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#149 せ、戦略的撤退であって、負けた訳じゃないんだからなっ!

「はぁ……はぁ……死ぬかと思った」


 何ちゅう激臭だよ。まだ鼻の奥に臭いがこびりついてるんじゃないかって錯覚に陥るほど、呼吸の度に異臭を感じ取れる。この攻撃に比べれば、ガキのさっきの横薙ぎなんて攻撃と呼ぶのすらおこがましい。そう断言できるほどの圧倒的な暴力が、〈万能耐性〉を突破した。そもそもスキルが発動したかどうかも疑わしいが、その確認をするほど俺は知識欲のある人間じゃない。

 問題なのは、そのリアクションを目の前のガキに見られたという事だ。


「へぇ~。お姉さんはその顔にある魔道具がなくなると死んじゃうのか~。それはそれはいいことを聞いちゃったよ~」


 予想通り。ガキの声色が若干嬉しそうに感じる。

 もちろんマスクを取られた程度で死ぬ訳はないが、呼吸の難易度が跳ね上がって戦闘力の低下は免れない。それで負けるような事態にはならいとは言え、調子に乗られるのは非常にムカつくが、こっちはこっちでちゃんと相手の切り札をある程度看破している。もちろん。馬鹿みたいに口に出す事はないがね。


「なら取ってみるといいよ。君には無理だろうけど」

「あはは。さっきもそう言ってぼくちんの攻撃が当たったじゃないか。あれでお姉さんは単純に強がってるんだってもう理解できてるんだよ~!」


 人の言葉を真に受ける。そういう所はガキっぽいよなぁと思いながら、騎士団長のジジイにも勝るとも劣らない猛攻を避けつつふと思う。やはりこいつも弱いと。

 最初に出会ったあのまだら馬鹿もそうだったけど、やはりこと戦闘に関してはあまりにも経験値が低すぎる。

 この辺りはハイスペックの身体能力と防御や回避不要の肉体を持っていれば仕方のない事としても、あの時の馬鹿と比べると全体的に劣っているとの評価が下る。

 速度的にはどっこいどっこいかこのガキの方が僅かに早い感じがするけど、それ以外は俺の感覚で言わせてもらうなら2割ほど低い。それは避けきれずに受けた一撃でも十分に理解していた。アイツのだったらもう少しだけ意識を飛ばしていたはずだ。

 これはきっと、このガキが幻覚とかの特殊な戦闘にスタイルに特化した個体なんだろうという仮説が立てられる。相手の最も恐怖する姿を取れることから、その仮説には間違いないと思うし、そうなると先に来ていた連中が壊れてしまった理由も説明がつく。

 さて。相手の観察はこれくらいにして、少しくらい攻めっ気を出さないとまたこのガキは調子に乗るだろうからな。

 とりあえずあの馬鹿の時のように漂白剤とかをぶっかけてお茶を濁そうかとか考えたが、思いとどまる事にした。さすがにあの馬鹿とこのガキが繋がってないと仮定するのは少しどころかかなり危険だ。

 万が一にもここでの情報が他の連中に漏れ、アニー達の方に襲撃をかけられたら今はどうにもできない。正確に表現するなら、不可能じゃないが計画に色々と支障が出るのだ。

 現在。この世界のあらゆる常識を取っ払って全速力でアニー達の元に行こうとするなら、半日あれば十分におつりがくると思う。確実じゃないのは〈万能感知〉の範囲外に居るから正確な位置が把握できないところにある。

 しかしそれを無理に実行に移すと、シュエイの全ての門を強行突破しなきゃならない訳で、つまりはお尋ね者になってしまうのだよ。それはさすがに遠慮願いたいので、この案は却下としよう。だから別の方法で何とかするしかない。


「うん。君の動きはある程度理解できたから、こっちからも攻めるよ~」


 とりあえず、普通に攻撃をしてみよう。あの馬鹿にも線の攻撃より面の攻撃の方がまだ通じたんで、今回も剣ではなくハンマーを選んでみた。


「あっはは~。お姉さん小さいくせにそぉんなに大きな槌を使って大丈夫~? ぼくちんに当てられるのかな~」

「その辺は大丈夫。力と速さには自信があるんだ」


 何度目かになるガキの攻撃を潜り抜け、腰の回転を十全に乗せてハンマーを振り抜けば、避ける間も与えない速度で脇腹を強かに殴りつける。手ごたえはもちろん滅茶苦茶硬い。イメージを膨らませるのであれば、ワゴン車サイズの鉄塊をぶん殴ったかのような衝撃だ。当然のように腕が痺れるし手の皮は裂けて血が出る。

 それでもあの時馬鹿よりは大きく吹き飛ばす事が出来た。まぁ、痛がってる様子は微塵も感じられないんで内心で舌打ちを1つ。


「うわ……っは!? 凄いね~お姉さん。身内以外に吹っ飛ばされるなんて初めての経験だよ~」

「結構力込めんたんだけどな~。ぴんぴんしてるところを見るとちょっと自信なくす……」


 予想していたからショック自体は大したもんじゃないが、やっぱり攻撃が通じないってのを目の当たりにするとげんなりするな。

 とはいえ、あの馬鹿の時と比べるとやはり軽い。腕のしびれはやっぱり残ってるけど、ポーションをかければ出血もすぐに治まるし、握力に悪影響が出ないほどには戻って来る。あと2・3発は連続でぶっ飛ばせる。何の意味もないけど。


「当然だろ~。ぼくちんは普通の人間とは違うんだよ~。勇者ならまだしも、お姉さん普通の冒険者だろ~? そんなんじゃあぼくちんを倒せないからね~」

「うん? その言い方だと、君は一目で勇者かそうじゃないか見分けがつくのかな?」

「つくに決まってるじゃないか~。ぼくちんだってお姉さんとは違うけど珍しいスキル持ってんだからね~。それで見た限りだと、お姉さんは正真正銘のこの世界の人間だ~。それじゃあぼくちんは倒せないのさ~」


 気色悪くなるくらい饒舌だな。もしかしたらそんな現実を突きつけてやる事で効率の強化を図ろうとでも考えたのか? まぁ……悪い手段じゃないと思うけど、それをするには早すぎるっての。これが10分も20分も続いた後だったなら効果的だったと思いたいけど、やはりその辺はロクに戦闘をしてこなかった代償なんだろう。いいカモだよ全く。

 にしても俺は、この世界の人間と判断されてるのか。中身は異世界の大人でも、見た目が超美少女だと異世界人と判断される――つまりはコイツのスキルは外見でしか判断できないって事になるな。


「倒せないなら倒せないで別にいいよ。だったら逃げさせてもらうだけだから~」

「へぇ~。ぼくちんから逃げられると本気で思ってるのかな~」

「もちろん。だって君、頑丈なだけで弱いし」


 その1つの準備を進めるため、既に布石は打ってある。もちろんあっちのガキにもそのあたりの事は気付かれてる――はずだと思うけど、そうじゃなかったら都合がいいんで気付かれてる前提で話を進めて行こう。

 少しづつ準備が整っていくにつれ、体力の消耗が大きくなる。きっと〈万能耐性〉が何とか仕事をしてくれるかと期待していたんだけど、攻撃への指向性がないものにはあまり効果がないのか。それとも発動してこれなのか。どっちにしろ少しキツイ事に変わりはないので変わらずにハンマーを振るっては、それを下水の中へと放り投げる。さすがに常時流れているだけあってその効果はまだまだ現れないと言えるし、まだ出していないともいえる。とにかくタイミングと残りMPの管理が肝心だ。


「く……のっ! 当たりなよ~!」


 ぶんぶんと腕を振り回して攻撃が縦横無尽に襲い掛かるも、既にその攻撃の肝は見きっている。

 このガキは腕にマジで不可視の何かを仕込んでいる。それが奴の肉体の一部なのか特別な武器なのかはこの際どうでもいい。

 他にはその正体を把握するため、被弾するのも織り込み済みで紙一重の回避を続けた結果。およそ50センチほどの棒状の何かとの答えが出た。他に特筆すべき物は無いので情報収集は十分だ。


「そうしたいならいっぱいいっぱいやってみないと無理だよ? こんな事とか」


 空振りを続けるガキに対し、俺は砕いた瓶の破片を顔面にぶちまける。もちろん俺の一撃を平然と受け止める防御力があればダメージらしいダメージが入る訳がないとはいえ、眼球にそれが入ると言う感覚は嫌な物。回避するには移動するか目をつぶるしかない。戦闘に慣れていないのであれば後者の選択が顕著になるだろうと踏んでの行動は上手くいったので、そろそろ決めにかかるとする。


「う……ぶわっ!?」


 叩き付けたハンマーの軌道を、強引にすくい上げるような形に切り替えてナンパ馬鹿を下水の中に叩き落とす。それと同時に魔法鞄(ストレージバッグ)から出せる限りの液体窒素をばら撒いて急激に気温・水温を一気に下げ、トドメに水面を叩くとあら不思議。ナンパ馬鹿がそこから脱出するよりも早くその一帯を凍らせる事が出来た。


「せぇ……のっ!」


 そうして動けなくなったガキの頭部をゴルフボールに見立て、可能な限り全力でのでフルスイングを叩き付けると、ブチブチという音と共にその首が半分ほどまで千切れていた。

 もちろんそんなのはすぐにくっついて何事もなかったかのようになるとしても、そんな事をされた張本人としては信じられない物を見たって感じの驚いた表情をしてくれたよ。


「……お姉さん本当に何者~。正直ここまでされるとぼくちんも本気出さざるを得ないんだけど~」

「別に構わないよ。そこから出る間にボクは逃げるけどね~」


 更に視界を覆い尽くすほどの液体窒素を詰めたガラス瓶を上下左右あらゆる方向に放り投げ、周囲の温度と氷となった下水の強固さを増加させ、トドメに閃光手榴弾と爆竹を放り投げて視覚と聴覚を一時的に麻痺させつつイクスを回収。〈万能感知〉を頼りに最短距離で出口まで駆け抜ける。


「うおわっっと!?」

「ごめんねー。調査は終わったからもう閉めといて~」


 蹴り開けた際。近くに下っ端の方が居たようでかなり驚いていたけど、こっちはそれに構っていられるような状況じゃないんで、簡潔に謝罪とこれからの予定を告げて颯爽と走り去る。

 そんな中。そう言えばこのおっさん達はこいつが入っていくのをどうして止めなかったんだろうなって疑問が頭に浮かんだけど、すぐに考えるのを止めた。必要なさそうだから。

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