#174 彼した行為はまさに英断でした
とりあえずユニが興味を持つより先にさっさと会計を済ませてしまおう。あんなものを創造してくれと頼まれた日にはこっちの精神がゴリゴリ削られること請け合いだ。
「じゃあ白金貨1枚貰う事にする」
「それだけで? 拙としては全て差し出しても構わんナリが」
数える必要もないし手間もないからなとは言わない。言ったところでシルルには通じないだろうし、早く帰らせようとする気配を察して同人誌を置いて行くなんて馬鹿な真似をするとも限らんからな。何が悲しく野郎が野郎同士のくんつほぐれつを読まにゃならんのだ。少なくとも俺は断固拒否の構えだ。
「俺も金は有り余ってるからな。それに全部安物だから白金貨1枚でも十分に元は取れてる」
「そうナリか。ところでアスカ氏。メディスに与える輸血パックはどのような手法で作り上げているナリかな? 普通に作るにはこの世界じゃ不可能だと思う故……それが神からもらったスキルの力でござるか?」
「まぁそんなところだ」
どうせ隠したってあたりがついてるみたいだしな。それに魔族にバレたところで他の種族に露見する可能性は低いだろうからな。
「ま、真ナリかっ!? それであればパソコンとプリンターを所望するでござるよっ! 電気を生み出す魔道具はすでに完成してるんで是非にっ!」
「……ちょっと待ってろ」
さすがにパソコンはどうなんだと試しに検索をかけてみると、プリンターも含めてちゃんと創造可能だった。しかしこれを渡してしまうと、シルルによる腐教活動の速度が馬鹿みたいに跳ね上がる可能性が非常に高くなる。何故ならこの世界にはあまりに娯楽という物が少なすぎるからな。
シュエイであれば闘技場や遊園地みたいな施設は存在していたが、あれはあくまであの場でしか楽しめないし、なにより女性向けかと問われると否と答えやすい。
その点で言えば、BLは立派に女性向? って言うのが俺の頭ン中じゃ常識だから、これがこの世界に拡散し、万が一にもコミケ的な催しなんかまで発展した場合。この世界はとんでもなくヤバい方向にねじ曲がってしまう。
「あーなんだ。どうやら今のレベルじゃ作れないらしい。期待に応えらんなくてすまんな」
「本当ナリか? 嘘ついてたりしたら拙は許さないでござるよ」
「代わりにGペンとかスクリーントーンで勘弁してくれ。そっちなら今のレベルだと創造できるんでな」
「うむぅ……拙もこの世界の理を少しは把握してる故。無茶は言えぬナリが、作れるようになった際には是非ともパソコンとプリンターを所望するでござるぅ!!」
ふぅ……これでBL拡散の侵攻は止められないものの、今はその速度を大きく遅らせる事が出来たと納得しよう。
ってな訳で、Gペン各種にインクにスクリーントーンまで、一応最高品質まで引き上げたものを渡すとそれはもう喜んでくれましたとも。何せ使っても減らない魔法のアイテムと化したんだからな。ちなみに値段は白金貨10枚にした。そこに理由はない。
「こんなもんか。じゃあまた用がある時は1週間後の同じ時間帯に来いよ」
「了解ナリ。アスカ氏のおかげでそれはもう死なずに済み申したでござるからな」
「つーか本当にあれしか受け付けないかったのか? だとしたら今までどうやって生きてたんだ?」
これは単純な興味だ。
いくら魔族だとは言っても腹は減る。仙人みたいに霞を食って生きてる訳じゃないんだから動物を狩ったり人間を狩ったりして、吸血鬼であれば血を吸えば事足りるはずだが、シルルは食わず嫌いなのか何なのか知らんがトマトたっぷりのスムージーくらいしか口に出来ないと聞いている。
であれば、約300年間どうやって命を繋いできたというのか。単純に興味が涌いた。
「拙はこうなる為に特定の食物以外から栄養を摂取できぬように制限をかけてもらった故に、アスカ氏よりいただいたこれ以外口に出来ぬナリが、そこは萌えで養分を摂取していたでござるよ」
「萌えって……栄養にならないよな?」
一応萌えの定義は知ってるが、それが何ら栄養を生み出さない事も知ってる。もちろんそれによって気力や活力は得られるんだろうけど、300年の空腹をごまかすには到底足りないはず。
しかし。そんな問いに対して声を大にしたのはメディス。
「何を言うかと思えば……貴様は阿呆か? 萌えは立派なエネルギーとなるのはシルル様の配下の間では常識であるぞ!」
「そうナリよ! 拙はこれのおかげで300年を耐え忍んできたでござる」
「だったら別にスムージーも輸血パックも必要ないか。返せ」
確信を付いた一言に、2人は一斉にそっぽを向きながら差し出した商品をその背に隠した。
「いやいや。さすがに萌えだけではそろそろ限界でござったからなぁ。アスカ氏には非常に感謝してるナリよ。これで4徹5徹くらい乗り切れるナリ」
「萌えで十分と言えど、わらわ等とて時折違った味を口にしたいと思うのも当然の流れ。これはそのための物であるぞ」
「あーそーかい。それじゃあ用件も済んだだろうからさっさと帰れ。こちとら眠いんだよ」
こいつ等が来なければもう少しのんびりしてから寝るつもりだったんだが、まさか取引相手が元日本人で腐ってるなんて夢にも思わなかったからな。こういう手合いの相手は精神的にクる。ハッキリ言えば疲れたんでさっさと寝たい。
「むぅ……さすがにそこまでお邪魔するのも悪いナリな」
「シルル様がそうおっしゃられるのであれば。わらわもこれらを配下の者共に配らねばなりませぬ」
「という事で失礼させてもらうナリ」
「ああ。最後に1ついいか? お前はどこの誰で何歳なんだ?」
「中川亜理紗。17歳でござる」
「それは……おいおいとツッコんだ方がいいのか?」
「にょほ。アスカ氏もそのやりとりを知っているでござるか。であれば拙には不要でござる。では」
と言った感じでシルルとメディスが去って行った方向を一応確認した後。ようやく睡眠に入る事が……ぐぅ。
――――――――――
「ご主人様おなかすいたなの」
「わちも腹ペコなのだ。ごはんとお菓子を作るのだ」
起床一番――と言うか起こされる形で目を覚ますと、アンリエットとマリアの2人が腹が減ったと合唱。思わずぶん殴ってやろうかと思ったが、そう言ったストレスは大抵目覚ましにぶつけると決めてるんで、今日も今日とてフルスイングの一撃をそれに叩きつけて目を覚ます。
「さて。何が食いたいんだ?」
着替えをしながらリクエストを聞き出すと、そこはやはりお子ちゃまって事で甘い物をリクエストされたが、栄養バランスを考えるとそれだけでは駄目なので、野菜もいくつか用意すると当たり前のように嫌な顔をするし時間がかかるんで、今日の所は果物多めのジュースにしよう。
後はユニにもリクエストを聞いてササッと飯を作り、魔族領に向かう。しまったな。マリアがあてにならない以上、シルルにあとどのくらいでアレクセイの研究所だったかの場所を聞いておくんだったな。あの時は腐の匂いが強すぎたし面倒くさかったんでそこまで考えが至らなかったな。
「おはようございます主よ」
「おはようさん。今日は何を食う?」
「それでしたらワタシは肉――それも龍の肉を」
「へいへい。それじゃあ始めるとしますかね」
今日も今日とてなんて事のない一日が始まる。そう思っていたのは果物多めの野菜ジュースを作ってアンリエットたちの所に運ぶと、そこには誰よりも小さい――目算で500のペットボトル程度のサイズでスタイルだけは一人前の小美少女が俺用にと用意しておいたサラダを手掴みでパクついてる光景に遭遇した。
「なんだお前」
「はぐはぐはぐはぐ」
「お前に聞いてんだよ」
気付かせるために後頭部にデコピンをぶちかます。もちろんかなり加減をしたんで、手乗りチビはサラダボウルに上半身を突っ込む程度の衝撃で済んでいる。感謝してほしいくらいだ。
「いったーい! いきなり何すんのよガキンチョ!」
「それは俺の飯だ。勝手に食ってる奴が居たら排除するのは当然の流れだろ。盗人風情が」
「ぬす……っ!? アタシを前によくもそんな事をぬけぬけと……アタシは誰だか分かってんの!」
「だから盗人だろ? 多少チビだが……魔物か?」
「言うに事欠いて魔物ですって? アタシは精霊よ! それも風の大精霊・シルフ様なんだから!!」
どうだと言わんばかりに胸を張る自称風の大精霊シルフ(笑)に対し、俺はへーとだけ口に出し、邪魔なんで空に向かってかなりの力を込めて放り投げてやった。




