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#206 ふりだしに戻る

「吾は……生きているのか?」

「そりゃそうだろ。お前殺して龍王とやらに敵討ちだなんだって喧嘩売られても困るからな」

「そうか。そこまで加減をされていたとはな。吾もまだまだ道半ばという訳か」

「なーに。お前さんは十分強ぇよ。俺の従魔はあんな感じだからな」


 ユニはというと、大して強そうに見えない魔物を相手に勝利を収める事は出来たものの、全身傷だらけになったんで、こっちにもエリクサーを振りかけておいた。

 それで経験値はというと、ありがたいことに今までにないほどの量が流れ込んだおかげでレベルが1上がった。うん……言いたい事は分かるよ。俺もビックリするくらいの充実感を手に入れた感覚があったのに、ふたを開けてみればたったの1。まぁ、上がっただけ良しとしよう。


「とりあえずこっちの用は済んだから、もう帰っていいぞ」


 どれくらいのレベルか知らんが、これだけ強い相手であれば必要な経験値が得られる事も知る事が出来た。次からもこんな連中を相手にするのは色々と不都合が起きそうだから自重するが、(しがらみ)のないギリギリ低能な魔物を中心に経験値を稼いでいこうと思う。良い経験が出来た。


「うむ。ヌシとの一戦は、強者と驕っていた吾の無様に伸びていた鼻をへし折ってくれた事で非常に身になった。いつか再び見えん時は、もう一度手合わせを願いたい」

「俺の事を龍王とかそこら辺の偉い奴に内緒にできるってんなら、考えてやってもいいぞ」

「俗世に関心を示さず己が極致のみを追いかけるか。良いだろう。吾も同じ極致を目指す者として、その使命は必ず護ろう。では」

「じゃあな」


 約束を守る事を誓い、グラウは背中に翼を生み出してあっという間に飛び去って行ってしまった。

 いやぁそれにしても骨の折れる一戦だった。結果だけを見れば一方的だったけど、それをするためにいつもより上の40パーセントほどの力を発揮し、胴体を両断する時は7割の力を使った。それはまぁやりすぎたと、遥か彼方まで鋭利に斬り倒された木々を見て思った。


「……あれ? これって威厳回復にならないか?」


 ユニと同等レベルだった蜥蜴駝鳥すら恐れて俺達の――というかグラウの猛攻の遥か外まで逃げ出した相手を、俺が一発の直撃すら受けずにワンパンで、それが見える範囲で殺して見せた。つまりこれって、もうやりたかったことが終わってるんじゃね? って事が言いたい。


「確かに。ワタシの相手の動きが突然鈍るほどの圧倒的強者ですら歯牙にかけない途方もない実力。御見それいたしました」

「やっとご主人様の凄さが分かったのなの?」

「そうですね。出会った事から主の常軌を逸した実力は理解していましたが、まさか龍王のご子息ですら赤子の手をひねるより楽に勝利を収めるとは思いませんでしたよ」

「龍王って凄いのか? ってかアイツがマジで息子なのか?」


 そういばそんな事を言ってたなぁ。とは言え証拠は何もない。勝手に名乗っただけでこっちにはそれを確かめる術がないし、経験値も稼げてユニの信頼回復が成った今。そんな事をする意味がどこにもない。


「何を当たり前の事を……龍王とは龍族と龍種の頂点に君臨する存在。当代の龍王の強大さは、先に出会ったあの魔族龍をしのぐとも評されているのです。息子であれだけの実力者であれば、龍王ともなればまず間違いないのは明白ではありませんか」

「まぁ確かにそこそこ強かったけど……お前はそんな情報どこで仕入れてんだよ」

「主の手が加えられた書物のおかげです。まるでこの世の全てが記載されているのではないかと時々寝るのを忘れてしまうほどです」


 はて? そんな本を創造したっけかな? 色々出してるからマジでエロ関係以外の本に関しては記憶がない。まぁ……メリットになってもデメリットはなさそうだから別にいっか。


「ふーん。とにかくレベルはどうなんだ? 上がったのか下がったのかはっきり言っとけ」

「あれだけの激戦をして下がるなどあり得ません。しっかりと上がっています。ついでに主から齎された経験値でさらに上がりました」

「じゃあ……帰るか?」


 既にユニの忠誠値はマックス。つまり目的はすでに果たしている訳で、これからわざわざエルフの廃街で情報が得られる可能性が高い黒い奴の本体をわざわざ倒す必要もなくなったし、ユニのパワーレベリングをする必要もなくなった。

 ってなると、後はエルフに任せるのが筋なんじゃないか? 世間一般にここがどう認識されてんのか知らんが、少なくともエルフ達はここを自分達の森と認識してるんだ。目的を失った今、無理を通し道理を蹴っ飛ばすなんて真似をする火が完全に消えてしまった。

 だから、この森を出て行こうかと何の気なしに提案に対し、ユニとアンリエットは驚いた顔をした。


「野菜肉共を見殺しにするのですか?」

「誠心誠意お願いすればやらんこともない。そもそも、これから向かう場所に何をしに行くのか覚えてるか?」

「ユニが生意気だから、あの黒い奴の凄い奴をご主人様が食べちゃおうとしてたのなの」

「……まぁ、間違っちゃいないが食うんじゃなくて殺すな。確かにそれが目的だったけど、もう済んだだろ? 何しろ龍王の息子(自称)をぶち殺したんだから」

「確かにそうかも知れませんが……」

「ご主人様黒い奴たべないのなの?」

「ふぅむ……とりあえずサディナに話を聞いてみるか」


 一旦帰るかどうかを置いといて、サディナに一部始終を話し、どうしてほしいかを詰める作業が必要になる。

 ここで意固地になって俺の手助けなんかいらないと喚き散らすのであれば、俺はなんもしない。さっさとこの森を出て美女探しの旅をしたりシュエイに行ってリエナとユニ達の顔合わせをするのもいいかもしれないな。

 逆に助けてほしいと言ってもらえたら、あっという間かどうか知らんが解決するつもりではいる。


 ――さて、返答をどうするか見ものだな。


「っぷわ!? な、なに?」

「おはようサディナ君。よく眠れたかな?」

「ふっざけんじゃないわよ! いきなり人の首絞めておいてよく眠れたかですって? そんな訳ないでしょうが!」

「まぁそのあたりは割とどうでもいい。実はこっちの問題が見事に片付いてな。わざわざエルフの廃街まで行く必要性がなくなったんだよ」

「あらそうなの? じゃあアタシはもう帰っていいって事なのかしら?」


 やれやれ。どうやら事の重大さに全く気付いていないみたいなんで、もう少しわかりやすくかつかみ砕いて説明するとしますかね。俺は女性には優しいんでな。


「ああそうだ。サディナ達エルフだけで、黒い人型よりさらに厄介だろう黒幕的な奴が倒せると豪語するのであれば、俺はここからさっさと出て行くさ。そちらの決断はいかに?」

「……ちょっと待ちなさいよ。さっき問題は解決したって言ったじゃない。どういう事よ」

「言ってなかったか? 俺の目的は、ちょっと生意気になってたユニを服従させるために例の黒い魔物を狩るつもりだったんだけど、サディナが気絶してる間に別の奴でそれが済んでな。今から帰るところなんだよ」

「……」


 ふぅ……っ。どうやら事の重大さを理解してくれたみたいだな。それと同時に、彼我の戦力差でも計算し始めているのか、ブツブツとこちらに聞こえないくらいの小声で脳内会議を始めてしまったが、こっちとしてはいい傾向だと信じたいんで、しばし待機。


「さて諸君。それでは我等の行く末に関する話し合いをしようじゃないか」

「「……」」

「なんだよノリ悪いなぁ。ここまで準備した俺が馬鹿みたいじゃないか」


 折角付け髭とサングラスで変装し、森の中に似つかわしくない大仰な机と椅子を用意した挙句に大層偉ぶった話し方をしたって言うのに、両者の反応は非常に薄かった。って言うか、いきなりどした? って感じの怪訝な目を向けられた。


「いえ。主の行動の大部分はその様な意味のない事であると理解しているのですが……」

「ご主人様を馬鹿にする事はしたくないのなの」

「アンリエットよ。それは遠巻きに俺が馬鹿だと言ってるようなもんだぞ?」

「うみゅ!? ご、ごめんなさいなの」

「まぁいいさ。とりあえず話の内容は行き先だ。あんま王都から離れるとアニー達との合流が億劫になるが、近い場所をウロウロしても面白くないからな。何か意見とか提案とかないか?」


 そう切り出してはみたものの、俺は異世界の人間で。ユニは知識こそあるものの、長年森で過ごしていたからその手の情報に関してだけは薄く。アンリエットは言わずもがな。

 つまり俺達は、この世界の地理についてほとんど知らないって事になる。ガイドブック的なモンが広く浸透してれば問題はないだろうが、そんな便利な物は存在しない。だから〈万物創造〉でも作れない。


「じゃあ何がしたい? 俺は綺麗で可愛い女性と知己を得たい」

「ワタシは本を読みたいですね」

「あちしはいっぱいい~っぱいご主人様のご飯とお菓子が食べたいのなの」

「……見事にバラバラだし、俺以外の願望って内々で叶うな」


 本だろうが料理だろうが菓子だろうが、おれがちょちょいと〈万物創造〉を使って〈料理〉でぱぱっと手を加えればあっという間に済んでしまう。欲がない連中だ。


「であれば主の女漁りを優先させればよいでしょう。我等は共にそう言った事情に興味がありませんので、気の向くままどうぞご自由に」

「あちしもご主人様のご飯とかお菓子とかが食べられれば別にいいのなの」

「ってなると、やっぱ人種の村や街ってなるか」


 結局のところは、当初の目的に帰結するか。

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