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#163 分別の必要ナシって楽だよねぇ。異世界だから問題ナシ

 さて。これで俺のお仕事は完了。後は負けようが何しようが手を出すつもりはない。だって面倒だもの。


「よし。とりあえずこっちはひと段落付いたから、リューリューを元の場所まで送ってあげるよ」


 確か……あの穴から飛んできたんだよな。

 角度と力加減を調節して、ゆっくりと歩き出し、徐々にスピードを――


「え? え? ちょ!?」

「せぇ……のっ!」

「きゃあああああああああああ!」


 軽い踏み込みとほとんど力の入れてないスローイングで、リューリューはそこそこの速度で開けられた穴に向かってすっ飛んでいった。少しジャイロ回転を加えようかなーなんてよぎったものの、止めておこうと判断。


「うん。完璧だね」


 一応エリクサーをひと吹きしておいたんで、怪我の具合は何も問題はなくなった。あとはのんびりまったりと伯爵が討ち取られるまで読書に興じようと思っていたのに、また面倒そうな乱入者がやって来たよ。


「……」


 俺が飛び込んだ時にあけた穴から落下するように降り立ったのは、あの時片腕を貰ったおっさん団長だ。この短い間に随分と雰囲気が変わったよなぁ。元々頭のネジの2・3本ぶっ飛んではいたけど、それを隠すように飄々とした空気を纏っていたと記憶してたが、今は見る影もないほどに落ち着いているというか根暗っぽくなってる。あれが本来の性格か?

 表情は無に近いし、目の色も黒を混ぜ込んだみたいに濁ってる。それに何より斬り飛ばしたはずの腕のほうに新たに黒い手甲を装備してる。あれが原因か? だとしたらどうやって付けたんだ? しかも見た事もない鎧も着てるし、まぁどうでもいっか。


「ら、ランドルヴ団長だ!」

「序列1位のランドルヴ団長ならさすがに……」

「どうだろうな。あの小娘の戦いぶりを見ただろう? 5人が束になっても敵わなかったんだぜ?」

「馬鹿野郎! 我々が団長達を見限ってどうする! 貴様等それでも騎士か!」


 おうおう。随分と熱がこもり始めたじゃねぇか。これはかなり厄介な事になるかもしれないが、おっさんはいまだにそれらの声援に反応する事無く、ただゆっくりと俺に近づいてくるだけだ。


「へぇ……おじさんも団長さんなんだ。皆に期待されてるって事は、強いんだよね?」

「……」


 反応はナシ。挑発したんだから少しくらい眉を動かしたりしてくれてもいいのに、ノリの悪いおっさんだ――なんておちゃらけていられる空気じゃないみたいだな。

 一歩一歩近づいて来る度に、〈万能感知〉から届けられる警告音の上がり方が半端ない。正直聴覚障害になるんじゃないかってくらいうるさいんで設定を変更する。こうすると相手の脅威度がどの程度なのか分かんなくなるが、既にあのハンマーがかなりの脅威となりえるとのお墨付きをいただいてるんだ。必要ない。


「話し合いで解決――と言う感じじゃないみたいだねぇ」


 登場した時点から会話ができるような空気じゃない。というか、伯爵邸からやって来たにしては何故突入組が無事なんだろうな。まかりなりにも序列1位で、使用武器も他の連中と比べても明らかに別格だ。正直言って、あんなんで攻撃されればオリハルコンだろうとヒヒイロカネだろうと消し飛ぶんじゃないのかな? やった事ないから知らんけど。

 とにかく。それだけ常人の領域では規格外のおっさんがあそこにいて、どうしてリューリューを始めとした連中が無事なのか。確か味方が2人くらいいるとか言ってたな。それか? だとしたら俺の情報も入ってるよな。武装して対峙するのは筋が通らない。

 とても気になるとはいえ、まずは会話ができるくらいにもっていかないとなんないな――って訳で先手必勝っ!


「っ!?」

「おあ?」


 電光石火の突撃からの斬撃――天駆ける程じゃないけどまぁまぁの威力を込めた一撃を放ちかけた俺に対し、おっさんはそれに反応してから負けず劣らずの速度で手甲をつけた腕を突き出すような正拳突きを放ってきた。

 うん? と疑問に思う。おっさんはすでに肩にあのハンマーを担いでいるにもかかわらず何故拳なのか。しかも切り飛ばしたはずの腕の方で。

 そんな疑問を感じる行動を取ったから、嫌な予感がして咄嗟に横っ飛びでそれを避けてみた。

 結果だけを伝えるのであれば、俺の背後からおよそ100メートルくらいまでの場所が一瞬で整地された。兵も木々も建物もすべてが一瞬で消え去り、残ったのはただただ平らな地面だけ。こりゃまたえらいことになっちまったなぁおい。

 さすがにあんな威力の一撃を放つおっさん相手に真正面から素直に戦うのが面倒なんで、ここは有象無象を背にして撃たせないようにするのが得策かなっと。


「……」

「ふーん。随分と容赦のない判断を下すんだね」


 どうやら味方なんてお構いなしらしいな。ゆっくりとした動きで再び正拳突きを放とうとしているんで、速攻でそのどてっぱらを蹴り上げ、おっさんを宙に浮かせて体勢を崩しはしたけど、その威力はいつもの十分の一以下程度しか伝わらなかった。

 何故かって? それは蹴りを打ち込んだ瞬間に靴がきれいさっぱり消え去ったからだよ! なんだよなんだよ。見た目普通の甲冑姿にしか見えないってのに、どれもこれも〈物質消去〉付きかよ。マジで序列1位だけは別格だなオイ。


「っぐ……は」

「やっと喋ったね」

「……」

「まただんまり。なら……饒舌になるまで暴行しよう――とその前に」


 取りあえず生半可な装備は一瞬で消し飛ぶ。それ自体は特に問題がないどころか、色々とテンションに任せて創造しまくっていた表に出せないものを処分する絶好の機会だ。これを使わない手はない。万が一必要になったらすでに作れる状態だし、何の問題もないんで元気なうちに比較的ヤバい部類から消してもらおう。

 そんな訳で、永遠に日の目を見る事がなかったであろうオリハルコンやヒヒイロカネ。さらにはそれらを合成・研究のトライアンドエラーを繰り返して作り上げた合金で作ってみた武具の数々。俺としては金稼ぎになると思っての親切心で差し出したって言うのに、アニーは駄目だという。なので処分処分じゃああああああああ!!


「ほらほらほらほらぁ! もっと消して消して消して!」


 殴る蹴るの暴行を加えながらも、時々放たれる正拳突きやハンマーの一振りなんかに対して、使う予定のない鎧などの防具一式を並べて綺麗に処分させる。

 普通であれば、こんな馬鹿にしたような戦闘は相手の怒りを買ってすぐに止めてしまうんだけど、どうやらあのおっさんはそういう感覚を失っているのか微塵も気にせず拳打を振り抜いたりハンマーを叩きつけたりしている。


 ―――――4分後―――――


「ふぅ……ようやく少し身軽なったかな。さぁ、まだまだ打ってこぉい」


 こっちはまだまだ処分しておきたい装備類がごまんとあるんだ。いくら65535種のアイテムを65535個収納できると言っても、こうも考えなしに作ってたんじゃ容量の空きがなくなってくるってモンだ。せめて50パーセントくらいは常に余裕を持っておきたいんで、あと15パーセントくらいは処分の手伝いをして欲しいというのに、おっさんは顔を青白くさせてぜいぜいと呼吸を荒くしている。

 ここで、俺のあまりの美少女過ぎる容姿に興奮したのかこのロリコンっ! なーんて冗談を言ってみるのも一興なんだけど、相手は物言わぬおっさん。おもしろくもなんともない。


「ありゃ? もう終わりか。こっちはまだまだ処分したい物が山積みだから、元気になれるオクスリをおじさんにあげちゃうよ」


 某アンパン投げの名手のごとく、エリクサー入りポーションを投げつける。原液でないとはいえ、その回復力はそこそこ高いので、ゴミ処理――ゲフンゲフン。スタミナにMPを回復するには十分だろう。

 もちろん。こんな敵からの施しを受けるなんて末代までの恥だと思う人間もいるだろう。事実。おっさんの表情がわずかに苦虫をかみつぶしたようなものに変わっているような気がしないでもないけど、猛然と襲い掛かって来るんだからきっと気のせいだろう。


 ―――――さらに4分―――――


「うんうん。ようやくスッキリした。ありがとうねおじさん」

「小娘ぇ……よくもわしの武人として誇りを……」


 大量にあった死蔵品の数々は、エリクサーと〈物質消去〉のおかげで随分と無くなってくれた。

 結果として、オリハルコンだろうがヒヒイロカネだろうが特殊合金であろうが、なんもかんも触れれば一切の例外なく消し飛ぶ。

 そしてそれを発現させる際。消し飛ばす物体の品質が高けりゃ高いほど時間がかかり、MPの消費がデカいってのも何となく分かった。おかげでエリクサー入りポーションを何度も投げつけたんで、今のおっさんは全身ずぶ濡れであるのと同時に、エリクサー成分のおかげで正気? を取り戻していた。


「だったらをこの瓶を避けないとダメじゃん。そんな事も出来ないのにこっちに文句を言うのは筋違いだとボクは思うなぁ。それと君達は武具に頼りすぎだよ。それって呪われてるんでしょ? 自分の力じゃない物の力を借りるってどうなの?」


 何となくの流れで捕縛した団長連中から聞き出したんだが、シュエイの騎士団長が身に付ける武具の数々は、程度の差はあれど1つの例外なく呪われてて、それを屈服させるのが理想らしいが序列会の連中ともなるとそれも難しいらしい。

 そんな装備の中でもおっさん団長の奴は飛び切りヤバいらしく、ああやってフル装備で屈服させた奴はいまだ存在しないらしく、ハンマー1つだけでも完全に支配下に置いたのは史上初との事。だから全体的に見て明らかに1人だけ歳食ってんだな。全員見た訳じゃないけど。


「HAHAHA。それを言われてしまえば言葉がないNA」

「マジ鬼畜だし。あのガキ……人の皮かぶった悪魔だし」

「しかし我等が未熟であったのもまたしかりじゃて。よもやかように幼き少女に歯が立たぬとは……いやはや、武の道に終わりはないのじゃな」

「あの若さと可愛らしさ……末恐ろしいわぁん」


 団長連中もすっかり戦意を無くしてるし、おっさんの武器一式もこれが終われば返してやると言ってちゃんと回収済みだから、また暴れるような事もなくなった。これでようやくのんびりゆったり出来るってモンだ。

 それから26分。のんびりゆったりとした時間を過ごしていると、ようやくリューリュー達の方からの音も止み、革命はこちらの勝利で終了したようだ。

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