#161 BOSS? ラッシュ
~とある騎士の呟き~
「今に思い返してもマジで震えあがりますね。正直言って、なんでこうして話が出来てんのか全く分かんないっすよ」
そう笑いながら、男はティーカップを傾ける。甘党なようでその中には溶け切っていない砂糖が底にゴッソリと溜まっていて、インタビューをしている女性はわずかに眉間にしわを寄せつつも質問を続ける。
「あの革命において、誰よりも活躍したのが年端もいかない少女と聞いたんですが、真実でしょうか?」
「そうそう。1人の女の子っすよ。それが最初の内は普通の棒を持っていたんすけど、途中からお城の支柱みたいにでっかいのを振り回し始めたんすよ。それでオイラ達を雑草みたいに薙ぎ払って……そんな化け物相手に足止めなんてロクに出来る訳ないじゃないっすか」
そう告げる男に対し、現場を見ていない大抵のインタビュアーはこう思うだろう。あぁ……こいつもやっぱりおかしくなってたんだと。
しかし彼女はその情報こそ欲していた物だ。
彼女は新聞社の人間であり、今追い求めているのは数か月前に起きた雷光革命と呼ばれている出来事に関しての物だ。
それは、長きにわたって魔族の侵攻を防いできたと言われているシュエイが、一日も経たずに陥落したというもので、インタビュアーはこの都市に暮らす人間としてそんな事は到底受け入れられなかった。
実行者の中には勇者が居たという情報ももちろん入手しているとはいえ、取材を申し込んで突っ込んだ質問をした結果。12騎士序列一位ランドルヴを倒すに至らないと判断し、方々手を尽くしてようやく1人の存在に行き着いた。それがこの兵士の語る通称天使様だ。
曰く。少女はこの世の物とは思えないほどの美少女でありながら、12騎士全てを一刀のもとに薙ぎ払うほどの圧倒的な存在。まさしく過去に存在していたと言われる天使と呼ぶにふさわしい強さでもって伯爵と12騎士団を粉砕。シュエイを陥落させた――と。
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そして。少し先の未来でそんな風に呼ばれる事になると知る由もないアスカ本人は、お構いなしに暴れ回っていた。
「うわはははははははは! どけどけどけどけぇ!」
一度やってみたかったんだよなぁ。無双の呂〇のように武器を振り回して敵をなぎ倒すって事を! ここまで気分爽快だったなんて、やってみなくちゃ分かんないもんだよなぁ。
そしてそれを実現させるためには、今まで使ってたひょろ長い奴じゃゲームみたいに一気に吹っ飛ばないんで、速攻で創造。完成したのはオリハルコン電柱(ノックバックLv1付与)だ。やっぱ派手に吹っ飛んでくれた方がよりゲームっぽく見えるかもなんて目論見は見事成功。少し触れるだけで人が面白いように吹っ飛んでは物言わぬ肉塊へと変化する。
このくらいの大暴れになると、さすがに遠くで我関せずって感じの騎士達がざわつき始める。
当然だ。密集陣形で逃げ場がないこの状況で、何かが味方を吹っ飛ばしながら猛然と近づいて来るんだからな。これで恐怖しなかったら相当な自信家かアホの子くらいだろう。
という訳なんで、騎士団長を刈り取る為に縦横無尽に走り回り、邪魔な死体は〈収納宮殿〉に取り込んで通路を確保。すると5分くらいである程度自由に動き回れるくらいのスペースが完成した。つまり。誰もビビって俺に近づいてこなくなった事を示してる。
「ヘイヘイヘイ。どうしたよ有象無象の騎士共。この超美少女1人に手も足も出ないって、お前等ちょいとたるみすぎんでないかい?」
ま。そんなのはこの都市に入る前から分かりきってたんだ。ロクな訓練風景もなく、昼間から酒をかっくらい。スラム街区の状況の改善もしない。完全にぬるま湯に浸かりきって胡坐をかいていた代償がこうして回って来たに過ぎない。まぁ? たとえ訓練していたとしても俺には敵わんだろうけどね~。
……さて。これだけ煽り、ステージまで用意してやったにもかかわらず騎士団長の1人すら現れない。そろそろマジでイライラしてきたな。今なら俺に恐れおののいてるっぽいから、この輪が縮まるわずかな間に引っ張って来れるか?
「メリーさんっ!」
「わーってるよ」
ようやくお出ましだ。それにしてもひぃ……ふぅ……みぃ……全部で5人か。いっぺんに潰せると考えよう。そうじゃないと面倒臭さに逃げ出したくなる。
「HAHAHA。賊にしては随分とプリティNE。ミーの妻になるに十分な資格アリYO。どうかNE」
「うっざ。あんた自分の容姿知らないの? 肉デヴが妻とかマジウケルンデスケド~」
「仕方なかろう。男とはかくも愚かでわらわのような至上の存在である女を性のはけ口としか認識しておらんのだからな。これで騎士団長の1人など聞いて呆れるわのぉ」
「そうよねぇん。アタクシも男なんて汗臭ぁいし脂っぽいから嫌いだわねぇん」
「……殺す」
「「「……」」」
な、なんとも個性的なメンバーがそろったもんだな。伯爵邸から俺を吹っ飛ばした魔法使いは底意地の悪そうな笑みを浮かべたエルフ野郎だった。
ちなみに右から3メートルくらいの豚人間。
金髪黒肌のギャル風狐女性。
ロリ体形で年寄り口調の大剣使い。
短髪マッチョのオカマ格闘家。
それと、異様に長い腕を引きずるように歩くみすぼらしい格好の龍族少年の計5人。一応〈万能感知〉でもなかなかに厄介だぞと警告音を発しているが、見た感じはまだそれほど脅威の気配は感じない。取りあえずは確認が先だ。
「君達が騎士団長と言う事でいいの?」
「HAHAHA。当然じゃないKA。ミーは序列7位〈大雪山〉のブロンコ・イベリーだYO」
「あ~しは~序列5位〈蝶艶〉のガーバー・ビチコック。伯爵に逆らうとかマジ信じらんないって感じ」
「アタクシは序列6位〈舞踏華〉のミランダ・サーよぉん。お嬢ちゃんお肌綺麗ねぇ」
「序列2位〈不動閃光〉のラギルヴ・スンじゃ」
「11位……アギト」
ありがたい自己紹介を受け取り、俺はうんうんと納得する。取りあえず全員集合してくれたのは厄介この上ないけど、ここでこいつらをまとめて狩れれば士気はストップ安になること請け合い。となれば戦うっきゃないでしょって事で、オリハルコン電柱をしまって身の丈に合った使いやすいヒヒイロ剣を取り出して構える。
「やっと出てきてくれた。この後に伯爵殺害が残ってるからパパッと終わらせるからあんまり抵抗しないでくれると嬉しいなぁ」
「面白い事を言うじゃないKA。ユーみたいなBABYにミー達を倒せるTO?」
「伯爵殺すとか超ウケんですけど~」
「アタクシも冗談は好きだどぉん……面白くないわねぇん」
「ほっほ。小娘がぬかすではないか」
「命令……成功させる」
うむうむ。どうやらみんなやる気になってくれて、おっさんは嬉しいよ。当然男連中はアウトオブ眼中なんで即殺。女性メンバーであるガーバーとラギルヴは殺しはしないでおく。綺麗ではあるんだがちょっとおっさんにはシンドイ物件だ。ちなみに、オカマはどれだけ綺麗で女性と見分けがつかないレベルであろうとも、男扱いなのは俺の中では常識。
という訳でまずは小手調べ。一番序列の低いアギトなる腕の長い少年に向かって駆け出し、電光石火の一閃をお見舞いすると、ことのほかアッサリと首が吹っ飛び、噴水のように鮮血が撒き散らされた。あれ? こんなにあっさりと死ぬんかと首をかしげると、うんうん。どうやら偽物だったみたいだ。すぐに出来の悪い人形にとって代わり、地中から長い腕が襲い掛かって来たのでスウェーで回避して斬り飛ばしてやろうと横薙ぎを放つ。
「ぎ……っ!?」
「うん?」
一応斬り飛ばす事に成功したけど、なんか違和感があるな。硬いかと思えば異常なほど柔らかかったり、〈剣技〉のおかげで手になじんでるはずの剣もどこか重いような軽いような。ううむ……魔法や状態異常であれば〈万能耐性〉がある程度は仕事してくれるはずだから、ユニークスキルの類かも知れないな。
「ガーバー何をしているんDAI? アギトが深手を負ってしまったではないKA」
「うっせし! あーしのせいにするとかマジ空気読めって感じなんですけど~」
なるほど。この違和感の正体はガーバーか。ならば――
「おぁら?」
「隙ありじゃ!!」
「あららっと」
カクンと膝が抜けるような脱力に膝をつきそうになるのをなんとか踏みとどまりかけるも、横合いから蛇みたいにうねる無数の槍が襲い掛かって来たんで、そのまま前に飛び出そうとするも予定していた距離に届かずいくつかの攻撃を受けて弾き飛ばされた。痛くはないけど衝撃がそこそこあった。
「んお?」
「あぁん。こっちの事も、忘れちゃダ・メよぉっ!」
腕や足――槍が激突した場所に一瞬だけ黒い炎みたいのが見えた気がしたけど、確認する間もなくオカマの巻き込むような肝臓打ちを叩き込まれ、突き抜けるような衝撃が内臓を揺らしてわずかに吐き気を覚える。
「お……っと。うへぇ……さすが騎士団長ともてはやされるだけある。厳しいねぇ」
とりあえずポーションをぐびり。これで内臓の違和感は消え去り、〈万能耐性〉で腕や足の炎は消えている。ダメージらしいダメージはないけども、重くなったり軽くなったりの違和感は依然残ったままだ。これが無限にバンジーと逆バンジーを繰り返してるみたいでそこそこ気持ち悪い。
「HAHAHA。BABYは人間なのかNA?」
「マジキモイ。あーしらの攻撃受けて無傷とか……マジ化けモンじゃん」
「良いわねぇん。それだけお肌がぴちぴちって事でしょぉん。羨ましいわぁん」
「実に殺しがいがありそうじゃのぉ」
「お前……殺る」
やはり連中も戦闘の要はガーバーだと認識してるんだろう。全員で守るように陣形を組んでいる。これを崩すのは……少し慣れが必要になるな。




