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#200 到底果報と呼べる代物じゃないから、ご飯を食べて待ってます

「よ……っと。ふーいびっくらこいた」


 もうもうと上がる黒煙の中。安全権である外側に降り立ち額をぬぐう。横からのユニとアンリエットの鋭い視線が何とも痛い感じはするが、そこは無視だ。目を合わせたら何を言われるか……。

 ちなみに、サディナはさっきの衝撃で絶賛気絶中なので、危険もないしとりあえずは放っておこう。


「主。さすがにあれでは見直すまでに至らないです」

「だよなぁ……。だって超間抜けだったもんな」

「ええ。正直に言うなら逆にガッカリしました。突然振り返ったようにも見えましたが?」

「ちょーっと殺気を感じてな」


 流石にアニーを内心ディスってたなんて言ってもよく分かんねぇだろうし、そもそもここから王都まで結構な距離がある。

 それほどの距離を、アニーが殺気を飛ばすのは無理だろうとユニは考えるだろう。多少レベルが上がって強くなっていると言っても手も足も出ないんだからな。

 しっかしマズったなぁ……俺としては、あれを穴の中に居る黒物体に向かってマシンガンのごとく叩きつけてやろうと計画してたんだが、どこからともなく飛んできたような気がするアニーの殺気にビビッて足を滑らせ、結果は何とも残ない感じになってしまった。さすがにこれでどうだやっただろう? って胸を張れる様な戦果じゃないのは明らか。だから俺もユニの言葉に反論は一切しないし、弁の立つユニ相手にそれを強弁するのは非常に旗色が悪い。


「ビックリしたのなの。ご主人様。あれは一体何なのなの? 少しカッコ悪かったけど、いきなりどかーんっ! って凄かったのなの」

「あれは……なんつったっけかな。ちょっと待ってろ」


 俺の頭の中には、ある一定の力を加えると爆発するかんしゃく玉ってくらいにしか記憶にないから、〈万物創造〉で鉱石類・魔石種の欄を斜め読みしてようやく発見する事が出来た。


「えーとなになに……〈紅爆魔石〉っていうらしい。危険だからアンリエットは見つけたとしても近づいたら駄目だぞ?」

「〈紅爆魔石〉ですってええええええ!?」


 アンリエットの頭を撫でながら説明と忠告した途端。さっきまで白目を剥いて、おおよそ美少女がしていいレベルの表情を鳥人と呼ばれたゴールドメダリストのように軽々と飛び越えていたサディナが雷にでも撃たれたように飛び起き、目を血走らせたもの凄い形相で迫る。

 これにはユニもアンリエットも恐怖で逃げるように距離を置いた。この裏切者どもめっ!


「とにかく落ち着け。まずは死体の確認だ」

「これが落ち着いていられる訳がないでしょう!! なんでアンタみたいな小物な人種如きがそれを持ってるのよ! 殺されたくなかったらさっさと吐きなさい!」

「なんで俺が持ってちゃ悪ぃんだよ」

「〈紅爆魔石〉は火の精霊の谷でしか取れない希少鉱石。精霊に愛されし我々エルフでもその谷への立ち入りはほとんどできないって言うのに……どういう事よ! って言うか聞いてるの!?」

「聞いてない」


 ギャーギャー喚くサディナの声を右から左に受け流しながら中の様子をうかがう。こんだけ騒いでおきながら、内部からは何の反応も返ってこない。ちゃんと〈万能感知〉にも奴の反応はない。普通に考えれば死んだとみていいんだろうが、どうにもスッキリしない。

 そもそもあいつはどこからどうやってここまで来たんだ? あれだけ訳の分かんない存在が自然発生するとは到底思えないし、そもそも生物として餌を求めて移動しないという欠陥が大きすぎる。


「なぁ貧乳美少女エルフ」

「アタシは成長途中なだけだ! その不名誉な呼び方を止めろ! お前もそう変わらないじゃないの!」

「んな事は今はいいだろ。確かこの中に居た奴は一月くらい前に現れたっつったよな?」

「そうだと予想していただけよ。同胞が不可解な失踪をするようになったのがそのくらいの時期から出、その元凶だと思われるそいつを発見したのが今さっきなんだから何の情報もないわね」


 だろうな。じゃなかったらあんな至近距離で魔法を待機させたり弓矢を構えたりなんて馬鹿な真似しないか。ってなるともう少し詳しい情報が欲しくなるな。正確には出現位置とかを発見できればまだ残ってっかもしれない。

 であれば、まだ名誉挽回のチャンスは残っている。そうなれば勝ったも同然。


「っし。そんじゃあまだいるかも知んねぇから適当に森の中を探し回ってみるとすっか。ユニ」

「分かりました」


 俺の指示1つであっさりと横に現れる。すぐに馬車を取り出してユニと連結させるとアンリエットがひょいと飛び乗ってお気に入りのソファに寝転がって漫画を読み始める。

 そん中を俺は、サディナを小脇に抱えて御者台に。


「ちょっとアンタ! 誰がアタシに触れていいって言ったのよ。今すぐ離しなさいよ!」

「そいつぁ無理だ。何せお前さんはこれから向かうエルフの里との大切な交渉相手だ。いきなり魔法とか矢で撃たれたくなかったら、せいぜい努力する事だな」


 俺の説明に少し先の未来を見たんだろう。顔をさっと青くし、逃げる為にと必死に抵抗しているようだが、互いのステータスには圧倒的なほどに格差が存在している。その程度で我が肉体はビクともせん。


「さぁ出発だ。希望の光を両手に掴み、いざ参らん」

「嫌ああああああああ!! アタシまだ死にたくなあああああああい!」

「何を言うか。そこら辺はお前が頑張れば何の問題もない。要はお前次第という訳だ」

「無理に決まってんでしょ! 今エルフ族全体がさっきの魔物でピリピリしてんだから問答無用で撃ち込まれるに決まってんじゃないの! アタシは世界最高峰であるエルフ族でもほんの一握りにしか進化できないハイエルフなのよ! クソ下衆人種のとアタシとでは命の価値が違うんだから!」

「はいはいそーですかい。ならより一層の努力を心がけるんだな」


 奴が居なくなった事でタガが外れたというか、元々このくらいはくっちゃべる性格なんだろう。その勢いは全く緩む事もなく喋り続けた。俺がへーとかほーとかしか返さないのにだ。これはもう一種の才能とみてもいい。

 が、誰にだって限界はある。より詳細に伝えるなら、ペース配分も考えずに喚き散らしたから喉が渇くのだ。だから、今はアンリエットと共にティータイム中だ。


「なによこれ……こんなに美味し――じゃなくて。ふ、フン。下劣な人種如きにしてはまぁまぁの飲み物を出すじゃない。特別にもう一杯くらい飲んであげてもいいわね」


 ちなみにサディナが飲んでいるのは自家製のミックスジュースだ。栄養面と飲みやすさの両立に最初は苦労したが、ジューサーを魔道具化させたり。食材の品質を最高にまで引き上げたり。そのバランスを調節したりといくつもの困難を乗り越えてようやく完成させたのだ――と言いたいところだけど、我がDNAに刻まれた〈料理〉はその全てを一発でクリアーして見せたので5分もかかってない。

 そんなお手軽ミックスジュースの入った魔道具ピッチャーを手に取ろうとしたサディナだったが、電光石火のアンリエットがかっさらった。


「お前。ご主人様に対する態度じゃないのなの。だからもうあげないのなの」

「いい度胸じゃない。愚脳な人種のちり芥程度……あっという間に――」


 まぁ予想はしてただろうが、本当にあっという間もなくサディナがノックアウトされた。一応使い道もあるし、もしかしたら惚れ直すかもしんないから加減しろよと言ってはおいたけど、まさかワンパンで沈めるとはね。強くなったもんだよ。


「さて。静かになったところで、方々回る前にもう一回さっきの場所に戻るぞ」

「何故? さっきの奴を探すのであれば、エルフの集落を虱潰しに回ればいいのでは?」

「んな事してたら日ぃ暮れるわ。それにそんな事すんのは面倒臭いから、連中から奴がどっちから来たのか聞くんだよ。後はそれをさかのぼって行けば、自然と出会うだろうよ」

「あれ一匹だったならどうするのですか?」

「それはない。俺の直感が、あれの本体的な何かがこの世界のどこかに居ると告げている」


 もしかしたらこの森に居るのかもしんないけど、さすがにそいつまでは面倒見きれん。こっちにも世界美女探しって都合があるからな。


 ――――――――――


「って訳だ。とりあえずさっきの黒い奴を殺してやったんだ。知ってることすべて吐き出せ」

「貴様が口に出した場所に向けて調査隊をやっている。その確認が取れるまでは、教える事など1つもない。これだから己を優秀だと勘違いしている人種は困るのだ。たった数時間も待てぬとは愚かな事だ」

「こちとら無駄に長生きな植物種族共と違い、下らねぇ事に使う時間ってのはないんでな。ちんたらと魔法くらいしか特性がないお前等に合わせてっとこっちが先に死んじまうっての。そんな事すら理解できないなんて、頭の回転もノロマなんだな」


 場所はあっという間にエルフの集落。俺達は兵士エルフをテーブルをはさんでそんなやり取りをしていた。

 少し前に集落に戻った俺達は、必死に自分が居るアピールをするサディナの悲鳴じみた声を盾に黒い奴を吹っ飛ばした際に出来た隙間から突入。一時的に開放すると、這う這うの体で俺から離脱していった。どうせ情報を手に入れたらまた捕まえるんで、せいぜいわずかな自由を満喫するんだなと心の中でほくそ笑み、情報が届けられるまでの間。のんびりゆったりと飯タイムだ。

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