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#12 準備と弱点発覚

「いま……なんと言ったんじゃ?」

「聞こえなかったか? アレなんとかって魔族も向かってくる予定の魔物も全部ぶっ殺すって言ったんだよ。俺には少し込み入った事情があって、ちょいとここで暮らさにゃいかんからね。因みに犯罪じゃないぞ? それを邪魔する奴がいるなら排除するしかねぇだろ。だから殺すんだよ」


 目標が決まったらさっさと行動だ。

 どこから敵が来るか分からない以上。可能であるなら村全体を新しい防御柵で囲いたいところだけど、6時間じゃ設置の時間どころかこっちのMPが先に根を上げる。

 何とかするには、こっちが可能な限り有利に働く場所を探してピンポイントに陣を設営する以外に余裕はない。そのためには村を見て回って決戦場所を決めないといけない。この際に家屋の被害は完全に無視。全壊したところでここに長らく待機する予定なんで、建材を無償で融通すれば事足りるだろ。

 俺の強気の発言にいまだ呆然としてる村長は放っておいて、屋敷を後にした俺に続くようにアニーとリリィさんが横に並ぶ。


「アホかお前! 相手は魔族なんやで。さっきあんだけ派手に負けといて殺すなんて無理に決まっとるやろ!!」

「あれは俺が本気を出してなかっただけだ。そもそも黙って殺されるなんて諦めの選択をするつもりはないし、あのコウモリ野郎は俺が受け持つから心配すんな。そっちが死ぬつもりでいるならアニーとリリィさんは押し寄せるっていう魔物を俺と奴とのタイマンの邪魔をしないように相手にしてくれればそれでいいよ」

「無茶言わんといてください! そらあて等も戦えることは戦えますが、〈鱗狼〉ですら敵わへんレベルの2人でどないせぇ言うんですか!」

「村長に動ける男手を借りられるように交渉しろ。そうすれば俺が武器を用意してやる」

「どこに武器なんかもっとんねん! あんた手ぶらやろうが!」

「ここにあるぞ?」


 いつまでもギャーギャーとやかましいアニーに見せつけるように、コンパウンド・ボウと鉄の矢一束(千本)を創造してやると、あれだけ怒り狂ってた表情があっという間に驚愕に染まって静かになってくれた。


「な、なんやコレ……弓か? それに鉄の矢……やと!?」

「分かったか? 分かったならこれをあの村長に渡して男手を集めさせろ。そうすれば時間稼ぎくらいは出来るようになるだろ」

「あ、あんた一体何者や。今の……収納系スキル……いや。魔法か?」

「詳しくは秘密だがまぁそんなところだ。分かったならさっさと動け。時間は有限だぞ」


 俺の指示に、アニーは踵を返して村長の屋敷に戻って行ったけど、リリィさんは依然として俺の隣に居続けてる。その表情は何と表現したらいいんだろうな。とりあえず敵意みたいなのは〈万能感知〉に引っかからないから放っておくか。大山をじっくりと拝んでいたいしね。


「あの……あてにも何か手伝えることはあります?」

「ん? そうだなぁ……それじゃあ連中に飯でも作ってもらおうかな。やっぱ動くからには飯食わんとどうにもならんだろうしな」


 ここで胸を揺らしててほしいなんて言えるほど馬鹿になれたらよかったんだけど、流石にそこまで馬鹿になれる勇気はないし、ギャン引きされたらもう目も当てられない地獄が長時間にわたって続く失敗を想像すると、タイミングを見て楽しむしかないよなぁ。

 それに、畑にはなにも植えられてないし、半年も結界の中に入れられて魔物の恐怖に怯えながら暮らしてたんだか。一気にストレス解消って訳にはいかないだろうけど、豪勢な食事はそれだけで心を豊かにするし、手駒を集めるのに恩を売った方が何かと交渉はしやすいだろう。


「材料は……こんなもんでいいか」


 いきなり肉を食わせるのはかなりヘビーだろうから、この世界の食事事情を聞き出してとりあえずはパンに塩、あとは野菜を中心に少量の肉に加えてお粥用に米なんかを創造してリリィさんに持たせてやった。一応あらゆる種族の公用語を軽々使えるようになる〈異世界全語〉のおかげでこの世界の文字も頭に入ってるんで、お粥の作り方も問題なく書く事が出来てよかった。

 足りなくなったり別の食材が欲しい時はまた来いと言っておいたんで問題はないだろう。

 これでようやく村の把握を再開できる――とはいったものの。こういった類に関してはマジでド素人だからな。正直どこがいいかなんてまったくもって分からん。とりあえず弓矢を使わせるんだから、見通しが良くて遮蔽物が少ない場所ならどこでもいいだろって事で、布陣場所は村中央の十字路に決定しとくか。ここなら建物の上からでも射れるだろうしな。

 後は魔物用に罠なんかを設置しておけば、多少の遅滞行為になるだろう。


「さて……こんなもんか」


 とりあえず柵の設置だけは終わった。後は弓矢用の櫓を設置したり、魔物達の侵攻を阻害する罠の設置なんかもしたいね。後は閃光手榴弾。これがあれば大抵の生物は無力化できるから数を揃えておかないとな。

 そんな期待を込めて、村長の屋敷に戻って来た俺を待っていたのは、うめき声を上げながら死屍累々と倒れるおっさん達。その手には木製の椀が握られてて、中には異臭を放つどす黒い半固形のなにかがある。


「なんだこりゃ……」

「アスカはん戻ってきはりましたか。お一つどないです?」


 出迎えてくれたニッコリ笑顔のリリィさんの前には、同じ匂いを発するどす黒い何かが大鍋一杯になみなみと存在している。

 〈万能感知〉が訴えています。あれを口に入れたら天国への日帰り旅行が出来ますよ――と。


「いらん。俺はこっちにする」


 そう。どうやらアニーは、リリィさんがひとたびその腕を振るえば食卓に世紀末が訪れると知っていたようで、隣でせっせとおにぎりを作ってくれている。

 こっちは見た目も味もいたって普通のおにぎりで、食べる人間の誰一人として痙攣したり泡を吹いていたr顔面蒼白になったりしてない。きっと犠牲になった連中はあの美貌と揺れ動く2つの大山に負けてあれを口の中に入れたんだろう。こんな状況で何とも余裕のある行動を取れるもんだ。まぁ、男しかいなかったけどな。

 ついでにリリィさんを料理番から解任し、ぶっ倒れてる連中には胃薬を飲ませておいた。効くかどうか分かんないが、一応気休めだ。


「さて。ぶっ倒れてる連中もいるみたいだがとりあえず自己紹介しとく。俺はアスカっていうしがない旅人だ。訳あってここにしばらく滞在したいから、それを邪魔する魔族共をぶっ殺すんだが戦線に並びたいよーって奴は居るか?」


 俺が手を上げて挙手制をとってみると、飯を食うのに夢中な奴等も居るけど概ねは予想通りに賛同してくれる人は誰一人としていない。それは別に予想してたから落胆とか怒りとかは全く持ってないんでため息一つで気持ちを切り替える。


「まぁいいや。死にたきゃ勝手に死ねばいいが、俺の邪魔だけはするなよ? 一秒でも早く死にたいって言うなら手を貸してやらんでもないがな」


 とりあえずやれる事だけやっておくか。ついでにリリィさん手作りの極毒は、その辺に不法投棄すると色々とうマズそうだから、魔物が美味しくいただきましたとテロップを後々付け加えるために持っていく。誰も知らない謎の小袋かなんかに入れて攻撃の一つの手段としよう。

 袋詰めは後でもできるから、まず手始めに罠の設置といくか。

 魔物の侵入ルートが分かんない以上適当に設置するっきゃない。

 トラばさみとか。

 落とし穴とか。

 まきびしとか。

 後は防護柵代わりに使うガードレールに有刺鉄線なんかを創造出来るから、それを〈身体強化〉で強引に地面に突き刺して有刺鉄線を巻き付ければ、即席の防護柵としては十分だろ。


「なんやこれ……こないな柵は初めて見るわ。しかも鉄をぎょうさん――やのうて全部が鉄でできとるなんておかしすぎるやろ。どないなっとんねん!」

「丁度いいところに来たな。ちょっと聞きたい事があるんだがいいか?」

「うん? ウチに答えられる事やったら構へんで」


 これを四方に設置し終えたところで、アニーがおにぎりを手にやって来て叫んだ。ちなみにリリィさんは料理番を解任された事でちょっとへこんでるらしい。あの腕前で何故へこめるんだろうか……不思議だ。

 後はここに櫓を立てたり罠を設置したりと色々やる事があるものの、折角来たんだから武器の事を聞こう。あのクソコウモリをぶっ殺す武器がないとここから出る事が出来ないからな。


「魔族ってどうすりゃ倒せるんだ? 鉄塊を思いっきり蹴りつけてやったのに全く通じてなかったのを見てただろ? どんな武器を使うのか。どんな素材であればいいのか。特殊な方法があるのかとか。何か知ってたら教えてぷり~ずっ♪」

「……ウチが聞いた話やと、銀より希少価値の高い素材で作られた武器なら通じるて聞いとる」

「なんだ。随分あっさりと教えてくれるんだな」


 てっきりまだ魔族を殺すなんて無理に決まっとるやろ! とか言われると思ったんだけどな。


「あないな魔法の直撃受けて死なんあんたなら、そう言っとけば何とかしてくれる思うただけや」

「なるほどなるほど。銀以上ならいいのか」

「あてはあるんか?」

「おう」


 そうなると随分とMPの節約につながるな。って言ってもどのくらい消費すんのか分かんないんで、試しに1回作ってみるしかない。

 まずは何はなくとも剣だな。あん時の高度が限界ってんならジャンプで十分に届くし、なにより俺は〈剣術〉のスキルしかないから、それ以外は素人丸出しの動きにしかならんのだよ。

 だがしかし。逆に剣さえ握っていれば、剣道の経験すらないのに世界で5本の指に入るくらいの実力者にはなれるんで、タイマンなら何とかなるだろ。

 という訳で創造。その瞬間に貧血にも似た立ちくらみに襲われてグラッと来たけど、アニーが咄嗟に抱きとめてくれたおかげで何とか倒れずに済んだ。

 出来れば胸辺りにもう少し柔らかい感触が欲しいけど、そこはラッキースケベなんだから贅沢は言っちゃイカンね。前世ではなかった事なんで罰が当たってしまいますな。


「いきなりどうしたんや!? 大丈夫なんか?」

「すぐによくなるから平気だ」


 危ない危ない。MPが6割以上持っていかれてる。一応創造とか魔物を倒したりしたのにまだレベル3。RPG的に考えればまだまだひよっこだからこればっかりはしゃーない。

 しかしそのおかげで、俺の手の中に一振りの剣がちゃんと創造されてくれた。ご丁寧にこの背丈に合わせたサイズになってくれてるのがニクイねぇ。


「……どんな感じ?」


 鞘から抜刀したそれは、夕暮れの日を浴びてオレンジに光り輝いてる。悪くない出来だ――と言いたいところだけど鍛冶の経験なんて無いからいいのかどうかなんてわかる訳がないんで、隣のアニーにどんなもんかを訪ねてみた。


「ええ品や。銀造りの剣にうっすらとミスリルが混じっとるな。これやったら魔族にも効果はあるやろう。こないな状況やなかったら金貨20枚は出しとるところや」

「つまり凄いって事か?」

「凄いで済ますあんたの感覚はどないなっとんねん。金貨が20もあれば4人家族が5年は暮らせるだけの額なんやで?」

「な、なんだってえええええっ」


 その辺はよく分かんないんで、とりあえず驚いたふりをしてみたけどコンマで嘘だってばれた。一生懸命頑張って演技したのに……女の目とは実に恐ろしい。

 ま。冗談はさておき。これであのコウモリ野郎を何とかできるようになったから、次は大量に襲い掛かってくるであろう魔物に対する対抗手段を考えるとしますかね。

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