#162 信じるか信じないかはお前達次第だぞ
「……それっ!」
「いやぁんっ!」
「HAHAHA~。やるNE」
「むぅ……っ」
体を慣らす事に尽力して10分。ようやくガーバーの繰り出す重力と無重力の感覚にも慣れ始めたんで、本腰を入れて刈り取るとしますかね。
「残念だけど時間切れだよ。ここから先……今以上に神経を研ぎ澄ませて一瞬も気を抜かい事をオススメするよ。そうすれば、きっと死ぬ事くらいは避けられるだろうからさ」
そう告げながら、まずは豚のわき腹を大きくえぐり取るも、そこに悲鳴はない。
漫画とかを見ていて時々思う。豚のような人間が何故騎士だなんだのと肉体労働を強いられる機関に所属しているのか。普通に考えれば、激しい訓練で筋肉は十分なくらいに尽くし、運動って観点で見ればこれ以上に無いダイエットの場のはずなのに、これでもかってくらいに脂肪が乗っている。
俺の〈身体強化〉みたいなスキルを持ってるなら納得できなくもないが、こいつの動き遅ぇ遅ぇ。そんな恩恵ないのが丸わかり。余裕綽々で打撃・斬撃を叩き込みまくれた。
だがしか~し! まともに斬撃も打撃も通らなかった。普通に考えておかしいってんで、肉体を抉り取ってみた。をやってみた所、これがまさかの衣類だった。2割とは言え〈身体強化〉を使った攻撃を防ぐとんでもない衝撃吸収性を考えると、間違いなくこの肉体はこいつの専用装備。
そのとんでもない防御力は厄介だが、排除は出来る。ならばとりあえず全部むしり取ってやれば、無力化するのはそう難しい事じゃない。
えぐり取った肉片を〈収納宮殿〉に押し込みながら次々に千切り取ると、あっという間に豚みたいに肥え太っていた体形の中から、細身のお友達が現れた。
「何てことDA。こんな事GA……」
「まずは1人」
後は仕上げとして、〈剣技〉をフルに生かした光速の斬撃で唐竹割りにしてやると、今度はちゃんと攻撃が通ったし、比較的透明度の高い鮮血がちゃんと噴き出して〈万能感知〉からも反応が一つ消えた。
「む……っ。ブロンコもああなっては形無しじゃな」
「マジで~!? あの豚死んじゃった訳。それってマジヤバくね?」
「構わぬ。ロクに訓練もせず武具に頼る事しかしなかった報いじゃて」
「そう言うお前さんは、ちゃんと訓練してたのかな?」
「ぬかせ小娘が!」
という訳で次は、序列2位の槍使いか。
攻撃を受け止めたた際の威力はそこそこ。連打は極上という結果は得られた。特にハリネズミみたいに一瞬で100に迫る突きが叩きつけられるのは相当な脅威といえるだろう。もちろん普通の人間ならと注釈しておく。
俺は普通の人間じゃないんでね。一度見てしまった以上は脅威足り得ない。
「ほ。ほ。ほっと」
「な……っ!?」
「うっそ!? なんであーしの攻撃喰らっておきながらそんな動き出る訳。マジ意味不なんですけど!」
「さっき言ったじゃん。時間切れだって。慣れちゃったんだよね~」
すくい上げるように槍をはじき飛ばし、がら空きになった胴に向かって一閃。序列2位とかぬかしてたから鎧もドエライ性能を秘めてんのかなぁと思っていただけに拍子抜けだ。これで2人目。こっちは寸前に峰打ちにしてあるので殺したりはしない。だって……女の子だもんっ!
「あらぁん。さすがにここまで来ると笑えなくなってくるわねぇん」
「そうかなぁ? 最後まで笑って死んでいく方が幸せだとボクは思うよ」
次はオカマでも狙うかと剣を振り抜くも、今まで等間隔で訪れていた重力と無重力が高速で、しかもその度合いがより強力になっている。無重力の度に股間がふわっとするのは遊園地以来だ。そのせいで空振ったし、オカマの一発に横っ面をぶん殴られて少しだけ体勢が崩れた。
「あはんっ。やっぱり若いコの肉の感触は素晴らしいわねぇん」
「むぐ……っ。さっきよりキツイ。まだ上があったなんてね」
「こっからマジで行かせてもらうし。もうまともに動けると思わない方がいいし」
「確かに――と言いたいところだけど」
いくら高速で入れ替わると言っても常人の領域を出ている訳じゃない。100分の1秒とかのレベルだったなら多少厄介だったかもしんないけど、10分の1秒レベルでの変化は十分に対処可能なのだから。
「2種類しか変化がないようじゃ、ボクには何の意味もないよ」
これが10とか20なんて種類の異常だったならまた苦戦はしただろうけど、重いと軽いだけじゃあ〈身体強化〉の敵じゃないんだなぁこれが。
「なっ!?」
「させないわよぉん!」
重力がかかった状態で踏み込み、軽くなった瞬間に飛び出す。するとまたすぐに重くなるが、それがブレーキの役割をはたして急速停止。また軽くなった瞬間に、ガーバーに向かって斬撃を叩きつけかけたところを、オカマによって邪魔をされる。
どうやら相当に頑丈なようで、その頑強な筋肉美に深い傷を与える程度しか刃が通らなかった。予定では四肢を切り刻むはずだったんだがな。まぁいいか。どうせ今の連閃で動きは完全に封じたんだ。死んじゃいないが戦闘継続は難しいって事でこれで3人目っと。
「殺すっ!」
「そう言えば残ってたんだっけか。いいよ。相手してあげる」
背後からの猛攻に対し、振り向く事もせずに往なし。弾き。回避する。やはり序列が低いと与えられる武具の異常度も低いみたいで、こいつのは変わり身の術みたいのが相当数使えるって事だけだ。まぁ、その数ってのが数百回あるみたいなんだけど、その効果範囲はせいぜいが5メートルと非常に狭い。なので〈万能感知〉をフル活用して、次から次へと殺しまくって身代わりを消費。リスポーンしたところをさらに即殺。これを何度も何度も繰り返し、時々ガーバーの邪魔との折り合いが悪く手こずる場面もあったけど、たまに門を守る連中の手助けをしたりしながら一方的な蹂躙を20分も続けていれば、自ずと騎士団長以外は戦意を喪失するし、その当人達も決して敵わぬ相手だと悟ったようで、今やわずかに浮遊感が残ってるくらいで障害となるものは何もない。
「さて。これで身動きは出来ないだろうから、通してもらおうかね」
死んだ騎士団長達はエリクサーで生き返らせ、戸惑っている間にオリハルコンとヒヒイロカネで創造したワイヤーロープで縛り付けるのに案外時間を食ったが、これで生半可な人間は脱出する事なんてできないだろう。有象無象共もこれを機に一斉に降参の空気が広がったようで、次々に武器を捨てて戦意を失っていくのが〈万能感知〉で確認できる。
後はリューリュー達に任せて、俺はのんびりゆったりと待機させてもらいますかね。
「メリーさんっ!」
「あ?」
一瞬。完全に電池を切ってボーっとしていたせいか、飛び込んで来た何かに対する反応が数舜だけ遅れたけど、十分に避けるだけの猶予はあったし何より危険な物じゃなかったんで普通に受け止めてやった。もちろんお姫様抱っこになるようにというおまけ付きでだ。
「ありがと。受け止めてくれて助かったわ」
「随分と派手な登場をするもんだねぇ。ついさっき全員1回殺して捕縛したから良かったけど、おかげでせっかく引き受けた囮役が水の泡になるところだったじゃん」
5対1とか超面倒だから、可能な限り短時間で終わらせたつもりだったけど、あとほんの10数秒遅かったら俺が囮であると看破され、騎士の大部分がそっちに向かって行っていたかもしれなかった。意外とギリギリのタイミングだった。
「もう終わったの!? 負けるとは思ってなかったけどちょっと早すぎない?」
「ザコばっかりだったからそんなに時間掛かんないって。それよりも、リューリューこそこんな場所まで吹っ飛ばされるなんて怪我とか大丈夫? もしかしてそっちは全滅しちゃったとか?」
「そんな訳ないでしょう。単純に避け損なった魔法で吹き飛ばされただけよ。にしてもこの防具凄いわね。あれだけの魔法を受けて吹っ飛ぶだけだなんてどれだけ凄い素材使ってるのよ」
「たっくさんあるからいちいち覚えてないよ。それよりも、まだ戦ってるって事は伯爵のトコにはたどり着けてないの? 遅くない?」
「ま、まだに決まってるでしょう! あんな化け物達を相手にたった1人でこんな短時間で決着をつけるメリーがおかしいのよ!」
まぁそんなすぐに成功するなんて、俺も最初から思ってなかったけどな。それにしてもリューリューの俺に対する評価がどんどんと変な方向に向かっている気がする。
一応イメージでは、無気力ではあるが信頼できる絶対的な強者って感じを目標にしていたんだけど、今じゃアニー達みたいに常識知らずの子供を扱うみたいな感じに見える。だからおっさん、ちょっとオコ。
「ま。ボクは世界最強と驕るつもりはないけど、そこそこ強い自覚はあるからね。それよりもさっさと戻ったほうがいいよ。1人減ると、その分の負担が増えて全滅の可能性が増えるからね」
「手伝ってくれないのかしら?」
「立場を入れ替えれる自信があるなら別にいいけど、出来る?」
この場に居る全員がすでに戦意喪失しているとはいえ、その数はいまだ数千規模も残っている。そんな奴等の前から俺が居なくなったとしたら、チャンスと見て反旗を翻す奴が出て来るかもしれない。そうなった時、人海戦術に押しつぶされない殲滅速度と、積み上がる死体の処理が出来なければ折角の苦労が台無しになる。
そう言う意味を込めての質問に対し、リューリューは彼我の戦力差を速攻で把握。どうだと聞く間もなく首を横に振った。
「やっぱりメリーは異常ね。もはやS級冒険者を超えるレベルなんじゃないかしら?」
「ふーん。となると、やっぱ勇者ってのは大した事ないんだな」
「そうね。勇者も戦線に加わって騎士団長を撃退してくれると思ったけど、案外接戦で期待ハズレよ。ニールも貴女に騙されたって怒ってたわ」
「召喚されて間もないからレベルが低かったみたいだね。じゃあすぐに送り届けてあげる」
「……えーっと。それ、全員にする訳? というか何の効果があるのよ」
「まぁ隊長クラスまでかな。色々と不都合が起きる前にこうして呪いをかけておけば、それだけ面倒が減るから」
俺が今やっているのは、何の意味もない額を指で小突くという行為。普通に考えれば痛みも何もないこんな事をされても全員が何してんだと首をかしげるだろうけど、ここ剣と魔法の世界。呪いなんかも当然のように存在している。
高速移動の額突きを、偉そうで保身に走りそうなクズ騎士っぽい連中数百人に叩きつけ、拡声器片手に〈収納宮殿〉から吐き出した死体の山の上に降り立ち宣言する。
「今ボクは、君等に呪いをかけた。効力はボクという存在の一定以上の情報開示の制限。名前はもちろん、戦闘スタイルやスキル。もちろん容姿も吐くなよ。そんな事をしたら――」
デモンストレーション代わりに美容師がカットの練習なんかで使う首だけ人形を創造。遠くから見ればそれっぽく見えるそれを、内部に爆竹を仕込むと言う秘密の方法で爆散。周囲に動揺が駆け抜ける。
「こうなる。ちなみにこれは一蓮托生なんで、誰かがバラしたらボクに額を押された全員が連帯責任で今のと同じようになるんで、お金に目がくらんだりする部下が居ないように、額を押された人達は、頑張って目を光らせておくんだね」
よし。これで釘刺しは十分だろ。本当は何の意味もないけど、こんなのを見せられて我が身大事系のクズ上司連中は必至になるだろう。クックック。




