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#164 あ、これにてぇ……一件っ、落ぅ着ぅ

「ふぁ~あ。やぁっと終わったか」


 スピード違反と恐れられた俺の速読で、あっという間に分厚いで有名なラノベ数冊を読み終えてようやく辺り一帯が静かになった。

 味方にも少なくない被害が出たようだけども、そこはポーションなんかで回復できる領域を脱していないのでエリクサーの出番はないし、あったとしても今回は俺がかかわっている訳じゃないんで、きちんと正当な対価を支払ってもらわなくては差し出すつもりはない。相手が赤や黄色であればなおさらだ。


「じゃ。後は伯爵を殺すだけだろうから、ボク等も行くよ~」


 勝鬨の声はこの場に居ればどこにでも届く。遠くの方でわずかに戦意を残していた騎士も、突入班の勝利の旨を告げる声に完全に沈黙した。これならここを放っておいても暴れたりしないだろう。何しろそいつらの手には騎士団長連中であろう首が掲げられてるし、目の前の連中も抵抗できる状況じゃない。

 おまけに俺という存在が居る限り、数は力とならないとまざまざと見せつけられたんだ。ここで向かってくるようならただのバカだろ。


「待て! なぜ伯爵を狙うんじゃ。伯爵は類稀なる治世の才の持ち主。このシュエイの繁栄を破壊してよいと本気で思っておるのか貴様は!」

「治世の才の持ち主ねぇ……スラム街区の実態を知って言ってんのか?」

「当然じゃろう。あそこに住まうは罪を犯した過去を持つ存在が暮らす場所。いくら死のうとその血が入っておる限りは、子だろうが孫だろうが生きる価値など存在せぬ」

「なるほど。それがお前の掲げる理想論か。ハッ! クソだな」

「なっ!? なんじゃとぉ……っ」

「考えても見ろ。罪ってのはなんだ? 誰が決めた。そして何のためにある」

「決まっておろう。罪は悪しき事。決めたのは偉大なる神であり制度を確立したのは我等が王。そして秩序ある暮らしを形作るにはそれらを裁く我等が必要なのじゃ!」

「おぅおぅ。大したセリフだねぇ。おっさん。七大罪って知ってるか?」

「七大罪? なんじゃそれは」

「俺の住んでた国――まぁ正確には違うんだけど、この際それでいいや。そこでは人が生きるにあたって犯しやすい罪の総称だ。かみ砕くと、食いすぎ。ヤりすぎ。持ちすぎ。怠けすぎ。怒りすぎ。見栄張りすぎ。見下しすぎ。ざっとこんな所だ。おっさんはその中で見下し――傲慢の罪に該当する。つまりは罪人って訳だ。あれあれぇ? それじゃあおっさんも罪人じゃないかぁ」

「何を馬鹿な事を。この街の罪を決めるは伯爵かわしの裁可じゃ。そんな事が罪になる訳がなかろう」

「やれやれ。おっさんはアホだな。この罪は人が生きるにあたってと言ったんだぞ? つまりはこの罪状を決めたのは一体誰になるのかなぁ?」


 正確には教会の人間だけど、この世界でそんな事を知る人間はまずいないんで問題ない。ようは根源的な事柄に対しての決め事を誰が作ったかと聞いているんだ。人の考えが及ばない存在が制定したって考えるのも仕方ないんじゃないかな?

 予想通り。おっさんが絶句している。ここで他の国の神が作ったなど信じんわい! とでも言ってくるかと思ったけど、ことのほかあっさりと受け入れられたな。それだけ信心深いって事か。


「分かったなら残念だ。まさか君も同じ穴の狢だったなんてね。いやはや無知とは恐ろしい。明日からはおじさんも晴れてスラムの住人だね。ボクからおめでとうと言っておくよ」


 さて。おっさんとの話もこれまでにしておかないとな。一応伯爵の殺害許可は出しておいたけど、それを公にするのは禁止してある。奴は公衆の面前できちんと死んでもらわんといけないんだからな。

 という訳で、がっくりとうなだれるおっさんを無視して跳躍。リューリューを投げ込んだ穴に飛び込んで着地。広がっている光景は激戦の跡がうかがえる。


「メリーさんでしたか。そちらは大丈夫でしたね?」

「当然。それよりもそっちの具合はどうなの? 満足のいく結果になった?」

「ええもちろん。多少てこずりはしましたが、我々に味方する騎士団長がこちらに配置されていたのは運が良かったと言えるでしょう」

「そうかい。そんじゃあ伯爵んトコに案内して」

「こちらです」


 ニールさん先導のもと。伯爵邸を突き進む。

 既にそこかしこがボロボロなんで見栄えもクソもないけど、きっと豪華絢爛だったんだろうなぁって面影は少し残っている。趣味じゃないんで特筆するつもりはない。

 そんな感じでたどり着いたのは玉座らしき場所。そこではすでに主要メンバーが到着していたけど、まだ奴を殺してはいなかったようで、しかも玉座みたいな場所でふんぞり返った格好のまま平然としている。よくあんな態度を許してるな。何考えてんだ?


「あれ? こんなとこでボーっと突っ立って何してんの?」

「メリーが来るまで取っておいたのよ――と言いたいところだけど、実は手を出せなくて困っていたところなの。何とかしてくれないかしら?」

「何とかって言われてもねぇ」


 見た感じ、普通に椅子にふんぞり返ってるだけなんだけどなぁ。とりあえず近づいてみるか。


「ほぉ? 次は貴様が挑むというか。愚かな事だ」

「ふえ? 挑むってなにさ。おじさんがユーゴ伯爵で間違いなの?」

「その通りだ。偉大なる王に仕えし存在であるストヴァリ・ランド・ヴィ・ユーゴとはこのワタシの事だ」


 うん。ちゃんと〈万能感知〉でも嘘をついてる様子はないから本人で間違いはないみたいだな。とりあえず何言ってんのか分かんないんで、さっさと罪を白状させてから公衆の面前で勇者にぶっ殺させないと。


「ぶわっ!? な、なんだぁ?」


 この状況でふんぞり返ってるっつー気に入らない態度を後悔させてやろうと突っ込んだんだが、何か見えない壁みたいなのにぶつかった。しかし、特に身体に不調は感じない。ちなみに伯爵までの距離は10メートルくらい。どうやらこいつ等が足止めを食っているのはこの見えない壁が原因か。

 そして、伯爵が挑むとぬかした原因がこれって訳か。大した自信ぶりだが、この俺を前にそんな態度がいつまで取っていられるかなっと!


「メリー!?」

「ククク。どうやら貴様もこの壁を砕けぬようだな」

「そうみたい」


 一応。立ちはだかる何かが壊れた時の事を考えて伯爵に直撃しないルートを通過するように斬撃を叩きつけたんだが、結果はアダマンタイトの剣が根元からへし折れて運悪く右肩に深々と突き刺さってしまった。


「おいおい。大丈夫なのかテメェ」

「大した怪我じゃない」


 派手に血が流れているように見えるけど、HP的には1割も減っていない。すぐに引っこ抜いてそこにポーションをぶっかけるだけで元通りだ。


「これがおじさんの自信の源か。確かに脅威だけど、いつまでも続けられるの?」

「当然だろう。この力は絶対である。たとえ魔族だろうと決して破る事は叶わん!」

「そうなのかぁ。だったら、自分から解除したくなるようにしよう」

「馬鹿か貴様? その様に愚かな事をこのワタシが実行すると本気でぐっはああああああああ!!」


 確かに防御としては今までで一番だ。もしかしたらあの仮面連中とタメ張るくらいかもしれんが、こっちは人外であるアイツらと違ってちゃんとした生物なのだ。生命を維持するために栄養と水分。それに空気が必要不可欠。

 こっちの声が聞こえてあっちの声が聞こえる時点で、空気の出入りはきちんとできてる。なれば、物理的な攻撃じゃなくて精神にクる攻撃――ありとあらゆる激臭を放つ化合物や食材などを見えない壁に貼り付けるようにばら撒き、魔法を使える奴には風魔法でこっちに臭いが来ないように調整してもらう事はもちろん忘れない。


「……長く辛く、キビシイ戦いだった」

「何格好つけて終わった感出してんのよ!」

「くさやに臭豆腐にシュルストまで……何であんなもんを持ってんだテメェ」

「レナお姉ちゃんにもらったの。最初はビックリしたけど慣れると美味しくてね」

「マジかよ。凄ぇなテメェ」

「……あんだけ死闘を繰り広げた結末がこれかよ」

「しまらない最後だね。兄さん」


 黄色の言葉通りだとは思うが、俺としては別に方法なんてなんだっていいじゃないかと思う人間だ。まさに勝てば官軍。ズルい・卑怯など準備を怠ったクズの言い訳に過ぎぬ。

 第一。そもそも攻撃が通じないんだ。それならこういった明後日の方向からのアプローチをするしかない。

 結果としてそれが見事にハマり。ついでに意識を失ったそばから唐辛子と言った喉を焼く匂いを撒き散らして等々を繰り返す事三日三晩。ようやく防御壁が綺麗さっぱりなくなり、伯爵の捕縛と相成った。

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