#160 無双乱舞で一騎当千達成っ!
そんなこんなで、伯爵邸への襲撃作戦の概要が決まったので、色々と隠しておいても仕方がないという事なので、事情を説明してリューリューの弟のキュエルをコテージの奥から引っ張り出し、ついでに元・総団長のジジイも弾除けくらいにはなるだろと、床にかじりつくように断固拒否するのを過激な写真集をちらっと見せ、無理矢理引きはがして連れてきてやった。
ちなみのその際。筋肉が3割ほど盛り上がり、オーラなんかも滅茶苦茶噴き出していて超強そうな漢って感じに生まれ変わっている。さすが過激写真集。ジジイの残り少ない命の灯火にガソリンをぶっかけた気分になる。反省も罪悪感もないから何とも思わんけどね。
そんなジジイに対して、この場に居たほとんどの連中。特に赤と黄色はそれこそヒーローを見るように目を輝かせてジジイを見つめていた。男同士で気持ち悪いな。
「嬢ちゃん。ワシは一体何をすればいいんじゃ?」
「詳しい事はニールさんに聞いて。ボクとは目的地が違うだろうから」
俺は単独じゃないが、伯爵邸を真正面から攻めこなきゃなんないんだ。特筆するような作戦らしい作戦はない。単純明快。飛び込んで暴れるだけなんで、それ以上詳しい話を聞くつもりもなければ告げられる事もないんで、何をするんだと尋ねられてもただただ困るだけ。
という訳なんで、俺は一足先に見栄えのする死蔵装備を押し付けた十数人を連れて伯爵邸正面に向かって突き進む。
「さて。君達の役目はあくまでもボク達が囮だと察知されないようにするための数合わせだから、一応は中に突撃したいって気持ちで戦闘をこなしてね。全部終わった後に肉体が半分以上残っていれば、ちゃんとエリクサーで生き返らせてあげられるから。注意としてはそこにだけ気を付けて立ち回れば特に文句はないからね。何か質問は?」
「「……」」
これで俺の作戦は終了だ。別に文句があるなら言ってみるがよい。吾輩は全てを受け入れようではないか。これ以上に素ン晴らしく被害の出ない作戦が存在するというのであれば、甘んじて受け入れようじゃないかわーっはっはっは。
「沈黙は肯定と認識する。という訳で突撃じゃー!」
「「お、おお~」」
いまいちノリが悪いけど、別にいっか。もうすでに伯爵邸が十数メートルの位置にまで迫ってるんだ。ぐだぐだ言ったところで何かが変わる訳でもないしね~。
それよりもだ。とんでもない数の敵がいるなぁ。〈万能感知〉で敵だけを感知するようにしてても、情報過多で少し頭が痛いくらいだ。快適な生活を送る為にも、ここはさっさと数を減らすに限るって訳で、先制攻撃じゃああああああ!
「〈微風〉〈微風〉〈微風〉〈微風〉〈微風〉〈微風〉〈微風〉〈微風〉〈微風〉〈微風〉〈微風〉〈微風〉〈微風〉〈微風〉〈微風〉〈微風〉〈微風〉〈微風〉〈微風〉〈微風〉〈微風〉〈微風〉〈微風〉〈微風〉〈微風〉〈微風〉〈微風〉〈微風〉〈微風〉〈微風〉〈微風〉〈微風〉」
ダッシュジャンプで門を飛び越えてーの魔法の連続攻撃。もちろん標準をつけるなんて無粋な真似はしない。だって撃てば多くの人間が潰れた肉塊になるんだから。そんな事をする必要は全くない。
適当に魔法を撃ちまくって数百人というそこそこの数を圧死させ、トドメに館の壁をぶち壊して室内へと降り立つ。
そして同時に突風が襲い掛かって来て庭へと吹き飛ばされた。ま。余裕をもって着地できますけどね。特に痛くもなかったし。
「てっ、敵襲ーっ! 殺せええええええええええ!!」
着地した先は、当たり前だけどぐるっと敵に囲まれてる訳で、多くの有象無象が剣を片手に襲い掛かって来る。やれやれ……本当に面倒くさい。
「そぉ……りゃっ!」
〈収納宮殿〉からヒヒイロカネ製の棒を取り出し、軽々と振り回しながら走り回る。一薙ぎで十数人が胴体を千切られて物言わぬ肉塊となる程の威力を前に、矢面に立たされている連中は、その光景だけでかなり戦意が減退して及び腰になってるが、そんな事情を知らない後ろの連中はお構いなしに押し込んでくるんで、こっちとしては何の苦労もする事無く数を減らす事が出来るんでありがたいねぇ。
「うわははははは! どしたどしたぁ! それでも騎士なのかぁ? おっと〈微風〉」
1人で大立ち回りが出来る俺と違って、ニールさんに適当に選ばれた決死隊の連中の実力はほとんどないに等しい。一応装備を貸し出してすぐに死ぬような事にならないように配慮してあるが、レベルが上がって多少戦えるようになるまではこうして支援を怠らないようにしとかんといかん。
本音を言うと、これだけ撃ってれば簡単に片が付くんだろうけど、あんま圧倒的にやりすぎると速攻で戦意喪失になってリューリュー達の方に逃げちまう可能性があるから、待ち受けるキスを受け取る為には、この辺りの管理をきちんとしないと余計面倒になるんで、〈万能感知〉からあんま目が離せない。
「ほいほいほーい」
そして、時々連中のそばに戻ってはエリクサーを吹きかけ、別方向へと走りながら棒を振り回す。戦闘が始まって5分も経っていないけど、既に敵側の被害は1割に届こうとしている。たったそれだけの時間で、集めていた兵士が使い物にならなくなったんだ。これは伯爵側としてはいい気分じゃないだろうなぁと考えると、自然と頬が緩む。
そもそも。何でこんなに密集陣形を取ったんだろうな。これが広大な草原とかだったならまだ機能しただろうけど、街中で――しかも周囲を壁に囲まれ手ロクに身動きも取れん場所で、これだけの規模の兵を運用できると本気で思っていたんだとしたら、伯爵は相当な戦下手。もしくはただの阿呆か。おかげでこうして楽に立ち回れるからいいんだけどね~。
「め、メリーさぁん!」
「おっと」
少し深入りしすぎたのを、悲鳴の様な呼びかけではっと思いとどまってエリクサーを吹きかけに戻る。10数人殺したおかげでレベルが上がったのか、ついさっきと比べていくらか余裕があるようにも見える。
「あ、ありがとうございますぅ」
「気にしないで~。それよりも、パパッと団長の1人くらい刈り取っておきたいんだけど、いかんせん深い位置に居てねぇ。長く――出来れば5分くらい持ちこたえられない?」
この集団の中にあって、臆病者の騎士団長連中は伯爵邸の外に半数。中にその残りといった具合に配置されている。いくら装備を整えて心強い? ジジイの援軍もあるとはいえ、さすがに数が多いと思う訳で、できれば1人2人こっちのをぶち殺し、囮と見せかけてこっちが最大戦力なので援軍に向かわんと! みたいなノリで釣りたい。だから殺す。単純明快だけど俺という存在を十全に活かせばいいだけだが、それをするためにはどうしたってこいつ等に踏ん張ってもらわにゃいかん。
死ぬ事に対しては何も危惧していない。だってエリクサーがあるから。問題なのは突入の際にぶち壊した門を出て行かれる事だ。
リューリュー達が別の方法で伯爵邸内に侵入する手はずとなっているが、それは裏口じゃないらしい。らしいというのは、万が一付き添い連中が捕らわれて拷問を受けた際の情報漏えいを防ぐためだとか。信用されてないようでそれはそれで腹が立つが、安全に安全を重ねた用意周到ぶりはさすがといえる。
とにかくこいつ等の目的は、数千にも及ぶ有象無象を門から出さないようにする。それだけだ。そこに意図は隠されてないし、俺もそれ以外知らされていないんで分からんけど、必死になればなるほど敵側が別の意図があるんじゃないかと勘違いしてくれる。それが狙いだ。
けど、さすがにこの大軍を相手に十数人で門を守るのは正直シンドイ。俺が時折〈微風〉やエリクサーで崩壊を防いではいるが、それが断たれればあっという間に蹂躙されるのは明らか。まぁ普通にしてても絶たれるほど弱い訳ないんですけどね~。
しかし。奥に隠れてる騎士団長の首を刈り取るには多少なりとも時間を稼いでもらわにゃいかん。別に出来ないなら出来ないでより効率的に狩って行けばいいだけだしな。
「……さすがに無理ですよぉ」
「だよね~」
こいつ等がアニーやリリィさんくらいレベルが高かったらまだ任せられたかもしんないけど、事前に聞いたレベルは5くらい。ちなみに騎士達はそれより10高いくらいとニールさんが言っていたっけか。
まぁ、それでもメチャンコ防御力の高くて、触れれば鎧ごとあっさり肉体を斬り裂いてしまうほどの装備を振り回せば、ガンガンレベルが上がっていずれは多数を相手に5分踏ん張るくらいは出来るかも知れん。
さて……それじゃあ仕方ないけど、そうなるかあっちがじれて飛び出してくるまでザコ掃除と行きますかね。




