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#196 カツ丼は出ないのかっ!

「――で? そこの無能そうな小娘の言葉に激高し、全種族の頂点に立つべきエルフであるお前が森の中だというのに〈炎爆(バースト)〉を使用したと。アプリリウスのこの証言に間違いないな?」

「……はい」

「そっちの小娘。声をかけるのも腹が立つが、相違ないか」

「ないよ。だからさっさと開放してもらえないかね」

「骨と皮しかない野菜肉如きが我々の邪魔をするとはいい度胸ですね」

「ご主人様の邪魔するなら、食べちゃうのなの」

「……」


 プライドの無駄に高い連中がさらに胸を張りながら案内された牢屋みたいな場所で俺達は、明らかに中年と分かるくらいに顔にシワの刻まれた兵士っぽく鎧をまとったエルフに尋問というか状況説明を強制させられていた。

 まぁ悪い事をしたなぁって自覚はあるんで馬鹿魔法エルフは大人しくしている一方で、何故俺がこんな目に合わなくてはいけないのかと怒りに顔を歪ませながら俺を睨み付ける。己の不手際を人のせいにする。嫌なだねぇプライドが高すぎるってのはさぁ。


「ふっ」

「何がおかしい!」

「メディセウシス。そっちの小娘もいらぬ挑発をするな」

「……っ。はい」

「へいへーい」


 ククク。やはり単純な奴は煽りがいがあっていいねぇ。それもさらに上司か何かが居る前でってなるとその楽しさもいや増すってもんだろう。

 そう悪い考えをしながら鎧エルフの問いに対して、こっち側の視点でつい30分前に起こった出来事を答える。


 ――――――――――


 開戦のゴングは間違いなく相手側――名前が長いんで短気エルフとする。そいつの〈炎爆〉なる範囲炎魔法を至近距離で受けたところから始まる。


「ぶわっぷ。ビックリしたなぁ。大丈夫か?」


 俺が問題ないのは当然なんで、すぐにアンリエットとユニに目を向けてみると、こちらもエルフの魔法程度何の問題もないと言わんばかりに平然としていたが、両者共にその表情は敵意があった。


「ご主人様にもらった服が汚れたのなの。これは許せないのなの」

「木に寄り添うフン共が……食らい尽くすぞ」


 グルルルと牙をむき出しに凄むユニに対し、アンリエットは光を失った目で凍えるような無表情に加え、身体の右半分からは歯茎むき出しの口がボコボコと飛び出し続け、俺に劣るが可愛らしい少女の姿が徐々に奇形へと変貌し始める。

 そのあまりの光景にほとんどのエルフが恐れおののく中、先制パンチをブッ込んでくれた短気エルフだけは自信があったんだろうな。至近距離での直撃を受けてなお平然としてる俺達に驚愕している。くっくっく。野郎のそう言う表情は嫌いじゃない。


「おら落ち着け。どうせ大した事のない魔法だろうが。いちいち目くじら立てんなって」

「っな!? 我が一撃が大した事がないだと……っ。人族如きがほざくなぁ!」

「お前ちょっと黙ってるのなの」


 俺の挑発に簡単に乗ってくれたので、それじゃあ少しもんでやるかと踏み出すよりも先に、背筋がゾクッとするような冷たい声を放ちながら、アンリエットが一撃を見舞う。

 それは有機無機問わず飲み込む恐ろしい一撃。喰らい付かれたが最後。普通であればこの世のどこからも消え去るが、エルフは持ち前の素早さで腕1本という破格の代償で窮地を乗り切った事に対しては素直に称賛してやる事も構わないが、相手はそう捉えない。

 ま。そう分かってるからこそ挑発ってのは生きて来るんだよね。


「凄いじゃないかぁ。アンリエットの一撃を腕一本で切り抜けるなんて。褒めてやるぞ」

「ぶ~っ! あちしの方があんなのより強いのなの! ご主人様褒めるならあちしの方なの!」

「分かってるって。でも話の途中だから弱い相手にあんな事しちゃだめだぞ」


 頭をわしゃわしゃと撫でながらそう諭すと、不満そうに頬を膨らませながら分かったなのと納得してくれたが、頭を撫でられるのは嬉しいようでもっともっとと頭をこすりつける。

 俺もそれを叶えるようにわしゃわしゃと撫で続ける。怒りで顔が真っ赤になっているであろうエルフに背を向けたまま。


「〈炎爆〉っ!!」


 〈万能感知〉で魔法の兆候を確認。即座に飛びのいて範囲外から脱出したのはいいが、どうやらさっきより多くのMPを注ぎ込んだんだろう。威力と範囲がさっきの2割増しくらいになっていたが、服は燃えるだろうが俺達にはまぁ効かない。

 それを見たアンリエットがまたまた喰らい付こうとするのでポカリと殴りつけて大人しくさせる。


「メ、メディセウシス様っ! ここは森の中です。その魔法は――」

「黙れ小僧っ! 人族の……しかも生まれて間もないような矮小な小動物程度に虚仮にされておめおめと引き下がる訳にはいかん!」


 あーあ。完全に頭に血が上って俺を殺す以外の事がぶっ飛んでやがるな。これでは完全にシリアの事を忘れているだろう。挑発で野郎が喚き散らす姿を見ているのは楽しいが、こっちはこっちでやる事があるからな。


「おいザコ。シリアの件はいいのか?」

「っ!?」


 ここでようやく本来の目的を思い出したらしく、怒りは盛大に残っている物の考えなしに森の中で火属性の魔法をぶっ放す馬鹿はやらないだろう。もちろん俺が挑発しなければだと思うけどね。


「いや~。アイツは本当に欲の皮が突っ張った女でねぇ。奴隷商の牢屋で出会った時に良い思いをさせてやったんだが、それが癖になったのか俺がいくら駄目だと言ってももっともっととせがんでくるんだよ。いやはやエルフの欲望ってのは底がないねぇ」

「うがああああああああああ!!」


 真実を誤解しやすいような言い回しでぺらぺらと喋るだけで、短気エルフは簡単にブチ切れて魔法を連発。森が燃えようが街が燃えようがお構いなしのやたらめったらに撃ち込むものだから、さすがの取り巻きエルフ達も必死になって短気エルフを制止させた。


「主。貴女はなんと下衆なのでしょうか」

「嘘を言った覚えはない。ただ勘違いしやすいように言葉の使い方を変えただけだ」


 ユニの呆れたような視線を浴びつつエルフの街に無断侵入しようとしたところに、目の前に座る兵士エルフが数人の部下らしき奴等を引き連れて、今に至るという訳だ。


「――とまぁこんな感じだな。めでたしめでたし」

「……本気でめでたいと思っているのか? お前は」

「そりゃそうだろう。こっちにゃエルフ如きを余裕で殺せる実力があんのに、怪我人はいたけど死者は出なかったんだ。これがめでたくなくて何だってんだ?」

「もういい。それよりもシリア姫の事だ。一応確認するが、そのお方はこちらで間違いないか?」


 差し出されたのはそこそこレベルの高い絵で、若干今のシリアより幼く見えるような気がしないでもないが、眠そうな半眼に食べ物を手放そうとしないその姿はまぁ間違いないだろうから頷くと、兵士エルフと短気エルフだけだった驚きが他の連中にも伝播した。

 ちなみにこの場には俺と兵士と短気のエルフの他に一部始終を見学していたモブエルフ――略してモブフが5人ほど同席しているが、その主目的は武器に手をかけていたり魔法が待機状態だったりと明らかに俺対策だ。

 その証拠に、短気と兵士には目に見えない結界みたいなものが薄く展開している。気付かれてるとは思ってないんだろうなぁ。滑稽過ぎて笑いをこらえるのも一苦労だ。


「何故貴様の様なクズが姫を知っている。どこでどうやって知った」

「最初は知らんかったよ。エルフにしては胸がデカいなぁとか。将来が楽しみだぁとしか思わんかったからな。もう少し成長したら……男ならほっとかないほどの――」

「その様なゲスな話を着来たのではない!! 姫様は今どこにいるのかと聞いているんだ!!」


 シリアの将来像を、ウットリとした表情で想像しながら語っているところに、兵士エルフが机をバンバン叩いて一人語りを強引に中断させてきた。チッ……人が折角いい気分だったってのに。


「森に居るんじゃねぇの? 出会ったのは牢ン中だったけど、別れたのは森だったし」


 あの牢屋もちゃんと森の中にあったからな。嘘は言っていないが真実も言っていない。敵認定するつもりはないが味方認定もしていない。ここに居るのは森をこんな風にした奴をぶっ倒し、ユニの忠誠心を回復させるためだ。それ以上でも以下でもない。


「その森はどこだ」

「知らん。確かギック市に近い場所だったな」

「あんな場所に……」


 俺の話を信じてるようだ。きっと何かしらの魔道具を使って真実か嘘かを確認しているんだろう。すぐに数人が出て行ったところを見ると確認に向かうのかもな。

 さて、情報を提供してやったんだ。こっちも貰うもん貰わんと割に合わん。ただでさえ事情聴取なんてクソ面倒な事をやらされたんだ。貰うモンはしっかり貰わんとな。

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