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#213 ずっと裸なので、想像力を働かせようじゃないか!!

 取りあえず斬馬刀を収納し、代わりにタワーシールドを手に銀の針群の猛攻の対処を試みるか。正確な数が分からないほど真っ赤だからな。おまけに時間経過で多少薄くなってきたとはいえ、毒霧が充満してるからどう考えたって回避が間に合う範疇を越えている。


「よっしゃ来い」


 少し気合を入れて構えると同時に、四方八方からとんでもない衝撃が襲い掛かって来る。

 一撃一撃自体のダメージは大した事はないが、それが千も万も集まられるとさすがに痛みを伴う。一応〈回復〉が頑張ってるけどあんま長時間は耐えられないし、かといってエリクサーを飲む時間も隙もない。

 スコールの中に居て、濡れると分かって傘を放り出して乾いた服に着替えるなんて土台無理な話。

 とは言えこれは天災じゃない。目の前の奴の仕業なのか。はたまたあの豚エルフに化けた魔族なのかは分からないけれど、目の前の奴を討ち滅ぼせばこっちかあっちかは判明するも、今のところはそれが難しい。


「お……っと」


 まるで150キロのストレートを叩きつけられてるような衝撃を全身に感じながら強引に後ろに飛ぶも、横薙ぎに振られた塊エルフの一撃が盾をかすめ、僅かに付着した黒の本体がそれを剥ぎ取るように力を込めて来るので盾ごと短剣で斬り落とす。


「まーったく。油断も隙もあったもんじゃないねぇ」


 いつも通りの力の入れ具合だと、銀の針の影響でほんの少しズレが生じるか。

 であれば、それに負けない力でもってねじ伏せるか。都合よく、俺にはそれを実行に移せるだけの力があるんだからな。


「よ……いしょぉ!」


 何人かに押されてる様な抵抗をものともせず、大上段から振り落とされる塊エルフの拳を躱し、握りしめる短剣をいくつかある顔面に向けて投げつけるも、スコールのように降り注ぐ銀の針が軌道をズラし、足に突き刺さる。

 まぁそれでも一定の効果があるからいいんだけど、やっぱ狙いから大きくズレてるのは負けた感じがしてイラッとするな。

 ではどうすればいいか。答えは単純で、投げる時の力をもっと強くすればいいだけだ。これであれば、多少の妨害なんてものともせずに顔面を捉えること請け合いだが、それが出来ない。目下最大の懸案事項が結界の強度にある。

 力を込めて投げれば間違いなく顔面を貫く。そして結界をもやってしまう可能性がある。

 そうなれば毒霧も銀の針もどうなるか分かったもんじゃない。アンリエットは平気そうだけど、ユニやサディナには荷が重い。視認するのも難しいほど細くて小さいくせに、その威力は抜群。〈身体強化〉された肉体でも徐々に痛みが増してきている――つまりはダメージを負っているという事になる。

 この身体でのダメージは、この場に居る連中にとっては致死量になるような気がする。ハチの巣になる未来しか見えない。見張りエルフはそうなってもいいけどな。

 なので、今の目的は銀の針を減らす事にある。幸いな事にこれは生物じゃないようなので〈収納宮殿〉に問題なく取り込めるが、しっかし数が多い。それに、相手がこの戦闘をどこかで盗み見ている可能性を考えるとそう大規模には見せたくない。怪しくない程度に盾の陰で一度に数100本飲み込むのが精一杯だ。これが毒霧の中じゃなかったらもうちょい飲み込む数は減らしてただろうな。


「あ~しんど。なんか面倒臭くなって来たな」


 銀の針に晒されて早20分。今では毒霧も当初の半分くらいまで濃度が下がり、飛んでくる針も多少は少なくなったおかげで〈回復〉とのバランスも取れ始めている。

 現状のHPは残り5割。結構減ったなぁと考えるかまだ半分もあると考えるかって心理テストがあったなぁなんてぼんやりと考えながら、ふとユニ達の姿が目に留まった。


「……良いご身分だなぁおい」


 一応魔物とかが居ないのは確認していたけど、まさかユニとアンリエットが追いかけっこをして遊んでいるとは思いもしなかったな。こっちを全く見てないし!

 残ったエルフ2人も切り株に腰を下ろして会話? 的な事をしているし……むかむか。


「ドゴヲミデイルウウウウウ!!」

「見たら分かんだろ。あっちだよ!」


 ついイラッとして、盾で思いっきりぶん殴ってしまった。

 途端に塊エルフが吹っ飛んで行くので、慌てて追い越し地面に叩き付ける。

 危ない危ない。いまのはうっかり5割の力で殴っていたから、質量を考えて万が一が起こるといけないからな。ほんの少し……ほんの少しだけ、遊びほうけてる連中をぎゃふん(死語)と言わせてやろうかと本気で考えたけど、折角上げた忠誠値がガン下がりする気がするんでグッとこらえたよ。


「グ……ニグイ……ニグイイイイイイイイイイ!!」

「いちいちうるせぇなぁ。それしか言えないのか?」


 自分をこんな風にした相手に対しての恨み言をほざいてるんだろうが、どうやら視力的な物は完全にないみたいだな。わざわざ喚き散らすのは俺の精神に向けてなのかな? 聞いてもどうせ思った答えが返って来るとは思えんので、すっぱり断ち切って回避をしながら銀の針を回収する。


「――さて。そろそろいいか」


 しっかり1時間かけて回収し続けたおかげで、〈回復〉がダメージを上回ったので痛みは綺麗さっぱりなくなった。衝撃だけは残ってるけど、どのくらいの力を入れれば思い描く動きになるのかは既に把握済みなので、回避するのはもう容易い。

 ここまで来れば、行く手を遮る障害はもう存在しない。さくっとトドメを刺すとしますかね。


「そぉ……れっ!」


 振り下ろされる剛腕をひらりと躱――さず斬馬刀を叩きつける。手にそこそこの抵抗を感じたけど、こっちもこっちでそこそこ力を込めていたから問題なく斬り飛ばす。


「グガアアアアアアアアア!」

「ほらほら。痛みに喚いてる暇があるなら反撃しないと。生きてられる時間が余計に短くなるぞ」


 ドロリと流れ出る赤黒い液体に触れたくないので、反対側に回って今度は腕と足をそれぞれ一刀で斬り飛ばす。またチューニングの合わないラジオみたいに、砂嵐を呑み込んでるような悲鳴を上げながらも触手の反撃が向かってくるも、銀の針の邪魔に適応した俺にとって既に敵じゃない。


「さて、次は首でも飛ばしてみるか」


 律儀に残った足も斬り飛ばしてもいいんだけど、もう塊エルフの周りは汚い液体が広がってるんであんま無駄な動きをして汚れたくない。何故なら滅茶苦茶臭い。あんなのが付着したら速攻で風呂に入らんといけない。

 なので、唯一液体溜まりを踏まずに攻撃できる首辺りを狙って一気に飛び出し、その勢いに腕力をプラスして一気に振り抜く。

 ここで、振り返ることなくポーズを決めたいところだが、生憎と相手はまだ息があるみたいだから仕方なく振り返る。液体溜まりに落ちてる首がこっちを向いている。


「ヴァレヴァレバ、ジヌ……ノガ」

「知らん。だがまぁ……死ぬだろうな」


 これは本音だ。そもそもすでに死んでる連中も少なからず存在してるし、本体は黒い液体状の何かだ。それがこの程度でどうにかなるとは全く思えないが、死ぬまで出すつもりはない。


「ググ……ギヲ、ヅゲロ」

「あ?」

「ギザマバズデニワナニガガッデイル」

「……そこんとこ詳しく」


 現状に変化は見られない。まぁ相変わらず全身に銀の針がぶつかってくるけど、ここから何か手を打つなんて考えにくい。普通に考えて視認困難。回避困難。対処困難。の困難三銃士であれば、大抵の存在がハチの巣になって肉片も残らない。

 それに、いま取り込まれているエルフ連中の中にそんな惨状になっているパーツは1つとしてない。せいぜいが足や腹にデカい穴が開いてるくらいだからな。この銀の針が奥の手と考えて居たんだけど、塊エルフ的にはまだ先があるらしい。


「ヴァレラバ、ニエニザレダ。ズベデヤヅノ――」


 言葉の途中で、エルフ連中の顔がすべて黒親玉に取り込まれてしまった。

 グチャリグチャリと肉を食む音骨砕き音まぶしなBGMを聞きながら、まるで口封じのために殺したと言わんばかりのタイミングだな。

 これで、目の前の元塊エルフが本体じゃなくてその後ろにまだ何かが居るという確証を得たと判断していいだろう。ってかわざわざ教えてくれたのかって言いたくなるほどだよ。馬鹿にされてるみたいで気に入らないな。

 とは言え、動き出す前に細切れにしてやればソイツが動き出す前に決着が着くだろう。面倒は極力回避が信条だ。

 なので身の丈剣二刀流を振り――


「っが!?」


 まるで編集の下手な人間がつなぎ合わせたかのように塊エルフが目の前に迫り、これまた気が付けば下手な繋ぎ合わせみたいに真っ赤な空を見上げていた。


 あぁ……血の臭いがする。

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