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#205 とんでもない災害のお通りだい

 何気ない作戦会議から急に問題点が現れたので、俺達は一度足を止めてその点をどうするか綿密に打ち合わせをする事にした。ちなみにサディナはまだ気絶中ですのであしからず。


「しかしどうするよ。何とかならんのか?」

「何とかと言われましても……主が反応できない速度の攻撃をワタシがどうにか出来るとは思えません」

「だったら防具をつけるとかはどうなんだ?」


 オリハルコンであれば、奴の攻撃は十分に防いでいた。となれば、ヒヒイロカネの防具を作ればとりあえず即死するような事態にはならないだろうけど、その提案にユニは渋い顔をする。


「動きの阻害されるものをつけられるのはお断りです。というか既に幾つか着けているではありませんか。こちらの許可もなしに」

「安全のためだ。それに馬車との連結具も似たようなもんだろ。ほら。これとか少し面積が多いくらいだろうが」

「あれは戦闘をしないという前提があるからこそ我慢できているのです。いくら説得を試みようとワタシは防具などつけません」


 ふんすと鼻息荒く反論するユニに、俺がワガママだなぁという口に出すと、ワタシは人ではないので装飾は邪魔になるだけと反論。それに対してアンリエットが文句が多いのなのとぷりぷり怒る。まぁ早い話がいつものやり取りに近い。違いがあるとすればユニの態度くらいなモンだ。


「ふぅむ。防具が駄目ってなるとやっぱレベル上げだな」

「有効な手段ではありますが、ワタシのレベルは主が色々と暴れたおかげで300を越えていますので、生半可な魔物では毛ほども経験値が手に入りません」

「だからこその実験だ。少し待ってろ」


 取り出したのはおなじみ経験値〇2機関である魔物。これにエリクサーを惜しげもなくぶっかけると即座に復活。手に入れた当初と比べて全長は倍以上に大きくなり、発する気配も随分と濃くなってきたが、ユニのレベルを考えるとまだまだなんで、魔物を生み出す前に両断。そして再びエリクサーをぶっかけるを数回繰り返す。

 随分と前にアレクセイが、エリクサーで魔物としての格が上がったという言葉があったので、日々ちょこちょこと試していた結果。どうやらそれが事実であると判明してから結構な量を掛けるようになっているが、俺はいまだに出て来る魔物を一発で仕留められる。そして経験値も微かに入手してる。2Lのペットボトルにスポイト一滴くらいを想像してくれればいい。


「こんなもんかな」


 10回くらいで一度手を止めて、どんな魔物が出て来るのかを観察してみる事にした。


「ふわー……すごく大きいのなの」

「食べたりしたらマジで怒るからな」

「ご主人様の美味しいご飯があるのにそんな事しないのなの。でも、こいつが襲い掛かってきたら約束できないのなの」

「なにがなんでも駄目だ。とりあえず実験するから少し離れてろ」

「はーいなの」


 楽しそうに両手を上げながらそう言い、アンリエットは馬車の中に入った訳だが、どうにもこの〇2機関の様子がおかしい。

 いつもであれば、すぐに起き上がって魔物を召喚するんだが、今回はなぜかボーっとしたまま動く気配がない。一応〈万能感知〉でも生きている事は確認できるんだがな。


「おい。魔物を生み出せよ」


 ぺしぺしと体の一部(こう表現するのはどこに該当するか分からんからだ)を叩くと、頭部がゆっくりとこっちを向いた。


「……何が望みだ?」

「うおっ!? お前喋んのかよ」

「其方のおかげでな。して、どのような魔物が望みだ」

「あいつのレベルを上げたいからレベル300を超えてるやつがいいんだが、出来るか?」

「造作もない。いつも通りで構わぬのか?」

「俺と違って弱いからな。出来れば一体づつにしてくれ」

「承った」


 手短に了承した〇2機関は、すぐさま穴の開いた肉体から魔物を召喚したが、俺の目から見ると虹色の鱗を持つ駝鳥と蜥蜴をかけて2で割った様な変な魔物が現れた。正直言って全く強そうに見えない。


「なんか弱そうだ」

「其方にすればそうかも知れぬが、森角狼にしてみれば少々格上の存在である」

「まぁなんだっていいや。レベルが少し上くらいなら経験値もそれなりに入るだろ。頑張れ」


 俺のそんな言葉を皮切りに、蜥蜴駝鳥がユニに向かって高速で接近。鋭い牙の生えた口を開けて咬みついたが、それを飛び退きで紙一重で回避したユニは、両前足を素早く交差させて真空の刃を蜥蜴駝鳥に向かって放つ。

 あまりユニの戦闘というのを見た事がなかったからな。この際じっくりと観察させてもらうかとイスとテーブルを取り出し、お菓子やジュースを広げてティータイム。


「ご主人様。あちしも食べたいのなの」

「構わんぞ。とりあえずサディナもこっちに運んでおくか」


 次第に激しさを増してゆく戦闘の余波で馬車を壊されちゃかなわんからな。

 馬車は〈収納宮殿〉にしまい。サディナは背負って空いてる椅子に座らせる。まぁぐったりとしてるんで机に突っ伏しておく。もちろん額に跡が付いたりしないように枕を挟んでおくケアも怠らない。

 ついでに〇2機関魔物も俺の背後に来るように促す。少なくともこうして俺の手の届く範囲に居れば、誰もが怪我をするような事はない。だって、ユニが互角の勝負をしている相手の動きなんて簡単に目で追えるから。


「質問いいか?」

「答えられる事であれば」

「どこまで出せる?」

「現状であれば、大型の龍だろうと問題はない」

「現状?」

「其方が居ればという事である。単独で事を成せば瞬く間に炭と化そうぞ」

「なるほどな」


 って事は、自分のレベルを超える魔物も召喚できるって事か。それ……ちょっといいな。そんだけの上位種って事にでもなれば経験値はウハウハだろう。そうに違いない。


「っし。じゃあ試しにその大型龍ってのを1匹召喚してみてくれ。お前が呼び出せる限界の奴な」

「承知した」


 指示1つであっさり了承した〇2機関がすぐに動き出したんで、俺はアンリエットにサディナの世話を任せて少し離れるように言う。


「さぁて……どんな相手が出て来るのかな」


 いったいどれくらいの経験値が獲得出来るのかとワクワクしながらその瞬間を待ちわびていると、ようやく腹の中央の空間がねじ曲がり、何もない所からふわりと降り立ったのは、真っ黒な道着を身に纏った某瞬獄な殺をしそうなおっさんだった。


「おい。大型龍を呼ぶんじゃなかったのかよ」

「そうしようとしたのだが、この者が強引に侵入してきたのだ」

「ここは……ヌシ等は何者だ」

「俺はアスカだ。アンタにはいきなり出てきてもらって悪いんだが、糧として一回死んでもらう」

「これは異な事を。ヌシ程度の幼子が吾を殺すと言うか。力の差が分からぬのか?」

「分かってるぞ? お前じゃあどう足掻いたって俺に敵わないってのがな」

「吾が叶わぬだと? ふむ……良いだろう。では存分に胸を借りるとしようではないか」


 どうやらどっちが強者なのかを瞬時に理解してくれたようで助かる。別に貴様の様な小童が何をぬかすかと笑われたところで、全力全開の一撃を見舞ってこの世から跡形もなく消せばいいだかだからな。野郎には一切の手心を加えん。


「よーし。かかって来い」

「では……龍王が長子・グラウ。参る!」


 ぼっ立ちの俺に対し、グラウと名乗った瞬獄おっさんはどっかで見た事あるような構えをすると同時に飛び込んでのアッパーを振り抜くと、木々を揺らすほどの暴風が駆け抜け、俺が思わず凄いなぁと褒めたが、意に介さず蹴りだなんだと次々に攻めて来て攻撃の手を緩めない。

 ってかさりげなく龍王の息子とか言ってたな。とんでもないレベルの代物を呼び出してしまった。恐ろしいほどに便利な魔物に進化したもんだぜ。これなら経験値稼ぎに腕がなるぜ。


「大したもんだ。こんだけ強けりゃ龍族ってのは将来安泰だろうな」

「ただの一撃も入れられぬ吾がか?」

「だって当たったらメチャ痛そうだもん。避けるに決まってんだろ」


 グラウが何かしら行動するたびに、拳圧が木々を揺らし。大気を焦がし。地面を斬り裂く。ハッキリ言えば歩く自然災害の二つ名を与えてもいいかもしれないほどの圧倒的なステータスと格闘技のスキルの高さが合わさった一撃は、試しに掠ってみただけでも皮膚はいまだにピリピリするんで、まともに受ければ〈身体強化〉2割解放程度の防御力じゃあHPがガッツリ持って行かれるだろう。

 だから避ける。痛いのは嫌だから。

 そうやってグラウの攻撃を避けつつも、時折ユニの様子をうかがう事も忘れない。

 どうやらあっちの戦況はユニに傾き始めたようで、蜥蜴駝鳥の肉体には随分とダメージの蓄積が確認できる。


「ユニ。あとどのくらいで決着がつくんだ?」

「言われずともすぐに葬って見せますよ!」


 いかんな。血の臭いで興奮してんのかどうか知らんが、珍しく冷静さを欠いている。折角優勢に傾き始めたって言うのに、ここで焦って攻勢に出るのは分が悪い。何せほとんど同レベルなんだ。少しのミスが取り返しのつかない事態になるかもしれない。

 ま。だからと言って止めたりはしないけどね。これも経験だよ。万が一死んだってエリクサーがあればどうとでもなるからねって訳で、本題に向き直るか。


「悪かったね。よそ見してて」

「それで吾の猛攻全てを回避してのけるヌシの異常さは敬服に値する。既に父を越えたと自負していたが、世界とはやはり広い。ヌシの様な強者と出会えた幸運を感謝する」

「なら……その感謝に対する礼として経験値をいただく」


 そう宣言してすぐ、グラウのかかと落としを半身になって避けつつ踏み込み、腰の回転を加えた〈身体強化〉7割解放の力で放った手刀で胴体を真っ二つに斬り裂いた。

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