#157 ココロの隙間お埋めします。ドーン!!
「さて。これでラスト……っと」
「う、うぅ……」
最後の1人にエリクサーを振りかけて復活させて辺りをぐるりと見渡すと、その場はアルマに変装した何者かの自爆によってただのクレーターになり、辺りには多くの死体だった人間と、エリクサーの効果が及ばないところまで損傷した肉片が辺りに飛び散っている。ちなみに俺は無傷だ。
「えーっと。これで生き返る事が出来る人間は全員だね」
「そうね……こちらで確認出来る限りでももういないと思うわ」
「じゃあこれからどうするの? まだやる?」
被害者の数は大きかったが、勇者もリングレットも戦闘をする予定の連中は大体が復活を果たしていたが、今の一撃に加えてアルマがすでに死んでいて裏切り者と変わっていたという心理的ダメージが大きいのか、誰の目から見ても士気が底をついている。このまま挑んだところで数的不利に加えて、俺や勇者の存在があっちにバレた可能性がある。
こうなると、チマチマした作戦全部が台無しになってしまったと言う前提で物事を進めるのであれば、ほとぼりが冷めるまで息を殺して隠れているか突貫するしかなくなる。
時間的観点から前者の選択は取らないだろうけど、普通に考えれば今の状況は間違いなく詰んでる。この場にもし俺が居なかったら、偽アルマ1人でここに居る連中は間違いなく死んでいただろうな。
俺としては報酬が欲しいからまだやると言ってもらいたい。
「私は……伯爵を殺すまで止まるつもりはないわ」
「オレもあのクソ貴族をぶち殺す為にここに居んだ。いまさら退けっかよ」
「ま。兄さんがやるというのならぼくも同じかね」
リューリュー達を筆頭に次々と続行の意思が統一されていく。とりあえずある程度の連中の覚悟は決まった。玉砕覚悟で伯爵に一矢報いるつもりで腹は決まったようだけど、1人だけ――ニールさんだけはいまだショックから立ち直れていないのか、膝をついたまま身動き一つしようとしない。
「ねぇねぇ。ニールさんボーっとしたまんまだけど放っておいていいの?」
「いいのと言われても……彼女はアルマと共に過ごして来た時間が長かったからショックも私達より大きいのよ」
「そうなんだ。でも、だからといってこのまま放っておいてもいいことはないんじゃない?」
「分かってるわよ。だけどなんて声をかけて立ち上がらせたらいいのか……」
どうやら全員がニールさんとアルマの関係を知っていたようで、どいつもこいつもなんて声をかけたらいいのか分かっていないみたいだ。取りあえずありきたりのセリフで反応をうかがってみる事にしよう。
「ニールさんニールさん。このままここでボーっとしててもアルマの仇を取る事なんてできないんじゃない? それでもいいならボクは放っておくけど、君は何のためにアルマについて行く事を決めたんだい? 伯爵を殺すためじゃなかったの?」
「……貴女に何が分かるというのですか」
「そんなの何も分かる訳ないじゃん? だから聞いてるんだけど。復讐する気があるのかないのか。こっちは依頼を受けてんだから。色々とやるにしてもやらないにしても決めてもらわない事には冒険者として不都合が発生するでしょ? 次の依頼を受けるのにはこの依頼を破棄してもらわないと」
あくまで依頼を受けた冒険者というスタンスを取る。そこに憐れみとか同情は一切持たない。持ったところで本人じゃないんだから分かる訳がないし、そもそも野郎が死んだところで俺にとってはどうでもいいんだ。
ただ少し、その隙間に潜りこんであわよくばなんて気持ちが無きにしも非ずだけど、さすがにそれを口に出す空気じゃないからそれっぽく振る舞ってるだけだ。
できればさっさと依頼破棄をしてもらって、単独で伯爵の所に乗り込んでさっさと終わらせたい。こいつらと一緒に大勢の騎士とその団長連中と一戦交えるってのは相当に面倒くさそうだからな。
「メリー。さすがにその言い方はどうなのかしら?」
「うん? じゃあどうするのが正しいのかな。これだけの規模の爆発が起きたんだよ? 伯爵であれば偽アルマが死んだ事をすぐに嗅ぎ付けて大軍を寄越してくるかもしれない。となるともう作戦だなんだと言う段階はとびこえちゃっただろうから、もう玉砕覚悟で突撃するしかない。その指揮を執るのにニールさんが立ち上がらないとボク以外は無駄死にになると思うよ?」
「それはそうかもしれないけど……」
「伯爵を殺せばいくらでも泣けるじゃん。今やるべきことは死ぬか抵抗するかの二つに一つ」
できれば依頼の継続が望ましいので、少し乱暴な発破をかけたおかげかニールさんの目に怒りの炎が宿り始めましたよ。それが俺に対しての物じゃない事を祈りたいねぇ。
「……いいでしょう。そもそも我々は伯爵を亡き者にするために集まったのです。アルマの無念を晴らすために突き進むのみです」
しかしこうなってくると、兵舎に向かう理由ってなくなるよな。
ニセアルマが情報を持ち帰ったんだとするなら、ここに騎士を差し向けつつも自分の身の回りの安全を確保するために動くはず。
まずはあいつの言葉が真実かどうかを確かめるため、役に立つのはやはり〈万能感知〉だ。これのおかげで相手の動きはバッチリ把握する事が出来る。
……ふむふむなーるふむなーるふむなるなる。見えましたっ! 既に100人規模の騎士団がここに向かって近づいてくる様子が見えるではありませんか! しかもさっきの爆発に気付いたからか、進軍速度はそこそこ早い。
さて……どうしたもんかいのぉ。こんな迷路の奥深くでいきなり敵が来たぞぉ~なんて言って信用されるか? でも、それをしないとロクな迎撃態勢も整わずに接敵する羽目になる。となると全滅必至。
それは元々何の色にも染まらないほど濃い敗色がほんのわずか――薄くなったかどうかも分からんほどの変化だけど、好転するのはいい事か。
「やる気になってるところ悪いけど、敵さんのお出ましだよ」
俺の親切心からの忠告に対していの一番に文句を差し挟んだのはやはりというかなんというか……リングレットだった。こいつは本当に敵意むき出しだなぁ。
「何を根拠にそう言える。確かに今の爆発で手駒が失態を犯したのを把握しただろうが、それを知ってから兵を派遣するには早すぎるではないか。いかな説明をする」
「ボクの考えだと、この兵達は偽アルマが君達を殺した遺体の回収及び残党の処理だと思うんだ。ボクからすればビックリするくらい弱い相手だったけど、君達はあっさり殺されてたでしょ? となると、やっぱり1人でこの数全部を殺すのって難しいじゃん?」
俺レベルであればここの全滅に1分もかからんだろうが、勇者相手に時間がかかってる時点で少なからず逃げられる。こうなると一から探して殺すのが難しくなる。だから増援として兵が派遣されたんだと俺は踏んでいる。
「ふむ。確かにもっともらしい意見だが、では何故ここまで足並みがそろわなかった。その意見が正しい物であれば既に展開していなければおかしいではないか」
「その辺りは知らないよ。これはあくまでボクの予想であって正解じゃないし」
「だったらどうして敵が来ることが分かる。オレぁこれでも勇者だ。そこそこ使える〈感知〉スキルを持ってるのに反応すらしねぇんだぞ」
「だったらボクの方がより強い〈感知〉スキルを持ってるって事に決まってるじゃん。信じられないなら見てくれば? いま部隊の編成を終えたみたいで半分がこっちに来ても半分が入って来た公園に向かってるみたいだから、勇者なら公園の強い気配に行かせてあげるよ」
「いい度胸じゃねぇか。いいぜ。行ってやろうじゃねぇか」
別に喧嘩を売ったつもりはないんだけど、勇者はどしどしとした足取りで出て行ってしまった。というかさっきの爆発で天井に大きな穴が開いてそこから簡単に脱出できるようになってるんで、軽い跳躍で飛び出し、近くの木に舫い結びでガッチリ固定してやると、リューリューを始めとした面々が次々に飛び出してくる。
「本当に敵がこちらに向かっているのですか?」
「それは間違いないよ。殺気自体は弱いけど、きちっとした隊列で数だけはそこそこあるからね」
「貴女の言葉が真実であれば、勇者様が危険なのでは? 強い気配と言うのは部隊長――もしくは騎士団長がいるのでは?」
「そっちについては嘘だから」
さっきの爆発を重く見ているようで、公園側に向かったのは40くらい。勇者の実力を考えれば勝てなくはないかもしんないけど、こっちは伯爵討伐の依頼を出してんだ。いくらアイツが馬鹿だとは言ってもそこら辺はちゃんと覚えて戻って来るだろう。覚えていると思いたい。
「……貴女の言うそれが伯爵の命で差し向けられた騎士達であるならば、既に兵舎に向かったところで意味はないと言えるのではないですか?」
「……かもね」
うーむ。確かにそう言われてみれば、既にこっちの作戦がお見通しであるのなら兵舎に向かったところでひとっ子1人いないかも知んないとなると、折角楽できるはずだったのに台無しになってしまったではないか。許すまじ。
「では向かってくる兵達を討伐してもらって構いませんか? 一応情報を収集したいので数人ほど残してもらえるとこちらとしては助かります」
「注文の多い参謀さんだね。まぁ任せておきたまへ」
取りあえず。先制攻撃で陣形を崩し、混乱のさなかに可能な限り葬り去る。いちいち避けたりすんのは面倒だから、反撃体制が整う前までに全滅させるのが望ましいが、やってみなけりゃ分からない。




