表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
153/357

#148 異臭騒ぎ

 とりあえずは会話と行こうかね。少年の仮面には見覚えしかない訳だけど、あっちからすれば俺はアスカと認識出来ないはずだ。なのにわざわざ自分からお前は〈流体金属(アクアンタイト)〉だろう? なんて馬鹿な質問はしない。なにせ未だ対抗策がないんだからな。


「君がここにある〈狂乱種〉を別の場所に運んでる人?」

「……そだね~。で? きみは何者かなぁ~?」


 さて。ここで何と答えるのが正解なのかね。

 とりあえず。一番の悪手は己の正体を明かして突っ込む事だ。

 薄い可能性として、あのまだらとは別物なのかもしれないって考えられるけど、それを実行に移すにはさすがに情報が足りなすぎる。いきなり斬りかかる訳にもいかないしね。

 ってなると、やはり穏便に済ませるしかない。


「ボクはこの辺りの異常の調査に来た冒険者さ。そうしたらここで〈狂乱種〉なる麻薬の元を作ってるのを発見してね。色々問いただした結果。何者かがそれを別の場所へ運んでると教えてもらったから、誰が来るのか待ってみたら君が来たって訳」

「なぁるほどぉ~。つまりお姉さんは、ぼくちんが来るのを待っていてくれたのかぁ」

「まぁそうなるかなぁ。別に君限定じゃないけどね。って訳ではいコレ」


 白金貨の入った袋を取り出し、仮面少年の目の前まで歩み寄ってそれを差し出す。


「これはなんだい~?」

「〈狂乱種〉に対する手切れ金。大盤振る舞いで白金貨で10000枚だぁ~」

「ほへ~。それはそれは大金だよぉ。お姉さんは凄いお金持ちなんだねぇ~」

「ボクからすれば大した額じゃないよ。これをあげるから、親分さんに麻薬には二度と手を出さないようにって言っておいてくれるよね」

「ぼくちんとしては良いと思うんだけどぉ~。上の人達が何ていうか分かんないんだよねぇ~」

「まぁ駄目で元々だからそこまで深く考えなくていいさ」


 どっちにしても、俺が求めてるのはこの場で余計な運動をしたくないと言う一点に注がれている。

 〈万能感知〉の警告音を全く信用してはいないが、仮面をかぶっているってこの世界基準だとかなりおかしい部類に入るからな。まだら馬鹿の仲間と言う前提で話を進めるとなると、疲れるのは必定。だから穏便に済ませたい。


「それは別にいーんだけどさぁ。お姉さんこの後暇~? ぼくちんとデートしなぁい?」

「ごめんねぇ。ボクはボクより強い人じゃないと付き合わないって決めてるんだよ」


 突然何を言い出すのかと思ったが、まさかのデートお誘いかよ。チャラいというよりは馬鹿っぽい言動が目立つが、どうやら男であったこいつはこの超美少女メリーに見惚れたという事かと言う考えが素っ頓狂なモノだったと理解したのはこの数瞬後。目の前のガキが突然のテレフォンパンチを振り抜いて来たんでとりあえず避ける。

 そして予想通り、打ち付けられた拳が下水通路を大きく破壊した。


「あはは。やっぱりぼくちん本体が見えてるんだねぇ」

「本体もなにも普通にそこにいるじゃん」

「今ぼくちんはねぇ、〈偽装変化(プリズムカーテン)〉って魔法で相手にとって恐怖を抱きやすい姿になるようにしているんだけどぉ、お姉さんには効いてないみたいだねぇ。こんな相手は久しぶり~」


 なるほど。〈万能感知〉が放つ警告音は魔法で偽装してるよって意味だったのか。

 ここら辺は〈万能耐性〉を持つ俺じゃあどうしようもない。範囲内で魔法を使ってくれればすぐさま見抜く事が出来たかもしれないけど、最初から魔法を纏っている状態だと魔法を使ってるんだぁくらいにしか把握できない。この辺りは要レベルアップかね。


「簡単に種明かしするとだね。ボクの目は生まれつき特殊なんだ。ダンジョンの罠から果ては精霊とかまでこの目で捉える事出来るおかげで、そういうものは通じないんだよ。凄いでしょ」

「なーるほど。そんなに強いスキルを持っているんだったら、確かにぼくちんの魔法を見破る事が出来るのも納得できるよ~。急に変な事を聞いてゴメンね~」

「気にしない気にしない。ボクにとっては言い慣れた説明だからさ」


 こんな説明をしておけば、こうやって簡単に納得させられる。この世界で暮らす生物のどのくらいがスキルを持っているのか知ったこっちゃないが、少なくともヤクザに身を置くこの仮面がスキルの存在を知らない訳がない。つーかこいつはこんな所で何を目的にそんな場所に籍を置いてるんだ? さっきの下っ端の口ぶりからすると、1回や2回で済まない回数運んでいる事になる。

 そういえばあいつも、山賊の1人として行動してたっけ。目的がメディスの封印解除やマリュー侯爵の始末とかだったし……うーん。イマイチこいつらの主目的がはっきりしない。


「凄いね凄いね。それじゃあさ……その両目をえぐればぼくちんの存在は誰にも知られない訳だね~?」

「っ!?」


 軽くて明るい口調でありながら、横薙ぎに振り抜かれた一撃に乗せられた殺気は常軌を逸する。ソレが無かったらもう少しだけ反応が遅れ、斬り裂かれた髪の毛が数本じゃなくて数十本になっていたかもしれない。


「ありゃ? お姉さん動き早いね~。一発で仕留められなかったなんてどれくらいぶりだろ~」

「うわああああぁ!? 髪の毛のセットに結構時間かけたんだけど! どうしてくれんのさ!!」

「面白い事をいうお姉さんだね。今から髪の毛より大事な目を奪われるっていうのにさ~」

「それは無理でしょ。君程度の実力でボクに掠らせる事は出来るかもだけど、倒すなんてとてもとても……でもね! あと50年くらい修行すれば1億回攻撃して一発当てられるくらいにはなると思うから落ち込まないで」


 俺の問いに、おちゃらけたようなフラフラとした動きがピタリと止まる。仮面の奥で一体どんな表情をしてんのかね。怒りに歪んでいるのか。とりあえず子供っぽい言動は演技である事が明らかになった訳だが、それと同時にもう戦闘は避けられなくなってしまった。

 そこそこ煽ったし、なによりこいつが俺を逃がす訳がない。

 俺がいる限り、どれだけ魔法を重ね掛けしようと見破られると分かってしまったから。ここで逃がせば万全の体制を整えられるかもしれないと考えれば、そう易々と剣を収めるなんて選択肢は選ばないだろう。


「馬鹿言わないでほしいな~。ぼくちんが目だけを狙うのは、あくまでお姉さんに対する慈悲と考えていたんだよ~。けど気が変わった。必ず殺す事にする~」

「……それはマスターの指示?」


 アンリエットから自分を作ったマスターなる存在がいる事は聞いていたからな。今の発言はそれを知っていたからこそのただの適当なカマかけだったが、これが予想外にクリーンヒットした。

 語るなら、仮面をつけていても分かる程に明らかな動揺が見て取れたのだよ。


「どうしてそれを知っているのかな~? もしかして~、他にもぼくちんみたいな奴と会った事があるのだとしたら、詳しく問いただす必要があるね~」


 ここでそんなセリフを出せば自ら正解だと言っているような物なのに、アッサリとバラしたな。もしかしたら俺の実力は大した事がないと高をくくっているのか? だとしたらそれはそれでムカつく。


「……気が変わった。なんかやる気になってる君にボクの強さを少し見せてあげるよ」


 元々やる気はなかったが、さすがにここまで馬鹿にされちゃあ黙ってらんない。どのみち奴の注意を逸らさない限りはこの場からの逃走が難しいと考えている。1人ならまだしも俺の後ろにはイクスが居る。


「大した自信だねぇ。でも、お姉さんみたいな人種ごときにぼくちんは負けないんだな~」

「あはは。弱い者いじめをして自分が強くなったって勘違いしちゃだめだよ? ボクは大人で君は子供なんだから」

「……言ってなよ~!」


 強い踏み込みからの遠慮のない攻撃は横薙ぎ。あいつの時と同じであれば、俺の〈身体強化〉が施された人外の防御力すら突破してくる。掠る事すら危険なのでまずは余計に飛び退いて余裕を持って躱す。

 結果として、それが功を奏したのか、何故か避けきれずにこめかみ辺りをぶん殴られる様な衝撃と一瞬の意識の半喪失を味わったものの、秘密を発見する事が出来た。

 こっちとしてはそれが初撃に知れただけでも値千金の意味があるだろうが、今はそれよりももっと重要な情報に直面した。


「臭っさああああああああああああああ!!」


 これでも子供のころは外で散々走り回って遊んでいた。当然下水道なんかの近くでも遊び、その嫌な臭いというのは記憶の中にちゃんとあるんだけれど、これがその想像をはるかに超えていたので、攻撃で吹っ飛ばされて無くなった代わりのガスマスクを慌てて作って装着した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ