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#166 旅は道ずれ世は情け。但し美人に限る!

 シュエイでの用事がようやく終わり、俺は全速力――だと地面がえぐれて美人さんや可愛い娘ちゃんに迷惑がかかるんで、普段人が通らないような悪路を最短距離で突き進んでいた。

 待ち合わせ時間を正確にすり合わせた訳じゃないんで、最悪の場合は35時59分に到着しても約束の日だろうと押し通せるかもしんないけど、当然ながら門は閉まってるだろうからそうはイカの沖漬けな訳で、理想としては王都の門が開けられる少し前くらいに到着して、「ごめーん。まったー?」「いいや。俺も今来たところだよ」……うーん。改めて想像してみるとなんと胸糞悪くて羞恥プレイな事か。脳内でとどめておいてよかった。

 それに。今はもうじき昼になろうとしているところだから、門はすでに開いてるからもうできないのさ。なので運が良かったとも言える。

 そんな事を考えながら走り続け、別に1食抜いた程度ですぐさま栄養失調になるような事はないけど、もう1人――いや2人の同行者に関してはそうもいかないらしい。その内の1人がわずかに速度を上げて俺の隣に並ぶ。


「小娘。そろそろ休憩をしても良い頃合だ。足を止めろ」


 並び走るのは、一見すると簡素な鎧にしか見えない革の胸当てを身に着け、腰にはボロボロの鞘に多少見栄えのする剣を差しているそれはそれはこの世のすべての親類一同の憎悪を1点に集約したように見事な魔王(絶世のイケメン)だ。正直、世界中からこいつの面をオカルトもビックリのモノにしてやれと言う怨嗟の声が大合唱で届けられている気がするのを必死て押しとどめている。

 何故と言われれば、もう1人の比較的裕福そうな美少女をお姫様抱っこで抱えているからだ。こんな美少女にそんなグロ映像をお見せする訳にはいかんからな。我慢我慢。


 ――――――――――


 事の始まりは3時間ほど前。俺は王都に向かって街道を少しだけ外れた場所を、大地を少し陥没させながら駆けていた。

 その道中にする事といえば、やはりお互いの近況報告だろって訳なんで久しぶりにパーティーチャットを開いてアニーとの会話を楽しんでいた


『ホンマにやってもうたんか? やっぱアスカはおかしすぎやろ』

『って言われてもなぁ。出来たんだからいいだろ。それよりもそっちはどうだったんだ?』

『ん……まぁ、ぼちぼち問題はあったんやけど、結果として何とかなったわ』


 アニーが言うには、2つの村を通過したらしいんだけど、そこでマリアとアンリエット。それにリリィさんまでが色々と厄介ごとに首を突っ込んで色々とやらかしてしまったらしい。

 とりあえず死者は出ていないとの事だったが、建物等は何軒か崩壊させてしまったとの事なので、再会したらしっかりと罰を与えねばならん。その辺はしっかりと約束を守れなかったマリアとアンリエットが悪いのだからしゃーない。

 そんな他愛ない会話をしつつ一人旅のつまらなさを解消していると、〈万能感知〉が毎度おなじみ魔物の反応を検知。ちなみに今は半径1キロ程度に抑えているんで、僅かに悲鳴のような物や金属同士がぶつかり合う音なんかが聞こえる。

 本当に王都に近づくにつれて魔物の数が減ってんのかと疑いたくなるようなエンカウント率だな。聖水とか振り撒いて歩けば少しはマシになるか? もちろん普通の意味での聖水だぞ。

 なーんて予防線を張りながら、一応美少女か美人さんじゃないかの確認をするために現場に駆け付けてみると、そこに居たのは世界中の嫉妬と憎悪を集約したような魔王と、メリーレベルの美少女が、20ほどの青い肌のゴブリン的な奴に囲まれていたんで速攻で助けてやった。もちろん好感度稼ぎの為以外の何物でもない。

 まったく歯ごたえのない青ゴブに無双をかまして危機から救った結果。王都までの護衛を頼まれてしまった。

 何か面倒くさそうな気配をひしひしと感じていたが、周囲には車輪の砕けた豪勢な馬車と10数人の護衛らしき人間の死体が転がっているんじゃあやらない訳にはいかないよなぁ。美少女を見殺しにするのはポリシーに反する。ま。さすがにエリクサーを振る舞うなんて真似はしない。万が一アニーにそれがバレたらどんな目に合うか……ガクガクブルブル。

 という訳で、美少女・ルクレールの心が落ち着くまで少し休憩をしてから、王都に向けて駆け出して今に至ると言う訳である。


「何言ってんだ。さっき休んだばっかだろ」


 死体広がる現場での休憩はさすがにマズいんで、5分ほど進んだ場所で10分程度の短い休憩をしてからまだ3時間しか経っていない。こちとら急いでるんだから少しくらいこっちに合わせろよと言いたい。もちろんルクレールからの要請だったなら速攻で休憩に入る。


「しかしだな――」

「レオン。わたくしは平気です。それよりも、一刻も早く王都に帰って父上にこの事を報告するのが最優先ではありませんか?」

「……差し出がましい真似をして申し訳ございません」


 ほれみろ。あれだけ豪華そうな馬車と護衛が居たから、ルクレールはそこそこ偉い貴族みたいだが、キチンと物事の優先順位ってのが理解できているようでしっかりしているって言うのに、この魔王は甘やかし過ぎなんだよな。

 という訳なんで、最短距離を突き進み、時折飛び出してくる魔物に対しては蹴り一発で済ませつつ、レオンの速度に合わせて淡々と突き進む事さらに1時間。そこそこ生い茂った森を抜けて見晴らしのいい草原にでたので軽く休憩をする事にした。アニー達にも少し遅れる旨を連絡しないとな。


「さて。この辺で少し休憩するか」

「そうか。ではルクレール様……こちらにどうぞ」


 そう言ってカバンから取り出したのは、何とも値の張りそうな椅子。それにティーセットだ。どうやらあの鞄は魔法鞄(ストレージバッグ)だったようだ。まぁ……見た目金持ちの貴族っぽいから持ってて当然か。


「アスカさんもいかがですか?」

「いや。俺は少し用があるんで少し離れます。その位の時間1人で護る位訳ないよなぁ?」

「当然だ。これだけ見晴らしがいいのなら、魔物が迫るより前に討伐・逃走が可能だ」


 本来なら2つ返事で対面に腰を下ろしたいところだが、アニーを待たせたらそれはもう怖いので、きちんと連絡をしておかないとね。なにしろ憧れの王都なのだから。それを邪魔する者はデストロイ! とか言いかねん。


『あーもしもし。アニー』

『聞こえとるでー。なんかあったみたいやったけど大丈夫やったんか?』

『走ってる途中でなかなかの美少女が魔物の襲撃を受けててよぉ。流れで護衛をする事になったから合流が遅れそうなんで、ユニとアンリエット達を残して先に入っても構わんぞって連絡だ』


 俺は王都に入るつもりは微塵もない。事前の話では王都に到着した時点で依頼完了となるんだけど、マリュー侯爵の計らいで入る事が許可されるらしいので、そうすればまた離れ離れになり。それらが終われば、オレゴン村に帰って混浴。もちろんギック市のギルマスを半殺しにしてから、ニートって港町に向かう予定だ。

 だから、別に俺を待たなくても問題ない。聞けばアニー達はすでに王都が見える位置にまで来ているんだから、この依頼の最優先事項は侯爵を時間厳守で王都に送り届ける事。ま。正確な日時を言うならば、後2週間も余裕があるので別にそれまで待っていてもいいが、そこは人種の中心地だ。色々と楽しみたいのであれば早ければ早いほどそれらに対する時間が取れる。

 女性という存在の買い物に対する時間の感覚というのは精神と時〇部屋並に男と感覚がズレまくってるからな。どれだけの規模か知らんけど、到底足りると思っていないんで、後が怖いからそれらの邪魔をするつもりは毛頭ないんとそう言ったんだけど、アニーの方からは妙にバツが悪そうな空気を感じた。


『マリアが……王都に入る言うてきかんのや』

『あー……』


 地面に寝転がり、手足をばたつかせて駄々をこねる映像が鮮明に脳裏に浮かび上がる。

 ちなみにそうしたらどうなるのかを聞いてみたところ、人族の要所なのだからある程度の魔物に対する防御結界が展開しているらしく、マリアがそんなものに触れれば結果は言わずもがな。速攻で砕けて王都大混乱だ。

 今は俺に相談して決めるという事で何とか大人しくさせているらしいが、あまり遅くなるようなら少し危ないかも知れないとの事。そう聞かされるとさすがにのんびりする訳にはいかないよなぁ。


『せやからなるべく急いでくれへんかな。ウチ等じゃさすがに止められへんのやからな』

『わーったよ。なるべく急ぐ』


 こうしちゃいらんないな。という訳でさっさとパーティーチャットを切ってルクレールの元へと急ぐ。すると相手側もその気配を感じ取ったのは不思議そうに首を傾げた。


「どうかしましたか?」

「悪いね。仲間に急用ができて急がなきゃなんなくなったんでそろそろ休憩を打ち切る」

「そうですか。レオン」

「……かしこまりました」


 なんで主人がここまで理解が早いのに、従者は不満そうなんだろうな。一発くらい張り倒して――いや、もっといい方法があるな。


「さて。今言ったように俺は急いでいる。しかしそっちにペース――歩調を合わしてたんじゃ夜になっちまうんで、悪いが2人とも担がせてもらうが問題ないな?」


 こんな事を言えばレオンが口を挟まない訳がない。それが狙いなんで願ったりかなったりだ。


「舐めないでもらおうか。これでも1人の剣士として血の滲むような研鑽をつんで来たつもりだ。いくら旅の者だろうと小娘。侮辱と取らせてもらうがいいか?」

「構わんよ。王都まで俺を見失わずに追従できたら公衆の面前で土下座してやるよ。逆に出来なかったら、毛と言う毛を一本残らず剃り落としてもらおうか」

「意味の分からん提案だが、その程度の事であれば問題ない」

「じゃあスタート」


 という訳で速攻駆けだす。

 これで追いついてこれなければ、みすみす見知らぬ旅人に箱入り――かどうかは知らんが大切なお嬢様を誘拐されると同等の出来事になってしまうんだ。そりゃあもう後々の事なんて度外視のスピードで俺の後ろを追従する。

 しかし。こんなのはほんの序の口。一歩地を蹴るごとに速度を増していき、10もギアを上げた頃には馬の全力疾走よりはるかに早くなっているので徐々に離され始めるも、俺は最初からノロマだと言外にだが伝えた。見た目で相手を侮ったあの魔王が悪い。ストレス解消も含めてさらにスピードを上げ、1時間ほどでアニー達の元にまでたどり着く事が出来ましたとさ。

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