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#193 泣け! 叫べ! そして死――は駄目だから苦しめ!

 ジジイが悔しそうに去って行ってからさらに数十分。〈万能感知〉がこっちに向かって急いで近づいて来る反応をキャッチした。慌てず騒がずがモットーであろう執事連中の行動ではまずありえない。そんな事をすれば鉄面皮の鬼がやって来るのだ。もはや誰かは言うまでもない。


「いやーお待たせして申し訳ありません。やはりこの歳になっても新たな発見があると興奮を抑えきれないようで――って、マリア様がおられないようですが?」


 アレクセイが辺りを見渡すも、あの賑やかで食い意地の張った子供はいない。いるのは表情暗く漫画を読んでいるアンリエットと、日頃の疲れを癒すためかぐーすか寝ているユニに、ソファに寝転がって茶を飲んでいるもはや自宅並みのくつろぎを体現している俺だけだ。嫌でも気付くってモンだ。


「ああ。アイツなら領地でなんかあったらしく、部下のジジイと一緒に帰ったぞ」

「なるほど。彼の地は常に戦火に包まれていますからね。その鎮圧にでも赴くのでしょう。ワタシとしては遠く離れたこの地を賜って非常に助かっていますよ」

「なるほどねぇ。しかし何だってその連中は暴れてんだ?」


 魔族の全てを知ってる訳じゃないが、こことシュルティスの領地を見た限りでは表面上は平和に見える。しかもマリアは魔王に次いでの実力者。その庇護下に居ながら好き勝手に暴れ回るってのは、かなり常識から外れている。というか頭に考えるという機能が備わっているのかすら疑う。


「マリア様の意思ですよ。彼女は強い。それでいて無限と言える時を過ごして来た故に暇という敵を最も恐れています。だからこそわざと領地を空にして反旗を翻す馬鹿共を焚きつけて自ら鎮火するという事を繰り返しているのですよ」

「それがアイツなりの暇つぶしって訳か」

「恐らくはそうでしょう」


 それは一体、どんな感覚なんだろうね。

 前に居た世界では娯楽に事欠かなかったが、トランプすらないこの世界でそんな物が期待できるわけがない。まぁ……だからこそマリアが俺のそばから離れたがらない事は容易に想像出来る。何せ俺のそばでしか堪能できないんだからな。


「ところで、客をほっぽって自分の趣味を優先させた愚かな下僕のアレクセイよ」

「え? あっ!? な、なんでしょう」


 俺がギロリと睨みを効かせながらそう告げてやると、最初は首を傾げてしばし思案。そして思い出したように素っ頓狂な声を上げた後に顔を青くしながらゆっくりと逃げ出そうとするが、俺がそれを許すほどちんたらした人間じゃない。


「いい度胸してるよなぁ。なーんかこの屋敷の一部をぶっ壊したくなって来たなぁ」


 素早く扉の前を陣取り、その胸倉を無理矢理掴んでわざとらしくフリーな手の指をゴキゴキと鳴らせば、アレクセイは目に見えて己のしてしまった事の重大さに恐れおののく。まぁ……実害は全くないし、それでコンマ何秒だろうと魔法の完成が早まれば何の問題もない。

 だから、アレクセイのそんな顔が見れただけでもこっちとしては大分溜飲が下がるのだが、そこはやはり躾の一環。少しくらい痛い目にあわせないと同じ過ちを何度も繰り返す。痛い思いをしたくなければしなければいい。それを我慢できるならやればいい。もっとも、俺の痛みは生半可じゃないけどな。


「そ、そういった事は出来れば勘弁していただきたいのですが……」

「なら自重する努力をするんだな。今回は『軽く』で済ませてやるが、次からはもっとキツイぞ」


 宣言直後。ある物をアレクセイの口の中に放り込む。

 突然の出来事に対して反射的に吐き出そうとしたのは見事と言える。しかし俺の反射神経を前にそんな事は許さない。口と鼻を押さえて無理矢理にでも飲みこませる。


「っ!? ~~~~~~~っ!?」


 そして一ミリでも舌の上にのせてしまえば、もう後戻りは難しい。物資が豊富な日本と違って、この発展途上世界。激辛という痛みから逃げる術はまずないのだよ。


「フハハハハハハ! 痛いだろう辛いだろう苦しいだろう。その痛みを何度も受ける覚悟があるのならば、俺はお前の自分勝手な行動を認めようじゃないか。これを何度も味わえるというのならな」


 十分に辛さが広がっただろうと判断して手を離すと、アレクセイは飛ぶように部屋を出て行った。

 さて……目的の情報は聞けなかったが、仕置きという方向に目を向ければ十分な成果は得られたし、マリアが居なくなった理由も察しがついた。それをのんびり待つほど仲がいい訳でもないし、俺には崇高な目的がちゃんと存在している。


「さて。用事は済んだからさっさと帰るとするか」

「えっ!? マリアはどうするのなの?」

「さっきの話を聞いてなかったのか? マリアはしばらく自分の領地で暇つぶしをするそうだ。それが終わるまでは帰ってこないと俺は見ている」


 まぁ菓子や漫画を買うためにジジイを寄越してくる可能性は無きにしも非ずだが、その線は非常に薄い。まず適正な金額が相当に高いので、日がな一日漫画を読みながら飯とお菓子の時間以外には頑として動こうとしなかったのであれば、先立つものは一切ない。

 そもそも。マリアとの契約は王都の時点で切れている。本来であればあのクソジジイに今まで飲み・食い・読みにかかった額に暴利を吹っ掛けて請求してやっても正当以外の何物でもないが、そこは魔族に関する情報量としてとんとんとしておく事にする。

 つまりだ。マリアには俺から菓子や漫画を買う事が出来ない訳だ。であればジジイですら来る可能性が低いとは思わんかね。


「もう会えないのなの?」

「その可能性は少ないんじゃないかと俺は思う」


 既にマリアには、遺伝子レベルで菓子と漫画がなければ生きていけない身体になっていると自負している。それだけ別次元の物を用意してきたし、何よりスキルを十全にこき使って俺が納得できる味わいにして来た。

 ロクな調味料もないこの世界の人間――いや、生きる者にとってこれを断ち切るのは相当に難しいはずだろう。なれば、用事さえ済めばその渇きを癒すために飛んで戻って来ると俺は考えている。

 まぁ……そう言っておいた方がこの場はもっとも穏便に事が済むってのもある。


「ならいいのなの。ご主人様。次はどこに向かうのなの?」

「そうだなぁ……」


 〈収納宮殿〉から地図を取り出して確認してみる。

 道中で手に入れた地図は今や魔道具にまで昇華。その能力は貴族間の境界線はもちろんの事。この世界全体が3D表示されるという何ともありがたい地図である。ちなみにアニーにバレると100パーセントキレられるので黙っている。

 それで確認してみると、王都から森を抜けて魔族領……そこそこの距離を走ったんだなぁと改めて実感できるのと同時にユニって働き者なんだなぁと感謝の念が強まる。

 今度本を多めに出してやろうと考えながら、そろそろ異種族交流なんて領域に手を出してみたいなぁと思いつつ地図をじっと見つめる。

 ここから一番近いのはもちろん人間種の領域だけど、それ以外の女性とお近づきになりたいと一度決めてしまえば真っ先に除外され、次点であるエルフ領に向く。

 魔族とそれ以外の住処を隔てるように生い茂る森の全てがエルフ領と言い換えても何ら問題がないが、その総数自体は非常に少ない。それだけエルフと森の関係は切っても切れない関係性があるから、〈万能感知〉を頼りに走り回れば見つける事はそう難しい事じゃないが、連中は総じてプライドが高いのが玉に瑕だ。

 豊富な魔力に優秀な魔法行使力。これだけでもその鼻が伸びるのも当然だろうが、エルフの何とふつくしい事か。うん。やっぱエルフの方々(野郎以外)と仲良くする事にしよう。


「エルフの居る場所を回ってみる事にするかな。ここから近い所にいくつかあるからな」

「わかったのなの」


 とりあえず目的地が決まったので、ささっと立ち去ろうと応接間を出ようとすると、偶然にもアルヌとばったり出くわした。そしてその表情は相変わらず鉄面皮だ。


「どこに行かれるのですか」

「そう警戒すんなって。こっちの用が済んだからそろそろ出て行こうとしてたところなだけだ」


 それを聞いたアルヌは、それはもう嬉しそうな表情をあらわにしたがそこはさすが執事長。一瞬だけにとどめて咳ばらいを一つ終える頃にはいつもの鉄面皮に戻っている。


「そうですか。では屋敷の外までお送りいたしましょう」

「当然だな」


 俺はこの館の主・アレクセイの主人なんだからな。対応は最上級でなければならない。

 なので、俺が入り口の扉を開けると既にアルヌの指示が通っていたんだろう。出迎えの時よりさらに多くの執事連中がずらりと並び――


「行ってらっしゃいませ」


 そう言いながらきっちり45度で下げた頭を止め、そんな連中のアーチを抜けてアレクセイの屋敷を後にした。

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