表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
198/357

#192 べ、別に何の問題もないのなの

「……大失敗だな」

「せめて失敗にとどめてもらいたいのですが?」

「いやいや。どう考えたって大失敗だろ。これの何を見てそう言えんだよ」


 頑としてその事実を譲らない俺の足元には、漆黒の鱗を鎧とした四足歩行の生物――10メートルサイズの小型の龍が死体として転がっている。

 10で小型と評したのはもちろんアレクセイ。ワイバーンを知ってる俺からすれば何が違うんだと言いたいな。

 正直に言って、手ごたえが何も変わらんかった。どちらかというと剣を一振りしただけで簡単に死んだこっちの方が弱いんじゃないのかね? との疑問に対してのアレクセイの返答はいたって単純。


 ――貴女が異常なのです。


 ではなぜ龍がこんな場所に居るのかというと、分かり切ってる事だがこいつは元・馬であったモノが、アレクセイの魔法によって変化した結果だ。

 魔法が発動すると同時に馬の全身が光り、はてさてどうなるのかとぼけーっと眺めていると、悲鳴のような断末魔の声を張り上げながら、骨の折れるような音や筋繊維が断裂する生々しい音をかき鳴らしながらその肉体が変貌。

 体長は倍以上に膨れ上がり、全身には素手で殴ると少し赤くなるくらいには硬い鱗がビッシリ。翼や尻尾まで新たに生み出され、光がおさまると同時に何故か俺目掛けて襲い掛かって来たのでワンパンで頭を吹っ飛ばして無力化し、今に至る訳だ。


「とりあえず変化したではありませんか」

「誰が龍になりたいって言ったんだよ。しかも本題の性別は一切変わってねぇと来たモンだ」


 死体となった龍の足をおっぴろげてアレクセイに晒す。そこにはオスとして大層立派な物が伸びているままだ。というかなんで男に戻りたいと言っているのにここでオスを使うかね。普通に考えてメス一択しかないだろうに全く……。


「これで大失敗じゃなくて何なんだよ。第一俺は男になりないって言ったよな? だったら実験動物はメスを使うべきじゃなかったのか?」

「う……」

「魔法の失敗は過度な期待をしてなかったから別に構わんが、雄雌の選択を間違ったのは少しイラッと来たぞ」


 だからと言って何かをするつもりはない。ここは恐怖を刻み込んでおいて、次はもっとちゃんとやろうという心がけをきちんと養っておいてほしいという親心だよ。

 が――俺の殺気を乗せた睨みの前に、カー○おじさんがずいっと身を乗り出した。


「悪ぃがメスは子供さ産むんでそう簡単に殺せねぇだ。なんでアレクセイ様を責めねぇで下せぇ」

「別に責めてねぇよ。つーかメスをそうおいそれと殺せねぇ事くらい知ってるっつーの」

「ほんだば、なしてさそっだな事さ言っただか」

「決まってんだろ。コイツがちゃんとそういった答えを返せるかどうか試したんだよ」


 そう告げながら、アレクセイに向かってあくどい笑みを浮かべるとようやく気付いたんだろう。明らかに苛立たしそうに眉間にしわを寄せた。


「やってくれますね。意地の悪い事を……」

「おかげでいい顔を見る事が出来た。で? 魔法の完成度としてはどんなモンなんだ」

「まるで別物ですからね。一から組み直した方が早い。一体どこを間違ったのか……やはり魔語は奥が深い! 早速研究せねばいけませんね!」


 それだけを言い残し、アレクセイはあっという間に小屋どころか牧場からすらいなくなってしまった。そう確信させる爆音がこの地下からでも聞こえたんだからな。

 ゲストをほったらかしにして帰るホストってどうなんだと思わなくもないが、それだけこの仕事にやる気を出してくれていると好意的に受け取ってやろう。


「にしてもあんた。随分と勇気があるな」

「あらがか? なしてさそだな事言うんだ」

「そこな娘さんの一撃を受けても平然としてっし、俺の殺気に怯む事無くアレクセイを庇った。今まで出会ってきた中でも十指に入る豪胆さだ」

「あら御上手。でもわたしは彼のお嫁さんなのよ」

「これは失礼。しかしあの一撃が本気でないとすると、やはり貴女の旦那様の頑丈さは常軌を逸しているとしか考えられんのですよ。一体何者ですかな?」


 ダメージ自体はそこそこ負ったりしてる。先のメフィレニア達との一戦でも直撃とか受けたりしてるけど、ただの素手で一割以上持って行かれるなんて随分と久しぶりだ。あの馬鹿仮面並みの攻撃力とみていい。


「おらはこういう仕事が好きなただの魔族だ」

「わたしも旦那が大好きなただの魔族よ」


 〈万能感知〉でも嘘は発見できない。しかしどう考えても攻撃力も防御力もおかしすぎるだろ。ある意味ではお似合いの夫婦ではあるんだが、どう考えてもアレクセイの部下ってよりは同僚か上司って方がしっくりくる。少なくとも、実力的にはそうなんじゃないかって俺は思う。


「まぁいいや。とりあえず俺達も帰らせてもらう事にします。起きろほら」


 軽く頭を小突いて全員を起こしてやる。


「もう終わったのだ?」

「多分な。一応本人に確認を取って何もないようだったら、ここを去る」

「次はどこに行くのなの?」

「もちろん美人で可愛い女の子や女性の居る場所だ」


 堂々とした態度でそう告げると、もはやいつもの事なので全員の反応は寝起きという事も加わって非常に薄い。だからと言って話をちゃんと聞けとは思わない。これはあくまで永久不変の行動基準なので、他人の意見など最初から考慮していない。

 という訳でパパッとアレクセイの屋敷まで戻る。帰りは方角が分かってるんで、キチンと小屋で一泊してから屋敷へ到着。そこで待ち構えていたのはアルヌを始めとした執事団だけでなく、どこか見覚えのある偉そうな老執事が異物として加わっていた。


「探したぞクソ人間っ! 今まで良くも姫様を連れまわしてくれたな。その罪は万死に値する。死ねやぶへごらっしゃああああああああ!!」


 こちらを発見するや否や、意気揚々と神速の突撃。からの一撃に対して俺は何もしなかった。だってその前にマリアが某廬山な昇龍覇を見舞い、天高く吹っ飛ばしてしまったから。

 そして顔面からぐわしゃと落下したマリアの部下Aがピクリとも動かなくなったのを確認した後。全員がそれを無視して屋敷の中へと進んでいく。意外と全員薄情なんだなぁと思う今日この頃。

 また昨日と同じ部屋に案内され、昨日と同じように毒薬をしれっと飲み進めながらアレクセイの来訪を待っていると、さっき顔面からぐわしゃと落ちて気絶したはずのマリアの部下Aがどこから調達したのか杖っぽい木の枝を支えにフラフラと倒れ込んで来た。


「おいマリア。迎えが来てるぞ」

「知らないのだ。わちはアスカのそばでお菓子を喰い続けるのだ」

「それがそうも参らないのが世の常でございますぞ姫様ぁ……」


 帰らない宣言の数秒後。芋虫が這いずる様に似た動きをしながらマリアに近づいていくジジイ。その目にはマジでやばいという事をひしひしと語っていそうないなさそうな必死っぽい色があった。


「今度はなんなのだ?」

「ここでは……」


 ジジイのその言葉に、マリアの表情から感情がす……っと消え、そのまま部屋を出て行ってしまった。どうやら何かしら思い当たるふしがあるようで、珍しく魔族の№2って感じの雰囲気を感じ取る事が出来た。どっちが本来のマリアなんだろうね。


「どうしたアンリエット」

「ふえ? 別にどうもしてないなの」

「……あっそ」


 慌てて平静を装ってはいるが、マリアが居なくなってから急激にしゅんとしてしまった。簡単に言えば寂しそうに出て行った扉を見ていたんでそれとなく声をかけた結果。バレバレの取り繕いでお菓子をほおばるが、その勢いは若干遅い。なんだかんだ言ってもやはり子供。喧嘩仲間が居なくなるのは寂しいモノなんだろうな。

 そんな少し寂しそうな哀愁漂う空気を纏いながら、もそもそとお菓子を食べるアンリエットを眺める事十数分。さっきまでの重傷はどこへやらと言った風にジジイが颯爽とした足取りで部屋に入って来た。その表情はかなりのドヤ顔で、俺と目が合うと思わず殴ってしまいそうになるほどだ。


「待たせたな下等生物共」

「別にテメェを待ってた訳じゃねぇよ。勝手に入って来て何ぬかしてんだクソジジイ」

「ぐ……っ。まぁいい。今は最高に気分がいいのだからな」

「そう言うのいいからさっさと用件を言え。マリアがどうなるんだ?」

「嘆け喚けそして絶望しろ! 姫様はご自分の領地へと帰還せれる事となった! これで貴様のその憮然とした態度も取れぬようになったわけだ! はーっはっはっは」


 まぁこの場にマリアが現れないだけでそうなんだろうとのおおよその察しはつく。そしてそれが結構面倒臭そうなのもよく分かる。

 事情を聞き出せればいいんだろうが、生憎と俺はジジイに邪険にされているからな。聞いたところで素直に応じるなんてありえないのは明らか。であれば興味の一切を捨ててここでお別れってのが手間がかからなくていい。


「いちいちうるせぇジジイだな。別にマリアが居なくても俺の態度は男女で変える。ジジイは野郎だし一銭の得にもならんからこういう態度なだけだ。その頭は飾りか?」

「なんだと!?」

「取りあえずマリアがここで別れるってのは理解した。ならさっさと消えろ。こちとらアレクセイが戻って来るのを待つのに猫の手を借りたくなるほど忙しいんだからな」

「どこが忙しいというのだ! もう結構。二度と貴様等と会う事はないだろうからな。さらばだ!」


 結局手を出してくる事無くジジイは去って行った。俺としてはマリアが居なくなった程度でどうにかなるような人間じゃないんでどうでもいいんだが、やはりアンリエットはさみしそうにしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ