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#197 ああ言えばこう言うの応酬

 シリアの情報を得た連中はこれで終わりと思っているのだろうが、こっちはお前等をここから帰すつもりはまだない。


「満足したな。じゃあ次はこっちが質問をする番だな」

「なんだと? 貴様は自分の立場という物を理解しているのか? いや――していたらそのように馬鹿な発言をする訳がないか。全くと言っていいほど度し難い思考回路だ」


 こっちの問いに対し、兵士エルフはどうやら意外だったようで眉間にしわを寄せてこちらを振り返り、肩をすくめながらやれやれと首を振ったが、それについては俺も激しく同意だ。


「全くだな。まさかお前等だけ貰いたいモノ貰ってはいさようならとでも行くと思っているそのおめでたい脳みそを、脊髄ごと引きずり出して博物館にでも飾ってみるといい。世界では識者とか言われてる自称賢いとかのたまっちゃってる連中が、実はこぉんなにおバカさんだっただなんて知れるんだ。連日大盛況だろうな。だって、欲しいモンがあるならそれに見合う何かを出す。こんなのは貧民街のガキだって知ってる事なんだからな」


 椅子にふんぞり返り、見下すような笑みを浮かべながら言い切ってみると不思議でもなんでもない。当たり前のように虚仮にされたと気付いた連中の感情は怒りや殺意。中には呆れなんてのまでが混じったマイナス方面のもので占められる。


「……調子に乗るなよ。我等エルフが慈悲の心で拷問を行わずに聞いてやったんだ。命ある事だけを貴様は感謝すればいいのだ」

「おいおい本気で言ってんのか? お前等がこの俺に対して慈悲ぃ? 冗談は顔だけにしろっての」


 そう言いながらケラケラ笑うと、相手にとっては神速だろう。しかし俺の目には複数人の四方からの斬撃がスロー再生のように見えるんで、右足1つで全ての刀身をへし折り、椅子から動く事なく無傷を保った。というか動く必要もないほど弱かったし遅かった。


「「「「なっ!?」」」」

「やれやれ。この程度の実力で慈悲の心か……なら俺もお前等に慈悲をくれてやっていたと分からせてやる必要があるようだな。死んでも文句は言うなよ」


 という訳でまず一つ。目の前に居たエルフに向かってすくい上げるように机を蹴り飛ばす。たったそれだけで、壁と机のサンドウィッチの具となって、鼻と口から血を流しながら地面に崩れ落ちる。加減したんだけど結構な勢いですっ飛んでいったのにビックリしたのは秘密だ。

 死んではないだろうと決めつけて、次は左右のエルフ。そっちには〈万物創造〉で取り出した石つぶてを1割にも満たない力でもって投げつけるだけで、全身に痣だったり内出血なんかを作りだすくらいには痛いレベルには強い。骨が折れるような音が聞こえたのは気のせいだろうそうだろう。

 それによってうずくまるエルフを見下しながら、背後の奴には地面を軽く蹴っての椅子ごと体当たりで部屋の外まで吹っ飛ばす。半秒にも満たない時間だったけど、3人をノックアウトするだけの誤差があったんだ。あんだけ大口叩いてたんだから防御の1つなり2つなり準備くらいできてるだろうとあえて通常運転のレベルでタックルしたってのにまさかのぼっ立ち。そのせいで死んだかもしれんが、見せしめってのは必要だ。

 この間大体1秒弱。四方のエルフを伸したので俺はゆっくりと立ち上がり、兵士エルフの真ん前に移動する。


「分かったか? お前等を殺すなんて簡単なんだよ。許されているのは俺の機嫌を損ねず森に起きた異常に関する情報を寄越せばいいんだ。ここまで言えば、底抜けのバカじゃない限りは理解できるよな? 自称・識者」

「……」


 その表情は非常に苦々しい。

 好意的に捉えるのなら、俺という存在に対して一歩も引かずに睨み付けているように見えるんだろうけど、〈万能感知〉ごしに見ればコイツが恐怖を必死に隠して虚勢を張っているのが手に取るようにわかる。きっと4エルフは手練れだったんだろうな。


「どうした? まさかあまりの恐怖に会話という機能を失ったのかぁ?」

「貴様ぁ!!」

「よせっ!?」


 俺の挑発に短気エルフがライドオン。兵士エルフが止めるより先に腰から抜いたナイフでもって襲い掛かって来たんだけども、その速度はさっきの4エルフに比べて5段も6段も遅い。なので余裕をもってナイフを指で挟んで止めてみた。


「残念。お前程度の実力じゃ俺どころかアンリエットにも届かないのは実証済みだろ。なのに、まだ刃を向けるって事は……相当死にたいらしいな」


 短気エルフの腕は既に1本失っている。その原因はアンリエットを怒らせた事による反撃を完全に避けきれなかったからだ。

 出血はモブフ達の魔法によって事なきを得ているが、この世からなくなった腕を再生させるほどの魔法は使えないようだ。エルフっつってもそんなもんか。


「アンリエット。食うか?」


 摘まんでいたナイフから胸倉に掴み変え、怒りから表情を失っているアンリエットにそうたずねてみると、とたんに口だけを三日月みたいに歪ませた。これにはさすがの短気エルフもゾッとしたようだ。


「あんまりおいしくないなの。でも、ご主人様に逆らったから食べるのなの」

「おおそうか。アンリエットは優しいなぁ」


 ニコニコ笑顔で頭を撫でてやると、ふにゃりと表情をとろけさせて嬉しそうに頭をこすりつけて来る。

 その一方で、己の死期が近いことを悟ったのか、短気エルフがそれはもう必死になって暴れている。それが無駄なのは十分なほど分からせてやったはずだ。こと目の前に迫って初めて理解に及ぶなんで愚鈍もいいところだ。これで賢いを自称するなんて片腹どころか両腹痛い。


「あちしの中で、ご主人様に対する態度を反省するのなの」


 淡々と冷たい口調でそれだけを告げ、次の瞬間には短気エルフは消えた。俺が掴んでいた服の僅かな布きれだけを残して。


「さて。次は誰だ?」


 1人で足りないなら2人。さらに足りないならもっと。女性を残して全てを喰らい続ければ、やがては情報を吐かざるを得ない。誰だって種の滅亡と天秤にかければたかが魔物の情報くらい安い物だろう。


「……わかった。情報をくれてやる」

「良い答えだ。では場所を変えて改めて話をしようか」


 部屋はすでに誰かさん達のせいでボロボロ。机と椅子は壊してないんで俺は無罪だし、その主張を曲げるつもりはない。反論が来るなら最初から情報を渡してりゃ良かっただろと反論する。たとえいやらしいくらいに挑発しまくっていたとしても、先に手を出したのはあっちだ。こっちは正当防衛の一環として対処しただけだ。

 が、特に何か言われる事もなく次に案内された場所はどこか執務室って感じの雰囲気漂う部屋。

 内装も本棚1つと机にテーブル。ソファぐらいしかない飾り気のないけど、ごてごてしたのはあんま好きじゃないんで好感が持てる。


「まずは座る事を許してやる。光栄に思え。それは龍の革だ」

「ふーん」


 見た感じ、龍の革とやらの品質はそこそこ。随分と長い間使用されているんだろうな。いい具合に新品感がなくなってアンティークの風格を漂わせる。座り心地はわざわざ龍だと宣言するだけあって品質の割には満足できる。

 一方で、龍の革だと宣言した兵士エルフの表情は暗い。当然か。自慢だっただろうソファに何の興味も驚きも示さないんだからな。まるでこの程度の物で俺がビックリするとでも? 昔なら驚いたりしただろうが、ここまで強いと理解してるんで冗談はよし子ちゃんだ。


「それで魔物の件だったな。奴が現れたのは一月ほど前――いや、正確ではないな。被害に気付いて存在を知覚したのがその時だというだけだ」

「って事は、被害は相当なんだろうな」

「確認できるだけでも集落が10以上は消えた。魔法と精霊に愛された全種族の頂点に立つ事を確約されている我らエルフ族がだぞ!? 無能な他種族共ならまだしも……このような事、あってはいかんのだ!」

「俺に当たるなボケ。で? そいつの姿形は」

「知らん。偵察に向かわせた部下は誰一人として戻ってきていない」

「って事は、能力や強さも分かんねぇって事か。マジ使えねぇ。それでもエルフかよ」


 思った以上の使えなさに盛大にため息を漏らす。兵士エルフもその言葉に反論の余地がないと分かっているんだろう。苦々しい表情で眉間にしわを刻みながらうめくだけしか出来ていない。


「とにかくお前等が使えないって事だけは理解した。じゃあこっちはこっちで好きにやらせてもらうから、邪魔だけはすんなよ? 五体満足でいたくないって言うなら話は別だけど――」


 脅しをかけてからさっさと部屋を出て行こうとすると、まず兵士エルフとユニが反応を示して窓の外に顔を向けたその直後。しんと静まり返っていたこの部屋にかすかな悲鳴のような声が届けられる。


「なんだ?」

「強力な気配……なるほど。少なくとも、この中に居る野菜肉共が勝てる相手ではなさそうですね」

「なんだと!? たかが馬車引きの獣如きが大した口を利くな!」

「ほぉ……ワタシがただの獣であると、貴様等は本気でそう思っているのか?」


 途端にピリッとした空気が発生する。互いに自分の方が強いと信じて疑っていない。俺からすればどっちが強いのかなんて分からないし分かるつもりもないんでどうでもいい。

 なので、こいつ等が気付くよりも先に接近を知っていた俺はすでに準備を終えていたさっさと部屋を走り去る。目的は当然ながら滅殺じゃなく敵情視察だ。

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