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#201 どの未来が待ってるでショー

「――以上の事から、件の魔物はこの世から消え去ったと判断しても良いのではと報告させていただきます」

「なるほど。下がっていい」

「は、はぁ……。あの――」

「言いたい事は分かるが無視しろ。頭の進化の乏しい人種などに何を言っても無駄だ」

「わ、分かりました」


 敬礼1つで下っ端エルフが部屋から去って行った。

 その報告は、俺が教えてやった場所の調査の結果だ。

 声を殺し、武器も構えず、というおおよそ魔物蔓延る世界に足を踏み出すような出で立ちじゃないのは明らかだが、黒い奴の存在のおかげというかせいというか、この街の周囲にはそれらの存在が一切確認できない。であれば武器なんて余計なモンを持ち込む必要もないのでほぼ手ブラという前代未聞のスタイルでその場所に向かったらしい。

 で、そこに待っていたのはくの字に折れ曲がったオリハルコンの板(自称)で、中を確認してみると大きなクレーターがあるだけで何者の存在も確認できず、外から一言二言会話をしてみて何もなかったので、さっきみたいな報告をして来たって訳だ。

 ちなみに。そんな報告を俺達も聞いている。床に畳を敷き、漫画片手に手の汚れないお菓子を皿に盛っての家グダstyle。この姿を、さっきの下っ端が目の当たりにして複雑そうな表情を浮かべていたのだ。

 これに文句を言おうものなら、連中のノロマさ加減を罵詈雑言の嵐で罵ってやろうと思っていたんだが、その前にさんざっぱら文句を言ってきやがった兵士エルフをガン無視でくつろぎ続けていると、やがて諦めて街の事後処理の報告なんかでやって来る下っ端エルフなんかのなんなんアレ? みたいな視線による質問に対しても、放っておけと疲れたようなため息交じりの視線を返すだけだ。

 そんなぐ~たらタイムは食事を挟んで2時間ほど続けられ、ようやく奴が消えたとの認識が兵士エルフにも届けられたんだ。やっとこっちの順番ってモンだろ。


「さて兵士エルフ。これで俺の言葉が真実であるとの確認が取れた訳なんだから、さっさと奴に関する情報を寄越せ。さもなくば今すぐ暴れ回ってこの街をぶっ壊すぞ」

「分かっている。貴様の様な理解の外の存在に何を言っても無駄だとな。さっさと用を済ませてさっさと立ち去れ。そうでないとこちらの胃が深刻なダメージを受ける」

「酷ぇ言い草だがまぁいい。さっきの奴からのエルフの被害報告書があったら見せろ」

「そんな物を見てどうするつもりだ?」

「決まってんだろ。主人としての威厳を取り戻すためだ」


 堂々と胸を張ってそう告げたんだが、何故か兵士エルフは頭を抱えて盛大に。それはもう明らかに疲れ切ったと言った感じで盛大にため息をついた。やはりちんたら生きてるエルフに次々と舞い込む事後処理の忙しさにビックリしているんだろうが、それが上に立つ人間の役割だ。俺は従魔1匹世話するので面倒くさいと思う人間だから、偉い立場には未来永劫立つつもりはない。


「なに達観した目をしている。言っておくが貴様のせいでこうなっているんだからな」

「俺? 別に何もしてないだろ。忙しさを人のせいにするな」

「あれだけの事をしておいて何をぬかすかぁ!!」


 部屋全体が震えるような強烈な怒声に、たまたま近くを通りかかったであろうエルフがビクッとして何かを落としたであろう音が聞こえたが、やはり俺としては何もマズイ事をした自覚はない。

 しいて言うのであれば、多少なりとも食事を提供した事くらいかね。目的はもちろん女子エルフと仲良くなるためだ。それ以外にこの俺が何かを無償で差し出すなどありえぬわっ!

 という事で、シリアからも大好評だった野菜サンド各種を近場のテーブルに並べ、『無料なのでお近づきのしるしにどうぞ。あのシリア姫が大絶賛の野菜サンドです。但し女性限定』という友好感あふれるPOPをちょこんと配置して、何も知りませんよみたいな簡易でぐ~たらゴロゴロとその時を待った。

 しかし。だがしかしだ。この執務室らしき兵士エルフの居る場所まで来るのはほとんどが憎き(イケメン)ばかりで、肉体労働をしていたせいか無遠慮に手を伸ばそうとしてくるので当然投石(加減)で吹っ飛ばしては野郎が食うんじゃねぇ! と怒鳴り散らす。

 そうやって。時々やって来る美少女エルフに対しては満面の笑みを浮かべながらサンドウィッチを差し出す。厄介な侵入者のせいで色々と走り回ったりして腹が減っているだろうとの親切心満載だというのに、何故か受け取ろうとしなかった。美味しいんだけどなぁ。

 まぁ? とっかかりは既に存在していた。あの残念頭の貧乳美少女エルフであるサディナだ。

 あいつであれば、俺のミックスジュースの猛烈な美味具合を知ってるので、他の連中の話をどこかから聞きつけてすぐにでもやって来るだろうとの予想は15分くらいで実を結んだよな。

 それらを発見した時。俺達は寝たふりをしていた。もちろんサディナに食わせる為の一芝居に他ならない。たとえアンリエットに大変な事になってるのなのと起こされたんだとしても、事の発端はあくまで演技だとも。


「うん。いくら思い返してみても、大量のサンドウィッチを美少女たちに食べてもらい、女性限定で少しは友好的な関係を築けた事くらいしかしてないだろう。ほら、余計な事なんて何もしてない」

「それが余計だと言ってるんだ! まったく……あぁ、胃が痛い」

「ストレスは健康に悪いぞ。程度に発散するのが良いと俺は思う」

「誰のせいでこうなったと思っている! もうさっさと情報をもってここから出て行け! 貴様と話していると天寿を全うする前に死んでしまうわ!」


 それが天寿なんでねぇの? とも一瞬思ったが、それを言うとまた怒鳴って胃にダメージがいくだろうなぁってくらいは理解できるので黙っておこう。


「わーってるよ。だがその前にもう一つ。しばらくサディナを貸してもらう」

「サディナはこの街の最大戦力の1人だ。それにおいそれと貴様ら人族にあれがついて行くとは――思えなかったんだが、今ではどうなるか分からんな。それが狙いであんなことをしたのか?」

「うんにゃ。単純に女性エルフの方々と仲良くなりたかっただけだ。で? 同行させるかさせないか。答えは?」


 ふぅむ。そう言われて初めて気が付いたな。確かに今なら、さっきの奴よりももっと美味いモンがあるぞぉ? なんていえば意外とあっさりついて来るかも知れない。まぁ、嫌だと断っても無理矢理連れて行くんだけどね~。


「……代わりを置いていけ。言った通りサディナはこの街の最大戦力の1人だ。それに見合う物を提供できるのであれば、許可する」

「だったら弓でいっか。お前ら得意だろ? 俺が持ってても使わんからくれてやるよ」


 取り出したのはオリハルコンの弓が7に聖弓と称されるレベルの物が3。どっちもどんな形やねんと興味本位で作り、俺の後ろに立つな……的な表情で放った一撃が明後日の方向に飛んで行ってからずっと死蔵し、シュエイでの一戦の時もなんかもったいないよなぁと思って残しておいた物。いつ処ぶ――げふふん。譲渡するの? 今でしょ。

 という訳で、無料譲渡という名のごにょごにょで兵士エルフの机の上に雑に放り投げる。この程度で壊れるような代物じゃないし、俺には使えない代物なんでその扱いは自然と雑になるが、弓を愛し……弓にあ~いされたエルフはぁ! それの品質を一発で見抜いたようで、ガシャガシャと音を立てて机に落ちる弓を見て男らしからぬ悲鳴を上げた。


「男のクセに気持ち悪い声を出すなよ。鳥肌が立ったしあともう少しで吐く所だっただろうが」

「貴様自分が何を出したのか理解していないのか!?」

「弓を譲ってやったんだろうが。んなの見りゃ分かるっての。ちと馬鹿にすぎじゃね?」

「そういう事を言ってるんじゃない! これだけの弓を何故貴様がこれだけ手にしているのだと聞いているんだ! このような一級品……森都の宝物殿レベルではないか」

「その辺は秘密に決まってんだろ馬鹿。ほれ。この武器をくれてやるから、問答無用でサディナを少しの間貸してもらうぞ。異論は認めん」

「分かった分かった。もう貴様のやる事なす事に文句は言わん。言えば言うだけ。見れば見るだけ胃が痛くなる。これが同行の旨を記した任命状。ついでにこれが資料だ」

「あっそ。じゃあ遠慮なく~」


 任命状と資料を手に部屋を出て行く。目的地は言わずもがなサディナの元だ。

 今はどうやらどこかでのんびりしているようで動く気配がないのでずんずん突き進んでたどり着いたのはとある扉の前。ご丁寧に扉には『更衣室』ときちんと書かれた看板がつりさげられている。

 ここで問題です。俺がここに踏み込んで言ったらどうなるでしょうか。

 1 悲鳴を上げられる。

 2 別に普通に対応される。

 3 ラッキースケベに遭遇する。

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