表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/357

#18 契約と報酬への期待

「待て……とは一体何をするつもりですか?」

「決まってんだろ。その身体を治すんだよ。魔法作んのにそれだと不便だろ」


 とりあえずポーションは作れるようになってるんで、いつものように〈品質改竄〉で100まで上げてみると、ちょっと予想とは違った答えになった。


 ――神薬 ラグナロク。


 説明文によると、飲んだら下級だけど神になれるらしい。もちろんなる気はないんで品質を下げる。というかこんな簡単に神になれるなんて……いざとなったらこれを飲んで駄神のトコに行って男にしてもらおうと思うが、その前に1つ確認。


「なぁ。エリクサーって副作用――使用者に害とか別にないよな?」


正直言ってエリクサーって不思議な薬だよな。ただ飲むだけでHPもMPも完全回復。漫画やラノベによっては四肢欠損や死者蘇生まで何とかしちゃうずっこい飲み物だ。この世界にあるエリクサーも例に漏れずに何でもできる。

 とは言え常々思う訳よ。生物の細胞の分裂回数には限界があり、四肢欠損はもちろん死者蘇生なんて離れ業をしておいて大丈夫なのかと。一度死んでおいて寿命が減るってのおかしな話だけど、これを使って俺の性転換魔法が完成する前にポックリ。何てのはゴメンだからな。それだったらじっくり回復するのを待つ。全ては女性を抱くためだ。


「何も知らないのですね。エリクサーはそれに含まれる魔力を用いて失った肉体を再生させるので、細かく言うのであれば魔力による疑似肉体であると認識して構いませんよ。なので質の悪いポーションなのに見られる――」

「じゃあ使うわ」


 それが聞けたら何も躊躇う事はない。俺の未来がかかってんだからちんたら待ってられるほどお人よしじゃない。それに100品質じゃなければぶっ倒れたりしないだろうって訳で80品質で創造っと。


「うぉえ……凄ぇ気持ち悪ぃ……」


 一気にMPが持っていかれる感覚は相変わらず気持ち悪く、おまけにHPも9割以上持っていかれた衝撃で立っていられずに尻餅をつく。このしんどさは貧血と船酔いと二日酔いが同時に襲い掛かって来たって感じくらいシンドイ。

 まぁ、ちゃんとエリクサーの創造には成功した。聖剣の時と違って気分最悪だけどキッチリ意識を保つ事が出来てる。魔族討伐の経験値ウマウマでレベルアップしてなかったら危なかったな。


「なんと……」

「うぷ……っ。これがエリクサーか」


 コウモリ野郎の驚きを見るに、これはエリクサーで間違いないんだろうけど、灰色の液体で中に極小のルビーみたいに赤い何かが淡い光を放ちながら浮かんでる。ポーションの件もあるし、ハッキリ言って滅茶苦茶マズそう。

 まぁ……俺が飲むんじゃないし別にいっか。そんな事より治療治療。


「飲ませればいいのか?」

「ええ。ですかいって――むがっ!?」


 ならさっさと飲んでもらわないとな。という訳でコルクを抜いてコウモリ野郎の口に押し込んで逆さにする。いわゆる安い加湿器スタイルだ。

 最初こそ暴れていたコウモリ野郎だったけど、すぐに落ち着きを取り戻してほどなくエリクサーを飲み終えると、淡い光を放ちながら消し飛んだ下半身が早送りするみたいなペースで再生。10秒程度で元の姿に戻った。


「ほぉほぉ。ちゃんと効果があったようだな」

「あるに決まってるではないか! エリクサーは本来一滴で十分だったところを一瓶まるまる飲まされたのです。即座に再生しない訳がありません! それどころか魔族としてのランクまで上がってしまいましたよ!? こんな事になるなど知りもしませんでしたよ!」

「そうか。そりゃよかったじゃないか。と言うか頭痛いから少し静かに喋れ」


 やかましい説明をして来たから同意してやったのに、コウモリ野郎は複雑そうな表情をしばしした後、何かを諦めたようにため息一つ。何か馬鹿にされてるみたいでスゲームカつく。


「ふぅ……もはや貴様のやる事なす事に驚くのも馬鹿らしくなりましたよ」

「そんな事よりだ。治してやったんだからさっさと魔法を再現しろ。俺ぁ今すぐ男になりたい――ってか戻りたいんだよ。人間にできて魔族に出来ねぇ道理はないんだろ?」


 元々それが目的で殺さないでいようと思ってるんだ。今更反故にされてもまた同じ目にあわせればいい事だけど、さすがに面倒だから次は死ななければいい程度のままで生かすようになるけどね。

 急かす俺に、コウモリ野郎は少し恐々と言った様子で首を横に振りやがった。


「さすがに今すぐには無理ですね。何せ初めて聞く魔法を1から生み出そうというのです。そもそも魔法と言うモノは空気中の魔素や体内の魔力に干渉しなければ発動せず、そうするためには陣を展開させねばなりませんので、その効果に沿った魔法陣を一から構築せねばなりませんし、効果が確実に現れるのを確かめるためにあらゆる生物での実験も数をこなさねば危険なのでそれなりに時間をいただかないと、いくら我でも不可能というもの。大体魔法を一から構築すると言う事は非常に時間のかかる作業でして――」

「話が長ぇんだよ! つまりなんだ。そういって有耶無耶にしようってのか?」


 さすが魔法オタクと言わんばかりに話が止まらないんで無理矢理打ち切る。そうでもしねぇと延々と興味もねぇ話を聞かされることになっからな。

 俺は股間にオークを取り戻した男に戻れればそれでいい。


「……まだ説明の途中なのですがね。そんな気は微塵もありませんし、そもそも貴様を相手に我がそれが成功するとは思いませんよ。なので魔法で契約を結びましょう。それであればある程度我の行動を貴様が縛る事が可能なので、そちらが好きなように決まりを作ればいい。こちらはそれに従いましょう」

「それは結構便利な魔法だな。どうやるんだ?」

「そうですね……」


 方法を尋ねると、何故か眉間に指をあてて思案し始めること数秒。深い深いため息をつきながらいきなりスーツを脱ぎ始めたんで速攻で蹴り飛ばしてその手を止める。野郎の裸なんざ見たくもないんでね。


「いきなり何をするか!」

「そりゃこっちのセリフだ! なに服を脱ごうとしてやがる。ストリップ趣味でもあんのかテメェ」

「はぁ……貴様は本当に知識らしい知識を有していないのですね。これは契約を結ぶために必要だからやっているのですが何か?」


 もの凄い澄んだ目で言われても納得が出来ないんで、順を追って説明してもらう事にした。

 なんでも。契約を結ぶためにはいくつか方法があるらしいのだが、中でも一番強固に結ぶ方法が性行為らしい。そしてこれをするために服を脱ぎ始めたとの事なのでもちろん却下した。理由なんざ決まり切ってる。俺は女の子が好きだからだ。抱きたいが抱かれるなんざ死んでもゴメンだ。反吐が出る。

 これついてはなぜかコウモリ野郎から裏切るかもしれませんよ? なんて反論があったが、もちろんその暁には研究施設を木っ端みじんにしてやると脅してやればすぐに居住まいを正してくれた。本気じゃなかったけど意外と効果があった。

 そんな訳で、いくつかある契約方法の中でも、一番手軽で最も結びつきが弱い握手という事に落ち着いた。俺がそこまでしかしたくないってのもあったともいう。


「アレクセイの名において、アスカへの服従の契約を結ぶ」


 あっさりとした祝詞を唱え終えると、手の甲に魔法陣が数秒出現したけどすぐに消えた。これで契約は完了らしい。


「じゃ。過労死しない程度に頑張ってくれたまへよ。アレクセイ」

「うむ。我が言う必要もないだろうが、アスカも息災でな」


 社交辞令を最後に、アレクセイは翼を広げて飛び去って行った。

 あっちが魔族領なのかなぁ……なんて思いながらも、いつまでも村を留守にするのもどうかと思ったんで、無事だった箱を抱えて帰還。

 〈万能感知〉で調べる限り、村の中に魔物の反応は確認できないんで、どうやら魔物は全滅したようだ。

 とりあえず人の集まっている反応に向かって近づいて行くとすぐにアニーとリリィさんがボロボロの様相で出迎えてくれ――


「どこ行っとったんや馬鹿アスカ!」

「ホンマですよ! もの凄い音が聞こえたからあわてて駆けつけてみたらとんでもない事んなっとったし、村中探しても見つからへんから死んでしもうた思たんですからね!」

「お、おぉ……ごめんなさい」


 出迎えてくれたよ。うん。ちゃんと木箱を持って来てくれたお礼もしてくれたし、アレクセイを退治した事も感謝してくれた。目は全然笑ってなかったけど。思わず漏れるかと思うくらい怖かった。


「アスカ殿! ご無事でしたか」


 村長たちも俺の姿が見えるなり近づいて来てくれて感謝の言葉を次々に述べてくれるが、今は怪我人の治療が最優先。次々にポーションを創造しては奥様達に手渡して治療に当たらせ、俺は村長とアニー達を連れて今後の話のために村長の屋敷にいた。


「まずはこの度のお礼を申し上げます。アスカ殿が居なかったら、わし等は殺されて魔族の企みが成功することろでしたからな」

「ホンマやな。アスカが居らんかったら思うとゾッとするわ」

「おまけに少量やけど荷物を運んでもらえたんや。無一文にならんで済むんで助かります」

「そっか。喜んでもらえてるならこっちも満足だ」


 こっちも男に戻る可能性がこれでまた一歩前進したんだからな。みんなにはアレクセイを逃がしたことは黙っていよう。契約で人を自衛以外で襲ったりすんなと釘を刺しておいたけど、あんなペラッペラの契約じゃあそこまで強い強制力はないだろうがね。

 ま。色々と困るのはあっちの方だから従ってくれるだろうとは思っている。バレなきゃいいやと人を殺せば、〈万能感知〉が相手の言葉の嘘をキッチリ捉えてくれるからな。その時にはちゃんと罰らしい罰を与えてやろう。


「それでなのですが……これからアスカ殿はいかがなさるのですかな?」

「いかがとは?」

「どこ向かうつもりやっちゅう事を聞いとるんや。この村に骨埋めるいう訳でもないんやろ?」

「それだったら人を探してんだ。こいつなんだけど知ってたりしないか?」


 そもそもの目的である魔法使いの写真と見間違うばかりの絵を3人に見せてみる。

 全員これほどの精緻な絵は初体験らしく、その再現度の高さに驚いていたし、アニーとリリィに至ってはこの男がマリュー侯爵領を騒がせている犯罪集団の一味である事も知っていたらしく、どうやってこれを手に入れたのか詰め寄られたけど、さすがに殺人を犯してるんでその辺は「魔法でちょっとな」と口から出まかせではぐらかす。


「まぁええわ。で? コイツ捕まえてどないするんや」

「その辺りはまだ秘密だ」


 まさか男に戻る為に必要なんだと言えねぇしな。この情報は戻ってから改めて詳しく説明しないと危険が伴う。今は同性という事で随分と距離が近いんだが、これが男だと知られた瞬間に手のひら返Cの汚物を見るような目を向けられるようにでもなってしまったら一大事だ。

 そうならないためには、圧倒的な好感度を稼ぐ必要がある。出来れば惚れてくれるのが最上だが、それってつまり百合になっちまう訳なんで親友くらいがベスト。


「人の情報が知りたいんやったらやっぱギック市やろ」

「せやね。あの街はマリュー侯爵領で一番の都市や。おまけに鉄狼騎士団も色々調べとるはずですから、こいつ等の情報もぎょうさん集まっとるはずです」


 やはりそう来るよな。あの騎士団もギック市からやって来たんだ。情報に関してもそこが一番集まっているのは自然流れだが、もちろん言い訳くらい考えてある。


「残念だがここに来る前に寄って来たばっかでロクな情報が得られんかったんだよ。これはそこからこっそり魔法で写し取った人相書きだ」

「それって犯罪やないんか?」

「何言ってんだよ。俺ぁ情報を写しただけで盗んではいない。2人も商人なら相手の売値を記憶したりするだろ? これはその延長線でしかないだろ」

「まぁ……そう言われればそうかもしれまへんけど」


 ギック市に足を運ぶにはまだまだ早すぎるからな。出来れば数か月は近づきたくないので尤もらしい理由でそちらへ向かうフラグをへし折る事に成功――したよな?


「ほんなら南のアロン男爵領にあるニートって都市はどうや? そこなら港町やから船でいろんな人種が訪れる場所やし、もしかしたらそいつ自身が居るかもしれへんで?」

「へぇ……そりゃいい情報を聞かせてもらった。じゃあ次はそこにすっか」


 実は……あの時にもらったモノを〈品質改竄〉でかなりいい地図にしてあるので、その場所なら既に把握しているものの、どんな場所かの詳細を知るほどの品質は作れなかったのでこういった情報は非常に助かるねぇ。


「ニートにはいつごろ向かう予定なん?」

「うん? とりあえず動き回って疲れたから数日はここでゴロゴロダラダラと過ごす予定だから……5日後くらいかな」


 あの馬鹿が自爆しやがったせいで村はほぼ廃墟。その何パーセントかは俺が油をぶちまけたせいってのもあるけど、キッチリ建築する分の木材なんかを無償で提供する予定なのでチャラへっちゃらとしてほしい。


「ほんならウチ等もしばらくのんびりする事にするわ」

「なんで?」

「決まっとるやろ。ウチ等もアンタと一緒について行くに決まっとるやないか。ええやろ?」

「別に構わんが……いいのか?」

「当然です。あてらはアスカはんに命救われたんですから。その恩返しをせんと商人としての名折れです。もちろん迷惑でなければやけど」

「2人なら大歓迎だ」


 1人旅でも馬車さえあれば特に何も問題はないけど、やっぱり女の子と一緒ってなると随分と華やかになるし潤いが桁違い。おまけに馬車――はとっくに駄目になってるから、俺達が過ごす部分だけでも新しく創造しよう。ポーションを取りに行ったついでに残骸を一噛みしておいたんでそっちは大丈夫だが、馬はさすがに自力で調達するしかないよなぁ。

 まぁ、色々とする事はあるけども、今はとりあえず気持ちを切り替える事が先決だろう。


「さてゴンズ君。村の脅威は無時去った訳だし、今までの鬱憤を吹き飛ばすためにもここはいっちょ宴会でもしようと思うのだが異論はあるかね?」

「宴会ですか? こちらとしては断る理由はございませんが……」

「なら決まりだ。俺は約束通りに酒を振る舞ってやるから、君はアレの準備をしてくれたまえ」

「アレとは……アレでございますか?」

「ああ」


 そう。若い女の子との混浴。これを楽しみに魔物を大量に狩ったんだからな。疲れはないけどさすがに血で汚れてるんだ。女性の手で優しく背中を流して体を洗ってもらうくらいのご褒美はもらってもいいと思うんだよ。アレクセイは自分のわがままで逃がしちゃったけどさ。

 それはそれ。これはこれ。という事で。


「そうでしたな。それではすぐに準備をさせますが、本当にアスカ殿もご用意出来るのですか?」

「当然だろう。こっちもすぐに用意するからそっちも良きに計らいたまへ」


 ぐふふ……ようやくか。男として生まれて34年。思えば長かったなぁ。だがようやくこの目で生の女体を拝む事が出来る。

 同人誌でもなく! モザイク処理されているでもなく! 遮るのは薄手のタオルと湯気のみ。それを想像するだけで……おっといかんいかん。思わずよだれが。

 という訳で、風呂に入る為には浴槽とお湯が必要って事で、さっっさと創造するとしますかね。MPは少し心もとないが、いざとなったらポーションがぶ飲みでもして無理矢理作るまでじゃい!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ