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#2 キモデブ卒業

「実はワシ……苛められとるんじゃよ」

「ふーん。誰にだよ」


 突然の告白だな。っていうか神が苛められるってどういう状況だよ。そもそもここには誰もいないのに苛められるって意味が分からない。

 まさか……脳内でとか言うオチじゃないだろうな? もしそうなら某アニメの如くちゃぶ台をひっくり返してやろう。台詞はもちろんバカモン! だ。


「部下の六神達にじゃよ。あやつ等はワシに造ってもらった恩を忘れ、事あるごとにやれどうして仕事をしないんだ? なんて悪口や。やれノルマもこなせないのにどうして創造神を名乗れるんだ? などの小言をネチネチと言ってくるんじゃよ。腹が立つとは思わんか?」

「お前からの発言しか聞いてないから何とも言えねぇが、今なんもしてないってのは分かる」


 最初に出会った時からこいつは仕事をしてなかった。まぁ……くじを引かせるのを強引に仕事と言いきれなくもないが、さすがに無理がありすぎる。それが仕事として成立するなら、楽がしたい奴はこぞって志願するんじゃないか? スマホ片手に出来そうだし。

 前提として、何をするのが神の仕事なのかの判断がつかない。まぁ、淡々と飯を食ってるのが仕事じゃないっていうのだけは分かる。ちゃんと働いて金を稼いできた俺からすれば、今のところは六神とかって連中の方に肩入れしたくなるんだがな。


「何を言うか! ワシだってちゃんと仕事をしとるんじゃからな」

「ならやったっていう仕事を挙げてみろよ。第三者である俺が判断してやる」


 ここで――ちゃんと仕事をしてるなら文句を言われないだろうが! と言うのは簡単だ。

 現在進行形でこの神は、お茶菓子片手にそんな説明をしてるんだからな。これも仕事とするなら明らかに身が入っていない証拠に他ならないけど、そこを突いたらやっぱり色々と面倒そうなのでまずはその勤勉さを聞いてからでもいいだろう。

 そしてそれが、予想通りだったと確信するのにさして時間はいらなかった。

 曰く。日に2時間は書類仕事をしている。

 曰く。週に30分は天候なんかを操作している。

 曰く。月に5分は異世界の様子をグーグ〇マップ的な感じで観察している。

 曰く。年に1分は人が住みやすい世界にするために思考している。

 ちなみに1日が何時間なのか聞いてみたところ。この神の造った世界では、1日36時間で1年は8ヶ月程度らしい。そして残りの時間はというと、六神の邪魔をしたりボーっとしたり飯を食ったりと本当にロクな事をしていない。こんな神から作られた六神達はよくぞ勤勉な働き者になったと表彰したいくらいだし、今まで良く世界が滅びないように頑張ってくれたと人類を代表して崇め奉りたくもなる。

 そして……目をキラキラと輝かせて俺の答えを待っているこの馬鹿神にはそいつらの爪の垢を煎じて、心を入れ替えるまで胃の中に流し込んでやりたい。どうしてその程度の労働でこれだけ自信が持てるのかが全く理解できない。


「判定は有罪だ。どう考えたってお前が悪い」

「何故じゃ!? ワシはこんなに働いておるのじゃぞ!」

「その程度労働時間で偉そうにするな!」


 さすがに我慢の限界なので、そう怒鳴りつけながら六神達の代わりにぶん殴っておく。これで少しでも自分の愚かさを理解してくれればいいけど、こういう輩は得てして自分の評価を高く見がちなんで無駄だろうから、これは単純なストレス解消のためだ。まだ見ぬ六神達も同じ目的で悪口や小言を言ってるんだろうな。

 さて……神のいい加減な生態が分かったところで、いつまでも愚痴を聞くつもりはないからさっさと本題を話せと切り出す。それを聞かないとおひねりを支払った事にならない。

 神が言うには、日頃から馬鹿にしてくる六神達をぎゃふん(死語)と言わせたいようで、そのために誰かを異世界に送り込んで連中の邪魔をさせようと考えていたらしいんだけど、時期が悪いと意味不明な言い訳をして具体的な方策は転生者本人頼りの丸投げというすがすがしいまでの他力本願ぶりをロにしやがった。神の名が聞いて呆れる。もはや駄神と呼んで微塵の差支えがねぇ。


「――という訳で、何かいい提案はないかのぉ」

「マジかよ……」


 話を聞けば聞くほど六神達の邪魔をする理由が何一つ見つからない。って言うか一番簡単にぎゃふん(死語)と言わせる方法は最初から1つしかないだろ。


「答えは単純。もっと真面目に仕事しろ」


 やっぱりこれに限る。この神が毎日真面目にコツコツと世界の調整をし続ければ、時間はかかるだろうが六神達も素直に褒めてくれるだろうし、何だったら仕事の相談なんかもしてくれるかもしれない。おまけに世界が平和になって住人達も熱心に祈りを捧げてくれるようになるかもって考えれば、1人の努力があらゆる物事を円滑に回し始めるじゃないか。まさにWIN・WINの関係が成立するとても素晴らしい方法だ。

 しかし眼前の神の表情はすぐれない。簡単に言えば非常に嫌そうな顔をしている。


「断るっ! ワシは今の労働時間で精一杯なんじゃ! これ以上増やしたら死んでしまうわい」

「なら別の人間を説得するんだな。俺はお断りだ」


 最初からそう答えると思ってたから、特段怒りも呆れもない。なのでさっさとお暇するとしますかね。

 コッソリ確認したら分かってる。もう畳の外に俺を浮かせる力はないみたいで、ここから踏み出せば晴れて草木への転生が待っているはずだ。いざ行かん! ボーっとしていても怒られない至高の第2の人生へ。


「待った待った待ったああああっ!! この願いを叶えられる逸材は現状ではヌシしかおらんのじゃ。ワシが聞ける範囲の願いなら何でも聞くから……後生じゃから手伝いをしてくれんかっ!」

「……本当だな。本当に何でも言う事を聞くんだな?」

「も、もちろんじゃとも。先に言っておくがワシがこれ以上働くのはなしじゃ。ヌシが異世界に行くための願いであれば、可能な限り応えてやろうではないか」


 先手を打たれたか。だがまぁいい。ちゃんと言質を得たんだから好きにさせてもらうとするか。草木への転生ほどじゃないにしろ、異世界転生ってのにもそれなりに興味はあった事は確かなんだ。その提案をされた時は少なからずよっしゃ! と拳を握るほどには興味が残っている。

 とは言え、二つ返事での承諾だと主導権が握られる心配があったが、ちゃんと確認を取った以上はもう心配ない。まさに計画通りと言わんばかりだ。


「なら条件は3つ。1つはこのキモデブ体形と顔を女にモテる容姿に作り直せ。もう1つは何でも作り出せる能力を寄越せ。死んだ後は誰も来ないような僻地に生える草に生まれ変わりたい」


 さすがにこんな容姿じゃ歩くのも一苦労だし、何より女にモテない。股間はオークのごとくのビックサイズが自慢だけど、訓練ばっかりで一度たりとも実践投入はされなかったからな。第2の人生である異世界でくらいは思う存分その実力を発揮させてやりたいと思うのが親心? ってもんだろ。

 そして2つ目。異世界転生のテンプレとして、その世界の大体が中世レベルの文化くらいだろうから、馬車なんてケツの痛くなりそうな移動はお断りなんで、車――それも悪路に向いてる4WDでも作れれば問題なく走破できる。わざわざ草木の人生を遅らせてまで面倒な生活をしてやるんだ。このぐらいの便利能力はもらわんと割に合わん。


「それなら構わんぞ。実を言うとさっきの紙に書いてあった数字は、あっちで使うスキルを持っていくポイントなんじゃからな。好きなのをこの中から選ぶとよい。さっき言っておったもんも確かあったはずじゃぞ」


 意外なほどあっさりと許可が出たな。ポイント制とは随分とケチ臭いと思わんくもないが、まぁ貰えるってんなら貰うとしようじゃないか。

 しかし……これがスキルが載っている本か。とんでもなく分厚くてまるで辞書みたいだ。こんな中から異世界で必要な物を探すってなると、それこそ何日も必要とするかもしれない。面倒臭すぎて早速心が折れそうになるな。


「……時間がかかりそうだから、まずは容姿を決めようじゃないか」


 ただ後回しにしただけ? もちろんその通りだ。どうせやらなきゃなんないならブサメンよりイケメンでやる方がモチベーションが違う。色々と妄想が膨らんで、それを想像するだけで時間なんてあっという間だろう。


「じゃあ要望を言うてみぃ。可能な限り応えちゃるわい」


 あっちも俺を異世界に飛ばすために必死だからな。どこからともなく杖を取り出して、僅かながらのやる気を表面上だけでも出している。

 それに応えて俺も考えうる限りの要望を神へと伝えていきながら、時々鏡なんかで顔の作りやスタイルなんかを確認しながら細々とした部分まで注文を続けた。

 そうしてどのくらいの時間が経ったんだろうな。体感的には10分くらいだけど、神の疲れ具合を見る限りだと相当かかったみたいだ。悪いとは思うけど罪悪感はない。これはあくまで俺を異世界に送る為の準備なんだからな。


「うし。こんなもんでいいだろ」


 最後に全身鏡で出来栄えを確認。

 髪は黒の脂ぎったベトベトなものから、かき上げるだけで音階が奏でられそうな綺麗で細い銀髪に。

 糸までは細くないけど決していいと言えなかった目つきは、二重でくりっと大きくして厨二病全開の金と赤のオッドアイにしてもらった。ついでに視力もよくしてもらって眼鏡とはおさらばだ。

 すっと通った鼻筋にほっそりとした卵型の顔立ち。年齢は先を見越して10歳くらいに設定してもらった。

 これなら甘えん坊の子供を演じて堂々と女湯に突入できる。万が一の戦闘なんかではリーチの短さは相当不利に働くだろうけど、そこに待っているパラダイスとを天秤にかければ悩むまでもない。

 デブで脂肪だらけの身体は今や羽でも生えたように軽い上に、全体的に華奢な印象を与えるほど細いながらも、ある程度は筋肉をつけてるから多少なりともアクロバティックな動きには対応できる。使わないに越したことはないけど、物事には念の為って言葉あるからな。

 とりあえずの完成形は中性的で美少女にも美少年にも見える――俺的には最高の出来栄えだ。これなら多少セクシャルな行動を取ったところでマジギレされたり訴えられたりって事態には発展しないだろう。そもそもが子供なんだからそんな心配は無用かもしれないけど、向かう先は異世界だ。用心に用心を重ねて悪いなんてことはないだろう。

 さて……新しい肉体に生まれ変わった事だし、次は〈スキル〉の選択といこうじゃないか。

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