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#143 うずうずしちゃう

 屋敷を出てすぐ。俺は平然と大通りを闊歩する。

 今の姿はあくまでメリーという架空の人物であって、超絶美少女アスカではない。もちろんメリーが可愛くないと言っている訳じゃないが、アスカを100点とするとメリーは85点くらい。ちなみにレナは96点くらいというのが俺の自己採点なので悪しからず。

 とにかく。俺であって俺でないのだから、万が一にも事情聴取でもされたら子爵の屋敷に居たのはたまたま依頼を受けたとかなんとか適当な理由を告げ、それでも退かないのであれば……非常に残念だが分かるまで教えるしかない。方法は言わずもがな。

 しかし。帰る道中に俺に話しかけてくるのは、酔っぱらったアホな冒険者に下心満載の馬鹿な奴等が数組程度だったので、遠慮なく殴る蹴るの大立ち回りを演じてやった。こうやってメリーが目立てば目立つほど、人の目ってのはそっちに流れるもんだ。

 が、あまりやりすぎると悪名として知れ渡ってしまうのでまぁまぁほどほどに。絡んできた連中も四肢のどこか一本折っただけで済ませている。あの程度ならポーション飲んで1週間もすれば治るだろ。レベルなんてモンが存在するこの世界の人間は、子供でも身体が頑丈なのだ。

 そんなこんなで大した問題も起きずに宿に戻り、キュエルに姉がアジトで一晩を過ごす事を伝えてあっという間に夢の世界に旅立ぐぅ。


 ――アニー達と合流するまであと4日。


 翌日。いつものように壊れない目覚ましに筋を痛めない5割解放の殴りを叩き込んでやって止め、もはやつけることに抵抗すら薄くなって来た女性ものの下着を装着。下はともかく上はしっかりと動かないようにしないと動きにくいのだ。今はまださほど大きくないのに……まさに宇宙の真理と呼ぶべきものなのに、自分の身体にあるとこれほど邪魔臭い物は無い。だからと言って嫌いになる要素は微塵もない。

 適当に着替えを済ませ、爺さんとキュエルの部屋へと向かい、それぞれに望む飯を用意してやる。そのついでにこの街の情報をいくつかいただく。世の中ギブアンドテイクだ。少々こっちが払い過ぎている気がしないでもないが、こいつらの生存がバレるのは俺としても面倒だからこれでいい。要は後から請求すればいいのだ。

 そして今は、キュエルにあのアジトについて話せる範囲で情報を提供してもらっている。もちろん姿はアスカである。メリーだと鎧が邪魔だからな。


「ふむ……。話を聞く限りだと随分と数を減らしたみたいだな」

「そうだね。アスカさんの話が全部本当なんだとしたら、ぼく達はかなり絶望的な状況にいる」


 だろうな。戦力は半減。おまけに伯爵にはこちらの手の内がほぼ読まれているんじゃないかって仮定を組み合わせると、ほぼ詰んでいる。何かここから一発逆転を図れる隠し玉があれば話は別だろうけど、この様子だとそれも期待できない。

 勝利を確実なものとするためには、どうしたって俺の加入が必要不可欠だろうが、こっちとしては単独でもなんとかできそうな気がするんで協力する義理はない。それを受けるかどうかが決まるのも後10数時間後には明らかになる。

 魅力ある報酬であった場合。ある程度はリューリュー達に合わせて行動するつもりだが、勇者との兼ね合いもあるので基本的にはレナで大立ち回りをするつもりだ。

 そして依頼を受けないという事になれば、速攻で伯爵邸に乗り込んですべての罪を明るみにしたうえで、衆人観衆の下でその命を刈り取る。その全てを今日か明日くらいに到着するであろう勇者に押し付け、アスカという存在はごく少数の人間以外にはただの観光客程度の認知しかされない。それが理想。


「ま。とにかく今日がターニングポイント――分岐点だ。せいぜいよりよい未来が待っている事を期待してな」


 俺が納得すれば、死蔵しまくってる装備を振る舞ってやる位のサービスは提供してやる予定だが、今のところその可能性は低い。あれだけ態度で示したってのに……ちゃんと人を見たいとね~。


「おいっす爺さん。まだ生きてるか?」

「当然じゃ。これだけのお宝を前にまだまだ死ぬ事なぞ出来る訳がなかろう!」


 そして爺さんの方は、もちろんなんで命を狙われたかだ。

 いくら昔にシュエイの総団長なんて役職についていたとはいえ、実力を見ていない以上は、大量に創造してやった写真集を徹夜で読破しまくってるただの馬鹿エロジジイでしかない。何故徹夜か分かるのかって? イタズラ心で用意したウォーターベッドに関する質問が来ないから。

 同じ物をアニーやリリィさん。侯爵やアクセルさんにも仕掛けてみた時、そのスライムに似ているらしい感触にまずは悲鳴。すぐに文句が叩きつけられ、最終的には全員がそこそこ気に入ってくれた。それに対する質問がゼロの時点で、寝てないのは明白。


「で? 爺さんはなんだって伯爵に命を狙われてたんだ。何かしたのか?」

「全く記憶にないのぉ。そりゃ昔は厳しくしごいてやったが、そんなの奴だけではなかったからのぉ。そんな事で命が狙われとったら、ワシはとうの昔に死んでおるわい」

「本当かねぇ。昔鬼教官とか言われてたんじゃねぇのか?」


 他人の機微など永久に分かる訳がない。だから本人がそこまでやっていないと言っても、それを受けた伯爵が今に至るまで殺したいほど憎いという思いを熟成させ続けていないなんて可能性は決してゼロじゃない。

 麻薬を撒き散らして一体何が目的なのかは知らないけど、少なくともそんな事をする奴の性根が真っ当だとは思わない。十分に考えられる可能性ではあるけど、そんな人間を相手にリューリュー達ほどの実力者? を爺さんに自爆覚悟で向かわせるのは、よく考えれば得策じゃないよな。

 あの時は他に誰もいないって前提での答えだっただけで、ああいった連中がいると分かった今ではもっと効率のいい使い道がある。そう――同士討ちだ。

 これをする事によって、伯爵側は余計な兵の損失を押さえつつ赤や黄色と言った連中を効率よく対処出来る。もしもの場合は自爆させれば巻き込めて勝利がグッと近づいて来る。これだけの事をしでかした伯爵がそんな簡単に事に気付かなかったのか。それとも連中にはあの呪いを解除する方法があった? うーん。謎は深まるばかりだ。


「それより話は終わりか? それならさっさと集中したいんじゃが」

「ああ。聞きたい事があったらまた聞きに来るさ。つーかちゃんと寝ろよ。そのうち本当に死ぬぞ?」

「フン。わしがこれほどの光景を全て拝む前に死ぬなどあり得んわい」


 ここにある写真集は全部で百冊ほど。もちろん爺さんの心臓を気遣ってヌードの類のないクリーンな物だけをピックアップしてはいるが、モノによっては裸なんじゃないか? って感じに見えなくもないカットが混じっていたりするので心配だけど、もしもの時はエリクサーを吹きかけてやろう。


「まぁ……爺さんの人生だから別にどう生きようとかまわないんだけどな。とりあえず爺さんには殺されるほど恨まれる理由が思いつかないって訳だな」

「その通りじゃ。ワシはあの小僧の父親に頼まれてしごいてやっただけじゃ。おかげで武勲を上げ、今の地位にまで上り詰めたというのに、それを殺してやりたいほど憎まれるような酷い事をしたとは思っておらん」


 なーんか引っかかるような言い方ではあるけど、それを理由に自分が治める領地に麻薬をばらまく理由には直結しない。かなりの大穴でこの領地その物を駄目にして、ジジイに意趣返し的な目論みをしているんじゃないかと邪推できなくもないけど、さすがにそんな事をすると王家から色々と言われるか横やりを入れられる。何せ王都の最終防衛ラインなんだから。

 まぁ……それはそれでこの領地を滅茶苦茶にしようとしているとするなら渡りに船か。件の伯爵とやらがそこまで死に急ぐ人間なのかどうか知らんけど、さすがに短絡的すぎるよな。


「そうかい。そんじゃ俺は行くわ」

「どこに行くというんじゃ?」

「決まってんだろ? 美女探しだよ」


 これだけデカい街――いや、都市なんだ。昨日遊園地で見かけたお姉様方を探したり、新たな出会いを求めて都市中を駆けずり回ってもいいかもしれんな。もちろんリエナの所によって仲間になってくれるかどうかの確認も忘れない。


「ずるいのぉ……わしも本来であれば同行したいというのに」

「代わりにいいモンくれてやってんだろうが。文句があるなら返してもらうぞ」

「断る! これは全部わしのもんじゃい! いくらお嬢ちゃんだろうと決して渡しはせん!」


 本気で守る気かよ……。別にそんな事をするつもりは全くなかったんだが、あそこまで過敏に反応されるといたずら心がうずうずとわき上がってくる。幸いな事に〈収納宮殿〉はある程度距離が離れていても十分に機能するし、それに何より――紙は火に弱い♪


「大丈夫大丈夫何もしないさ。ちゃーんとこっちの指示に従って後4日くらいじっとしといてくれれりゃ、全部アンタにやるしおまけも付けてやる。ただし、守れなかったら俺の魔法が火を吹くぜ」

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