#152 助っ人異世界人
そんな報酬にウキウキ気分でリューリューの後ろに付き従って、今度は堂々と真正面から作戦室の正面扉を潜り抜ける。ちなみに室内にはちゃんと開閉レバーがあるので、合言葉1つで簡単に開いてくれる。もちろん開けゴマじゃないのは確認済みなので別のモノだ。
「おいっす~」
軽い挨拶をしながらふらふらっとした足取りで空いている席に座ると、目の前に並んで腰を下ろす赤と黄色が揃って舌打ちをするので、意味深な笑みを浮かべながら交互に見つめてみると、何か嫌な予感を感じ取ったんだろう。まさかという感じで目を見開いてすぐに視線をそらした。
そんな態度を面白そうに眺めていると、クールビューティーのニールさんわざとらしいほどの咳払いをして来たので、ニンマリとした笑顔を浮かべたままそちらへと顔を向ける。
「ここに来てくれたという事は、我々の依頼を受けていただけると解釈してよろしいのでしょうか?」
「もちろん。ボクが依頼を受けるに値する報酬があったんでね」
そう告げながら、チラッと赤と黄色に目を向けるだけで、2人は顔を青くしてぷいっと視線をそらし、他の女性陣は面白そうに笑みを浮かべて勘違いしている。別に本当に欲しがってる報酬を隠す意味はないけど、こうしていた方が奴等へのイタズラになるんで止めるつもりはない。
「先払いでしょうか?」
「うんにゃ。後払いの方がモチベーション――やる気が上がるから後払いで」
「なるほど。それでは報酬は伯爵を断罪した後にという事でよろしいですね」
「ういっす」
こうして俺の報酬の受け取りが決定したが、もちろん内容は口に出さない。リューリューはなんで言わないんだろうと首をかしげているだろうが、それ以外はこの場に居る全員がきっと報酬はアレなんだろうなとあたりをつけている事だろう。ふふふのふ。今から楽しみで仕方ないぜ。
「では――まず始めに作戦の概要を説明します」
そんな感じで会議が始まり、大まかに区切りをつけるのだとしたら3つとなる。
まず第一に、敵の数を可能な限り減らすため、工作隊と呼ばれる連中が騎士団兵舎を急襲。その際に爆弾みたいな効果のある魔道具を握りしめてのカミカゼアタックをして建物ごと敵の戦力を削るらしい。見事な自己犠牲の心だ。欠片も共感できないけど。
予定では全体の2割も削れれば御の字だそうだ。
そして第二。兵舎の崩壊を合図に伯爵邸へと一気に流れ込み、そこへ至る為の道を、赤と黄色といった戦闘に重点を置くメンバーが作る。この襲撃時間は元々予定していた真夜中というのをすっぱりと諦め、真昼間に行う事になった。
これには俺の活動時間の関係もさることながら、先の子爵邸への密偵の侵入によって、既に伯爵側にいくらか情報が洩れているという事を加味しての判断だが、相手の動き次第では時間がずれる事もあるらしいので、伯爵には是非とも昼時に空きを作ってほしいもんだ。
最後の第三は、何と民衆の前で伯爵の悪行をつまびらかにし、王都へ子爵をこのシュエイの領主にするよう嘆願するというものだ。きっとこれが、子爵がこの連中に手を貸す要因なんだろう。何割ぐらいがこれを占めているのかは知らんけど、そこそこは大きいはずだ。何しろ旨味が半端ない。
様々な施設から収められる莫大な税収はもちろんの事。さすがにこれだけの大都市を治める人間が子爵なんて格好がつかないだろうから、伯爵くらいにはなれるんじゃないか?
となれば、今まで近づく事も出来なかったような侯爵や公爵との繋がりが出来るかも知れないし、今まで同列だった連中を一歩出し抜いたという優越感。楽をして生きていきたいという理由で金を稼き、他人の目を気にしない環境に居た俺と違い、一定の評価と上に対する嫉妬なんかがあった場合は……少し怖いな。
まぁ俺の知った事じゃないんで、そこら辺に対して特に質問したりはしない。こいつ等もそのくらいの事は十分に理解しているだろうしな。
なーんて話し合いが1時間以上にもわたって行われ、特に興味のない俺は〈万能感知〉でリエナの動きを観察したり。食堂で忙しなく働く姉妹の動きを見たり。あのガキの反応を探ったりしてぼけーっと時間を過ごした。
「作戦は以上となりますが、メリーさんには第二作戦に参加。敵軍の騎士団長レベルの足止めをお願いしたいのですが、構いませんね」
「えーっ。ボクはどちらかと言うと兵舎破壊の方に参加したんだけど……楽そうだし」
話半分で作戦内容を聞いていた限りだと、多くの騎士団長が第二作戦の伯爵邸に多く詰めているらしい。そしてその中には、味方になってくれる予定の人間が2人ほどいるらしく、そのどちらも序列上位にいて戦力としては申し分がないと事。だから一番楽そうな方に行きたいと提案したんだけど、やはり依頼をした以上は激戦区に俺を配置したいらしく、この願いは却下されそうな空気をひしひしと感じたので、そこで俺は破格の条件を突きつけた。それも2つもだ。
とりあえず一つ目としていくつかの武器をテーブルの上に放り投げる。誰よりも早く赤と黄色が食いつく。
「これって……」
「何のつもりだ?」
「いやなに。ボクが兵舎を破壊する任務に行かせてくれるなら、これらの装備を君達に譲ってあげようかと思って。どうだね?」
その行為に明らかな不信感と自身の危機を察しているようだけど、目の前の武器防具の数々から放たれる魅了の魔法でもかけられているような圧倒的な誘惑からは逃れられないだろう。
この団体はいわばレジスタンスだ。資金面は困窮とまではいかないまでも、維持をするのでギリギリといっていい。少し前までは多くの人間がいて何とかなっていたのかもしれないけど、リューリューのせいでその多くが居なくなってしまったんだったっけな。
今更それを責めたところで、死んだ奴は帰ってこない。俺ならエリクサーで何とでもできるが、既に火葬されてしまったり腐ってんじゃあどうしようもない。あくまで半分以上残ってないと、エリクサーはそいつを復活させてはくれないから。
少し話はズレたけど、要は金欠でロクな装備じゃないんで、俺が死蔵しまくってる経験値の糧となった用済み装備を提供してやろうという訳だ。これを全員に配って多少マシになれば、俺が居なくとも十分にやって行けるだろうとの意を示す。
ミスリルにダマスカスは世界各地にあるダンジョンや鉱山なんかで採掘される事があるんで、金さえ積めば誰の手の中にも収まる物ではあるが、オリハルコンにヒヒイロカネといったものは勇者が手にできる聖剣などでしか存在せず、もはや伝説レベルの代物。
現在確認されているのは、迷宮都市にあるダンジョンの60階層のボスからドロップした物が唯一で、それも表面を薄くオリハルコンがコーティングしたただけの紛いモンらしい。
ま。それでも国宝として王都の宝物庫に保管されているという事も、我が知恵袋アニーから耳タコなほどぐちぐちと聞かされ、一応の価値は分かっているつもりだけどどうせバレやしない。だからこその大盤振る舞いだ。
「これは……いやまさか」
「ヒュウ~。いい武器じゃねぇか。このオレにぴったりの武器だな。使えって事か?」
「ボクの身体には合わないからね。そうしてボクの負担を減らして兵舎に向かう事を了承しろ~」
「装備の提供に感謝はしますが、それだけで騎士団長クラス数人を相手どるには圧倒的に戦力が足りませんので、条件を飲むには至りません」
「むぐ……っ。分かったよ。じゃあもう1個出すしかないみたいだね」
やはりこの程度では折れてはくれないか。まぁこれも予定通りなんで、俺はすぐに席を立った。
「どこへ行かれるのですか?」
「ボクと一緒に伯爵を殺すための知り合いの知り合いがそろそろここに到着するんだ。それを差し出すよ」
「待ってください。その者は信用における人物なのですか?」
「そうだねぇ。ボクよりはるかに弱いけど信用は置けるかな。勇者って名乗ってたし」
そう端的に説明し、俺はさっさとレバーを引いて正門からアジトを後にする。
あの馬鹿と約束して確か今日で3日目だ。予定通りならそろそろ到着しても問題ないはずなんだが、事前に出会う時間を決めてなかったせいだから野郎と言えども迎えに行くのには目をつむるけど、現状を考えるとそうも言ってられなくなって来た。
リューリュー達と行動を共にする以上、ここから先はレナじゃなくてメリーとして行動するのが最も説明とかが省ける一番楽なルートとなったので、そのあたりの説明をしないといけない。
「ちょっと待ってください。勇者とはあの勇者の事でしょうか」
「ボクが確認した訳じゃないけどね。知り合いが言うにはちゃんと勇者だってさ。名前は……えーっと。うーんっと……あっ! 確かナガトって言ってた気がする」
「今世の勇者様の名と一致しますね」
「ニールさんも知ってるんだ」
「大々的にお披露目式がありましたので。しかし何故メリーさんが勇者様と知己を?」
「ボクじゃなくて知り合いが顔見知りなだけだよ。本当ならその人――レナって言う人と3人で伯爵を殺す予定だったんだけど、どうしても外せない用事って言うのが出来たらしくて、そろそろこの街に来るからその説明をしに行くんだよ」
「たった3人で伯爵を!?」
「別にそう難しい事じゃないよ。だから、勇者を差し出すからボクは兵舎破壊に回してくんない?」
「真偽を確かめてからです」
取りあえず断固反対と言う線はなくなった。これで後はナガトのない事武勇伝をでっちあげて優秀な戦士であると勘違いをさせて、俺は晴れて簡単な兵舎破壊チョロイ仕事をこなせるだろう。




