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#138 今……あなたのアジトの前に居るの

「今から私達のアジトに案内するわ。それでなんだけど、さっきみたいに危険を感じるようだったら教えてほしいのだけれどいいかしら?」

「そりゃ危険はないに越した事じゃないから構わないけど、ボク部外者だよ?」


 アサシンであるリューリューのアジトというのであれば、恐らくは秘密の場所。いくら依頼を受けるかも知れない人間相手とはいえ、むやみやたらに招き入れていい訳がない。

 達と表現した事から、小さな家とかそう言ったレベルでないだろうし、そもそも独断でそんな事をすれば他のメンバーに何を言われるか分かったモノじゃない。最悪の場合は実力を見せてみろだなんだと言われて面倒な事になりそうなので、こっちとしてはまだ依頼を受けた訳じゃないの一本槍でその面倒を乗り切りたい。


「構わない。貴女の実力は私がアジトに現れるというだけで十分に証明できるでしょうから」

「あぁ……そう言えば呪いをかけられていたんだったね」


 肉体を内部から破壊され、血飛沫と一緒に俺の腕サイズの針が大量に吐き出されると言う結構ハードな光景ではあったけど、イベントとしてはエリクサーを一滴垂らすだけの非常にあっさりとした終わりを迎えていたせいですっかり忘れてた。


「ええ。そのせいで仲間にも連絡出来無かったの。この様子だと……かなり酷い事になっているかもしれないから、どうしても貴女の力を貸してほしいの」

「前にも言ったけど、力を貸すのはいーけどそれに対する代償をどうするか決めないとね。ボクも暇――じゃない訳じゃないけど、あと4日もしないうちにここを去る予定だから。最悪でも明日までには決めないとボクはボクの目的のためにパパッと伯爵殺しちゃうからね」

「……分かっているわ」


 この辺りで会話を打ち切り、俺達はリューリューの先導でどこかへと向かって歩き続け、時折鳴り響く警告音に足を止めながらおおよそで1時間ほどかね。道中では何度か貴族らしき連中の狩りの現場を目撃したが特にかかわる事もせず、少し眠くなってきたころにようやく足を止めた場所は、一見すると何もないただの空き地にしか思えないが、注意深く視線を巡らせると枯れた木やほんのわずかな雑草。区分けされた石棚――おそらく花壇であろう場所なんかを総合して、ここは公園みたいな場所だったんだと思う。

 それがこんな風になるまで荒れ果てたのは、ここがスラム街区だからだろう。食うに困って木の皮や雑草なんかを口に入れて飢えをしのいでいたとかなんとかは、ラノベとかで見た事があるからな。


「ここが目的地でいいんだよね? にしては建物がないんだけど」

「ええ。申し訳ないのだけれど人の有無を確認してもらっていいかしら。出来るんでしょう?」

「なるほど。バレたら困るような場所にあるのか。任せなよ!」


 とりあえず〈万能感知〉で300メートル以内に存在する人の反応を探ってみると、俺とリューリューの他に『地上には』20人ほどの気配がいくつか確認できた。


「うーんと。一番近い人の気配は今屋根が吹き飛んだ建物あたりかな」

「……なんであんな距離の人の気配が分かるのか凄く気になるけど、今問い質すのは止めておくわ」


 どうやらそのくらいの距離なら問題ないようで、公園に足を踏み入れたリューリューは真っすぐに花壇であっただろう場所に向かい、その中の一つの石を外すと中に隠しスイッチがあって、それを押し込む。決して小さくない音と共に地面の一部がゆっくりとスライドした。

 一足先に近づいて確認してみると、そこには地下へと続く階段があって、奥が見えないほど暗いが、ここまで来るとさすがに使っても問題ないだろうと懐中電灯付きヘルメットを装着てみると、リューリューからの文句もなかったので奥へと突き進む。


「便利な防具……なのかしら? 随分と薄くて何で出来てるのよ」

「ボクの住んでた国だとそう分類されるかな。素材はプラスチックって言ってかなり頑丈だけど、剣とか弓は防げないくらいに弱いから低レベルな魔道具くらいに思ってくれればいいよ。リューリューも使う?」

「いえ、〈夜目〉があるからメリーのそれだけで十分よ。それにしてもその魔道具はどうなってるの? どうやったらあんな遠くまで照らせるのよ」

「さぁ? ボクも詳しい事は分かんないけど便利だから使ってるんだ~」


 ランタンや〈光源(ミニライト)〉の灯りと違って、LEDライトは闇を斬り裂くように遠くまで照らしてくれるからよく分かる。どうやら地下も侵入者に対する防衛策として通路が迷路になっていて、サイズもデカめのを取り付けてあるから十分に視界を確保できる。

 おまけに、所々に罠があるらしくさっきから〈万能感知〉に引っかかるが、はまってやるほどお人よしでもないんで全てを回避していく。


「貴女。もしかしなくても罠の場所が分かるの?」

「そりゃあ世界中を旅してるんだから、ダンジョンの10や20は踏破して罠の発見もお手のものだよ」


 と言いながら角を曲がると同時に、無数の黒い針が襲い掛かり全身に突き刺さったけどライトだけは死守した。

 だって、身体にあたっても特にダメージにもならない痛みだったんで、気にも留めずに淡々と歩を進めて数秒。リューリューが血相を変えて俺の前方に飛び出してきた。身長差があったから良かったものの。ほんの数舜遅れていればキスをしてしまう所だったぜぐへへ。


「ちょっと!? さすがにそれは無視しきれないわよ!」

「へぁ? いきなりどしたのさ」

「いま明らかに攻撃を受けたなのに無傷ってどういう事よ! というかこれって、よく見れば先端に致死性の毒が塗ってあるって言うのになんで平然としていられるの!」


 見せつけるように針を突き出されたので仕方なく確認してみると、確かに先端が濡れている。手に取って確認してみると、確かに〈万物創造〉の毒薬欄のグレーが1つだけ僅かに明るくなった。品質40って考えると相当に強力な物なんだろうが、駄であろうと神の前には無駄無駄ァ。それよりも悪くない物が苦労せず手に入ったのは喜ばしい。後で創造出来るように舐めて〈品質改竄〉しとこっと。


「何でって……スキルだよ?」

「どこの世界に致死毒を無効化でいるスキルが存在するのよ!」

「じゃあ魔道具を装備してたから」

「いまさらそんな言い訳が通用する訳ないでしょう! まったく貴女は……とんでもない存在ね。本当に人なの?」

「ちゃんと人間だよ。ほら」


 特に問題ないんで服を脱を脱いで裸を見せつける。

 頭にケモミミもなければ尻尾もない。

 牙が生えてなければ肌も真っ白い。

 どっからどう見たって人そのものである。


「わ、分かったら服を着なさい!!」


 別に女性相手であれば見せる事は構わない。どうせいつかはなくなるものだし、中身が男なんでそれで恥ずかしいとかもないが、どうやらそういう事ではないらしい。

 理由までは教えてくれんかったが、とにかく人間の女の子であると理解はしてくれたようなので再び歩き出す。もちろん俺が先頭な。

 それからも時々。罠ではなく身を隠していた人間からの攻撃が幾度も幾度も襲い掛かってきたが、俺はそれを避ける事無く真正面からすべて受け切り、堂々とした足取りで目的地へと向かって突き進む。別に襲ってきた奴を片っ端から捕まえて肉壁として突き進んでもいいんだろうけど、罠が看破され。攻撃や毒が一切通じず。誰とも知れない美少女がアジトの奥へと向かって悠々と突き進んでくる恐怖はなかなかに堪えるだろう。

 恐らくだが直に根を上げて降参してくるかもしれないが、それすらも無視する予定だ。攻撃が通じないのであれば、背後から襲われようが十数人が立ち塞がろうとも無問題。全てをただの徒歩で踏破して、絶望に染まる連中を前にリューリューを紹介する。出来れば感動的な流れ以外がいいんだよなぁ。ああいった空気は全く好きになれない。


「アス――じゃなかったメリー」

「なになに?」

「いえ……何でもないわ」


 リューリューがものすごく何か言いたそうにしているが、俺が振り向きもせず淡々と歩を進める姿に色々と諦めたんだろう。深い深いため息とともにそんな一言が吐き出された。まぁ……何を言いたいのかは痛いほど理解している。きっと俺の前面に叩き付けられ続けている無数の針と魔法の事を言っているんだろう。

 俺は降参してくると踏んでいたんだけど、相手からの無言のレスポンスは徹底抗戦。それも――総力を投入しての文字通り人海戦術だ。そのくらいは〈万能感知〉で十分に把握できる。

 いつ頃だったかねぇ。ピタリとやんだ攻撃が何倍にも増しただけじゃなく、魔法まで加わったのは。

 それだけの猛攻だ。視界は一切使えない。だが……たかがメインカメラをやられただけだ。こっちには〈万能感知〉があるのでそれに目を向けるだけで道に迷うなど皆無だ。

 一切動きを緩めることなく歩き続けると、丁字路にぶつかる。ここで攻撃を続けていた連中が前後で挟み撃ちをしようと考えたんだろう。一際強い閃光弾みたいな魔法で目くらましをすると同時に一斉に左右へと展開した。


「ふぅむ」


 さて……この状況をどう見たらいいんだ?

 ここまでやって一切の攻撃が通じていないのはさすがに分かっているはずだというのに、マジで降参や対話をするといった動きが一切見られない。というかほぼ全戦力を投入しているんだから少しは頭の使える人間も前線に出張ってきているはずなのに、一体どうなってるんだ?

 よく分からん。良くは分からんが、さすがに背後から針や魔法を撃たれるのはキビシイ。俺じゃなくてリューリューがな。

 という訳で、ここから先は手を出すしかない。さぁて……運の悪い連中はどっちかなっと。

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