#183 異世界の悪影響? いいえ元からです
「はいどーもー。呼ばれて飛び出てアスカ様の登場だぜ~」
勢いよく登場してみると、部屋で待っていたのは腹筋がバッキバキに割れてる獰猛な目をした女性と、ゴーレムみたいに人の形をした岩の塊が並んで椅子に腰かけているという不思議な光景に出くわし、女性の方が俺を見るなり眉間にしわを寄せながらソファのひじ掛けを引きちぎって、シュルティスを睨むように顔を向ける。
「おいおいおいおい。シュルティス。もしかしてあんなガキがあんな事をしでかしたと本気で言ってんのかい? 冗談ならもう少しマシなモノを口に出すんだね」
「コドモ。ヨワイ。シュルティス。ウソツクナ」
まぁ当然の反応だな。一部始終を見ていない限り、始祖龍でありながら魔族であるシュルティスが、俺みたいな超絶美少女に負けるなんて考えられるはずがない。特に魔族としてかなりの地位であろう20評議会とやらに名を連ねていればその考えは顕著だ。
「信じられないのも無理はないでしょうが、彼女は間違いなく強いですよ」
「ハッ! あんなチビ助に何が出来るってんだい。第一。アンタのその魔力の減退が何よりの証拠だろうが! こっちに手ぇ出すのが何を意味してるのか分からない訳じゃないだろう」
「イクサ。マッテタ」
「やるのは構わないけど、まおーが完全じゃないのにわち等に勝てると思っているのだ?」
うーん。どうやら魔族同士で白熱した会話が繰り広げられているみたいだから、ユニとアンリエットを回収してさっさとアレクセイの所に行かせてもらうとすっかね。後は魔族者同士ゆっくりと……。
抜き足差し足忍び足で部屋の一角に向かうと、ユニとアンリエットを取り囲むように5人ほどの少女と岩を寄せ集めて人の形にしたような物が居た。
「何用だ」
「何やらお邪魔っぽいんでさっさと帰らせてもらおうと思ってね。だからそいつら返して」
「なりませんわ。これはわたくし達の忠誠を誓うメフィレニアお姉様が獲得した獲物。それをたかが人族如きが横からかすめ取ろうなど無礼千万ですわ」
「コレ。ギギサマノエモノ。キエロ。ニンゲン」
「ふぅむ。女性に手を出すのはどうかと思うんだが、ただし岩コロ。テメェは殺すぞ?」
「ヤッテミロ」
「じゃあ遠慮なく」
言質を得たんですぐに実行に移す。
軽く踏み込んでからの正拳突きを振り抜くと、ほんの少し硬いかもって感覚はあったけど、それ以上は何事もなく岩人形を計4体、それぞれワンパンで爆砕させる事が出来た。経験値も雀の涙以下だし、本当に口ばっかのゴミだったな。
「さて。もう一度だけ言っとく。女性をこの岩コロと同じ目にあわせたくないから、ユニとアンリエットの前からどいてくれるとありがたい。若いっぽいからまだ死にたくないだろう? 忠告は一度だけ。さぁ……どうするよ」
この状況からユニとアンリエットを助け出すのに10秒もいらない。何故なら俺が人間というだけで相手は完全に油断しているから、初動で半分くらいは無力化し、残りの時間で全滅させられると思う。女性のスプラッタ映像は見たくないので、可能ならあっさり退いてくれると助かるんだけど、無理だよなぁ。挑発っぽく言っちまったから。
「大した自信ね」
「不意打ちで4人倒した程度で随分と大きな口を利くじゃないか」
「人間如きにしては多少強いようだが、今のはあの馬鹿共が油断していただけと理解しなさい」
まぁやっぱこうなるよな。最近とんと喧嘩っ早くなってるよな。これも女性化した影響なのかね。生前はここまで短気じゃなかった気がする。
「ふぅ。あまり綺麗で可愛い女性に手を上げるのは好きじゃないんだけども、俺の覇道の邪魔をするなら仕方ない。悪いが死んでもらうしかないか」
という訳で加速。手前のワイルド美人の鳩尾に掌底を撃ち込んで、背後の敵意むき出し系美少女ごと壁にめり込ませる。
「貴様っ!」
「遅いんだなぁ」
ここでようやく、ボーイッシュ系の美人が動き出したがナイフを目に投げつけ、避けたところをどてっ腹に掌底で突き飛ばし、残ったおっとり系巨乳ちゃんは容赦なく四肢を切ってから心臓を一突き。そうすれば5秒くらいで終了。本当にザコ過ぎて面白くもなんともない。あれだけ粋がってたんだから少しくらいは抵抗してほしかったよ全く。
「さすが主です。あれほどの相手をこうも易々と葬るとは」
「ご主人様強いのなの~」
そうしてユニとアンリエットを縛ってる鎖を引きちぎって自由に。後はさっさとアレクセイの研究所にでも向かえばいいかと出て行こうとした俺の襟を、腹筋バッキバキ女性・メフィレニアにひょいと持ち上げられる。
「どこに行こうってんだい。話はまだ終わっちゃいないよ」
「いやいや俺関係ないでしょ。だって犯人はそこの爺さんなんだろ? だったらそれでいいじゃない。魔族だもの。あすを」
「意味分かんない事言ってんじゃないよ。アタイの可愛い妹達を痛めつけた落とし前はキッチリ取ってもらわないとね」
「コチラモ。ブカノカタキ。トル」
「俺が悪いのか? どっちかっつーとお前等だろ。人の仲間に手ぇ出しやがってよぉ……謝罪としてお姉さんの胸に顔をうずめさせろ」
腹筋はバッキバキ。腕も足もかなり筋肉質だが、顔立ち自体は色香がたっぷりと漂うエキゾチックな女性だし、なによりその胸だけが無駄な脂肪をかなり省いた肉体で大きく。それはもう大きく自己主張をしているんだから、男には毒ってもんですぜ。
心からの要求に対し、メフィレニアは一瞬きょとんとしたが、すぐにおかしそうに笑い声をあげた。
「あっはっは。おもしろいガキだねぇ。魔族相手にそんな変な要求をしたのはアンタが初めてだよ」
「こっちはいたって真剣だ。ぜひともたわわに実ったそれに顔をうずめさせてもらいたい!」
「ふざけるなぁ!!」
俺の真剣な下ネタな告白に対し、声を張り上げたのは埋め込んだ壁からはい出て剣を片手に襲い掛かって来たワイルド美人。どうやら生きていたらしい。
この狭い部屋でどう剣を振ればいいのか分かってるようだが、軽く受け止められるレベルなんでここは素手で力の差を見せつけてやる。
「大した頑丈さだな。あの一撃を受けて立ち向かってこれたのは褒めてやるが、手を出すなら相手の強さをよーっくと把握する事だ」
告げながら片腕を斬り飛ばす。本来なら四肢に加えて首まで飛ばせるが、授業料でそこまでするのは高くつきすぎると思ったから、腕一本で許してやった。まぁ、これからの態度1つでそれを治してやる事も吝かではない。
「っぐ……あ」
「分かったか? これが俺とお前のs――」
余裕たっぷりに講釈を垂れてやろうとしていた俺の視界が急激に横に流れたかと思った次の瞬間には視界一杯の岩石が迫り、躓いた人を抱き止めたくらいの衝撃と共に屋敷が遠のいていくけど、メフィレニアとギギは遠ざかっていかない。
はてさて一体何がどうなっているのか。とりあえず頭を働かせてみると、俺と変わらない速度でこっちに向かって飛んでいるって事になる。1人は背中に生えた翼で。もう1つは背中にある2つの円柱から吐き出される魔力を推進力として。どっちがどっちかは推して知るべし。
取りあえず俺達の距離が変わらない理由が分かった訳だけども、問題はどうして俺が飛んでいるのか。それはまぁすぐに分かるかね。
「よっと」
「ムウッ!?」
最後にくるりと回転して態勢を整えて着地。と同時に迫るギギの巨拳を剣で受け止める。明らかに体重差があるんで多少は押し込まれたが、10センチにも満たなければそれは異常と受け止められ、隙となってしまう。馬鹿な事だよ。
「はいどーん」
そうして、開いたもう片手で取り出した剣を逆手に握りしめ、振り上げる。挨拶代わりなんでさほど威力を込めちゃいないが、象みたいにデカい岩の身体にそこそこ深い傷を刻み込む事が出来た。思いの外脆いんだな。魔族のくせに。
「イイケンダ」
「あ。しまった」
そう言えば。最近〈収納宮殿〉を整理したから残ってる武器はいつか役に立つかも知んないって感じの物だけしか残してなかったんで、今使ったのは所謂キラー系武器の1つで、ギギみたいな鉱物に対する絶対の攻撃力を披露できる一品だ。いつか男に戻った時に鉱山からダイヤでも発掘する時のためにと作ったもんだが、こんなタイミングで役に立つなんてな。
あまりに楽勝すぎるとつまらんから嫌なんだが、まぁ使っちまった以上は仕方がない。それにこちとら急いでいる立場だ。邪魔をするなら推し通るだけ。
「最後に聞いておく。道を開けるつもりは?」
「たかが人間如きにかい? 冗談だろ」
「ザンサツ。カイラク」
「あっそ。なら死んでも文句を言うなよ」
交渉は決裂。まぁあちらさんにはそのテーブルにすらつく気がなかったんだからしゃーない。魔族に喧嘩を売るのはこれからの旅に置いて非常に邪魔にしかならないが、強さ=正義って短絡思考であれば、まぁやりようはあるかな。




