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#170 過度な期待はしないで下さい

 という訳で、アレクセイの時のように主従契約を結ぶに至った訳なんだが、それはもう酷い有様だった。特に俺の精神的に。


「ふぅ……マジで助かった」

「うーん。ぼくとしては残念であると同時に喜ばしい事なんだけど、本当によかったのかい?」

「むしろこれ以外ない!」


 あと少し気付くのが遅れていたら俺は契約のせいで手の甲にキスされるところだったんだからな。

 理由はもちろん。ある程度の強制力を得る為だ。

 アレクセイの時は誰も見ていなかったから最下級の契約でパパッと済ませた訳だけど、ここにはアニー達が居るので、ある程度強制力の強い契約にしないと2人が納得しない。

 という訳で、ミューやマリアから契約の度合いと制限させられる行動について説明を受けた結果。俺が妥協できるギリギリが抱き合う――握手よりは強制力の高い肌のふれあいだが、アニー達は手の甲にキスをする中程度の強制力のある物を所望した。

 もちろんそんな事は許されざるものだ。手の甲とは言え何が悲しくて野郎にキスをされにゃならんのだ。中身がおっさんである事はもちろん隠しているので、アニー達は何故そんなにもかたくなに拒否するんだと思うだろう。しかし俺が今男であるとバラす訳にはいかない。言ったところで信じてもらえないだろうし、目の前のミューの病気にエリクサーを使おうというだけでも不穏な空気が漂っているってのに、そこにアレクセイに男に戻る為の研究をしてもらってんだ。なーんて言葉を重ねればマジでどうなるか分からん。もちろんマイナス方向に振り切れるのは間違いない。

 ちなみにこの間。ミューは長時間王都の外から出ると病状が悪化するとの事で、終わったらマリアに迎えに来させてねと言い残して俺とアニーの言い争いが始まった直後に去って行った。危機管理能力の高い奴や。

 平行線を辿る言い争いに終止符がうたれたのは、ユニの何気ない一言だった。


「主よ。契約に遺伝子必要なのもあるので、髪の毛などをあたえればよいのでは?」

「いでんし……ってなんなのだ?」


 おおぅ……ユニさんメッチャ賢い。そう言えば読書が好きって事でありとあらゆる方向の本(エロ関係は除外)を読ませただけあって、遺伝子とかそう言う単語がすらっと出てくるあたりは、本を読ませた価値があるってモンだ。

 こうして。遺伝子を取り込む高難度の契約が結ばれたわけで、ミューは俺の命に従って魔族以外に対する敵対行動はとれなくなってしまったんで、アニー達も納得せざるを得ないだろう。


「さて。それじゃあ飲んでみますかね。一体どうなるのか……楽しみだ」


 こうして実・食っ! と相成った訳で、ミューは何のためらいもなくエリクサーを飲み干すとすぐに全身が淡い光に包まれ――ない?

 いつもならすぐに光に包まれて再生が始まるんだが、今のところは何の変化も見られない。いつもは肉体の再生だったからなのか。それとも効果がなかったのか。こればっかりは本人に聞いてみない事にはわからないな。


「どうなったんだ? 変化はあるのか?」

「……うん。多少は良くなったかな。さすがに全快とまではいかなかったみたいだね」


 はたから見て何が変わったのか分からんが、本人が良くなったと言ってるんだから別にいい。それよりも問題なのは、エリクサーでも完治できなかったその謎病気だ。俺は〈万能耐性〉があるから大丈夫だろうけど、万が一にもアニーやリリィさんなんかが同じモンに感染したら、完治は不可能という事になってしまう。

 もしかしたら初期の内に飲ませれば大丈夫かもしんないけど、こういう場合の楽観視は危険なので最悪のケースを想定としておくが、兎にも角にも情報収集だ。


「一体その病気はなんなんだ?」

「うーん。なにしろ700年も前の事だから詳しくはもう覚えてないけど、その時にこの疫病が世界中で蔓延してね。ぼくもそれに感染しちゃった後に魔族になったからさぁ。もう辛いのなんのって」

「ちょっと待て。お前……そうなる前は人間だったのか?」

「そうだよ? この王都でしがない学者をやっていて、とある遺跡の調査に出かけてた時にその時の魔王に眼鏡イケメンを部下にしないなんてありえないっ! とかなんとか言って無理矢理にね。ま。おかげでこうして生きて研究できてるから感謝してんだけどね~」

「へぇ~。魔王って魔族を生み出せるのかぁ」


 てっきり。某アラン〇ルみたいな強者を喰らってシステムなんじゃないかと思っていたんだけど、まさかの鬼畜戦士仕様とはね。それはそれで構わんのだけど、これってアニー達にとってはかなり重要な情報だよね。


「ちょい待ちぃ! そないな方法やったら魔族がドエライ数生まれるんと違うか!?」

「どうだろうね。わたしの時の魔王はイケメンハーレムのためにとか言ってもの凄い数生み出していたけど、こんな身体だし王都で研究ばっかしてたから、他の魔王がどうしてたかまでは知らないなぁ」

「ほんならマリアは知っとるんやろ。どうなんや?」

「わちも興味ないから詳しく知らんのだ」


 まぁ……ミューはともかくとして、マリアにそう言う情報を求めるのは酷ってモンだ。見た目以上に頭が幼いし、何より興味のある事にしか目を向けないんだ。まんま子供のような生き方をしてきたとありありと分かる存在から、魔族の在り方の根本かも知れない情報が手に入ると思う方が間違っている。やり方ってモンを理解しないと。


「マリア。そう言った情報を他の魔族から怪しまれない程度に入手する事は出来るか?」

「無理なのだ。そう言うむつかしい事はアレグレが管理してて、まおーにも勉強させてるのだ」

「ふむ……そうか」

「あぁ。彼は融通が利かないからねぇ。わたしも苦手な同族の1人だよ」


 まぁ、普通に考えれば無尽蔵ってのは六神が許さんだろう。

 何せ制限がないのであれば、無尽蔵に魔族を生み出し、あっという間に5種族なんて全滅だ――とここまで来れば何が起こるのか分かるだろう? そう。天罰だ。

 一体どんな事が起こるのか知らんが、とにかくヤバい事が起きる。そう捉えればいいか。

 さすがの六神もそこまでされるのは主義に反するだろう。魔族を増やしまくって大陸統一なんて事をしたら、ほどほどに数を減らされて、そこから勇者なり神の啓示也で盛り返させるだろう。

 こう考えると本当に遊び感覚って言葉がしっくりくるが、そんな事情を知る由もないこいつ等に俺の呟きがそこまでの意味になってると思わないだろう。こっちもこれが正解と胸を張って言える訳じゃないからな。


「まぁいい。難しいんであれば何もしなくてもいいぞ」

「ちょ!? ホンマに言ってるんか!」

「さすがに5種族として魔族の情報は欲しいんやけど……」

「仕方ないだろ。コイツだぞ?」


 そう言ってマリアの頭をポンポン撫でる。その行為に対してまぁまぁ嬉しそうに(一部にはドヤ顔)していたが、すぐに飛んできたアンリエットの蹴りをまともにくらい、そこから喧嘩が始まった。

 どう考えても無理だろう? と肩をすくめて見せると、2人も納得したように遠い目をした。なのでこの話はおしまい。次に2人の脳天に拳骨を叩き落としてやった。


「さて。これでミューの件は片付いた訳なんだが、俺達はいつまで待ってたらいいんだ?」


 くだらないような重大なような話が終わり、ミューも久しぶりに研究がはかどるぞーと言って帰ってしまい。残ったのはいつものメンバーな訳で、アニーとリリィさんは王都に向かう気配が全くないまま、折角なんで久しぶりに食事をとなった。もちろん当番は俺だ。


「おかわりなのだ!」

「っ!? あちしももっと食べるのなの!」

「いちいち張り合うな。ったく……」


 そう言いつつもきちんと同じ量のステーキを皿にのせる。ちなみに味付けはお互いにバーベキューソース味と分かりやすい。


「うむむ……やっぱアスカのご飯はメッチャ美味いなぁ」

「ほんまですなぁ。特に出来立てなんが嬉しいですわぁ」

「別に魔法鞄(ストレージバッグ)の物と変わらんだろ」


 あっちにも時間停止の〈付与〉がついてるんだ。作ってすぐ入れたんだから、取りだせば何年経とうが出来立てのままだ。なので2人の言葉に首をかしげるが、1人の方はアスカはん成分の含有量が違いますねやと平然と言ってのけ、もう1人は目の前で出来る工程を見とる方が美味く感じるんやと言った。どっちがどっちなのは言うまでもない。

 そんなやり取りをしつつ、食後のデザートとして納得のいく出来となったスフレを皆で食していると、そこそこの速度で近づいて来る殺気があるので、ユニやアンリエットなんかを宥めつつ仕方なく重い腰を上げて手を突き出すと同時に、目の前に血走った眼を向けるリオンが現れた。

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