#139 おっさんの頭じゃこれが限界ですよ
1枚の白金貨を指で弾いて宙に放り投げる。
「「あ」」
……ちょーっと力加減を間違えて壁に突き刺さった。
即座に睨み付けて来るリューリューから速攻で目を逸らし、相当に力をセーブししてもう一度。
今度は甲高い音が狭い通路に何度か鳴り響いたのちに動かなくなる。まぁ壁にヒビが入りはしたけど、キッチリやりたかったことが出来て満足じゃ。
「あっちか。ちょっと味方の数を減らしちゃうけど、自業自得だから謝るつもりはないからね?」
「え?」
そう何度も自分達の都合通りに事が運ぶと思うなよ。そう言った意味を込めて、人差し指と中指を〈万能感知〉で確認しながら微調整。特にする必要はないんだろうけど、こういうのは最初の一発が肝心だって訳で中心に居る1人に狙いをつける。
「〈火矢〉」
指の先から真っすぐに真紅のレーザーが駆け抜ける。壁も人の頭も貫いてなおその勢いは止まらないだろう。一瞬だけの紅い光がすぐに止み、僅かに遅れてざわめきが起きるが、俺には関係のない事なんで次々に魔法を撃ち込み続ける。当たろうが外れようが関係ない。要は出てきてもらうためにやってるんだからな。
「くそっ!」
片方で待ち構えていた人数が半分ほどに減った頃。ようやく反対側の曲がり角から多くの人間がなだれ込みながら針や魔法を撃ち込んでくる。どうやら俺の仕業なんだと気付いたみたいだが遅い遅い。
「〈微風〉」
手のひらを前に突き出してそう呟くだけで、エメラルドの風壁が全てを呑み込んだだけでは飽き足らず、それらを撃ち放った連中全てを呑み込み、挙句自らの魔法と針に加えて俺の〈微風〉の鎌鼬で切り刻まれ、トドメとばかりに壁に強かにに叩き付けられる。反応が一気に消えたがゼロにはならなかった。運がいいな。
ま。これで随分と風通しがよくなったんでさっさとアジトの中心部に向かって行こうじゃあーりませんか。
「……」
「どしたのさ」
「いえ……もし依頼を受けてくれなくても、彼等も私みたいに後で生き返らせてもらえるのよね?」
「それは別に構わないけど、ちょっと待ってね」
そう言ってから死体の辺りを確認してみると、ほとんどの死体は原形をとどめていて問題はなかったが、ほんの数人だけは運が悪かったのか無数の魔法を浴びて四肢が爆散したり胴体がなくなっていたりと言ったボーダーラインを越えたものが確認できた。
「残念だね。運が悪い数人はもうどうにもならないかな」
「そんなっ!?」
「ボクの国にはこんな言葉ある。撃っていいのは、撃たれる覚悟のある奴だけだ。さて、致死性の毒を塗った針や魔法を無数に撃ち込んでくる相手にその覚悟無かったとは思わない。だから返礼として撃ち返しただけだよ。それが嫌だったら止めればよかったじゃないか」
「……そうね」
仮にも伯爵を殺すとのたまうリューリューの仲間なのだ。目的はきっと同じのいわゆる同志って奴なんだろう。そんなお題目を抱えておきながら、自分達だけは決して死なないと思えるような阿呆の集団ではないと信じたい。決して殺される事はないぞと『誰か』が教えていなければだけどな。
という訳なんで、俺は逃げ出した生き残りに対しては何もせずに移動を再開した。と言っても、最奥まですぐそこなんで5分もかからずに到着したそこには一応豪華っぽく見える扉がぽつんと一つだけ。
試しに押したり引いたり上下左右にスライドさせたりしてみたが、開く様子は微塵もなかった。
「ねぇリューリュー。この扉壊してもいいかな?」
「出来れば勘弁してほしいわ。これは侵入者に対する最後の砦。契約が済んでいるのであれば構わないけど、今は止めてほしいわね」
「了解~」
という事は、正しい手順でもって開かねばならない。
まず見た目だけで確認してみても、この世界ならどこにでもあるような普通の扉だ。装飾はナシ。基本的な方法では開かないとなると、鍵や細工が施されたりと言った事が真っ先に思いつくが、鍵穴らしき場所はなくどこかしらが動くと言った様子もない。この線はナシだな。
次に魔法による施錠だ。これは経験値稼ぎのために死蔵させまくってる武器の中から一度お世話になった封魔剣を取り出す。これを創造した時はHPまで大きく削られたから慌ててエリクサーを飲んで事なきを得たほどの高品質なだけあって、大抵の魔法は刃の部分に触れると跡形もなくあっという間に消滅する。他にもスキルを封じる封技剣ってのがあったんで万が一の事態に備えて自らの身体で試してみたけど、特に変化はなかった。品質も封魔剣より低かったし、きっとさほど有用な物じゃないんだろうが、この世界のレベルの低さを考えて一応取っておいてある。
少々話がそれたが、結果としてはそれでも何の反応もなかったし、分かんなかっただけかもと動かそうとしてもビクともしなかったのでこれも違うんだろう。
「うーん。どうにもならないや」
他に壁に仕掛けがあるかとか迷路の行き止まりに何かあるんじゃないかと〈万能感知〉をフル稼働させて探ってみたが、色よい返事は帰ってこなかった。つまりは完全な手詰まりに陥っていた。
最終手段として、リューリューが口を開けばこの扉もアッサリとオープン・ザ・セサミってなってくれるんだろうけど、それは何となく負けた気がするしまだおねむの時間じゃない。何より力づくですべてを解決しようとする所謂脳筋な解決法はあんま使いたくない。自分が馬鹿になった気がするから。
ちらりと隣を窺い見ると、特に表情を変える様子のない依頼主になるかもしれない美少女がただただ立ち尽くしている。手助けをするつもりもないと言わんばかりの態度は少しイラッとするけど、まだ我慢できる範囲だ。一流のダンディズムの心を持つ俺はその程度で怒ったりはしないのだよ。
――――――――――
「うぬぬぬ……」
あれから30分。あらゆる可能性を〈万能感知〉て検索した結果。どうもいい答えが返ってこない。隠し扉や音声認識。指紋認証や網膜認証まで――こんな世界でありえないと思っていても、他に思いつかないんだから仕方ない。何か大切な物が抜けているような気がしないでもないが、思いつかないのであれば仕方ない。脳筋と思われる未来しか待っていないが、GTO方式でさっさと済ませよう。頭を使ったせいで少し眠くなって来た。
「あら? どこに行くのよ」
「ちょっとね」
特に種明かしをするつもりはない。説明すれば高い確率で止められると分かっているからだ。
5分ほどで目的地に到着。一見すると何の変哲もない行き止まりでしかない。リューリューもそう思っているみたいで、一体何をするのかしらって感じで首をひねっている。
それを横目に俺は駆け出す。向かう先はもちろん行き止まりの壁だ。もし失敗しても〈身体強化〉があるおかげで痛みなどはないだろうから全く持って心配していない。若干微妙な空気が流れるだろうけど、その辺りは自分の無様を呪うだけだ。
あっという間に壁が目前に迫り、このままだとただぶつかるだけというギリギリのタイミングで〈収納宮殿〉から馬鹿デカいハンマーを取り出し、その勢いの全てを乗せて壁に叩きつけてやった。
「んなっ!?」
予想通り、壁は大した抵抗も感じさせずに粉々に砕け散り、その奥には学校の教室2つ分ほどの広い空間が広がり、中にはリューリューみたいにびっくりした表情をしている連中がざっと100人近く居て、全員がこの光景に足を止めて言葉を失っていた。
他に目につくのは壁に貼られている地図や無数の武器。そして何者かの似顔絵が張り付けられた木人がズタズタになっている物がいくつも転がっていて、中には見覚えのあるおっさん団長の物もあるが、それには顔に大きな〇印が刻まれている。
「はい到着っと」
約束通り。あの扉は一切破壊しないでの侵入に成功した。思いっきり力で障害を薙ぎ払う光景はまんま脳筋というしかないやり方だが、真正面からではなく別場所からだというほんの少しの搦め手での突破だから、完全な脳筋ではないと自分に言い聞かせる。
取りあえずの確認を済ませながらその部屋に降り立つ。床の位置は部屋の方が少し低いんでバランスを崩しかけたけど、前みたいにすっ転ぶ無様を披露する事はなかった。
そんな俺に遅れて隣に降り立ったリューリューは、やれやれと言った風に肩をすくめながらため息交じりにこう一言――
「彼女の異常さの確認はこれで十分かしら?」
と、そう告げた。




