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#19 夢の世界がやって来た

「よし。それじゃ始めますかね」


 時間は日付が変わって1時。村長が方々を回って女の子達の所に向かってくれたらしいんだけど、さすがに今日は娘達も疲れているしこんな時間なんで、明日にしてほしいと断られた事を伝えに来てくれた。

 それに関して非常に申し訳なさそうにしてたけど、こっちは報酬の支払いや復興の手伝いのためにしばらく滞在する予定なんだから焦る必要はないと伝えて場は収めてもらった。それに、今すぐやって来られても風呂の準備が出来てないんでそれはそれで困るから丁度良かったとも説明し、何とか納得してもらった。

 という訳で現在は、怪我人の治療もあらかた終わり。未だ興奮冷めやらぬ男連中は、再び宴会を始めて余った肉をむさぼり喰らい。約束をしていた数種類の酒を飲んで非常に賑やか。

 ちなみに唯一の重傷者はハイポーションを飲ませたらすぐに治ったらしく、今ではウィスキーが気に入ったらしく楽しそうに飲んでくれてるんで、これで損害賠償を支払わなくて済むとホッと胸を撫で下ろした。

 ついでにアニーの罰も明日まで肉禁止としたら、屋敷の端で膝を抱えて落ち込んでいる。

 そんな賑やかな声から少し離れた場所で、俺はせっせと風呂作りを開始する。

 まずは何がなくとも浴槽だろ。

 村長は5人って言ってたから、少なくともそれだけの人数が入れるサイズを創造しなきゃいけない訳だけど、MPを考えるとそうデカい物を作る訳にはいかないし、なにより村の敷地を使わせてもらうんだ。なるべく邪魔にならないサイズにしないといけない。

 という訳で、一覧にあった組み立て式露天風呂(大)を創造。意外にもMPすべてとHPが5割くらい持っていかれた。銀剣以上って……時々この持っていかれ具合に疑問を感じるけど、コレがないと思うがままに生活できないので我慢我慢。

 説明書とにらめっこをしながら30分ほどで完成。次に背中を洗ってもらうための洗い場はすのこを何個か置いてスペースを確保。それから脱衣所と浴室全体に覗き防止の衝立。これは女の子達の事を考えて相当に高く頑丈に設えた。

 後は手桶や石鹸・シャンプーなんかの小物類を創造すれば準備万端。おかげで体調は最悪だが明日の待ち受けている桃源郷を思えばこのくらい屁のカッパってな。

 最後に水漏れはないかの確認のために、一回入ってみるとするか。

 まずはお湯。これは村の人間であれば少し離れた場所に作ったため池から水を運んで一から沸かす必要があるんだろうけど、こっちは〈万物創造〉のおかげで無限に水の湧き出る魔道具を作れる。MPはいろいろ作ってゼロがデフォなんで、HPがゴッソリ持っていかれて数十分間気絶したけど後悔はしていない。風呂は命の洗濯であり、日本人としては切っても切り離せない物だからな。妥協は許さん。

 魔道具なのでもちろん温度設定も思いのままって事で、39℃を浴槽に注いでる間に服を脱いで身体を洗う。いつもシャワーだったんで魔道具の設定を変えればお湯を張りながらシャワーになる2wayに早変わり。


「あふぅ……」


 返り血や泥を洗い落としてさっぱりしてから湯船につかる。生前を入れても久しぶりに入ったけど、やっぱり風呂ってのは気持ちいいもんだねぇ。まるで身体が溶けてお湯と一体化していくような感覚だなんて思っていると、つい立てからひょっこりとリリィさんが現れた。


「何や知らんモンがある思うたら……アスカはんやったんか。何しとるんですか?」

「見て分かんない? お風呂入ってるんですよ」

「お風呂……ええですねぇ。もよかったらあても入れてもらってもよろしいですか?」

「いいぞ――えっ!?」


 マジかよ……村娘達の前にあの大山を生で? しかも至近距離で? これはヤバい。そんな銀河の果てみたいな目標がこんなにも簡単に拝めるというのか? 想像しただけで鼻血が出そうだ。


「いえ。あかんのならええんです」

「いや! リリィさんが入りたいのであれば俺としては構いませんとも!」

「ホンマですか♪ それじゃ遠慮なく」


 悲しそうな顔に反射的にOKを出すと、リリィさんはぱっと笑顔になっていそいそとローブを脱ぎ始めるので、一応脱衣カゴの事を教えると便利ですなぁと感心したようにそこに服を置いてくれる。

 どうやらこの世界にも程度は低いけど下着の概念はあるらしく、透き通ったような白い肌に清楚そうなリリィさんにお似合いの純白の下着があらわになると同時に、ぶかっとしてその全容がはっきりとしてなかったさらにワンサイズ大きい巨山に細くくびれた腰に引き締まったお尻を拝む事が出来た。


「っ!?」


 が。これ以上はさすがに俺の心臓が持たなかったんで背を向けるも、耳に届く衣擦れの音が童貞のレベル1しかないザコ心臓に問答無用の攻撃を叩き付け続ける。

 そこから風呂にどうやって入ればいいのかを聞いて来たんで、まずは頭と体を洗ってとシャワーの設定にしてその下に座らせる。


「アスカはん。この不思議な瓶は何ですの? 白いモンが入っとりますけど……」

「えっ!? 蓋が赤いのが髪を洗うためのやつ。青いのが身体を洗うための物。一ヶ所飛び出てる下にそこにある布を置いて、蓋を下に押し込むと中身が出る」

「……使ぅてもええんですか?」

「大丈夫だ。と言うか使ってくれるとあまり湯も汚れなくなるし髪も綺麗になるぞ」

「綺麗……っ!!」


 目がギラリと輝いたリリィさんに使い方を口頭で指示すると、多分言われた通りにしてくれるんだろう。ええ匂いです。とかえらい泡立ちますなぁ。なんて感想を色っぽく伝えてくれる。

 そして。桶で洗い流す音を聞きながら色々な妄想が脳内を駆け巡って心臓がバクバクと脈打つのを感じながら、〈万能耐性〉仕事しろよ! と胸中で怒鳴りつけて必死に対応させようとの思考操作が間に合わず、すぐ横にリリィさんが滑り込んで来た。


「あぁ……ええお湯ですわ。外でっちゅうのは少し恥ずかしいけど、何や貴族になった気分やわぁ」

「そ、それはよかった」

「? どないしたんです?」

「ヘっ!? べ、別にどうもしないって」

「ホンマですか? なんかよそよそしい感じがします」

「いやいや何を仰るリリィさん。この俺がそんな事をする訳がないじゃないか」


 もちろんお近づきになりたいさ。でもね。やっぱ俺は童貞なのだよ。だから腕に当たるふわふわでぽよぽよな感触を押し付けられると困る事しか出来なくなるわけで……誰か助けてくれい!


「なんやこれ? あっ! アスカとリリィやん。こないなところで――って風呂やないか! ウチも入ってええやろ? っちゅうか入れんと恨むで」


 こっちの答えも待たずにあっさりと服を脱ぎ捨てたアニーがそのまま風呂に飛び込もうとしたので、ちゃんと頭と体を洗えとやり方と道具類の使い方を教えてやった。ついでに脱ぎ捨てられた服をちゃんと脱衣かごに入れろとも指示するのを忘れない。

 ちなみに、裸になったアニーはぺったんこなのでさほど緊張しなかったけど、やっぱり女の子な訳で。すらっとしたスタイルは全体的に華奢で、矢面に立つからうっすらと傷なんかも所々に確認できる。こういう所が多少なりとも緊張感を無くしてくれてるのかも。

 そんな事を呆然と考えていると、アニーもシャンプーの匂いやボディーソープの泡立ちの良さに驚いていたけど、すぐに目をキラリと輝かせてこれは売れるで! とか言っていくつか寄越せと言ってきた。

 もちろん後でと断り、洗い終えたアニーが幸せそうな表情で湯船に顎までつかる姿に笑みを浮かべると、何故か背後からヒヤッとした気配を感じた。


「アスカはん。あての時はそこまで親切やなかったよね?」

「えっ!? い、いやぁ……そうかな?」

「そうやよ! なんであてに冷たいんや! 嫌いなんか?」

「そんな事ないって。でも今はちょっとのぼせそうなんでまた後で話し合おうじゃないか。ゴンズ君に呼ばれてるんでお先に失礼」


 元々浴槽がちゃんと完成していたかどうかの確認のために入ったんだ。その目的は十分に達成してるんで、村長にこの後用事があるとそれっぽい理由を告げて何とか天国から逃げ出す事に成功した。ちなみに〈写真〉でバッチリ2人の画像は記録済みなんで、まずはこれで慣らして行こう。

 という訳で本当に村長にも用事があるんで、宴会中の中に飛び込んで焼肉(塩胡椒)をつまみにビールを飲みながら取りあえず農具の話をする事にした。


「必要な農具……ですか?」

「おう。魔物退治の報酬で欲しいつってただろ? だが俺は農業の経験がないからな。この村にどんなモンが必要なのか分かんない。だから用意する前に聞きに来たんだよ」


 畑があるって事は鍬は必須だろうけど、他には鎌くらいしか思いつかないんで後は本職の人間にどんな農具がどれだけ欲しいのかを聞くしかない。そうしてる方がリリィさんも本当に説明通りの事をしていると信じてもらえるだろうしね。


「そうですな。鍬と鋤を各5つほどいただければ十分でございます」

「そんなもんでいいのか?」

「ええ。アスカ殿には世話になりましたからな。それに、わし等はどちらかと言うと狩りで生計を立てておりますので、さほど農具は必要としておらんのですよ。なのであの弓と矢をいただける方が喜ばしいのです」

「ふーん。じゃあ後で作って倉に置いとくわ。他はまた明日にでもやっとく」

「ありがとうございます」


 とりあえず数は決まったんで、寝る前にさっさと済ませるとしますか。

 鋤は昔ながらの形より断然スコップの方が使いやすいだろうからそっちにして。鍬は平べったいのとフォークみたいなのがあるんで、各5つって事にしておこう。共に鋼鉄製で創造しておけば、長い間使い続けられるだろう。さすがにミスリル製は高価すぎるだろうから遠慮するだろうし、そこまでする義理はない。


「よしおしまい。さーて寝るとしますか」


 寝る場所は村長の家に用意がされてるという事なので行ってみると、そこには見慣れたせんべい布団が3組。川の字みたいに並べられていた。

 村長自身も来客があまりないと自虐していたから、これはきっと村の誰かの物を運んできたんだろう。そんな感じの使い込まれた感があるが、この際文句は言ってらんない。2徹3徹をそこそこしても平気だった34の時と違って、10歳程度の身体はさっきから眠い眠いと訴えてきてて、正直これ以上抗えない。


「ふあ……っ。眠い」


 そんな訳で倒れ込むように端の布団に横になると、今日一日で色々あったなぁなんて考える間もなくほんの数秒で夢の世界に旅立つ事が出来た。

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