#180 世紀の一戦……ほこたてっ!
それから。ワイン。泡盛。日本酒。ウィスキー。ビール。シャンパン。どぶろく。マッコリ。ブランデー。カクテル等々の様々な酒と、それに合うツマミを取り出してはシュルティスと共に盃を酌み交わした。ちなみにマンガ読んでたお子様2人は眠くなったというので屋敷の一室でぐ~すか寝てるらしい。裏切者どもめ……明日は野菜オンリーの朝飯にしてくれるわ。
「しかし世界は広い。魔族として、始祖龍としてこの世界を長く見て来たつもりでしたが、我々と同じペースで飲み続けられる人間が存在するとは思いませんでしたよ」
「付き合わされる身になって欲しいモンだよ。こちとら用事があって急いでんだよ」
そもそも、ぱぱっと飯を出してさっとここを通り過ぎてアレクセイの元に向かいたかったのに、やれ格式ばったフルコースだやれ酒盛りに付き合えなどと言われ、外はすっかり暗くなってる。一応敵地って事もあって気ぃ張ってっから睡魔はある程度は抑え込めるけど、それでも眠いモンは眠い。
「しかしなぁ。久方ぶりの来客だからもう少し楽しみたいのだよ。おいぼれのささやかな楽しみを奪わんでくれんか」
「急にジジイぶるな。だったらマリアとかアレクセイと飲めよ。同じ魔族だろうが」
マリアはともかくとして、アレクセイとシルルは年齢だけなら立派な大人だし、そいつらを除いたって20評議会ってくらいだからあと16はいるんだ。それ全部がガキか下戸の可能性は限りなくゼロに近い。同じ魔族ってんならそう言った交流をしたっていいはずだと俺は思う。
「それは無理ですよ。現在の魔族領は魔王が存在し、評議会を含めたほとんどの魔族が他種族への侵攻を今か今かと待ち望んでいる連中ばかり。口を開けば面白くもない戦争の話……これでは酒が進まないのですよ」
「という事は、爺さんはマリアとかと同じ派閥の連中って訳か」
「まぁ始祖龍ですからね。全種根絶というのはとても受け入れられな――おっと。これも空ですか」
「本っ当によく飲むな。出しても出しても追い付きゃしない。ちょっとは抑えらんないのか」
「これほど楽しい酒は久しぶりですからね。それに種類も豊富で驚くばかりですよ」
シュルティスは水で薄めるという事をしないし、基本的に一息で一瓶開けてしまう。それをハイペースでやられるとこっちのMP回復速度が追い付かない。だから潤沢に用意してある飯を肴にしているが、そっちもそっちであまり食われると困るんだよなぁ。
「ふあ……っ。さすがにもう無理。とっておきの一本をやるから後は1人で飲んどけ」
「残念ですが仕方ないのでしょう。それにとても興味深いですね。どのようなお酒なのでしょうか」
「ちょっと待ってろ。確か……これだ」
やっぱ酒飲みの性か。異世界に来た上に〈万物創造〉に〈品質改竄〉のコンボ技で色々な酒を調整して様々な種類の酒を創造してきた。
中には俺の口に合わないモンもあるにはあったけど、その中でもとびぬけてアルコール成分がというか酒そのものの定義から外れたようなものがほんの少しあり、今回はその中からドラゴンバッカスという酒を紹介する。
まぁ。といっても一口でぶっ倒れる程の滅茶苦茶な酒ってくらいしか知らないし、アニーの〈鑑定〉ではレベルが足りないらしく詳細までは分からないとの事だが、これであればさすがの爺さんも酔いつぶれるだろう。何せドラゴンと銘打たれてる訳だからな。満足しないわけないだろう。
「エメラルド……酒としては珍しい色ですな。まずは一杯。むっ!? これは強いですな。そちらも一献」
「悪いな。俺がそれを飲むとマジでぶっ倒れんだ。なんでお前ひとりで飲んでくれや」
「ちなみに銘柄を窺っても」
「ドラゴンバッカスだ――っと!?」
銘柄を言い終えるや否や。嫌な予感がして咄嗟に腕をクロスさせた刹那。腕が折れんじゃないかってくらいの半端ない衝撃に、到底踏ん張ってられないほどの暴力的な豪風によって宙に浮き、瞬き1つの間に景色は豪奢な屋敷から荒れ果てた荒野に。
「ふむふむ。なるほどな」
突然の出来事に少し理解が追いつかなかったが、移動しているという事ですぐに〈万能感知〉発動。5割の走力には及ばない物の、まぁまぁの速度で屋敷から遠ざかっている事と、こっちより少し早い速度で巨大な龍が接近している事が分かった。
まぁ間違いなく迫ってくる龍ってのはシュルティスだろうけど、何故にあれほどまでに怒りを纏っているのかが理解出来んな。
そう首を傾げたあたりで大地に着地。2本の線が300メートル程完成した辺りでようやく停止。一応剣を片手に近づいて来る存在を待った。
「今の一撃で絶命していないどころか大した怪我もしていないとはね。どうやら貴女は相当な強さを持っているようだね」
「まぁまぁだよ。んな事よりこりゃ一体どういう事だ。とりあえずあんたが俺に何かしたってので間違いないんだな?」
「ええ……殺すつもりで殴り飛ばしたので」
「何故に?」
ついさっきまで酒を酌み交わしていた。俺は仲良くしたつもりはないが、あちらからは随分と悪くない感情を向けられていたと〈万能感知〉でも確認していた。それが一体全体何がどうなってこうなったのか全く見当がつかない。強いてあげるなら、あの酒を出した瞬間に表情に変化があったなぁって感じたくらいだ。
真っ先に思いつくのは、あれを飲んで黒歴史が生まれてしまったという物だ。
上司に馬鹿な真似をしたか。
それとも女性に醜態をさらしたか。
はたまた実力上位の相手に喧嘩を売ってボコボコにされたか。
まぁ色々な考えが頭をよぎっていくが、どれもこれも他人を殴り殺すという行動に移すまでの代物じゃない。あくまでその判断は俺としての価値観ではあるがな。
「あくまでしらをきりますか。では同胞の恨みを晴らすため、全力で」
言うが早いか。シュルティス顔面が一瞬で目の前まで迫り、なおかつその巨大な口を開けながらともなればマジで殺しに来てるんだろうなってのはちゃんとわかるが、理由もよく分からん上にまだ俺は志半ばどころかスタート地点にすら立っていない。だから死ぬ訳にはいかんのだよ。
「せぇのぉ!」
迫るシュルティスの顎に向かって横薙ぎの一閃。全力ではないがこの巨体でこのスピードだ。相当な力を入れないと当たり負けをしそうなんで〈身体強化〉4割解放して振り抜くと、さすがに微動だにしないってのは無理があったけど、数メートル後退でその軌道を左にズラす事が出来、すぐにもう一撃。今度も4割の力で上段から振り下ろそうとしたが――。
「――――〈大地割動〉」
「危なっ!?」
あと少しという所で大地に亀裂が走り、飛び退くとほぼ同時にそれが大きな断層になって、最終的には鋭い牙が割れた側面に無数に生えそろった口みたいになって、地の底に引きずり込むように消えていった。
あんなのに巻き込まれたら服がヤバい事になっていただろうなぁと思いを馳せながら、次に襲い掛かって来てる大地から伸びる槍を飛んだり跳ねたり斬ったりと回避しつつ、シュルティスの様子をうかがう。近くだと全体像が分かんないから距離を取るが、これがいけなかった。
「〈龍波〉」
ガパッと大口を開けた中から、螺旋を描いた緋色の何かが吐き出された。
サイズは推定で縦横共に2メートルくらい。長さはシュルティス基準で言えばライフル弾くらい。俺基準で言えば樹齢数千年の大木みたいなそれが、真っすぐ向かってくる。
〈万能感知〉の警報はかなりデカく、肌が焼けるような尋常ならざる熱量はさすがに回避しないとヤバい。そう思ってはいるんだが、思った以上に大地から生まれ続ける槍が厄介。まぁ逃がさないためにやってるんだろうから、その辺りはシュルティスの実力が上って事だ。
なんて余計な事を考えているうちに、〈龍波〉が目前に迫る。ここまで来ると避けるという選択肢は何となく無理だと理解できる。
ならばどうするか。受けきるしかあるまい。
幸いにもエリクサーがあれば死にはしないので、取りあえず口の中一杯に詰め込んでから液体窒素をばらまいてみたが、何の効果もなく消し飛んだ。どうやらあの程度じゃ微塵も効果がない様だが落ち込んでられない。どちらかと言えばこっちが本命だからな。
(うなれ神壁っ!)
ちょっと厨二チックな感じに腕を突き出して指を鳴らし、〈万物創造〉でそれを眼前に展開させると一瞬で目の前が真っ白になるも、口の中にため込んでおいたエリクサーが自動で消え去り、それでもなお意識が飛んでいきそうになるので3本一気に押し込むのと同時に〈龍波〉が直撃した。
着弾と同時に音が消え去り、この場を中心とした大地が深々とえぐれて吹き飛ぶ先から、馬鹿みたいな熱量で液体となって周囲を秒単位で地獄にしてゆく。
そうしたころになってようやく、全身に轟音が叩きつけられる。ほんの数10センチ先からのそれはもはや攻撃と同意と言えるほどのもので、反射的に耳を塞いだから良かったものの。一歩遅かったら鼓膜が破裂していたかもなぁとぼんやりと考えながら、それがおさまるのを待ち続けた。




