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#168 媚びぬ!媚びぬ!媚びぬうううううっ!

「ったく。1人一個までだよ」

「あうぅ……痛いなの」

「何でわちまで殴るのだ」

「張り合った罰だ。ったく……で? どれにすんだ」

「うにゅぅ……この黄色いのがいいなの」


 目に涙をたっぷりと浮かべながらも自分の欲しいのはちゃんと手に入れる。アンリエットもしっかりして来たねぇ。

 後の残りはいつものように〈収納宮殿〉にでもしまっておくかと手を伸ばすより先に、アニーとリリィさんが素早く数個手に取り〈鑑定〉。そこまで怪しまんでも何も付与はしてないって。そっちのにはな。


「こっちのには何も付与されとらんみたいやからとりあえず大丈夫みたいやな。なぁアスカ。これ売ってもええか?」

「別に構わんが……売れんのか? 普通の紐で作った何の変哲もない腕飾りだぞ?」


 素材自体も七色蜘蛛っつーザコ魔物(俺基準)じゃなくて、さらに弱い岩鳶羊の毛を染色して使ってるから防御面に期待は持てないし、俺的にはファッション関係として売り出したところで大して売れないとしか思えないが、アニーとしては問題ないようで――任しとき! と言って全て袋に入れてしまった。


「さて。とりあえずこっち用事が済んだから次はそっちだな」


 くるっとルクレールの方に目を向けると、おっかなびっくりと言った様子で馭者席に座りつつユニをじーっと眺めていたが、当の本人は残り少ない読書に花を咲かせている。


「ルクレールだったな。あんたはこの後どうするんだ?」

「え? えと……王都に足を運びますが」

「ならついでに一緒に行くか? 丁度侯爵の護衛をしててな。多分だが煩わしい門前の検査がグッと楽になると思うぞ」


 一応ルクレールもどこぞのお貴族様か大店の商人の娘だろうけど、着の身着のままでここまでやって来たんだ。一応一目でエエトコの娘ってのは分かるけど、どこの誰さんってところまで絞ろうとするのは、門番には酷ってモンだろ。

 簡単に言えば、私はどこの誰ですって証拠を提示しなきゃなんない。大抵の場合はそう言う証拠足り得る馬車がその枠割を果たすんだろうが、生憎とそれは車軸からへし折れて使い物にならないんで燃やしてしまった。そうしないとそれを悪用される危険があるからと、ルクレール側からたっての願いで俺がやってやった。

 つまり。絶賛ルクレールは身元不明のただの少女でしかない。あの魔王(絶世のイケメン)が来れば状況は好転するだろうが、それを待ってやるほど俺はお人よしじゃない。依頼は王都までの護衛だからすでに達成しているしな。

 そこで登場するのがマリュー侯爵だ。こっちは事前に準備の余念がないくらいに準備しているので、例え馬車が侯爵由来の物じゃなくても、きちんと身分を証明する家紋的な物は携帯しているし、王都からの手紙を提示すれば確認くらいはしてくれる。そこに娘です的な感じでルクレールを紹介すれば、きっとおとがめはないだろう。何しろ相手は侯爵。一兵士が口を挟むなんてとてもとても。


「では、お願いしてもよろしいでしょうか」

「うし。ほいだば侯爵のトコに事情説明に行くとするか」


 仕事人間って程根を詰め過ぎる性格じゃないけど、侯爵はあれで若くして領地を経営していかなきゃなんないんだ。ここまでの道すがら、ほんの1・2度くらいだったけどアンリエットなんかとも遊戯に興じたりしてくれた以外は、そのほとんどを馬車内の執務室で過ごしている。

 なのでノックをするとすぐに中から反応があり、アクセルさんが顔をのぞかせた。


「おお! アスカ殿ではないですか。お久しぶりですね」

「久しぶりです。色々と侯爵に話したい事があるんですけど、今って大丈夫ですか?」

「構いませんよ。ちょうど休憩にしようと思っていたところなの……で」


 さらに奥からニコニコ笑顔の公爵が顔をのぞかせたが、何故がそれが凍り付いた。


「あら。マリューではありませんか。確か父上のお話だと謁見はもう少し先と聞いていたのだけど」

「ん? 知り合いなのか?」

「え、ええ。小さい頃から何度か顔を合わせています」

「小さい頃って……今も十分に――」

「うふふ。その先は口にしない方がお利口さんですよ。わたくし、とても気にしているの」

「す、スミマセンデシタ」


 怖ぁ……。何ちゅう迫力だよ。マジで心臓握り潰されたかと思ったくらいだ。というかチビを気にしてるって、ルクレールは見た目俺より少し若いくらいにしか見えんし、まだまだ成長の余地は十分にあると思うから、そこまで気にする必要はないんじゃないかと考える今日この頃。

 そんな死の匂いを猛烈に感じたやり取りを終えた頃ようやく侯爵が再起動した刹那――片膝をついて額を床に擦りつけん勢いでこうべを垂れたのを見て、アクセルさんも遅れて同じ動きをした。もちろん俺はそんな事はしない。


「お、お久しぶりにございます。姫。私のような若輩者の顔を覚えていただけているとは」


 まさかの姫かぁ。それにしては随分と健康そうだ。確か浄化魔法ってので王都内は悪い菌はもちろんいい菌まで死滅させる場所と聞いている。そんな場所に生まれれば病原菌に対する耐性なんて皆無のはずだというのに、ルクレールは〈万能感知〉の点から見ても何の問題もない。

 というか一体全体あんなところで何をしてたんだろうな。


「貴女は優秀ですから。それで、どうしてこんなにも早く、しかもこのような少数で?」

「はっ。それはそこにおりますアスカさんの助けを借りたのです。彼女のおかげで我が領からここ王都まで10日ほどで到着いたしました」

「まぁ……それほどなのですか」

「別に大した事じゃない。普通に走ってたらその期間で着いただけだからな」


 事実。走ってたのはユニだし、俺は経験値を稼ぐために作業のように近づく魔物を倒しただけだ。それもユニの足なら十分に逃げられるから、本来なら必要のない事。つまりは全部ユニのおかげだ。


「アスカ殿っ!」

「ひ、姫殿下相手に何たる態度……」

「俺は貴族とか王家とかがあんま好きじゃなくてな。だから口調も変えるつもりはないぞ?」

「別に構いません。アスカ様が居なければわたくしはすでにここに立てておりませんから」

「じゃあ様ってのも止めてくれ。俺はただの旅人だからかしこまられるほどの立場にいないんでね。こっちもルクレールって呼ぶしおあいこだ」


 侯爵からおあいこな訳ないでしょうって訴える視線が飛んできたが、俺は意に介さない。

 だって姫だろうが貴族だろうが俺の人生には何の関係もないから。命を狙われたってまず死なないし、国境を封鎖しようがその全域を警戒できるほど技術も発達していない。そもそも変装すれば済むから意味がない。


「分かりました。ではアスカの言葉に甘え、マリューと共に王都へと戻る事にします」

「はい……はい!?」

「あぁ。ここに来たのはその事を言いに来たんだよ」


 ここでようやく訪れた内容を話し出す事が出来た。面倒なんで魔物に襲われてたのを助けて連れて来たってくらいの簡単な説明だったけど、ちょいちょいルクレールが口を挟む。あれはブルー・ゴブリンで迷宮都市中層で一番危険な魔物だとか。レオンはわたくしの親衛騎士で一番の実力者だとか余計な事をペラペラと喋るんでいちいち時間がかかってしゃーない。


「まぁそんな訳なんで、ルクレールも一緒に王都の中に連れて行ってもらっていいかね」

「私は構いません。というか断ったら首が物理的に飛ぶので断れませんよ」

「あっそ。じゃあ俺はまた適当に旅をするから、仕事頑張って」

「アスカは王都に入らないのですか?」

「入ってたまるかっての。病気になりたくないんでね」


 〈万能耐性〉の前にちゃちな魔法なんて通用しないけど、王都入りを断るに十分な口実だ。すでに王都から出ると病気になるなんて話が広がってるんだ。身体が資本の冒険者ともなれば避けたりするのもうなずける理由たりえるだろう? 商人なんかは金もうけという観点で言えば行かない訳にはいかないが、俺は違うんで断る理由としては十分だ。


「そう。また会えますか?」

「王都から浄化魔法が消えたならな」

「むぅ……それは無理って事じゃないですか」

「はっはっは。まぁそういう事だ。貴族や王族とは深くかかわりたくないんでね。もう会う事もないだろうからサヨナラだ」


 魔王が見れば即刻剣を抜いて来るだろうが、生憎とあのノロマはまだ〈万能感知〉にも引っかからない。侯爵とかアニー達が若干引いた眼をしてるけど、さんざっぱら俺という人間を見て生きたからな。取り立てて慌てるような真似はしなかった。

 そんなやり取りを最後に、ルクレールは侯爵と共に王都へと消えていった。

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