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#146 か・み・さ・ま・の・い・う・と・お・り

「ほら。姉ちゃんが言った通りの簡単な依頼なら、このくらいで十分だよ」


 そう言いながら、襤褸切れ少年のイクスは銀貨を2枚だけ手に取った。

 俺としては、袋の中身を全部くれてやっても全く問題ないんだけど、イクス側がそれを良しとしないのだ。まさに襤褸を纏えど心は錦ここにアリと言わんばかりの精神の持ち主なんじゃないか? 好感が持てるが、惜しむらくはこいつが野郎だって事だ。


「それじゃあ行こうか」

「おーう」


 という訳で速攻でおっさん達の元に戻り、ちゃんと同行者を連れて来た事を見せつけると、まさかこういった輩を連れて来るとは思わなかったんだろう。明らかに不服そうに顔を歪めたが、そこはすでに言質を得ているし細かい条件を先に言っておかなかったお前等が悪いと逆に相手の不備を攻め立てる事で強引に勝ちを手繰り寄せる事に成功した。


「まぁ分かっているとは思うが、ここから先は本当に自己責任だ。何が起きようともこっちは一切責任は負わないぞ」

「大丈夫大丈夫。そう言うおじさん臭い説教はいいからさっさと開けてよ。じゃないと無理矢理開けちゃうよ?」

「……それをやったら即刻牢屋にぶち込んでやるから少し待て」


 親切心から最終勧告をしてくれたんだろうが、俺にとっては何の意味もない。だから、渋々と言った様子で鍵を開けるのを尻目に、イクスに予定通りガスマスクの使い方の説明をしておく。


「本当にこんなんで今までの冒険者みたくおかしくなんないのか?」

「ボクの予想通りならね。別に嫌だって言うなら――」

「嫌って言ってないだろ! そういった物をなんで姉ちゃんは着てないんだよ」

「動きにくいから。それに可愛くないじゃん? ボクはこっち。この丸みが最高だと思わない?」


 と言って、その辺で拾った小石を魔道具だと説明しておく。こうすれば〈万能耐性〉の疑いは持たれないだろう。そんな知識があるかどうかは知らんけど、安全を考慮しない理由はないからね。


「ただの小石に見えんだけど」


 むぅ……意外に鋭いガキだ。

 しかし。相手はスラムに生きてるからロクな情報と言うのは手に入らないだろうから、口から出まかせでダンジョン産だうんたらかんたらと畳みかけて強引に納得させる事に成功した。さすが俺だな。


「よし。解錠は済んだ。いつでもいけるぞ」

「おじさんありがとね。それじゃあ出発~。あ! 一応鍵は開けっ放しにしといてね。新しい扉が欲しいならその限りじゃないけど」

「分かっている。そんな愚かな真似はせんよ」


 ようやく鍵の外れた扉を開くと同時に、きっと今まで以上の悪臭が飛び出してきたんだろう。近くに居たおっさんや下っ端が眉間にしわを寄せながら鼻をつまんでいるんだから。

 しかしこちらは、高性能のガスマスクをかぶっているためにそれらは微塵も感じ取れない。

 そんな姿に内心でざまぁと思いながら奥へと踏み出す。当然ながら灯りになるような物は何もないので、頭上のライトと〈万能感知〉だけが今のところの頼りだ。


「これ凄いな姉ちゃん。全然臭くない」

「でしょでしょ。でも今は調査中だよ。もしかしたら奥に犯罪者集団や魔物が居たりするかもしれないから、もうちょっと小声で喋ろう」

「っとと。ごめんな姉ちゃん」

「なんのなんの。失敗するのは誰でもあるじゃん。何回も繰り返さなければ問題ないよ~」


 魔物がいる訳でもなし。声が届くであろう範囲に人は確認できない。ならば入り口近くで失敗に気付けたのはむしろ喜ばしい事ではないだろうか。

 こういった潜入ミッションの場合。テンプレなのが重要な情報が聞けたと思ったとたんに小枝を踏んだりして存在を明らかにしちまうってのがあるけど、エリクサーがあれば全滅させてからゆっくりと問いただせばいいので、そう言うフラグの回収もないだろう。

 そして下水道の構造は基本的に単純で、邪魔をするモノは高い湿度以外何もない。目的地である場所に向かって淡々と突き進んでいると、背後からイクスが声をかけてきた。


「なあ姉ちゃん。どうしてそっちなんだ?」

「どうしてって……なにが?」

「いや、姉ちゃんは確かこの中の調査に来たんだよな? それにしちゃあさっきから分かれ道があっても全然他の道に目もくれないじゃないか。それってどうなんだ?」


 ……なるほど。言われて初めて気づいたな。

 俺は〈万能感知〉があるから目的地へは最短距離で突き進む事が出来るが、他の奴等からしたらどうしてそうも迷いなく分岐を歩く事が出来るのか分からないんだったな。

 もしかしてだけど~同行者を募っておきながら怪しげな場所に連れて行かれるんじゃないの~って不安があるんだろう。

 こと戦闘に関しては実力者だからって文句が通用するだろうけど、さすがに調査に関して言えばイクスみたいな疑問が出る事もあるのか。こいつが特別優秀なのか。それとも子供ならではの疑問なのかは関係ない。それが発信された時点で問題だと俺は考えている。まぁ……言い訳の準備は整っている訳で。


「事前に怪しい場所を教えてもらって地図に印をつけて貰ってるのだ。依頼はそこの調査だから、余計な場所に行って汚れたりしたくないじゃん? ボク、女の子だし。後、ここに入る事に成功したから君はもう帰ってもいいよ~?」


 俺がイクスに求めたのはただ同行する事だけ。戦闘も荷物持ちも何もさせるつもりがないしそのどれもが必要ない。既に用済みと言ってしまえばまさにその通り。さすがに扉に張り付いていろってのはおっさん達との関係上オススメ出来ないが、せめて助けを呼べる距離くらいであれば問題ないはずだ。2人とも黒い反応はなかったからな。


「いや。金を貰った以上はしっかりと務めを果たす」

「既に果たしてるよ? それに、ついてきたとしても面白い物が見れる訳じゃないからね?」


 この先に待っているのはきっとR-18のZ指定がついてしまう光景だ。まぁ俺がそれを作り出すんだが、さすがにこんなガキにそんな光景を見せるのはどうだろうという倫理観が働いているからゆえの提案だ。別に死んだってエリクサーがあるからそこら辺は構わないんだけど、精神的な治療に関しては効果が薄いからなぁ。


「姉ちゃんには、こっちが面白い面白くないで仕事をえり好みする余裕があるように見えると?」

「別に追加手当が出る訳でもないのに律儀だねぇ。ついて来てもいいけど、どうなっても自己責任だからね」

「分かってるよ」


 こんなガキ程度、力づくでの排除は簡単だけど面倒臭い。子供のくせに意外と賢いんで、一度言って聞かせれば理解するだろう。ただしこれから先で起こるであろう可能性についてはきちんと説明はしておいた。口を動かすのは移動の邪魔にならなないんで。


 ――――――――――


「よし。ここから先はさらに小声な」

「分かったよ」


 あれから30分。ようやく目的地である場所に到着した。

 場所はシュエイの中央辺り。地図で確認すると何もないように記されているが、少し先のそこには周囲の壁と比べて明らかに真新しい大きな扉があり、その両脇には門番っぽい感じで立つザコ。


「一つ目発見~。まずは中に誰が居るかとかの確認をしてくるけど、さすがに中までは連れてけないよ。戦闘になったら邪魔なだけだし。これ以上来るなら殺しちゃうからね」

「そこまで馬鹿じゃないからこの辺で待ってるって」

「物分かりが良くて楽だ。じゃあ行ってくるね~」


 なーんか俺の殺す発言を軽く受け止めてる気がするんだよなぁ。どこかのガ〇ダム乗りと違って、殺すと言った以上はマジでやる。子供だろうが、おっさんはそのあたり平等主義者なんで年齢などは手心を加える理由たりえない。もちろん相手が男だからってのもある。女性であればせいぜいがコラー! と棒読み口調に言うだけです。

 とりあえず、身をもって俺がどんな奴なのかを知れば嫌でも理解するだろう。

 ってな訳なんで、タイミングを計って扉の脇に立つ見張り2人の頭を投石で粉砕し、崩れ落ちそうになる肉体を肩に担いで見えないところに放り投げる。この間大体5秒くらい。無音とまではいかなかったかもしれないが、ここは常に汚水が流れ込む下水道。そこそこうるさいし警戒の類の魔法もないので問題なっしんぐ。


「凄いな姉ちゃん。あっという間に2人やっつけちまうなんて思わなかったぜ」


 おかしいな。目の前って訳じゃないけど人の頭が吹き飛ぶってグロ映像を目の当たりして平然としてる。意外と肝が据わってんのかなと思ったのが顔に出てたんだろう。スラムで暮らしてりゃあんなのよく見るよとの返答。たくましすぎるぜ。


「まぁボクは超強い冒険者だから。次を片付けるからちょっと待っててね」


 人数分の石をカバンから取り出し、勢いよく扉に蹴りを叩き込んだら予想以上に吹っ飛んで、それが中に居た1人を圧殺。おかげで取り出した石が1個無駄になったが、後でぶつければいいかとすぐに切り替えてさっさと全員の頭を吹っ飛ばしてやった。


「さてと。どれにしようかなーっと」


 外との連絡手段の有無を考えて速攻で終わらせた。次は事情を聞くために誰を生き返らせるかだな。選び方は非常に気食わないが、やはりここは日本の習慣に倣ってあれで決めるしかない。

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