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#151 最高ではないが、報酬ゲットだぜ!

「アス――メリー。ようやく見つけたわ。こんな所で何してるのよ」

「見て分からないかなぁ? ボーっとしてたんだ。どうやら報酬の目途が付いたみたいだね」


 あれから男爵を一度生き返らせ、クッズ家について色々と問いただそうと思ったが、あのガキの進行速度が思った以上に早くなって来たので、他の連中を連れて2度とスラム街区に現れない事。それを破れば死からの復活があると思うなとの忠告をして立ち去らせた。

 その後はイクス達ガキ連中に飴を配って、ここから少しでも遠くに逃げる事と俺という存在について仮面をかぶったガキに聞かれた場合はすぐに吐いていいと告げておく。

 あいつがどんな方法で俺をストーキングしているのかは知らんけど、それがこいつ等に向くのはちょっと看過できない。だって身なりを整えれば将来への期待が大の美少女が少なからず存在していたからな。それらを黙らせていたせいで殺されるのは惜しい。

 まぁ? まだ殺すと決まった訳じゃないが、俺はきっとそうなるだろうと予想しているんで、ないよりはマシ程度に考えて一応伝えてさっさと帰らせたのが、およそ6分前くらい。それまでの間に何をしていたと聞かれればこう答える。仮面のガキの様子を見ていたと。

 とりあえず下水道は脱したが、その際に下っ端やおっさんの様子も同時に確認していた訳だけど、ほとんど目の前を移動しているような動きをしているにもかかわらず、動く気配が一切なかった。まるでステルス迷彩でも施されているかのように。

 なんて事が見えてくると、あのガキは暗殺や潜入に特化した個体なんだろうとの当たりをつける事が出来ると結論をつけたところで、リューリューがやって来た。


「ええ。いくつか候補をまとめてあるわ。読んでくれないかしら」


 という訳で黙読の時間。

 淡々とページを捲り、記されている報酬とそれに関する詳細を確認。

 確かに、一晩中協議していたのかどうかに確信はないけど、これを見ればそうしていたっぽい感じは見てとれる中に、面白い報酬を発見した。

 内容は――赤髪のフェーライと黄色髪のシュントが女装をし、俺に向かって土下座をするというもの。

 普通に考えればこんなのが報酬になるかと速攻で吐き捨てられる内容だけど、相手は金でも権力でも微塵も靡かない俺だ。まぁ……一晩中やっていてどこかハイになってこんなバカげた報酬を残した可能性もあるけど、これはこれで面白い。


「あはははは♪ この報酬には黄色と赤が随分と怒ったでしょ」

「あぁそれね。冗談半分で書いたものなんだけど、出来れば選択しないでくれると助かるわ」

「大丈夫だよ。ボクだってこんな報酬は全く欲しくないからね」


 他にもいくつか報酬として面白いものがあったけど、やっぱりどこか金の匂いや権力につながるような――いわゆる俺との繋がりをこれからも続けようっていう魂胆が見え隠れしている。

 これだけ堂々と答えを見せている気がするのに、どうして気付いてくれないのかねぇと落胆しながらページを捲る手が早くなり、それに呼応するようにリューリューの顔にも絶望の色が濃くなっていく。若干可哀想だなぁとは思うけど、俺はタダ働きは嫌いだ。そこを譲る気はない。

 そうこうしているうちに最後の1枚。この裏表に書かれている物に旨味がなかった場合。俺はメリーからレナへと姿を変えて、あの馬鹿勇者を旗頭に伯爵をブチ殺す予定だ。

 つまりは、メリーで大人数を従えるか、レナで少数精鋭の一点突破をするかの2つに1つのどっちになるかってだけ。俺の人生にとっては未来が変わらない選択肢。だから報酬もそれほどいい物を求めてない。要は気に入るかどうか。その1点のみ。


「……」

「……」

「なるほど。ギリギリだけどけボクの事を分かってくれたんだ」

「っ!? そ、それじゃあ……」

「契約成立。報酬は――後払いでいいや。そっちもこれから色々忙しそうだし」

「ありがとう!」


 そう言って抱きついてきたリューリューの胸の感触をゲヘへと楽しみながらも、表情には一切出さずにきちんと〈万能感知〉でガキの様子を探る。そろそろ移動しないとここに来るのも時間の問題だな。少し試したい事もある。

 なので、嬉しそうに抱きついているリューリューを引きはがし、すぐに何の変哲もない扉を〈収納宮殿〉から取り出す。


「なにこれ。あの宿屋の扉に似てるけど……随分と簡素というか」

「素直になりなよ。オンボロだって」

「そ、そこまで言わないわよ」


 言いよどんだって事は、まぁそう思っていたという事なんだろうが無理もない。これは〈品質改竄〉で意図的に品質を落としたコテージの出来損ないだ。


「少し試したい事があって。これをスラム街区の端まで持って行って欲しいんだけど……出来る?」


 品質を落としたおかげで、目の前にある扉は細く――枝と見間違うほどの柱に紙を張り付けたようなお粗末極まる枠組に、画用紙を何枚も張り重ねたような扉で全重量は10キロにも満たないが、何せ扉だ。幅80ほど高さは250ほどと1人で何とかするには少々骨が折れる。


「出来るに決まってるでしょ。このくらい何でもないわ」


 だから、別に出来ないならできないで構わない。この方法を取らなくても対処の方法はある。悪目立ちするというデメリットはあるものの、十分に相手の秘密を探る事が出来るので断ってくれても良かったが、何故か少し喧嘩腰に了承してくれた。


「じゃあよろしく。中で寝てるからと、着いたら起こしてね」


 という訳で、俺はすぐにその扉をくぐって中へと足を踏み入れる。

 中は品質を落としているおかげで、工事現場なんかの仮設トイレ程度のスペースしかない。これ以上品質を落とすとこのロリ体形でも膝を抱えなくちゃなんなくなるんで、これが妥協できる精一杯。

 という訳で、外側からリューリューが扉を開けてくれるまでの間、久しぶりに納豆ご飯を口にしたら懐かしさと美味さで体が震えた。


「メリー。うん? なんか変な臭いがするんだけど」

「うん。ボクもそう思った。やっぱり粗悪品は駄目だね」


 納豆の匂いをそう誤魔化して外に出てすぐに〈万能感知〉で距離を確認してみると、大体10キロほど移動している。これなら十分な検証が出来るだろう。という訳で、早速椅子を用意して腰を下ろす。その隣には少し困ったような顔をしているリューリューがいる。


「ねぇメリー。凄く暇そうに見えるんだけど、なにも用事がないならアジトに来てくれないかしら? 依頼を受けてくれるなら作戦会議をしたいのよ」

「ごめんね。ちょーっと面倒な連中に目をつけられてて、アジトに向かうかどうかはそいつの動き次第かなぁ。作戦だけならここで聞くよ?」

「ちょっと待って。頼んだこっちから言うのもなんだけど、そんな状況でこっちの依頼をちゃんと完遂する事が出来る訳?」

「そのあたりは心配無用だとも。いざとなったら『本気』を出してちょちょいのちょいさ」


 今まで、〈流体金属(アクアンタイト)〉以外に本気というものは出したことがない。そうしなくても十分に他を圧倒出来ていたんだら必要ないと言えば即答でノーと言えると俺は思う。

 大体で5~20くらいのパーセンテージで常時回しているとはいえ、身体の使い方を知ってないといざギアを上げた時に頭がついてこないし筋を痛めたりするから、毎日目覚まし時計に全力全開の一撃を叩きつけている。その威力をコテージの外で使うとどうなるのかは分っかんないが、シュエイの中門くらいなら一発で穴を開けられるだろうな。


「あれで本気じゃないって言うの? 本当に貴女は規格外ね」

「ホントホント。ボクも自分が可愛くて強くて困っちゃうくらいだよ」

「……」


 なんて軽口を叩きながら〈万能感知〉を見ると、ようやくあのガキがさっきまで俺の居た場所に到着していた。

 ここから一体どんな行動を取るか。それによっては非常に面倒くさい結末が待っているんだが、どうやら実験の結果は成功したようで、俺が後をつけられていると気付いた事に感づいたのか明後日の方に向かって今までとは比べ物にならない速度で遠ざかって行き、10分もすると〈万能感知〉の範囲外からすら出て行ってしまった。

 これは……もう戻ってこないと判断していいかもしれないな。どうやって俺の後を正確に追いかけて来たのかは分からないままになったけど、とりあえずはこれで憂いなく伯爵に集中できるってモンだ。


「さて。用件も済んだしさっさとアジトに向かおうか」

「……なにが終わったのかサッパリなのだけれど」

「知らない方がいい事が、世の中には沢山あるものだよ?」


 あんな化け物に追われてますなんて言えば、良くて何を馬鹿な事を言ってるんだと鼻で笑われる程度で済むが、それを真に受けられて報酬がパァになるのは見過ごせない。


 ――そう。女性陣全員からのキスなんて特大の報酬を逃すような真似は、俺の男としてのポリシーが許さない。

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