#158 脳筋解呪法(オススメない)
まず初めにする事は、相手が索敵系の魔法やスキルを使用しているか否か。そんな事を調べずに不用意に踏み込んでフルボッコにあうのは面倒でしかないのできちんと下調べをする必要がある。
ここで活躍するのが〈万能感知〉とリューリューだ。前者でそれらの有無を調べて、確認が出来ればアサシンとして素早さのステータスが高い後者がわざと足を踏み入れて意識を向けさせてから、電光石火の早業でザコ共を俺が薙ぎ払う。問題があるとすれば、勇者にあっちに行ったと嘘をついた強い存在くらいだな。
ここから先は2人で大丈夫なんでと言いくるめ、ニールさんを始めとしたメンバーは安全な場所に隠れてもらっている。そこら辺うろちょろされても邪魔なだけだしね。
「出来れば部隊長であって欲しいなぁ」
あのおっさんの武器のエグさには本当にビックリした。これが騎士団長となるとあれクラスの武器を有している事になって非っ常に面倒臭い事になる。だから部隊長であって欲しい。
「あー。もしもし。そっちの準備はどうだ? どうぞ」
『ほ、本当に声が聞こえたわ。こ、こっちの準備はいつでもいいわ。えっと……どうぞ』
「よし。それじゃあ始めてくれ。オーバー」
そしてその結果。見事に探査の魔法と魔道具の2段構えで接近する存在に最大限の警戒をしているようなので、魔道具・トランシーバー(アニー監査未通過)ごしに合図を送り、俺は〈万能感知〉で相手の動きを確認する。
するとすぐにリューリューと思わしき反応が飛び込み、先頭の何人かに適度なダメージを与えつつ即座に俺が飛び出す位置が死角になるように走り去ってくれた。
『これで大丈夫かしら? どうぞ』
「申し分のない成果だよ。オーバー」
隊長格らしき存在によって統制が取れているから混乱する事はなかったようだけど、十分すぎる程に視線はこっちから外してくれたんで、後は俺が動くだけだ。
「せぇ……のっ!」
大きく跳躍。それもスラム街区ギリギリの位置からの物となると、それ相応の爆音が響き渡るとはいえ、ここは常にそう言った音があふれている場所な訳だから大した問題はない。
そうやって空高く宙を舞う俺は、〈万能感知〉を頼りに敵の中心部に降り立とうと画策していたんだけど、やはり常日頃から力をセーブしてるせいかマジで飛び過ぎたのかぐんぐん近づく集団との距離の縮まり方を見れば、あぁ……力込め過ぎたってのがすぐわかった。
「まぁいっか」
それならそれで別の方法を取ればいい。すぐに頭を切り替えてその瞬間に備え、そして――
「〈微風〉〈微風〉〈微風〉〈微風〉」
タイミングを合わせて魔法をぶち込む。とんでもない速度で突入してきた俺の存在に気付いたようだけど、その時にはすでにエメラルドの障壁が頭上から降ってくる所だ。60人規模とはいえ、それを避けるのは困難だろう。
一応民家の少ない道を選んでるから、地面を滑るように着地しても2軒ほどをなぎ倒した程度で済んだし、それらに人の気配もなかったんで損害賠償を請求される心配もナッシング。まぁ……金払えと言われても十分すぎる額を持ってるんでどのみち大丈夫だけどね。
「お♪ いい感じゃないか」
被害状況はどうかなと確認してみると、死人は出てないながらも全体的に重軽傷者が多数出ている。そしてほんのちょっぴり期待していたけど、隊長格らしき奴は見事ノーダメージで切り抜けている。駄目だったか。
「じゃあ次行くか」
一発目の失敗を生かして、今度は相当に力を押さえての跳躍。今回は少しだけ位置がズレたけど、騎士団連中の前くらいに降り立つ事が出来た。
「何者だ!!」
「ひとーつ。人の世の生き血をすすり」
相手の怒鳴りを無視しての一閃。抵抗を感じる事無く数人の上半身と下半身が離れる。
「なっ!?」
「ふたーつ。不埒な悪行三昧」
突然の出来事にまだ混乱が続いている騎士団連中の隙をついて、今度は二閃三閃と繰り出して一気に十数人の胴体を切り離しながら、目線だけは馬に跨る部隊長らしき美少女へと注ぐ。
カラスの濡れ羽色と表現出来るほどきれいな背中まで伸びる黒髪ロングに、糸みたいに細い目からは生気を感じられないので、日本人形みたいな印象がかなり強いが、何となく同郷の人間って感じもしない。
装備は人の腕ほどはありそうなぶっとい槍。それを何と両手に一本づつ握りしめているのを確認した途端。〈万能感知〉が警告音を発したので、こっちの間合いになるようにさらに距離を詰める。
「敵……殺す!」
「三つ淫らな人妻を――」
黒髪美少女の槍が何のモーションもなく向かってきたから、冗談半分の決め台詞を止められた。それだけの速度だったし、細っこい身体のどこからそんな力が出てんの? って言いたくなるほどの重厚な一撃は俺の身体を楽々吹っ飛ばした。まぁワザとですけどね。
「敵……殺す!」
「うおっと」
さて。次はどうするか。このまま部隊長? だけを相手にするとなると、背後の有象無象が勇者に向かって一直線か。別にそうなったところでどうかなる訳じゃないし、むしろ俺の正当性が証明されるからよりよい事じゃないのか? うん。ならこの美少女との戦闘ランデヴーへと洒落込もうとしよう。
「殺す……殺す……殺すっ!」
「わーわーわー」
もう踏ん張ったりするのが面倒なので、攻撃を受ける瞬間にわざと数センチだけ宙に浮き、より効率的に吹っ飛べるようにしながらどんどんとザコ連中との距離が離れていく。何しろ部隊長? は馬に乗ってるんだ。その速度差は言わずもがな。
そうやって数百メートルほど右に左に吹っ飛んだ結果。ようやく2人っきりになる事が出来たし、残りの騎士も予定通り勇者の立ちはだかる何の意味もなくなった公園に向かっている。
ちなみにだけど、先行して公園に向かった連中はすでに勇者と一戦交えているが、一般兵と比べると勇者ってのは強いんだなぁ~って思う。
「ようやく2人っきりになれたね。ここから目くるめく甘愛の世界へと誘いたいところだけど、こっちもこっちでちょーっと忙しいから、まずは大人しくしてもらうから我慢してね~」
「敵……殺す!」
うーん。さっきからそれしか話さないなぁ。馬術の腕も槍の腕前も悪くはないんだろうけど、どこか機械的といえばいいのかな? 良く分からんが普通じゃないってのはよぉく分かる。
「せいっ」
「……」
「わーお。なるほど」
そこそこの力を込めた打ち下ろし一撃は、本来であれば武器を手放させるには十分すぎる威力を込めた。にもかかわらず細腕美少女の腕から離れるどころか、何と肩が外れてしまった。これは明らかに異常と呼ぶほかない。
おまけに。普通に考えれば肩が外れるほどの衝撃を与えられておきながら、槍が離れないなんて事はまずありえない。肩よりグリップが優れているなんてどう見たっておかしいのに加えて、美少女はそれに対して痛がる素振り1つしないどころか、自分の肩が外れている事にさえ気づいてないようにも感じられる振る舞いをしている。
これはつまり――外れないようになっている。所謂呪われた武器なんじゃないかって思う今日この頃。これであれば現状に対して一応の説明がつくからな。それと同時にコイツ騎士団長じゃね? って思う。
「敵……殺す」
「とりあえず持てないようにしてみるか」
手首辺りを斬り落としたところで、エリクサーがあればあっという間に修復するし、あわよくば呪いの元から手を離す訳だから正気を取り戻すかもしれない。そうなればあれを〈収納宮殿〉に捨てれば未来永劫呪われる心配はなくなる。
という訳で速攻で実行。最初から戦闘にもなっていないんだ。片腕がロクに仕えなくなった美少女の猛攻をかいくぐって手首を斬り落とす事など造作もない。
最初の頃は突然接近する猛攻に驚いたりもしていたけど、慣れてしまえばそう言うもんだと割り切れる。というかあのジジイの触れたらなんでも消しちゃう武器の方が億倍ヤバかった。アレと比べるとこっちの方が序列が低いんだろうと推察する。ハッキリ言って超ヘボい。
「……っ!?」
「よ――おおっと!?」
速攻で手首を斬り落とし、再生するかもと直感で遠くにブン投げようと手を伸ばした途端。何かに噛みつかれる様な衝撃が腕に襲い掛かった。まぁそれだけで大して痛くもなかったんで気にも留めずに〈収納宮殿〉の中へと放り込む。
あと半分残ってるけど、斬り落とした放っておくと出血多量で死にそうなのでとりあえずひと吹き。こうしておけば何の問題もなく美少女の傷が癒え――
「うっぎゃあああああああああああ!!」
突然響き渡ったその悲鳴は、とても美少女らしからぬしゃがれたもの。デスメタルとかさせれば案外ハマるかも知んないけど、俺の個人的な好みとしてはノーサンキューだ。




