#13 契約と実験
「さて……それじゃあ『第1回・現状をどうするかを考える会議』~」
「「……」」
ミスリルが2割くらい混じった銀剣を作ったせいで、これ以上何かするのもMPが足りないからな。村の連中は相変わらず手伝ってくれる気はないみたいだし、その矛先は自然とアニーとリリィさんになる。ついでに減った分を回復させる時間にもなるんで一石二鳥――1.5鳥くらいだな。
まずは和やかな雰囲気づくりをと考えてどなりをしてみたものの、完全にスルーされた。知ってるかな? 無視って馬鹿にされる以上に傷つくんだぞ。悲しいけど泣かない。男の子だもんっ。
「さっ。とりあえず防護柵を作ったが後はどうすればいいのかの意見を出し合おうじゃないか」
「どうする言われても……アスカしかろくなモン持っとらんのやからどうしようもあれへんやろ」
「ホンマですなぁ。さすがにあてら2人では村人全員なんか守れまへんし……」
「そこは別に助けんたっていいんじゃないか? 手伝わないって事は連中だって死を受け入れてる訳なんだから。俺は野郎相手のタダ働きってのは嫌いでね」
「おま……さらっとエグイ発言すんなや」
「事実だろ? こっちが助けてやるって言って手を差し伸べてやったのに、卑しくも飯だけ食って無視してんだからな。わざわざ説得に時間かけてらんないっての。だからこうして3人で話し合いをしてんじゃないか」
まぁ……魔族に勝てるとも思ってないってのが理由の1つだろう。先の一戦も情報が無かったから無様にマグマを舐めさせられたが、今回はキッチリ対抗策を用意してるんで負けるつもりはない。
しかし。飯は食わせたからもう戻ってこないし見返りは求めないけど、いざ土壇場になって助けてなんて都合のいいことを言っても助ける気は毛頭ない。どうせ死ぬなら可能性に賭けられなかった自分達の度胸のなさを恨めばいい。それで死んで、こっちに憎悪を向けるのはお門違いっていうもんだ。
「せやけど……あて等だけ助かるにしてもほんまに難しい思いますわ」
「そうか?」
一応防護柵を張り巡らせはしたものの。魔物は地上からやって来るだけじゃない。当然空からもやって来ると考えない方がおかしい。今まで見た事ないけど、ゲームなんかにも普通にいたから、奴も間違いなく出してくるだろう。
もちろん。弓はまだまだ作れる。コンパウンドボウは品質15くらいなんでMPも全然減らない。だからペースさえ考えれば、村人全員分作ってもぶっ倒れるまではいかない。
弓は比較的上位種の少ない武器種だからな。〈品質改竄〉するとすぐに銃とかミサイルとかになって創造不可能になる。おかげで聖弓でも50くらいの品質扱いなんで、そっちを作ろうと思えば作れるからかなりありがたみは少なく感じる。銃に負けるファンタジー武器ってどうなんだろうって思うけど、やっぱミサイルを前にすると弓の性能がどれだけ良くてもかすむよなぁ。距離とか威力とか桁違いだもんな。
ちなみに2人に弓を使えるか聞いてみたところ、視線をそらされた。
「現れる魔物を仮に1000単位と見積もっても、せめて20は味方が欲しい思います。この村の人達は狩りをしとる人がようけおりますから、弓の扱には慣れてる思いますわ」
「そんなんいうても難しいんと違うか? 魔族に逆らって有り余るほどの見返りがもらえるんなら話は別や思うけど……」
「見返りか。そういえばその話をするのを忘れてたな。よし。それを引き合いに出してもう1回連中と交渉してみるとするか」
思い返してみれば、連中には俺の都合だけを押し付けていたな。
別に報酬を支払わないつもりはなかったんだけど、手伝ってくれれば農具とか金貨とかを用意してやるつもりだったから言葉にしてなかった。こいつはうっかり。
「ほんなら交渉はウチがしたるわ。これでも商人やからな」
「なら任せた。今の所呑めない要求は不老不死とか実現不可能そうな物だけなんで、金貨だのミスリルの農具だの、そこら辺を頭に入れておいて交渉してくれると助かる」
「ミスリル農具て……ホンマに何でもありなんやな。そないなモンを要求する連中やないやろうけど一応覚えとくわ」
という訳で、俺達は再度交渉をするために村長の家を訪れた訳なんだけど、そこにはゴンズ村長以外にも十数人の村人が殺気を纏って何故かずらりと並んでた。
「お待ちしておりました。これから呼びに行こうと思っていたところです」
「別に約束してた覚えはないけど……こっちも話があったんで丁度――」
すぐアニーに視線を向けて始めてもらおうと思っていたんだけど、〈万能感知〉が敵意を検知したんで即座に剣を振り抜いてみると、俺が村長にくれてやった鉄の矢が2つになって屋敷の壁に突き刺さった。どうやら奥に居る比較的若い男が射ったようだ。良い腕かどうかは知らんが、ビックリしてるって事はいいって事なんだろう。
「ば、馬鹿な……この距離だぞ!?」
「いきなりなにをしますんや!」
「あんた等……気は確かか?」
突然の攻撃に、2人も武器を手に臨戦態勢を取る。アニーは短剣を両手に持つ二刀流スタイルで、リリィさんは大きな青い球体に木の枝が絡みついてる杖。あの揺れ動く大山を思えば魔法職が一番しっくりくるか。
それはさておき……さっさと話を進めるとしますかね。
「使い心地がいいだろう? お前らのような素人に毛が生えた程度の腕じゃあ俺には通じないが、普段の狩りや魔物には通じる一品だ。恥ずかしげもなく乞食のように飯を喰らい、恵んでやった武器で図に乗った感想は?」
そうケロッと言い放つ俺に対し、アニー達はまたか……って顔をしてるし、村人連中が一斉に睨み付けてくる。目に火がともって来たか……いい傾向だが無視されるのは腹が立つ。
「聞いてんのか!」
「「っ!?」」
ここで板張りの床を砕かずヒビを入れる程度の力で踏みつけて全員を黙らせる。いい感じで恐怖心を抱いてくれてるのが好都合だ。アニーに任せるつもりだったけど、相手が始めから交渉の席に座るつもりがないなら俺がやった方が好都合だ。見下すのも大人より子供の方がより効果的になる。
「選べ。魔族討伐の邪魔をされたくないと思ってる俺に今ここで全員殺されるか、共に戦って望む報酬を得るかを。10秒以内だ!」
こっちには天下の〈万物創造〉があるんだ。農具だろうと金貨だろうと家だろうとなんでもござれだ。さすがに耕運機とかはMPの関係上勘弁してほしいな。
後はこいつ等がどっちを選ぶかだけ。文字通り最終勧告だ。
ここで拒否すればマジで助けるつもりはない。少なくともここに居るむさいおっさん連中は。
もちろん綺麗で可愛いお嬢さん方は無条件で救助するつもりだ。好感度稼ぎの大チャンスだし、なにより次代に命を繋ぐ事が出来る大切な人達だからね。
俺のカウントだけがこの場を支配すること2秒前。ようやく俺の実力を認めてくれたようで、ゴンズ村長が大きく深いため息をつくと意を決した表情で報酬を提示してきた。
「では……こちらの弓をあと30ほど。それに丈夫な農具に銀貨を500枚。ついでに出来れば一月は食うに困らない食料もつけていただけると嬉しいですな。それらを提供してくだされば、我々はアスカ殿の提案を受け、命を懸けて魔族討伐の助力をいたしましょう」
「なっ!? あんた等、いくら何でも求めすぎ違うか?」
「別に構わんさ。それであんたらちゃんと働くっていうなら安いモンだ。それどころかがめつく生きようと意識が切り替わった良い証拠でもある。やっぱ戦をするには士気が高くなくちゃな」
「当然じゃ。どうせ死ぬのなら、アスカ殿が居ればあの魔族を退治できるかもしれんという希望に賭けることにした。先の無礼は許してもらえるとありがたい」
「別にいいさ。おかげで村長達が十分な戦力になるって分かったしな」
という訳で、ようやくだけど従順な労働力が手に入った。その数は全部で30人。狩りを生業としているらしく例外なく弓の腕前は一流だと教えてもらった。さっきは素人に毛が生えた程度とか言ってすまんね。
「ではアスカ殿。我々は一体何をすれば」
「そうだなぁ……」
手伝いと言っても防護柵はもう設置済みだし、女子供は比較的頑丈な倉に避難してもらっているところだから、最初のは捨ててそこに新たに防壁を築いてもらうとしますかね。
「なら倉を囲むように柵でも設置しといてくれ。材料はこれでいいか」
もう少しだけMPが回復して余裕があるからな。次々に丸太を創造しては男連中に運ばせる。倉の前で創造すれば色々と楽だろうけど、男相手にそこまで甘やかすつもりはないし、こっちも弓作りで結構忙しい。
最初の方はコンパウンドボウを作ってたんだけど、それだとマッチョな男衆には簡単に引けすぎるからどうも調子が狂うと言われたんで、今は少し品質が下がる合成弓に切り替えている。
おかげでMPの減りも少なくて5分1本ペースで創造する事が出来るから、こっちとしてはありがたいか。
「しっかし……ホンマにすごい魔法やな」
「まったくや。魔力で物作るて聞いた事もあれへんわ。詠唱もあれへんからLv1なんか? にしては応用が利きすぎやし……」
「なんだ。アニーは魔法に詳しいのか?」
「……馬鹿にされた気ぃするけどまぁええわ。っちゅうてもそないに大層なモンやあらへん。ウチは〈鑑定〉持ちやから、商品の目利きの他に魔法の属性を感覚的に知る事が出来んねん。アスカのそれはどの属性も見えへんから無属性やと辺りをつけとる」
「まぁ……そんなトコロだ」
残念だ。詳しければ性別を変える事が出来る魔法があるか聞きたかったんだが、やっぱ人生そう簡単に思い通りにはなる訳もないか。今まではそこそこ思い通りになって来たけど、所変わればって奴か。たった1日目にして不都合ばっかりだ。さすが異世界。
そんな風にガッカリしながらもようやく注文通りの弓30の創造を終える事が出来たけど、動くのが面倒なんで全部をゴンズ村長に配るように指示する。
ここまでで3時間ちょいだから、魔物が襲撃してくるまであと2時間ちょいくらいか。
「さて……後はどうするかね」
罠は張った。
対空手段も得た。
魔族用の武器も造った。
あとは大量の矢を作っておけばいいんだろうけど、100発単位での創造にもかかわらず消耗品だからなのか、ほぼMPを使わないのでいつでも大丈夫。
とりあえず弓と矢の具合に慣れてもらうために2000発分の鉄の矢と手ごろな的としてぶっとい丸太を何本か地面に突き刺してある。丸太が使えなくなったり矢が尽きたら言いに来いとは言っておいたけど、定期的に聞こえる音がその心配を打ち消してくれる。
他に何かやる事が残ってないかねぇとボーとしてると、2人がウキウキした様子で近づいて来た。この状況でそんな顔が出来るとはさすが商人だねぇ。目的は知らんけど。
「なぁなぁ。その魔法で弓とか作れるんやったら、ウチらにも装備作ってくれへんか?」
「一応あてらも戦線に加わりますよって、お願いできまへんやろか」
「それもそうだな。あんまり強すぎたりすんのは無理だけど、リクエストがあれば可能な限り応えるぞ。何せ2人とも綺麗な女性だからな」
「リクエスト――ってなんや?」
「あぁ。形とか大きさの要望があれば応じるぞって意味だ」
丸太とか弓矢と罠を創造したおかげで経験値を得たと言ってもまだレベルは上がらない。現状の総MPは100にも届かない貧弱だからな。残り時間を考えると強力な奴を創造してぶっ倒れる訳にはいかない。
それと横文字はあんまり通じないっぽい。誰がどこで見ているか分からんから、可能な限り使わない事を心がけておこう。転生・転移者の事を知ってる奴等に見つかったら面倒な事になりそうだからな。
「ウチはショートソードとナイフやな。今のが青銅製やから鉄で頼むわ」
「あては出来るだけ防御力の強いローブを頼んでよろしいやろか?」
「うし。ならアニーからやるか」
剣と短剣は一覧に入ってるから問題ないが、やっぱ女性を相手とすると画一的な物じゃ駄目だと思うんですよ。うんうん。
という訳で、実験もかねて剣じゃなくて丸太を創造。すぐに銀剣で手ごろなサイズの板に切り分けてアニーにそれを手渡す。
「なんやこれ? ウチの注文と違うやないか」
「ちょっと試したい事があってな。その木で自分の思う形でショートソードとナイフを作ってくれ。それを参考に創造出来るか試したいから。難しいってんならこっちでやるけど?」
「はぁ~。あんたの魔法はそんな事も出来るんか。ほんならやってみる事にするわ。これでも手先は器用なんやで?」
ふっふっふ。これでアニーカスタムの武器の創造が成功した暁には、好感度もうなぎのぼりだろう。
という事で次は……揺れ動く大山を包むローブ作りじゃい!




