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#16 魔法と再戦

「よし。それじゃあ始めるとしますかね」


 という訳でまずは食用油を創造。

 本当ならガソリンとかの方が良かったんだろうが、さすがにそんなモンを口に入れるなんて真似はいくら馬鹿でも出来やしねぇ。ここは我慢するしかない。

 すぐに上部を剣で斬り裂き、魔物に向かって放り投げる。それを何度も何度も繰り返してある程度の数に浴びせたと判断したら、お待ちかねの〈種火シードファイア〉の出番だ。


「〈種火〉」


 そう唱えると同時に、俺の指先に極小の魔法陣が現れ、そこから一センチくらいの小さい火の玉が飛び出した。

 俺の石散弾なんかと比べると格段に遅くはあるけど、狙いは地面だから早かろうが遅かろうが何の問題もない。要は油に火が付くと言う結果があればな。


「「「ギャアアアアアアアアアアアア!!」」」


 種火が地面に触れ、連鎖的に火の手が範囲を広げてゆく。まるで津波の様に徐々に炎が広がっていき魔物の肉体を焼き尽くしながら爆発的に巨大化。月明かりくらいしかなかった薄暗い村が、あっという間に昼間――とまではいかないけど、夕暮れくらいには明るくなると同時に魔物の断末魔が一斉に産声を上げた。

 1匹1匹斬るよりはるかに早く被害を与えることができる反面。死んでいく速度は段違いに遅いが、その効果は絶大と言っていいだろう。

 地面で燃え盛る炎は魔物の足を鈍らせ、全身に炎を纏った魔物は耳障りの悪い絶叫を上げながら必死に炎を振り払おうと暴れ回るが、水がないこんな山奥じゃあその程度で消える訳がない。おまけに叫び声をあげるたびに肺を焼かれ。目玉を焼かれ。逃れられない激痛に暴れ回り、パニックに陥った連中が難を逃れた連中に抱きついたりして二次被害三次被害と毎秒ごとに断末魔のデシベル数が増加する。

 逃げ惑う魔族にそれを追う魔族。何とも阿鼻叫喚な地獄絵図だけども、襲い掛かってきた以上はこっちもそれ相応の態度でもって行動する。罪悪感はないし〈恐怖無効〉のおかげで平然とこの光景を眺めていられる。


「汚物は消毒だ~。なんてね」


 一度くらいリアルに言ってみたかった台詞を言いながら、何のためらいもなく油を追加投入していく。こっちは万が一引火しても〈万能耐性〉があるおかげで、この程度の火力なら火傷もしないので平然と炎の中に突っ込んで魔物にぶっかけ続ける。服なんて後からいくらでも創造すればいいんだからな。

 まぁまぁの数の魔物がいたけど、燃え盛る炎の前にロクな対抗手段を持ち合わせていないうえに、さんざっぱら同士討ちをしてくれたおかげで、300くらいは居た魔物がほんの数分で焼死体となったし、残った飛行タイプの魔物もこの光景を見て完全に戦意を失ったようで空の彼方に飛び去っていった。

 ちょっと魔物が暴れ回りすぎたせいで民家2棟ほど焼いちゃったけど、俺に落ち度は一切ないんで謝るつもりは一切ない。万が一責められたら炎を吐くタイプの奴が出たとでも言っておけば言い逃れできそうだし、建築を手伝ってやれば恩義を感じてくれるかもしれない。遺族の形見の品なんかがあった場合には、駄神に見せてもらったフライング土下座で謝罪するしかない。この身体能力であれば伸身からのC難度くらいの物は余裕のよっちゃんで披露できるはずだ。


「さて……次行ってみよう」


 これだけの惨状を前に突っ込んでくる自殺願望のある魔物はいないだろうけど、念のためにいくらか油をまいてからアニーが担当する東区に向かうために倉をひとっとび。人的被害を考えて、ちゃんと魔物の中心に降り立つことも忘れてない。ちなみに着替えはしているから、露出狂なんて罵られる心配もない。


「アスカ!? 何ちゅうとこから来るんや」

「よう。随分と無茶させたみたいだな」


 先にリリィさんが救援を申し出たから俺を呼べないと判断したのか、こっちの戦況は随分と酷い。

 まず、弓に割り振っていた連中の半分以上が手に木の棒を握りしめて魔物と対峙なきゃならんほど魔元の壮絶な泥仕合をしてたし、鎧を着せた村人はほとんど姿がない。初期メンバーとして残ってるのは、腕っぷしを自慢していた村一番の実力者とアニーだけ。

 事前の取り決めに当てはめるんであれば、これはもう壊滅に近い状況で、即座に俺に知らせ無ければいけない状態。じゃないと死者が出るだろうし、何より倉が破壊されてしまう。

 そうなれば中にいる多くの女性が傷ついてしまうから尽力するってのに、これじゃあ俺の評価が下がるだけじゃねぇか!

 時間的に余裕があれば怒鳴りつけてやりたいところだけど、今は魔物の殲滅をする方を優先させないとな。

 という訳で、西側と同じ要領で魔物の前線を押し返し、油を魔物にぶちまけて〈種火〉でもって着火。こっちはさっきの場所より魔物が密集してたんでより凄惨な地獄絵図になった。これで話をするくらいの尺は稼げるはずだ。


「な、なんやこれ……こないな魔法があるなら最初から使わんかい!」

「いやー。実はついさっき魔法を覚えたばっかりでさ。それより怪我人とかはどうなってんだ」


 最初はおちゃらけて答えしたけど、後半は怒りをわずかに込めている。理由は言わずもがなだ。アニーも十二分に理解しているようで、ビクッと肩を震わせてそっと視線をそらしたが、多少強引だけどジャケットを掴んで強引に視線を合わせる。


「お、大怪我をしたのが……ひ、1人。他は皆軽傷で、蔵ん中で治療の最中や」

「なら事前の取り決め通り何故助けを呼ばなかった。そのせいでそいつが食うに困ったらどうするつもりだ。お前はそいつの人生の責任が負えるのか!!」


 もちろん俺は〈万物創造〉でこの世界の金を創造できるようになってるから、その気になればこの村の住民全員をニートにジョブチェンジさせる事は簡単に出来るが、アニーはほんの数時間前にほぼ全財産をコウモリ野郎に消し炭にされたばっかだから不可能。

 それに、人生80年と換算して死ぬまでにかかる費用は約2億円だったはず。それがこの世界で金貨で何枚になるのか知らんが、右から左にはいどうぞと差し出せる金額じゃない。


「せ、せやけど……」

「まぁ……説教は後だ。お前等はリリィさんとこに向かって「最後」の魔物退治をしとけ。それが終わったら倉に閉じこもって俺がいいというまで絶対に出て来るな」

「あ、アスカはどないすんねん」

「「最後」って言ったろ? ようやく先客が来たみたいでな。そっちを歓迎してやらんといかん」


 俺が明後日の方向に視線を向けるだけでそれが何を意味するのかを理解してくれたようで、即座に村人全員がリリィさんたちのいる北方面へと駆け出して行った。

 さて……これで人払いは完了した。といっても、こんな場所で相手するのは被害が大きすぎるからな。可能な限り遠い場所という事で、村の入り口前で相手を待ち構えていると、1分ほどで空の彼方からコウモリ野郎がやって来た。その顔は驚愕に歪んでいる。てっきり俺が生きてるのを知っていると思っていただけに、これは予期せぬサプライズだ。


「いつまでも魂で満たされないと思い確認に来たのですが、貴様……生きていたのですか」

「いい湯加減だったぞ。さすがに長湯できないだろうけどな。あれで魔物は打ち止めか? だとしたら残念だったな。お前の企みは失敗したよ。何がしたかったの知らんが、俺の邪魔をした時点で失敗は決まっていたようなもんだから気を落とすな」

「よくも我の計画を……殺す!」


 怒りの形相をしたコウモリ野郎が、瞬間移動みたいな動きで俺の眼前にまで迫りながらも魔法みたいな何かを纏った拳を振り抜いて来たんで、それを平然と受け止めてやると、目の前に少し星が散ったのでその正体は雷撃だったらしい。話がしたかったんでわざわざ受け止めたのは失敗だったかね。


「いっ……てぇな。お前の計画なんざ知ったこっちゃない。こっちはせっかく見つけた村でほとぼりが冷めるまでのんびりまったりと暮らし、時々混浴でムフフな時間を過ごす予定なんだ。それをぶち壊そうとするお前は邪魔者でしかない。だからぶっ潰す」


 宣言をしてからその横っ面にパンチを打ち込んで、その勢いのまま地面に叩き付ける。

 もちろん全力って訳じゃない――2割くらいの力で打ち込んだ一撃は、煙のように消えたコウモリ野郎に何のダメージを与える事も出来なかった。


「うん?」

「どこを見ているのですか!」


 背後からの声に振り返りざまの一閃を振り抜いてみたものの。こっちも幻影だったらしくすぐに煙となってどこかへと消えていった。


「フハハハハ! いったいどこに目をつけているのやら」

「これだから下等生物と評するしか出来ないのですよ」

「無能を噛みしめてさっさと死ぬがいいでしょう」


 俺を囲むようにコウモリ野郎が次々と現れた。総数は全部で15体くらいか。どうやらこうして幻影を作り出し、相手を混乱させるのがコイツの戦法という訳か。その自信を張り付けたような笑顔を見ると、当たり前だがむかっ腹が立ってくる。


「やれやれ……この程度で俺を殺せると思っているとはな」


 ま。俺には〈万能感知〉があるから、たとえ億の分身を作り出したところであのコウモリ野郎本体を確実に見抜いてくれるんで、こっちとしては見つける手間が省けて何ら問題ないからな。逆にそれらに何度か攻撃する事で油断を誘う事も出来るはずだしな。


「見えてんだよ。全てなぁ!」

「っな!?」


 そうそう。そういう驚いた顔が見たかったんだよ。その馬鹿みたいに自信満々だった笑みが驚きに変わり、戦闘の真っ最中で敵が眼前に居るって言うのにそんな決定的で馬鹿デカすぎる隙を作るなんて、もはや好きに殺していいよと言ってるようなもんだろ。ありがたくやらせてもらうけどな。


「ドラァ!!」

「っぐ!? なんだと!」


 もう少し堪能しておきたかったけど、こっちもさっさと終わらせたいんでそうも言ってられない。

 瞬時に腰の剣を抜刀しての一閃を振り抜いて、コウモリ野郎の片腕を斬り飛ばす。頭を狙ったんだけど、翼を撃っての高速移動でギリギリ躱されてしまった。運が良いのか勘がいいのか分からんが、どっちにしろバレてしまった。

 ある意味千載一遇のチャンスだったのかもしれないけど、しかし今は……腕を斬り飛ばしたという事実があればそれで充分なくらいにヘイトを稼ぐ事ができる。それは同時に冷静さを奪うって事だろう? クックック。


「こりゃ凄い。本当に素材を良いモンに変えるだけでこうも簡単に斬れるもんなんだな」


 最低限魔族を負傷させる事の出来る銀にミスリルが混じっているからなのか、多少抵抗を強く感じたから恐らく長持ちはしないだろうが問題なく斬れたんならそれでいい。後はあらゆる刀剣類の扱いを極めた体になるスキル〈剣技〉が自然と何とかしてくれる。


「おのれぇ……っ! よくも我の腕を! たかが人族如きがああああああ!」

「人族人族って……魔族如きがいちいちうるさいんだよ」


 振り返りざまに銀礫を投げつけてみると、かすめた脇腹から赤紫色の液体が僅かに噴き出した。どうやら、銀素材であれば何でもダメージを与える事が出来ると思っていいようだ。他の連中に同じ方法は出来ないだろうが、俺にとっては容易い方法だ。


「ぐ……っ!?」


 そうして怯んだところにもう一閃。今度は背中の翼を片方斬り飛ばし、上に逃げられないようにする。こうするだけで戦局は随分と有利になる。


「吼えるばかりで弱いねぇ。魔物よりは頑丈だけど、実力的にはそんな変わんないんじゃないか? それともあれか。我は魔族の中では最弱っ! って奴か?」

「舐めるな小物がぁ!」


 高速移動からのがむしゃらな連打は片腕がないから相当に遅いし避けやすい。意外と頭に血が上りやすい性格みたいだな。少しの挑発でこうなるなら扱いやすくていい。


「いくら吼えようが、攻撃が当たらないんじゃ意味がないって。それに、無様に喚き散らしてるお前の方が、よっぽど小物だろっての。ぷぷぷ~」

「黙れえええええ!」


 斬り飛ばされた腕の出血は止まったけど、再生にはまだまだ時間がかかりそうだ。それに、魔物を生み出したからなのか何なのか知らないけど、これまで一切魔法を使ってくる様子がない。ま。使ったとしてもあれだけの大規模魔法で死ななかったんだから、無駄だと判断したのかもしれないな。

 どっちにしても俺の勝ちは決定的だろうから、さっさとぶっ殺して結界を消し、残った魔物の掃除でも手伝うとしますかね。


「もういいや。さっさと死ね」


 魔族なんてのに利用価値もなさそうだし、生かしておく必要もないだろ。こいつがいる限り、俺もほとぼりが冷めて美女探しの旅としてこの村から出る事も出来ないんだ。まさに百害あって一利なしって事で心臓を一突き。


「が……は!?」

「これで終わり――ん?」


 心臓を貫いたにもかかわらず、血がほとんど出ない?


「……〈包囲(ロック)〉〈掘削(ディグ)〉」


 そんな疑問に首をかしげると同時に、コウモリ野郎が覆いかぶさるように抱き着き魔法を使い、それが何なのかを確認する暇もなく腰まで地面に埋め込まれた。


「かかったな下等生物。魔族の急所はそこではないのですよ」

「そうだったのか。で? ここからどうするつもりだ」


 抱きつかれ、腰まで埋められた程度で俺の手は止まらない。心臓がここじゃないならそれに当たるまで剣を動かし続ければいい。それを可能にするだけの力があるからな。


「もはや勝つ事が叶わん。なれば……我等の脅威となる前に共に涅槃へ連れてゆけばいい」

「っ!?」


 ドロリとした粘着質な声色に背筋を冷たい何かが駆け抜け、〈万能感知〉が警告音を発するのと同時に詠唱が開始された。

 涅槃とは所謂あの世って事だから、このままだとこいつと一緒に三途の川に行く事になるのか。もちろん俺は天国行きに決まってるし、一応草木への転生が確約されている身な訳だけど、やっぱ転生したからにゃ女性の1人でも抱いてから死にたい。

 って事でサクッと残ってる腕を斬り飛ばし――


「……〈死解放(ライフバースト)〉」


 マズイと思った時には目の前が真っ白な閃光に包まれ、爆音と熱波が遅れて俺に襲い掛かった。

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