#172 当薬、口にもの凄く苦し!
「ひうぅ……ぐすっ。もう飲めないのだ」
「まだまだ。何杯でも飲んでやると言ったのはお前だぞ」
「そうだけど、もう無理なのだあああああ!」
そう泣き叫びながら逃げ出そうとするマリアの頭をアイアンクローするかのようにつかんで逃がさず、なおも暴れ回るその耳に決定打の一言を叩きつける。ちなみにこれで25度目だ。
「いいのか? もうお菓子が食えなくなるぞ?」
「悪魔なのだ! アスカはわち等なんかよりよっぽど悪い奴なのだ!」
「最初に持ちかけたのもそれを了承したのもお前だ。自業自得だろうが」
勝負は当然の事ながら俺の勝ち。ダブルスコアなんて生易しいレベルの圧倒的差を見せつけての勝利に、ユニもアンリエットもさすがと褒めたたえて嬉しそうにしてくれている。
そして当然のように罰ゲームが執行された。マリアは当然のように駄々をこねたが、もう菓子売らんぞと言えば非常に簡単に大人しくセンブリ茶を飲ませるに至る訳だが、馬車に揺られながら1時間。ショットグラスになみなみ注いだそれは1割も減ってない。
とりあえず半分飲むまでは逃がさない。なのでユニには多少飛ばすように指示してある。至近距離でのポップに関しては諦める。別に何か商品を積んでる訳でもないし、壊れても新しく創造すればいい。何よりそうなってもここにいる誰も負傷しないから問題なんてどこにも無し。
てなもんで、キビシイ監視の目を少しだけ向けながら主観は新刊ラノベに。〈万物創造〉は週刊雑誌なんかもきちんとそのペースでリストに加わってくれるんで非常に助かる。さすがチート。
そんな感じでマリアの真ん前に陣取っていると、非常に。それはもう非常に機嫌のよさそうなアンリエットがちょい下手なダンスを踊りながら俺等の周りをうろついている。
「くふふ。ご主人様に勝てると思ってる時点でお前は馬鹿なの~」
「うるさいのだ! わちにも勝てないくせにいきがるななのだ!」
「何とでも言うなの~。どうなの? あんなに自信満々に挑んでコテンパンに負けた気分は最高なの?」
「ぐぬぬ……」
「暴れたらマジで菓子食わせないからな。というか、チビチビ舐めてないで一気に飲み込んじまえよ。その方が楽だぞ?」
罰と銘打っているのだから、センブリ茶は当然マリアが求めているような甘い物じゃない。そのくらいの事を理解するだけの頭はあったようで、恐る恐ると言った様子でペロッと舐めて以降。動きは一切ない。
だから当然。アンリエットもそこをついて来る。
「やっぱりお前はお子ちゃまなの。そんな物も飲めないなんて情けないなの~」
「だったらお前は飲めるのだ?」
「あちしはご主人様と勝負なんてしないのなの。だから飲む必要なんてないのなの」
「子供らしいいい訳なのだ。結局は飲めないと言ってるような物なのだ」
「馬鹿にするななのっ! あちしはお前なんかと違ってりっぱなれでぃーなの。ご主人様。あちしもあいつと同じ物を少し多めに寄越すなの!」
「別に構わんが、ちゃんと飲み干せよ? そうしない限りはお菓子も飯も出さないからな?」
基本的にごちゃついてるのは嫌いだし、何より米一粒にも神が宿ってると言うのを聞いてきた日本人として。そして、某忍術学園最強の存在によって何度も聞いてきたセリフ――お残しは許しまへんで! これをこのメンバーにはよく言って聞かせている。
まぁ。基本的に〈料理〉の前に失敗作なんてあり得ないし、事前に苦手な物とかも聞いてるんでそうなった事はほとんどないし、あったとしてもそこは無言の圧力だ。片付かない限り次は出さない。そのあたりは誰が相手だろうと許さないし、俺も最大限守っているのだから罰ゲームと言えど譲らない。
「大丈夫なの。あちしはあーんなお子ちゃまと違ってちゃんと飲めるのなの。だから大丈夫なの」
「あっそ。まぁ飲みたいってなら止めんさ」
ちゃんとそう前置きをしてから、俺はセンブリ茶をなみなみ注いだショットグラス2つを取り出してアンリエットの前に置く。その少し後ろで悪い笑みを浮かべるマリアが何とも印象的だ。きっと計画通りなのだ。とか思ってんだろうなぁ。
後は、しばらくやかましくなりそうだから一足先に読書場所を御者台へと変更するとすぐに背後から悲鳴と高笑いが届けられた。まぁ、暴れるようなら『2人とも』痛い目を見るぞと釘を刺しておいたんでその選択はしないだろう。
「やはり主が居ると、賑やかでありながら規律があります。ワタシも余計な事に意識を向けずに済みそうです」
「……そんな酷かったのか?」
「それはもう。傍から見ていてもアニーの苦労ぶりは可哀想なほどでしたから」
「なるほど。だったらもう少しくらいキツイ罰を選んどきゃ良かったか」
この場合。シナモンスプーンかノニジュースがいい選択か? それともデスソースやハバネロ丸かじりなんて方が2人には丁度良かったのかもな。
――――――――――
北へ北へと向かって数時間。さすがに辺りが暗くなり始めたんで野営の準備をする事にしたんだが、それは後回しにしても問題がなさそうなんでまずはユニの本を創造する事にした。
「こちらは?」
「それは船に関する本だな。主に操縦方法に関する物だ」
「こちらは?」
「それは飛行機――空を飛ぶための物の成り立ちが書かれたもんだ」
まずは〈万物創造〉をユニに見やすいように大きめに起動させ、本の一覧を広げるといつものように目をらんらんと輝かせては今みたいに興味のひかれた表紙を指さしてどんな内容の本なのかを聞いて来るので、俺も簡潔に答えて気に入れば創造。それを大体30分ほど続けて15冊ほどになった頃、1人が馬車から落ちてきた。
「う、うぅ……飲み干した、のだ」
「どれどれ」
地面に伏したままピクリとも動かないマリアを〈万能感知〉で確認。ふむふむ……どうやら嘘は言っていないようで一安心だが、その手にはショットグラスじゃなくて普通のコップが握られている。そうしたのはもちろんこの俺。
理由は単純。事もあろうに中身を捨てて飲んだと言い張ったからだ。
これにはさすがに拳骨を何発も落としたし、キッチリ脅しもかけた。その上でこれを飲めないのであれば菓子も売らんしガン無視するとも告げてある。これでまだワガママを通すようであれば、マジでブチ切れる所だったかもしんないが、その必要なくなったようだな。
「よく頑張ったな。ほれ」
飴と鞭って訳じゃないが、ぐでっとしたままのマリアの口の中にキャラメルを放り込んでやるとすぐに起き上がり、涙をボロボロ流して美味い美味いと味わっている。これで2度と俺の前では食材を無駄にするような真似はしないだろう。調教完了の瞬間だ。
ちなみにアンリエットはどうしたんだろうと馬車を覗いてみると、こっちも机に突っ伏したまま死んだ魚のような眼でセンブリ茶を眺めている。当然のようにその腹からは空腹を訴える音が盛大に鳴り響いているが、その辺も甘やかすつもりは毛頭ない。
という訳なんで、平然と食事の準備に取り掛かる。ちなみにだが周囲に人の気配はない。何故なら魔族領に向かうために最短距離を突き進んでいるため、当然のように大地は舗装なんてされてないから生半可な足回りじゃ踏破できないし、そもそものエンカウント率が桁違いだ。
その点で言えば、俺の馬車はオフロードタイヤにサスペンションなのでビクともしないし強者揃いなので逆に効率が上がるほど。まさに一石二鳥と言えるだろう。
まぁ……唯一のデメリットとしては、魔物と頻繁にエンカウントする事だろうが、1つの例外なくワンパンで粉微塵になるんで危険とは思えない。逆に、食材としてよさそうな奴も向こうからやって来るんで、そうなるともはや一石三鳥だな。
今日の食材はそれらを使った物になる。品質としては当然1段2段落ちるけど、そこは日本の勿体ない精神。なので、これらで料理を作る。
メニューは魔物なんで肉に偏ってる。野菜っぽい奴もいない訳じゃないけど、食えんのかどうかの判断が出来ない。肉系統は街なんかで見たりしたのを覚えてて、ユニに確認を取りながらそれらを解体。豚鳥牛っぽい肉をゲットしたので、代り映えはしないが生姜焼きに親子丼にすき焼きにするか。
「いい匂いなのだ」
「邪魔だから大人しく座ってろ」
「ぶぅ……アスカがジジイみたいにうるさいのだ」
「……そう言えば、俺と別れてからアイツは何してんだ?」
「知らないのだ」
召使い的な役割を担っているであろうあの男――名前は知らんがあいつが来ないな。一度マリアと別れてからそう時間も経たずに戻って来てからずっとここに居てもう1週間。この世界がどれだけ広いのか知らんが、さすがに主人の居場所くらい知らなきゃ不味いんじゃないかと一瞬考えたが、ユニに勝てるくらいの強さにガキ特有の無邪気さ全開であっちこっち飛び回ってると考えているのなら、探すのが難しいか。
「まぁいいか」
こうしてこいつがそばに居ればそのうち近づいて来るだろうし、そうなっても強さはマリア以下という事はすでに分かってるんだ。俺が負ける可能性はゼロに等しい。だったらいつも通りに暮らしていればいい。
米を炊き。
料理を仕上げ。
用意したテーブルに並べる。
最後に申し訳程度のサラダを置けば完成だ。
ほぼ茶色一色でこれぞ男の料理って感じだが、食う連中はこういうのしか好まない。アニーやリリィさんが居れば多少は違うんだろうけど、仕方ない。
「じゅるり……食べていいのだ?」
「少し待ってろ。確認す――」
「あ、あちしも食べるのなの……」
最終確認をしようと馬車に目を向けると、足を撃たれたゾンビみたいな感じでにじり寄って来るアンリエット。その手にはちゃんと空になったショットグラスが2つ握られていた。
「よし。ほんじゃ食うか」
いつも通りいただきますと挨拶すると同時に、飢えた子供が皿を引っ掴んで流し込むように生姜焼きとすき焼きをそれぞれ物の数秒で平らげた。




