#159 初めての行為……もちろんそこそこエロい意味でだ
まぁ好みの件は置いておくとして、さっきまでの敵……殺す発言をする声色と比べても普通じゃないのは明らか。はてさて。一体どこから……それとも誰が叫んだのか。分かり切ってるけど尋ねてみるかね。
「やぁやぁ黒髪の美少女。今の独創的な声は君の物なのかな?」
『貴様アアアアアアア!! ワシの大切な半身をどこへやったああああああ! そして触れておきながら何故平然としていられるうううううう!』
「チッ! なんだ中身は槍でしかもジジイかよ。マジでやる気失くしたわー。槍が女子だったらまだ興味あったけど失せた。って訳でさっさと死ね」
その言動と声色で勝手にジジイと断言。そんな奴と話しておいても一銭の得にもならないんで、半身と言うキーワードからさくっと手首両断からの〈収納宮殿〉への豪快シュートでぶち込む。
するとすぐに馬上で糸の切れた人形のように美少女が崩れたんで、エリクサーを振りかけてからさっと降ろして取り出したベッドに寝かせてやった。
「こちらメリーさん。綺麗系の美少女を捕縛したよ~。もしかしたら騎士団長かも~? どうぞ」
『……え? ちょっと待ちなさいよ。メリーが隊長格と一緒にどっか行ったのってさっきよね? それでもう終わっちゃったの? そいつが本当に騎士団長だったとしたらちょっと早すぎない。どうぞ』
「早いって言われても困っちゃうよ。ボクはこの都市の人間じゃないから、この娘が本当に騎士団長かどうかわからないもん。だからかもって説明したの。疑わしいくらい弱くて確信が持てないからそっちの判断がもらえないかな。どうぞ~」
しばらく待ってみるけど返事がない。ただの屍になるにはちょっと早すぎるし、ちゃんと〈万能感知〉で生存は確認しているんで、きっと隣にいるニールさんが騎士団長? をこんな短時間で無力化したという話を聞いて色々ともめているんだろう。
時間がかかりそうなんて、この隙に子の美少女の身体チェックでも済ませておきますかね。け、決してエロ目的で服を脱がせたりまさぐったりするんじゃないぞ? 武器を隠し持っていないかどうかを調べておかないと、拘束に使ったオリハルコン製のワイヤーを斬られちゃ敵わんからね。普通に考えて無理だろうけど。
『……ニールです。もし貴女の言葉が真実なのだとしたのなら、特徴を教えていただけますか? え? あぁなるほど。どうぞと言わなければいけないのですね。どうぞ』
隅々までとは童貞には無理だったけど、色々と眼福な光景を拝めて非常に満足しているところに、ようやくニールさんからの通信が送られてきた。そう言えば使い方を教えたのは囮役をしてもらうリューリューにだけだったな。
「はいはーい。とりあえず。なにはなくとも美人――」
『そう言った個人的な感想は必要ありません。え? 途中で話してはいけない? しかしですね――』
また向こう側で言い合いが始まってしまった。もう面倒だからこいつを直接持っていくかと肩に担いで馬に視線を向ける。
「……」
とりあえず大人しくしてはいるけど、さすがにどこかに連れて行こうとすれば暴れそうな気配は感じるので、その背中に乗せてついてこいと手招きすると、軽く頷いた後にきちんとついてきた。案外賢いな。
――――――――――
「この少女は〈人形狂〉のシュリンレイですね。序列10位の下位団長で、呪われた武器・武神槍の使い手として恐れられている存在です」
「……」
淡々と説明してくれるニールさんの言葉に、シュリンレイは眠そうにうつらうつらしているだけで特に反応がない。今は一応敵に囲まれての危機的状況のはずなんだけど、まるで意に介した様子がない。
「えーっと……まず君は騎士団長って事で大丈夫?」
「く……っ! わたしはいまから〇〇されるのね!」
「……いきなり随分な発言だねお姉さん。確かに人質として捕らえはしたけど、ちゃんと喋ってくれればそういう事はさせないから安心して」
「信じないわよ! どうせ裸に剥かれて男連中の慰み者として、心が壊れるまで穴という穴に〇〇を挿入れて射精して孕ませるつもりでしょうけどそうはいかないわ! わたしは騎士……たとえ穢されようとも心まで屈したりはしない。だから決して口を割らないっ! さぁ! 出来るものならやってみなさい! さぁさぁさぁ!!」
おっとぉ? こいつはちょいと厄介な相手に当たっちまった気がするぞ。
簡単に言えば、口では否定的な事を言っておきながら、目をらんらんと輝かせ、ほおを紅潮させながら興奮しているように荒い呼吸を繰り返している。これは……どう考えても言葉にした事をされたくてたまらないと言った感じのド変態という答え以外が思い浮かばない。
だがしかし。これは俺が同人誌を読んでいたりするから感じられる違和感なのか、ちらりとリューリュー達に目を向けてみると、なんて意志の強い騎士だ……みたいな表情をしてる。みなさーん。この少女は色々といってはいけない単語を堂々と大声で叫んだんですよ~?
「さっきも言ったけど、喋りたくないなら喋らなくてもいいから。だからと言って無罪放免と言うのも出来ないから、お姉さんにはボク達が伯爵を殺すまで牢屋にでも入っててもらおうかな」
「牢屋……拷問……魔物でも使うつもりかっ!? 人で駄目ならオークか! 触手か! なんでこうも興奮させる展開が起こるのかしら! 貴女はきっと真正の拷問官なのね!」
「違うわ! っつーかさっきからド下ネタばっか放り込みやがって。どんだけ脳内でエロいこばっか考えてんだこの変態女!」
エロいといわれたシュリンレイが、さっきまでの興奮はどこへやら。キーンと氷のように冷たい半眼で俺を睨み付けて来る。ちなみに殺意とか憎悪とかは全くない。そこにあるのは単純な軽蔑だ。
「誰が変態だって言うの? わたしはそっちが行うであろう悪逆非道な行いに負けないという宣誓をしているだけじゃない! そういう思考にもっていくそっちの方がよっぽど変態なんじゃないのかしら?」
「もちろん。ボクはとても変態な人間であると自負してる。少し本気を出せば、君程度の耳年増くらい一瞬で腰砕けにしてやるくらい訳ない程経験豊富だからね」
言いながら顎をくいっと持ち上げ、不敵に笑みを浮かべる。やった事はないが自信はある。だってこういう時――の為じゃないけど、キッチリと〈性技〉のスキルを習得しておいたんだ。後は実行する勇気だけだけど、コイツの本性を目の当たりにした後じゃあドキドキとか興奮の類が全く感じられなくなったから問題なし。
「ふ、フン! やれるものならやってみなさいよ。言っておくけど、私はシュエイの騎士として栄えある団長の1人として様々な訓練を受けているのよ? そんな私に――」
――しばらくお待ちください――
「――という訳みたい。これで満足した?」
「え、ええ……貴女のおかげで僅かながら有利に立ち回る事が出来そうです」
「それは良かった。ボクも頑張ったかいがあるよ」
「でも……さすがにやりすぎよ」
「……そう? 満足そうにしてるように見えるけど」
戦闘自体は5分もかからない短時間で終了し、ある程度ニールさんが欲しがった情報も入手できたし、シュリンレイも十分すぎる程に満足の上での無力化する事が出来た。全身汗まみれでビクビクと痙攣したまま気絶。その表情は恍惚としている。さすが〈性技〉だ。あんなに女性が乱れるのは同人誌だけかと思ってた。
とりあえずしばらく放っておいても問題はなさそうなので、また騒がれると面倒だから女子達にどこかに縛り付けといてもらい、嫌だけど次なる議題に目を向けなきゃなんない。
「さて。メリーさんのおかげで大変に実りある情報が手に入りました。やはり伯爵に我々の情報は漏れており、既に戦力のほとんどを一点に配置している最中との事です」
ニールさんの言葉に、全員が頷く。そこには100人規模の騎士が襲い掛かって来た事をきちんと確認した後に全滅させてみたらしい勇者も混じっている。ちゃんと全滅させたのかどうかの問いには問題なかったと答えているが、あちこちすり傷だらけで何が問題なかったのか一切分からん。
って言うか……そうなってるって事は戦ったって事になる。勇者と認識されなかったのか。それとも勇者と分かってなお攻撃されたのか。どの道こいつには悪逆を繰り返す伯爵を殺した際の旗頭にさせる予定なんで、別にいっか。
とにかく今は、完全に籠城戦に突入しようとしている伯爵相手にどう戦うかだ。それも即断即決でやっていかないと状況が毎秒ごとに戦況が悪くなっていく。ここは軍師としてニールさんの腕の見せ所だ。
「どうするの?」
「一番確実であろう方法を取ります」
「へぇ……それじゃあボクはどこかでのんびりと――」
逃げようと背を向けた俺の前にリューリューとメラルダさんが立ちはだかり。肩をポンと叩いたのはニールさん。その他にも赤と黄色も苦々しい顔をしながらも囲むように位置取っている。この先の発言が分かっているから逃げようと思ったのに……チッ!
「伯爵のそばに全兵力が集っていると分かれば、既に兵舎の掌握が無為な物となっていますので、貴女に敵前へと赴いて囮として派手に暴れ回っていただき、その間に少数で伯爵を討ちますので、全滅できないまでもこちらが作戦を完遂するまでの時間稼ぎを頼みます」
「……はいはい。やりますよ。やればいいんでしょ」




