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#169 血の雨が降るぜ

 侯爵達は王都に行ってしまったが、アニー達は久しぶりの再会って事で俺と一緒に残るらしいんで、ちゃんと通れるように便宜を図ってもらう事をキッチリ伝言してからお互いの近況報告をする事に。

 まずはアニー達が消費した食料の減り具合の確認と相成った。減り具合で何が人気で何が不人気か。おまけにちゃんと栄養バランスのとれた食事を心がけていたかなどがよく分かるからな。


「おぉう。結構減ったもんだなぁ」


 一応俺が〈魔法鞄(ストレージバッグ)〉制作者だからな。手を突っ込めば中にどんな物がどれだけ入ってるのかが眼前にウィンドウとして出現するようになっている親切設計。これで何が入っていたのかを分からなくても問題ナッシングだが、限界ギリギリまで詰め込んだはずの食料は残量が一割を切っていた。

 ちなみにだが、その総量はおおよそで1000人前くらい。それが一週間足らずで900以上食われるって……正直アンリエットとマリアを舐めてたな。


「アスカがおらんかったからか皆メッチャ食ぅてな。他にも知り合った連中に食わしたりしとったら結構減ってもうて……アカンかったか?」

「うんにゃ。ちゃんと作ってあるから問題ない。それに、商人は繋がりが大事な商売だ。こういうのがその一助になると判断したらドンドン使え。まぁその分色々と都合してもらうけどな」

「そう言うてもろたら助かるわぁ」


 飯なんてのは発想の転換だ。失敗から生まれたもんなんか星の数ほど存在してるんで、いまさらどんな料理を出そうとかまわないとの許可はアニー達からも既に出ているが、現在鞄の中にある料理を余す事無く作れるのは俺だけだ。アニーもたまの食事当番を受け持っているのでレパートリー自体は増えているとはいえ、〈料理〉スキルを持っている俺と違って最高の美食には到達しない。せいぜいが俺の40パーセントくらいだ。低いと思うだろうが、これは駄のつく神から分捕ったそこそこポイントの高いスキルだからな。その分補正が高い。これでもピザを食って死ぬくらい食にはやかましい? 男だ。妥協しないぜ。


「ほんじゃ。また補充しとくぞ」


 一週間の間も、食事当番をしていた訳じゃなくとも料理だけはキッチリ作っていた。ウチにはアンリエットという大食らいに加えて、マリアのために手間のかかるお菓子も切らさぬようにちまちま作っては〈魔法鞄(ストレージバッグ)〉に詰め込んでおいたからな。さすがに満杯になるまでの量は作れなかったが、その分は素材で埋め合わせだ。


「こんなもんだろ。足りなくなったら……さっき渡した金で買うか材料入れてるんで作ってくれ」

「いやいや。こないな大量の料理をウチ等だけで食いきれる訳あれへんやろ」

「……まあ、腐るもんでもないし、なんだったら伝手づくりのために使ったりしたらいい」


 ちゃんと貴族向けにもなるフランス料理なんかも入れておいたからな。から揚げとかハンバーグとかよりよほどそれっぽく見えるだろう。

 なんて話をしていると、王都内から何かがこっちに向かって飛んできたのが見えたので目を向けてみると、学者って感じの風体をした優男が猛スピードで突っ込んで来たんで、敵意は感じらんないけど気持ち悪いんで容赦なくパンチを叩き込んでやった。


「ぶべらっ!?」

「うおっ!?」


 俺としては、見た目が虚弱体質そうだから相当に加減をした一撃だったんだが、それを受けた本人はドン引きするほどの量の血を吐きながら数メートル吹っ飛んだ後、何事もなかったように立ち上がると瞬間移動のような速度でユニに駆け出そうとする姿に、今度は蹴りでも叩き込んでやろうと飛び出すより先に、マリアが上空からそいつを踏みつぶすように落ちてきた。一応王都からそこそこ離れているんで、そこまで大きな騒ぎになる事はない――と思いたい。


「戻ったのだ」

「おかえり。で? これが例の奴か」

「そうなのだ。やはり迷惑をかけていたのだ」


 マリアがため息交じりにそれを持ち上げてみると、さすがに今の一撃が効いたのか気絶していた。既に着ていた服は血で真っ赤に染まってるし、何よりその幸せそうな表情がどことなく気持ち悪かった。

 そんな男に対してマリアが何度か頬に平手打ちを叩きつけるとようやく目を覚ました。


「ハッ!? わたしは・一体・何を」

「わたしは・一体・何をじゃないのだ! お前はすぐに見境がなくなるから嫌いなのだ」

「いやぁ……魔族を簡単にあしらう個体が居ると聞かされたら研究者としては是非とも細胞の提供をしてもらいたいと思うのはもはや性ではなかろうぶはあああああっ!?」

「おいおい大丈夫か?」


 今度は何もしてないのに突然大量に血を吐き出した。どう見ても体積以上の血を吐いているようにしか見えないのに、目の前の男は生きている。いくら魔族だっつってもこの出血量はかなり異常だな。


「心配はいらない。この病気とはすでに700年以上付き合ってるから、もはや吐かないとスッキリしないくらいだからね。それで? 君が勇者以外で魔族を討伐できたという個体だね」

「アスカだ。アンタがミューって魔族で間違いないな?」

「ああ。しかし面白い。普通魔族と知っていれば少しくらいは恐れおののくものだけど、君にはそれが微塵も見られない。よほどの強者か神に選ばれし勇者でない限り、こうは出来ないよ」


 そう言いながらちらりとアニー達に目を向けると、マリア相手ではすでに緊張感の欠片も感じなくなってたが、ミューが訪れてからは表情にわずかながら恐怖の色がうかがえるんだけども、これはこいつがぶっ飛んだ行動をしたからじゃないかと俺は思うんだよなぁ。

 常時平和的な道程だったらしいアニー達の旅も、魔物は当然現れるし俺が大立ち回りで1000以上の騎士を一度殺している事による経験値が大量に流れ込んでいる訳で、レベルも大量に上がっていた。う、羨ましくなんかないんだからねっ!

 で、現在のアニー達のレベルは90を超えている。これがどんなもんかを聞いてみたところ、A級でも一握り――S級に届き得る存在が足を踏み入れるようなレベルに到達していた。俺……23。あんなに殺したのにノーアップでフィニッシュ……はぁ……。


「悪いが俺は勇者じゃないんで、お前をどうこうすつもりもない」

「そうしてくれるとありがたい。何せこんな身体だからね。魔族だからまだ生きてられてるけど、他種族だったら5年でお陀仏だよ」

「そんな重傷なのか。治したいか?」

「え? そりゃあ治したいとは思うけど、出来るのかい?」

「さぁ? とりあえず飲んでみれば分かるだろ」


 取り出したるは伝家の宝刀エリクサー。一応魔族にも効果があるのは確認済みだが、どのレベルの病気まで治すかどうかは知らんので、丁度いい実験体だ。これが成功したところで何かが変わる訳じゃないとしても、恩を売るには違いない。


「これ……いいのかい?」


 どうやら中身が何なのかよく分かっているようで、ミューは片眼鏡を操作しながら驚いたように問いかけて来たから、問題ないとの意味を込めて両手いっぱいのエリクサーを見せつける事で答えとすると、目を丸くした後に血を吐きながら笑い始めた。器用な奴だな。

 が、そんな流れを良しとしない人物がいる。もちろんアニー達だ。


「ちょお待たんかい! 何を魔族にあげようとしとんねん!」

「エリクサーだけど? 駄目か?」

「ダメに決まっとるやろ! 魔族はウチ等5種族の敵なんやで!?」

「でもこいつは、王都に住んでるのに特に被害らしい被害は出してないぞ?」

「そうかも知れんけど……」


 〈万能感知〉で見た限り、もちろん黒いオーラの反応が無数に存在しているとはいえ、魑魅魍魎の巣食う王都の中心部である王宮であろう場所に集中しているんだ。このくらいは普通普通と考えると、ミューは特別悪事を働いてるようには見えないし、大前提として穏健派という肩書を知っているし、万が一性格が豹変したのならそん時は殺ればいい。


「まぁ別に飲まんでもわたしは構わんよ? 別に死ぬ訳じゃないし」

「いいや飲んでもらう。お前は大事な実験体だからな」


 ここを譲るつもりはない。多少強引で好感度が下がろうとも諦めるつもりはない。貴重な実験サンプルだからな。特に意味はないかも知れんが、いざって時に何が起こるか分からんからな。物は試しってのが案外重要だったりする。


「あはは。君はそういう事をハッキリ言うんだね。好感が持てるよ」

「野郎相手だからな。これがアニー達なら濁すさ。あと男に好かれるのは気持ち悪い」

「わちもなのだ?」

「お前は守備範囲外だから言う」

「守備範囲ってなんなのだ? わちと戦うのだ?」

「女として見てないって事だよ。ガキ」

「むきーっ! わちはりっぱなれでぃーなのだ!」

「はいはい」


 マリアを適当にあしらいつつ、アニー達に目を向ける。


「悪いがこれは決定事項だ。気に入らないとしても受け入れてもらう」

「……はぁ、別に今更アスカが何しようと構へんねんけど、さすがに理由くらいは言うてもええんと違うか? さすがにはいそうですかと言われへんわ」

「アスカはんが魔族に勝てるくらい強ぉお人や言う事を知ってるんやけど、あて等にとっては脅威が増えるんは困ります」


 うーむ。どうにも納得させるに足るファクターが足りないか。それなら問答無用で勝手をできない状況に持っていけるようにするしかない。


「じゃあ……主従契約すっか。お前は受けるか?」

「ぼくは構わないよ。これの効果も確かめてみたいからね。クフフ……久しぶりの興奮材料だからね。主従契約ぐらい受け入れるよ。おっと失礼」


 事の他あっさりと受け入れたなぁ。どうやらエリクサーの効能を試したくてうずうずしているみたいで、今はそれ以外の事はどうでもいいと言った感じだが言質は取ったんで、さっさと始めるとしますか。

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