたりした後だからな。大抵の女の子の裸なら何とかなるかも。今からが楽しみで仕方ないぜ。おっとっとよだれが。
「アスカ殿がよろしいのでしたら、今すぐにご用意できますが」
「いや。出来れば夕方にしてもらいたい。その方が彼女達も汚れを落としたりできるからより喜ばれると思うのだよ」
「なるほど。それでしたら娘達にはそのように伝えておきますので、アスカ殿の都合の良い時間になりましたら声をおかけください」
「うむ。それじゃあ俺も仕事をするとしますかね」
さすがに村人全員が復興に向けて働いてるんだ。俺だけが何もせずボーっとしてるってのも居心地が悪いんで、村長になんか仕事をくれと言ってみたら村の恩人にそんなことさせられませんと言われてしまった。
ならばと村人全員の朝飯を用意する事にした。幸いにしてこれだけはその味を知ってしまった全員からあまり強い文句は出なかったし、こっちとしてもレベルアップを兼ねてるんで何の問題もなく挑める。
というわけでまずは献立だ。
全員(アニーとリリィさん以外)が既に起き出して仕事をしているんで、なるべく邪魔にならないように手掴みで食べられる物がいいよなって事で、昨日の腸詰でホットドックにしよう。今日はパンが食べたい気分だからこれで決まりだ。
そんな訳でさっそくソーセージとコッペパンを創造。1人何個食うか分からんけど、あんまり食わせすぎるのも動きが悪くなるんで100個ほど。余っても〈収納宮殿〉に放り込んでおけばいつでも出来たてが食えるから、次々に網にのせて焼いて行く。
それまでの時間を使ってケチャップとマスタードに飲み物を用意する。俺の好みだとケチャップは酸味が強めでマスタードは絶対に粒入り。それが俺のスタンダード。それが各3つもあれば十分だろ。そして飲み物はコーラ――と行きたいところだけどさすがに刺激が強すぎるだろうと考えて、オレンジ・グレープ・リンゴの3種類のジュースにした。
パチパチと油のはじける音が聞こえ始めると、休憩がてら覗きにくる村人が少しづつ増え始めてくる。
「アスカさん。こりゃなんだい?」
「ホットドックって言う料理だ。丁度焼けたし1つ食ってみるか?」
「いいんですか? 何かすんませんねぇ」
1人の村人にホットドックを手渡し、食い方の説明がてら俺も食べる。うん。〈料理〉スキルに加えて普段食ってる物より随分といい物を使ったおかげもあって、コンビニの物より数段美味い物が出来た。試食した村人Aも随分とうまそうに食ってるから問題はなさそうで一安心。
そんな光景と肉汁のいい匂いにつられて次々にホットドックに手を伸ばすんで、1人2個までだと注意をしながら次々とソーセージを焼いてはパンにはさんでいく。
都合1時間くらいで売り切れとなり、とりあえず仕事をしたという大義名分も得られた。後はどこかでサボってても文句は言われないだろうと考え、あてもなくブラブラと村を散歩するとホットドックの件で垣根が取り払われたのか、すぐに声をかけられた。
「アスカさん。こんなとこで何してんだい?」
「ただの見回りだが超絶暇でな。なんか手伝える事があれば特別にやってやるぞ?」
「それだったら入り口近くの大穴を塞ぎたいんだけど、何とかならんかね」
「よしきた。まずは現場の確認だ」
案内されるがままに現場へと駆けつけると、あの時は夜で被害がどうもはっきりしなかったけど、こうして改め見るとと自爆魔法の威力は随分とデカいもんだったんだと実感する。よくこれだけの威力を至近距離で受けて生きてられたな。〈身体強化〉バンザイ。
「こりゃまたどえらい事になってるな。土でも出して埋め立てればいいか?」
「そっだな事が出来るならお願ぇしてでさぁ」
「任せとけ。良きところで止めろよ」
推定で深さ5メートル。幅は15メートルの巨大クレーターが出来上がってる。明るい所で見ると本当にえげつない威力にも感じるが、命を代償としたにしてはしょぼいと言えなくもない。
まぁ、済んだことだしどうでもいいかと、早速土を創造してクレーターの中に流し込んでいく。
その最中は暇だからと他愛ない会話をするなかで、村人の1人から冒険者の話が出てきた。
「アスカさんは冒険者じゃないんですかい?」
「ああ。しがない旅人として世界を回ろうとしてる最中だ」
「信じられねぇだ。あれだけ強ければすぐにでもCクラスになれますよ」
一瞬Cかよとも思ったけど、何でもそれ以上のランクを目指すにはギルドへの貢献度や上のランクの冒険者の推薦や試験と言った超絶面倒な案件を片付けないといけないらしい。完全に俺向きじゃないんで、冒険者になった暁には一生Cランクでいいや。まぁ? 色々やらされそうなんでなるつもりは毛ほどもないけどね~。
「アスカさん。もう大丈夫ですだ」
「そうか?」
そんな話をしているといつの間にかクレーターが丘になっていたんで一時中断。後は村人達でそれを押し固めて元通りにするから大丈夫だと言われた。
という訳でまた散歩だ。と言ってもさほど広くないんで、30分もあれば十分に見回る事が出来るし、そうすれば時々足りない材料なんかを都合してほしいと頼まれたりするんでそれに応えたりなんかしているうちに、アニーとリリィさんが近づいて来るのを〈万能感知〉が教えてくれた。
「何で起こしてくれへんねん! 朝起きて居らんかったから、アスカ1人でニートに行ってしもうたか思うたわ!」
「ホンマですよ! どういうつもりなん!?」
「ん? ぐっすり寝てたから起こすのも悪いかなって。それに、歩いて街から街への移動は超絶面倒だからする訳ないじゃん。あの時狼から助けたのだって馬車があるからってのが理由の6割を占めてるんだぞ? そして残り4割が2人が可愛い女性だったからだ」
「案外最低な理由やった!?」
「ホンマですか? あての事避けてるん違います?」
「そんな事ないって。だから……とりあえず着替えようか」
俺が居なかったことに相当ビックリしたんだろう。2人とも浴衣のままだ。
ちゃんと見えないようにはなってるけど、少し動くだけで太ももまであらわになるし、リリィさんに至ってはダイナミックな動きで近くにいた男連中の視線を釘付けにしてるから、色々と迷惑になるんで、2人の背中を押して一度村長の家に戻って着替えをする事になった。




