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#156 よ~く考えよ~。命は大事だよ~

「え?」


 状況が理解できないんだろう。心臓の鼓動に合わせて噴き出す血を気にも留めず、ニールさんはアルマを呆然と見上げている。

 その一方でアルマはというと、手にした短刀をクルクルと指で回している。表情はさっきまでの頼りなさそうな物から、目を細めて氷のように冷たい印象を宿している。


「まず1人」


 そう呟いて、ふと俺と目が合った。

 さて。どうしてものかと思案する。

 真っ先に結論付けるべきは、アルマが伯爵側の人間だったという事だ。

 こいつはリーダーとしてリューリュー達の頂点に位置し、情報という情報は簡単に手に入るというか都合良いように動かす事も出来るんじゃないかと仮定すると、前のアジトを急襲されたり。リューリューが捕らえられたり。子爵邸に間者が忍び込んでいたりといった事が立て続けに起こるのは少し不幸が重なりすぎて怪しかったからな。

 となれば、やはり必要なのは情報収集だ。勇者が来た事までバレているなら、もう動き出すしかない。相手が準備万端で待ち構えているとしても、行かなければその物量でいずれすりつぶされる。どうせ死ぬと分かっているのなら、前に進むしかない。

 よし。とりあえずこいつを捕まえて話を聞こうって訳で、一歩踏み出そうとする前に赤髪の方が勢いよく飛び込んできての斬撃を叩き付けたが、アルマはそれを何でもないように受け止めた。大した実力だ。


「テメェ……何してんだコラァ!」

「なにって……見てなかったか? 殺したんだよ。伯爵にとって邪魔な存在を……こんな風に」


 事もなげにそう告げ、アルマは赤髪のどてっぱらに拳をめり込ませ、背中まで貫通。赤髪は夥しい量の血を吐きながらも剣を振るおうとしたが、その時にはもうゴミを投げ捨てるように背後から襲い掛かっていた黄色に向かって投げ飛ばした。


「なにっ!?」

「それで戦闘をしているつもりかね。片腹痛い」


 言わんとする事は理解できる。黄色に対して投げ飛ばされた赤髪は、誰がどう見たってただの遮蔽物でしかない。それに生存の可能性があるならまだ対応は変わったかもしれないけど、既に事切れている肉袋を受け止めたところで、ただひたすらに攻撃してくださいと告げているようなもの。

 だから。アルマの一撃で黄色も首を跳ね飛ばされてあっさりと死亡。ニールさんが死んでたったの10秒の間に既に2人が殺された。それも戦闘を任されている人間となると、普通であれば大きく士気が下がるところだけど、生憎とこの場には俺もいれば勇者もいる。というか……疑問を感じることが多すぎるんだよなぁ。


「ドォラアアア!!」

「フン。これが勇者の実力とは……まだまだ甘いね」


 ふむ……と考え事をしながらも、勇者のバトルをボーっと眺める。

 そもそも。赤と黄色の戦闘力がどんなもんかも分かってないから強いのか弱いのか分かんなかったけど、勇者がそこそこ善戦してるように見えると弱かったんだなぁと思える。あれでよく俺に喧嘩を吹っ掛けて来たよな。

 勇者の高速の居合い切りが閃光となって駆け抜けるも、アルマは短剣で事もなげに反らしたり避けたりをこなし、ゆっくりとした速度での反撃が面白いようにダメージを与えるんだけど、何故かリングレットが参戦しようとしてないのが気になる。


「ねぇねぇリングレット。君はアレに混ざらないの? 従士なんでしょ?」

「馬鹿を言うな。あの戦いのどこに混ざれというのだ。私の実力では足手まといにしかならんだろうが。そう言う貴様がなぜ参戦しないのだ。大言壮語を吐いておいて出来ないというのか?」

「うーん。ちょっと気になる事があってね」

「気になる事だと?」

「そう。あのお兄さん……アルマだっけ? 本物なのかなぁって」

「なんだと?」


 そもそもの大前提として、アルマが裏切るタイミングあまりにおかし過ぎる。俺が居ないところでやるならまだしも、俺の目の前でわざわざ殺人を犯したところで、既にエリクサーを持っている事は勇者とリングレット以外はまず間違いなく知っているはずなんだ。

 つまり――生き返らせる事が出来る事をアルマも知っていなけりゃおかしい。にもかかわらずこんな行為に及んだ事もおかしいが、赤髪に斬りかかられるほんの数舜前。あいつは俺に向かって斬りかかろうとしていた。圧倒的実力差を見せつけてやったのは昨日だ。忘れるにしては小さくない衝撃を与えた自信がるのにもだ。

 もしかしたら接近戦をしてないから、近づきさえすればなんとでもなるとか思われてたのか? だとしたらこれでもかってくらいに痛い目にあわせてやるんだけど、そんな浅はかな考えで行動に移したにしてはあまりにもタイミングが最悪すぎる。

 ここから導き出されるのは、あいつが偽物という答えだ。ならば相手の出方をうかがい。切り札か何かしらの秘密の1つでも勇者には引き出してほしかったけど、想像以上に分が悪いんで助け舟を出してやるか。


「そーれっとぉ」

「ぬが……っ!?」


 馬鹿の一つ覚えみたいに背後に回ってからの斬撃を勇者に振り抜こうとするアルマに向かって、軽ーく剣を叩き付けるだけでその身体は簡単に吹っ飛ぶ。致命傷は無かったけど、十分に俺という脅威を知らしめることが出来ただろう。


「テメェ……邪魔すんじゃねぇよ!」

「いやいや。ボクだって君が勝てるようだったら手を出したりしなかったよ? でも、全く持って駄目駄目だから交代。お手本を見せてあげる」

「フン。貴様も多少はやるようだけど、その程度で倒せるとでも?」

「倒すだって? 馬鹿言っちゃいけない。殺すんだよ」


 一瞬で距離を詰め、大上段からの一撃を見舞う。ここで避けていたらもう少しだけ時間がかかったろうが、なまじ自信があったのか受け止めようとしたから、ロクな抵抗も感じる事無く唐竹割にしてやった。だって魔剣だもん。普通の武器が太刀打ちできる訳ないよね~。


「んなっ!? たった一撃で……」

「弱っ。まぁいっか。取りあえず生き返らせるね~」

「あ、ああ」


 別に最初から殺すつもりだったんだし別にいいか。そして問題なく殺せたって事は、あの仮面の連中とは別の奴等って事か。取りあえず……まずはニールさんと他2名の復活が先だからさっさとエリクサーを振りかける。


「う、うう……一体何が」

「一回死んだんだよ。気分はどんな感じ?」

「取りあえず最低とだけ言っておきましょう。それよりもアルマは?」

「殺した。話を聞くにしても一度黙らせといた方が都合がいいからな」


 首で指し示し、ニールさんが少しだけそちらに視線を向けるとわずかに悲しそうな表情をしたが、すぐに気持ちを切り替えていつものクールビューティーへと戻った。


「とりあえず生き返らせてくれて感謝します。貴女が居なければ伯爵を殺すどころではなくなっていたでしょうから。しかし、代金を支払う事はできませんよ」

「気にしないでいいよ~。これはボクの都合で使ったんだから無料無料~」

「そうですか。ではアルマに話を聞きたいのでお願いできますか?」

「うん。こっちも目的は同じだからね」


 とりあえず赤とか黄色にアルマの身体を調べさせて武器となるような物を極力剥ぎ取らせてからくっつけ、エリクサーを一滴。もちろん逃げられないように俺がマウントを取って分かりやすように剣を担いで見せる。


「……」

「さて。お兄さんが偽物のアルマなら、正体を現してもらおうか。そして本人はどこに行ったのかも吐いてくれるなら、苦しい思いをせずに一息で殺してあげるよ」

「フン。この顔の男はすでに死んでいる。今頃は魔物の餌となっているだろうな」


 既に逃亡を諦めたんだろう。人を馬鹿にしたような笑みを浮かべながらペラペラとこちらが欲しい情報を流水のように垂れ流してくれたけど、それはリューリュー達にとっては絶望に叩き落とすような物だった。


「そ、そんな……」

「ふっざけた事抜かしてんじゃねぇぞテメェ! アルマが……テメェみてぇなクソに負ける訳ねぇだろうが! あいつはユニークスキル持ちだったんだぞ!」

「なにもおかしい事はない。確かに奴は厄介なスキルを持っていたが、ワタシにかかればそのような能力も無に等しい」

「つまり。お兄さんもユニークスキル持ちって訳なんだね」


 自信をもってそう言ってのけるのにそれ以外に理由がない。そしてその能力は――まず間違いなく存在を極限まで薄くするモノだろう。駄のつく神の力でも捉えるのがやっとというのを見せられると、ユニークスキルってのはなかなか厄介な代物だな。


「それにしても、おまえのような存在が勇者を呼び寄せただけでなく、我を圧倒する実力を持ってたのは計算外だった。これは是非とも伯爵様に報告しなければな」

「うん? この状況で逃げられると思ってんの?」


 マウントを取った挙句。首にはいつでも両断できるように剣をわずかに押し付けている。ここで何かしらおかしな動きを見せれば、俺は迷いなく斬り落とす。それに対する嫌悪感なんて最初から持ち合わせていないんで躊躇う事はない。


「フ……。我が何の手段も持たずにむざむざ敵地に足を踏み入れると思っているのかね?」

「いや。お兄さんが誰か知んないし。じゃあね」


 という訳でスパッと首を斬り落としてやったその瞬間。目の前が一瞬で真っ白に染まった。

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